道徳に反したやり方で相手を精神的に追い詰めるモラルハラスメント、性的な言動で相手に苦痛を与えるセクシャルハラスメント、職場内で権利や立場を利用した嫌がらせを行うパワーハラスメント、妊娠・出産・育児に関することで心身に不快な思いをさせられるマタニティハラスメント、教育現場において教職員がその権限を使って他者の修学や教育の邪魔をするアカデミックハラスメント・・・・・悲しいかな、この世にはたくさんのハラスメント、すなわち人権侵害が溢れています。もちろん、こうした嫌がらせ行為は大昔から存在したのでしょうが、今はインターネット文化が発展した分、より複雑かつ陰湿になってきた気がします。
一言でハラスメントと言ってもその種類は様々であり、当然、作中にハラスメント行為が出てくる小説もたくさんあります。というか、ハラスメント(嫌がらせ)が一切登場しない小説の方が逆に少ないかも?最近読んだ小説では、奥田英朗さんの『最悪』や垣谷美雨さんの『もう別れてもいいですか』で、読者をうんざりさせるようなハラスメントが描かれていました。それから、ちょっと毛色が違いますが、この作品のハラスメントにも背筋がゾワゾワしっぱなしでしたよ。辻村深月さんの『闇祓』です。
こんな人におすすめ
ハラスメントがテーマのホラーミステリー小説が読みたい人
あいつらは、いる。どこにでも、いる---――不気味な転校生が繰り返す奇行の真相、洗練された団地内で渦巻く違和感と悪意、社内で執拗に繰り返されるパワハラの行く末、物静かな少年が起こした教室の異変。蔓延する闇の深さと暗さと描いた、著者初のホラーミステリー長編
辻村深月さんは、『冷たい校舎の時は止まる』『ふちなしのかがみ』『きのうの影踏み』といった、非現実的な世界が舞台となる作品をたくさん執筆されています。ただ、本作ほどホラー色を前面に出した長編作品は初めてだったので、かなりインパクト強かったですね。常軌を逸した存在によって日常が侵食されていく様子は、ちょっと櫛木理宇さんや澤村伊智さんに近いかもしれません。辻村深月さんの印象がいい意味でがらっと変わりました。
「第1章 転校生」・・・しっかり者の女子高生・澪は、転校してきたばかりの白石要の世話を任される。親切に接する澪に対し、あまりに不気味な行動を見せる要。もしやストーキングされているのではないか。不安になった澪は、ほのかに思いを寄せる部活の先輩・神原に相談してみるのだが・・・・・
この流れからして、<見るからに異様な転校生=変態ストーカー>という単純な話じゃないのだろうなと思いましたが、まさか本当の恐怖はそっちだったとは!!押し付けと強要に消耗していく澪の様子が痛々しく、読むのが辛いと感じるほどでした。最後の対決は、さながら少年漫画の戦闘シーンのようで格好良かったです。
「第2章 隣人」・・・夫と息子と共に、お洒落な外観が売りの団地に引っ越してきたフリーアナウンサー・梨津。そこで出会ったのは、異様な言動をするかおりや、住民のリーダー的存在である沢渡夫妻。誘われるまま、沢渡家で開催されたお茶会に出向く梨津だが・・・
序盤に登場するかおりの物言いや態度は明らかに奇妙。でも、その奇妙さを吹っ飛ばすくらい、集合住宅内で繰り広げられるマウント合戦が凄まじかったです。全部で五つある章の中、この第2章が一番私のいる立場に近いからか、感情移入してしまうことしてしまうこと。子どもが巻き込まれる話はやっぱり辛い・・・・・
「第3章 同僚」・・・とある会社で営業マンとして働く鈴井の悩み。それは、課長が中途入社してきたジンさんに対し、執拗なパワハラを繰り返すことだ。聞いているだけで鬱々としてきそうな説教を何時間も続けた挙句、なんと勤務時間外にジンさんに電話までかけているらしい。これは明らかな嫌がらせだし、社内の空気も悪くなる。鈴井は先輩の女子社員と共に対策を練るのだが・・・
社会人同士の話ということもあってか、延々と続く人格否定の言葉はこの章が一番きつかったです。なんだこのパワハラ上司は!痛い目に遭っちまえ!と思うのですが・・・最後の最後、カラクリを知った時は愕然としました。おまけに次の犠牲者もすでに生まれかけている様子。この会社、大丈夫なの・・・?
「第4章 班長」・・・草太のクラスを牛耳るのは、トラブルメーカーの虎之介。勉強も運動もできるのだが乱暴者で、生活態度も悪いのだ。だが、そんな教室の勢力図は、二子という少年が転校してきたとで変わり始める。二子の提案のもと、クラスには新たな決まりが作られていき・・・・・
サラリーマンの偏執的な狂気を描いた第3章に対し、この章には子どもの無邪気さゆえの狂気と暴走が出てきます。「クラスを良くしよう」そんな正論のもと、一切の妥協もなく同級生を追い詰めていく小学生達が怖いったら。草太と虎之介、せっかく雪解けを迎えそうな感じだったのになぁ。
「最終章 家族」・・・大学生となった澪の前に、再び白石要が現れる。要が語る、かつて行方知れずとなった澪の女友達の消息。彼女は一体どこへ行ったのか。要と共に捜索を開始する澪が見た、想像を絶する真実とは。
第1章の澪をはじめ、これまで出てきた登場人物達の行く末が描かれ、同時に、ちりばめられていた伏線もすべて回収されます。何か意味ありげだったあの人の言葉とか、ちらっと出てきただけの苗字とか、全部このクライマックスに繋げるためだったんですね。無事解決して大団円と思わせてからの不穏な雰囲気、大好物でした。
ただ化物が暴れるだけのホラーではなく、「こういうこと、現実にあるかも」と思わせる描写力はさすがだと思います。この終わり方からして、続編の構想があるのかな?作中、ありとあらゆるハラスメントが出てくるので、精神的に弱っている時に読むとしんどいかもしれません。ご注意ください。
こんなこと創作に決まってる度☆☆☆☆☆
闇ハラに理由などない。ただ、そこにある度★★★★★
辻村深月さんのブラックな部分が見えたと感じた作品でした。
実態があるかないか分からない闇ハラはまさに怖ガラセヤサンのようでした。
人間の悪意が反映して実在していると感じました。
予想以上にダークでどろどろした話でした。
一つ一つを潰しても、また次々悲劇が起こりそうなところが、現実のハラスメント問題を思い起こさせます。
辻村深月さんの新境地を知ることができ、満足です。