ミステリー

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「人格転移の殺人」 西澤保彦

<あの人は人が変わってしまった>という言い回しがあります。ある人の性格や行動パターンが唐突にガラッと変わった時によく用いられますね。現実では、本当に人が変わったわけではなく、何らかのきっかけにより人となりが激変したというケースがほとんどでしょう。

一方、フィクションの世界の場合、例えでも何でもなく本当に<人が変わった>ということがあり得ます。こういう設定で有名なのは、東野圭吾さんの『秘密』。事故で死んだ娘の体に、同じく事故死した母親の魂が宿ってしまうというヒューマンファンタジーでした。何度も映像化されているので、ご存知の方も多いと思います。ただ、私が<人が変わった>系の小説で連想するのは、実はこちらの方なんですよ。西澤保彦さん『人格転移の殺人』です。

 

こんな人におすすめ

SF設定が絡んだミステリーが読みたい人

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「まりも日記」 真梨幸子

ペットを飼うことは、ここで書ききれないほどの幸せをもたらしてくれます。毎日同じ屋根の下で寝起きし、食事をし、一緒に遊んだり、気まぐれに振り回されたり、甘えておねだりされたり・・・・・こんな風に家族として過ごしていれば、ペットの死により心を病む人がいるというのも頷けます。

ですが、ペットがもたらすのは喜びばかりではありません。どんな物事もそうであるように、辛いこと、大変なことも山ほどあります。体力的な辛さとか、精神的なプレッシャーとか、色々ありますが、突き詰めていけば最終的にお金の問題になるのではないでしょうか。動物を飼うためにはふさわしい住環境や餌を準備しなくてはなりませんし、病気や怪我をするたび、高額の医療費がかかります。こうやって列挙しただけでは苦労が分かりにくいかもしれませんが、この本を読めば少しはイメージが湧くかも・・・・・真梨幸子さん『まりも日記』です。

 

こんな人におすすめ

猫を絡めたイヤミスが読みたい人

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「悪の芽」 貫井徳郎

学生だった頃を振り返ってみると、一番ぎすぎすして精神的にきつかったのが中学時代。ただ、一番後悔が多いのは小学校時代です。何しろ小学生と言えば、まだ幼児に毛が生えたようなもの(言い過ぎ?)。後になってみれば、よくあんなこと言えたよな、なんであんなことしちゃったんだろう・・・と頭を抱えてしまうようなこともありました。

小学生時代が出てくる小説としては、過去にブログでも取り上げた加納朋子さんの『ぐるぐる猿と歌う鳥』や降田天さんの『女王はかえらない』があります。他には湊かなえさんの『贖罪』、湯本香樹実さんの『夏の庭-The Friends』、朱川湊人さんの『オルゴォル』etcetc。イヤミスもあれば成長物語もありますが、どれも小学生特有の未熟さ、幼さが描かれていました。この作品でも、あまりに幼稚な小学生時代の罪が丁寧に描写されていましたよ。貫井徳郎さん『悪の芽』です。

 

こんな人におすすめ

子ども時代の罪と後悔をテーマにしたミステリーが読みたい人

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「フシギ」 真梨幸子

<不思議>という言葉を辞書で引いてみると、「そうであることの原因がよく分からず、なぜだろうと考えさせられること。その事柄」とあります。この「原因がよく分からない」というところが最大のポイント。<怖い小説>や<ハラハラさせられる小説>の場合、大抵はその原因が作中で判明しますが、<不思議な小説>はその限りではありません。登場人物にも読者にも、事態の真相や全容が分からないまま終わることだってあり得ます。

不思議な小説の代表格として真っ先に挙がるのは、やはりルイス・キャロルの『不思議の国のアリス』でしょう。主人公アリスの夢オチなだけあって、作中の出来事は因果関係も物理法則も完全無視。ここまでではないにせよ、恩田陸さんの『いのちのパレード』や梨木香歩さんの『家守綺譚』なども不思議な魅力いっぱいの小説でした。この作品にも、読者を混乱させる不思議がたくさん詰まっていましたよ。真梨幸子さん『フシギ』です。

 

こんな人におすすめ

謎めいたホラーミステリーが読みたい人

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「ミニ・ミステリ100」 アイザック・アシモフ他編

皆さんは公共交通機関で移動中、何をして時間を潰しますか?スマホで動画鑑賞やゲームをする人、クロスワードパズルをする人、睡眠不足解消のため眠る人・・・過ごし方は人それぞれです。私の場合、ほぼ迷わず読書一択。昔、新幹線での出張が多い仕事をしていた時は、どの本を持って行くかを考えるのが最優先の検討事案でした(笑)

とはいえ、休日に自宅でゆっくり読むのと違い、交通機関内での読書は時間の制限があります。周囲の雑音等もありますし、集中力が続かないことだってあるかもしれません。そうなると、読破するのに時間がかかり、何十ページも前の伏線を覚えておく必要がある長編小説は読みにくいもの。そんな時には、一話一話の区切りがつけやすい短編集、特にショートショートがお勧めです。この作品は、移動中にぱぱっと読むのにぴったりですよ。アイザック・アシモフ他『ミニ・ミステリ100』です。

 

こんな人におすすめ

ブラックな味わいのショートショートが読みたい人

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「境界線」 中山七里

フィクションの世界においては、しばしば、登場シーンはわずかにも関わらず存在感を発揮するキャラクターがいます。こういったキャラクターで私が真っ先に思いつくのは、西澤保彦さん『仔羊たちの聖夜』に登場する事件関係者の弟・英生さん(分かる方、います?)。出てくるのはたった数ページなものの、明晰な言動といい、<肉体的にも精神的にもぜい肉をそぎ落としたようなストイックな凄みがある>容姿といい、やたら印象的なんですよ。私はちょっと影のあるキャラに惹かれてしまいがちなので、「いつか別作品の主要登場人物になってくれないかな」と今でも思っています。

こうした脇役にスポットライトを当てる作風で有名なのは、当ブログでもお馴染みの中山七里さんです。『さよならドビュッシー』の序盤で死亡する香月玄太郎は『要介護探偵の事件簿』『静おばあちゃんと要介護探偵シリーズ』でメインキャラになっていますし、中山作品のあちこちでちらほら顔見せする総理大臣・真垣は『総理にされた男』の主役です。主役と脇役、立ち位置が変わることで視点も変わり、かつては分からなかった背景などを垣間見ることができてとても面白いですよね。この作品では、他作品では脇役だったある人物の意外な過去を知ることができました。中山七里さん『境界線』です。

 

こんな人におすすめ

・戸籍売買が絡んだ作品に興味がある人

・東日本大震災を扱ったヒューマンドラマが読みたい人

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「小袖日記」 柴田よしき

「最初から最後まできっちり読み通したことはないけど、大まかなあらすじは知っている」「漫画版や実写版しか見たことない」という小説って、意外と多いです。私の場合、ぱっと思いつくのは森鷗外の『舞姫』や太宰治の『人間失格』。一昔前の文豪の作品は、文体が現代と異なっていることもあり、なんとなくとっつきにくく感じてしまいます。

そして、「昔の作品なので全部読み切るのはちょっと大変」の代表格は、紫式部の『源氏物語』ではないでしょうか。日本最古の長編小説であり、翻訳され海外でも読まれている名作ながら、何しろ全部で五十四帖から成る超大作。幸い、大和和紀さんの漫画『あさきゆめみし』や荻原規子さんの『源氏物語』など、読みやすくまとめられた作品がたくさんあり、ストーリーを知るのに不自由はしません。現代の作家が古典を再構築する場合、独自の解釈が加えられることが多く、原作との違いを比べてみたりするのも面白いです。この作品の解釈の仕方も、かなり大胆かつ斬新で面白かったですよ。柴田よしきさん『小袖日記』です。

 

こんな人におすすめ

『源氏物語』をテーマにしたほのぼのミステリーが読みたい人

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「ポーカー・レッスン」 ジェフリー・ディーヴァー

海外の創作物が日本でヒットする要因は何でしょうか。内容が肝心なのは言うまでもありませんが、翻訳の出来も、かなり重要な位置を占めます。学生時代、授業でやった英語一つ取っても、訳する人間が違えばニュアンスが大きく変わるもの。まして、商業的な作品、それも映像で物語を説明できない小説となると、翻訳のレベルが成功の鍵と言っても過言ではありません。

日本における翻訳者といえば、『ハリー・ポッターシリーズ』の松岡佑子さんのエピソードが有名です。日本語の一人称の多さや訛りを利用した訳し方は、老若男女問わず多くの読者を楽しませてくれました。もちろん、日本では他にも優れた翻訳者がたくさん活躍されていますよ。そんな翻訳の妙を堪能できる作品がこれ、ジェフリー・ディーヴァー『ポーカー・レッスン』です。

 

こんな人におすすめ

どんでん返しの短編ミステリーを堪能したい人

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「プリズム」 貫井徳郎

<ノックスの十戒>というものをご存知でしょうか。イギリスの作家・ノックスが考案した、推理小説を書く上での十個のルールです。半ばジョークとして作られたものらしく、十戒を破った推理小説もたくさん存在しますが、けっこう面白いのでチェックしてみる価値ありますよ。

<探偵は超能力を使って推理してはならない><未知のテクノロジーを犯行に用いてはならない>等々、ほほうと頷かされる文言が並ぶ十戒の中、トップを飾るのは<犯人は物語の中に登場していなければならない>というルールです。上記の通り、十戒を破った推理小説は数多くあれど、これを破った作品は少ないのではないでしょうか(皆無じゃないですが)。ただ、<間違いなく犯人は作中にいるんだけど、結局判明しないままだった>という作品は一定数あります。そんな作品が面白いはずないって?でしたら、これを読んでみたら考えが変わるかもしれません。貫井徳郎さん『プリズム』です。

 

こんな人におすすめ

<藪の中>状態の推理小説が読みたい人

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「奇談蒐集家」 太田忠司

短編小説の良いところはたくさんあります。その一つは<収録作品中、どの話から読んでも楽しめる>ということ。一ページ目から読む必要のある長編と違い、短編の場合、ぱらぱらとめくってピンときたエピソードから読む、あるいは、苦手な用語が出てきそうなエピソードは飛ばす、ということも可能です。短編小説が仕事等で移動中に読むのに向いているのは、こういう特性があるからかもしれません。

その一方、第一話から順番に読んでこそ面白さを発揮する短編小説というものも存在します。それがいわゆる<連作短編>で、独立していると思われたエピソードに実は繋がりがあり、最後にすべてが結びつくというパターンです。第一話、第二話・・・と、エピソードが進むごとに伏線が積み上げられていくので、中には、順番通りに読まないとエンディングの真意が理解できないものも少なくありません。綾辻行人さんの『フリークス』や成田名璃子さんの『東京すみっこごはん』はこのパターンでした。今回取り上げる作品も、第一話から順番に読んだ方が楽しめます。太田忠司さん『奇談蒐集家』です。

 

こんな人におすすめ

ミステリアスな安楽椅子探偵ものが読みたい人

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