私はこの十年ほど日記をつけ続けています。日付、天気、その日の出来事と食事のメニューを書いた数行程度のものですが、後日、過去の記憶が曖昧な時に振り返ることができて便利ですよ。たまに昔の日記を読み直してみると、「あ、そういえばこんなことがあったっけ」「私、五年前と同じことしてるじゃん」等々、色々と思うところがって面白いです。
人のプライベートの宝庫であるという性質上、日記はしばしば小説のキーアイテムとして使われます。ジャンル問わず、謎解き要素が仕掛けられていることも多い気がしますね。映画化もされた『ハリー・ポッターシリーズ』第二弾『ハリー・ポッターと秘密の部屋』では日記が重要な小道具になっていますし、雫井脩介さんの『クローズド・ノート』でもヒロインが前住人の日記を見つけたことが物語の発端でした。今回ご紹介するのは、日記の特性が上手く使われたミステリー、永井するみさんの『秘密は日記に隠すもの』です。
こんな人におすすめ
日記形式の連作ミステリーが読みたい人
父の秘密を知ってしまった女子高生の決断、野心溢れる事業家が秘めた一つの想い、ルームシェア生活を送る姉妹の運命、孤独な日々をどうにか充足させようとする男・・・・・この秘密を、貴方は受け止めきれるだろうか。日記に秘められた謎を描く、心理ミステリー短編集
著者である永井するみさんが執筆中に亡くなったため、絶筆となってしまった作品です。そのため、他の著作に比べるとややボリュームは少なめですが、質の高さは折り紙付き。四者四様、まったくテイストの違う日記の書き方も面白く、本当に人の日記を盗み読みしているような気分を味わえました。
「トロフィー」・・・美形の両親に比べ、自らの平凡なルックスにコンプレックスを持つ女子高生・百合絵。ある日、百合絵はこっそり入った父の書斎で、隠し戸棚を発見する。そこに入っていたのは、父のあまりにおぞましい秘密で・・・
この作品に登場する人物は、何かしら秘密を抱えていることが多いです。その中でも、百合絵の父が抱えた秘密の醜悪さはトップクラス!その下劣さに生理的嫌悪感を催す読者もいるのではないでしょうか。百合絵と母親の決断には批判もありそうですが、この妻子にがっつり締められている方が、父親にとってはいいのかな?
「道化師」・・・最愛の母との死別後、崇之が心を分かち合えるのは従兄弟の志郎と、知人の紹介で出会った瑞枝の二人。特に、清楚で聡明な瑞枝には、単なる友情を超える想いを抱いている。そんなある時、瑞枝のことを口うるさい親戚に知られた崇之は、ついに彼女との関係を進める決心をして・・・・・
第一話のおぞましさとは打って変わり、人の善意の尊さ、愛情の美しさがひしひし伝わってくる話でした。てっきり崇之は、プライドばかり高く、亡き母をめそめそ慕っているだけのマザコン男かと思っていましたが・・・ラストシーンなんてさぞ画面映えするんだろうけど、この話の性質上、映像化はできなさそうなことが残念です。
「サムシング・ブルー」・・・妹の二人暮らしは快適、会社では出世し、順調な日々を送るOL・千希。唯一の不満は、恋人の啓吾が既婚者ということだ。ままならない恋の鬱憤を、日記に綴って紛らわす毎日。ついに限界に達した千希は、ある行動に出て・・・・・
恋愛で気分が浮いたり沈んだりする様子が、いかにも<恋は盲目!!!>という感じで危うさ全開。こういう子が不幸になるのは見たくないなと思ったら、終盤のネタ晴らしで「おおっ」と唸ってしまいました。千希としては一応満足の結果なんだろうけど、これ、円満解決するのかしら。
「夫婦」・・・主人公・小野は定年退職後、長年連れ添った妻を失い、一人の日々を送っている。美しい音楽、一人息子との触れ合い、近所に住む夫人との交流。次第に活力を取り戻していく小野が恐れるのは、日曜日が訪れることだ。そしてついに、恐れていた日がやって来て・・・・・
これは二段構えのビックリでした。途中で小野の日記の秘密が分かってビックリし、最終ページでまたビックリ。でも、こういうすれ違いって、どの家庭でも多かれ少なかれあるんでしょうね。オチのブラックさでは、これが一番かもしれません。
本作は連作短編集となっていて、各話の登場人物達が少しずつリンクしています。恐らく、あと一話ないし二話あって、全部まとめて一つの世界ができ上がるという構想だったのではないでしょうか。名前だけ出てきてエピソードがないまま終わってしまった登場人物もちらほらいるので、もしかしたら彼らが主人公の話もあるはずだったのかな。絶筆となってしまったことが残念でなりません。
人の日記なんてつまらない度☆☆☆☆☆
登場人物達の繋がりを探すのも楽しいです度★★★★★
随分前に読みましたが殆ど覚えていませんが、エッセイやブログぼように他人に読んでもらう為の日記とは違う本音の日記というものはこういうものか?と思った記憶があります。
再読したくなりました。
分量が少なく、さらりと読めてしまうこともあり、強烈なインパクトがある作品というわけではありませんからね。
その分、軽いミステリーを楽しみたい時にはぴったりだと思います。
完結版が読みたかった!!