さ行

はいくる

「水銀虫」 朱川湊人

実は私、頭に大が付く虫嫌いです。刺されたとか噛まれたとかいう経験があるわけでもないのですが、あの細い手足やもぞもぞした動きが嫌で嫌で・・・ゴキブリやスズメバチはもちろんのこと、チョウチョやテントウ虫さえ冷や汗をかくレベルです。

ただ、実物が目に映らなければ比較的大丈夫ですので、虫が登場する小説は何冊か読みました。世界的に有名なフランツ・カフカの『変身』、その『変身』をどことなく連想させる黒澤いづみさんの『人間に向いてない』、生理的な気色悪さが読者を襲う貴志祐介さんの『天使の囀り』などは、初読みの時のインパクトを今でもはっきり覚えています。これらはすべて、物理的に虫が存在する作品ですので、今回は嫌悪感やおぞましさの象徴として虫が出てくる作品を取り上げたいと思います。朱川湊人さん『水銀虫』です。

 

こんな人におすすめ

後味の悪い短編ホラー小説が読みたい人

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「ファミリーランド」 澤村伊智

SF小説の舞台になりやすい設定として、<違う惑星><異次元>と並んで多いのが<未来社会>です。私個人としては、今からほんの少し先の時代を描いた近未来小説が好きだったりします。何百年、何千年も未来の話だとファンタジーとしか思えませんが、何十年レベルの未来なら「こういうこともありそうだな」と感情移入しやすいです。

<状況がリアルに想像できる>という性質からか、近未来を舞台にした小説は、闇を感じさせたり希望がなかったりするケースが多い気がします。恩田陸さんの『ロミオとロミオは永遠に』や中村文則さんの『R帝国』などでは、時代が進んだが故の狂気や絶望が描かれました。今回取り上げるのは、澤村伊智さん『ファミリーランド』。少し文明が進んだ時代の恐怖が楽しめます。

 

こんな人におすすめ

・近未来を舞台にした小説が読みたい人

・嫁姑や介護など、家族の問題をテーマにしたホラーに興味がある人

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「猫と魚、あたしと恋」 柴田よしき

「最近疲れて病んでるんだよね」「あの人、ヤバいよ。壊れてるって」そんな会話を交わしたことがある人も多いのではないでしょうか。<病む>とか<壊れる>とかいう言い方は、気軽に使われることがけっこうあります。私自身、簡単に「めっちゃ病み気味なんだ」とか言っちゃう方かもしれません。

ですが、本当に<病んで><壊れた>人間がいた場合、この言葉はとても重くなります。それは、スティーブヴン・キングの『ミザリー』や五十嵐貴久さんの『リカ』などを読めばよく分かりますね。この短編集にも、それぞれの理由で壊れてしまった女性たちが登場します。柴田よしきさん『猫と魚、あたしと恋』です。

 

こんな人におすすめ

女性中心の心理サスペンス小説が読みたい人

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「先生と僕」 坂木司

私は学生時代、家庭教師を付けていたことがあります。相手は大学生の女性で、勉強だけでなくプライベートの話も色々することができました。ああいうやり取りは、塾ではできないものだったでしょう。

家に招き入れるという性質上、家庭教師と生徒の距離は、学校や塾のそれより近くなりがちですし、時に家庭内のトラブルに関わることもあり得ます。いい師弟関係を築ければ最高ですが、家庭教師という存在が家の中に思わぬ波紋を呼ぶこともないとは言い切れません。本間洋平さんの『家族ゲーム』では、強烈な家庭教師が一つの家族を揺るがす様を描いていました。では、この家庭教師はどうでしょうか。坂木司さん『先生と僕』です。

 

こんな人におすすめ

利発な少年が登場するコージーミステリーが読みたい人

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「僕の明日を照らして」 瀬尾まいこ

テレビや新聞のニュースを見ていると、数日と置かずして家庭内暴力に関する事件が目に付きます。言葉の使用法としては、配偶者への暴力を<ドメスティックバイオレンス>、子どもへの暴力を<児童虐待>と使い分けるんだとか。もちろん、暴力は誰に対してだろうと悪いことなのですが、腕力のない女性や子どもが犠牲になると、「許せない」という気持ちが一層強まります。

しかし、虐待がどんなに酷いものであったとしても、日本が法治国家である以上、「虐待犯は全員海に沈めました。めでたしめでたし」というわけにはいきません。加害者はなぜ虐待に走ってしまったのか。暴力がまかり通った背景は何なのか。そこをしっかり解明し、再発防止に努めないと、第二、第三の犠牲者が出る可能性すらあります。今回ご紹介するのは、瀬尾まいこさん『僕の明日を照らして』。家族間で行われる暴力について、改めて考えさせられました。

 

こんな人におすすめ

児童虐待にまつわる小説に興味がある人

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「ひとんち」 澤村伊智

ホラー作品は、大きく分けて二つのタイプがあると思います。それは<自業自得>系と<理不尽>系。前者は、恐怖体験をする原因が(善意悪意は問わず)自分自身にあるタイプで、五十嵐貴久さんの『リカ』や今邑彩さんの『赤いべべ着せよ・・・』などがこれに当たります。

後者の<理不尽>系はというと、主人公サイドには何の落ち度も因果もなく、「そこにいたから」「怪異に目を付けられたから」という理由で恐ろしい思いをするタイプの作品です。登場人物が何か原因となる行動を取ったわけではないので、読者に「もしかしたら私もこんな目に遭うかも・・・」と思わせる怖さがありますね。例を挙げると、明野照葉さんの『棲家』や、ブログでも紹介した小池真理子さんの『墓地を見おろす家』などがあります。先日読んだホラー小説も、このタイプの作品でした。澤村伊智さん『ひとんち』です。

 

こんな人におすすめ

バラエティー豊かなホラー短編集が読みたい人

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「怖い女の話」 柴田哲孝

今までこのブログでは、<怖い女>が登場する小説をたくさん取り上げてきました。別に狙ったわけではありませんが、それらの小説の大半は、作者が女性だった気がします。女性作家の手で綴られる女の狂気や愛憎の恐ろしさはやはり格別。読んでいて鳥肌が立ちそうになることすらあるほどです。

その一方、男性作家が描く<怖い女>の中にも、強烈な猛者がうようよいます。男性作家の場合、悪女に翻弄される男性被害者の描写にも力が入るんですよね。この辺りは、中山七里さんの『嗤う淑女』や、五十嵐貴久さんの『リカ』などを読めば実感できると思います。例に挙げた二作品は、どちらも一人の<怖い女>が活躍(?)する話なので、今回は多種多様な<怖い女>が登場する作品をご紹介します。作家だけでなく冒険家としての顔も持つ、柴田哲孝さん『怖い女の話』です。

 

こんな人におすすめ

女性の狂気をテーマにしたサイコサスペンスが読みたい人

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はいくる

「予言の島」 澤村伊智

<予言>という単語を聞いて多くの人が思い浮かべるのは、かの有名な<ノストラダムスの大予言>でしょう。<一九九九年七か月、空から恐怖の大王が来るだろう>という一文が<一九九九年に人類は滅びる>と解釈され、一時期、テレビや雑誌もその話題で持ちきりでした。かくいう私も、ハラハラドキドキしながら特集雑誌を買い求めた一人です。

こんな風に何かと世間の注目を集める<予言>ですが、これをテーマにした小説となると、あまりお目にかかったことがありません。関係者の中に預言者を名乗る人間がいるケースはありますが、大抵は詐欺まがいの手を使う小悪党というのがお約束。<未来を見通す>という能力の性質上、あまり大々的に取り上げると何でもありのハチャメチャ小説になってしまうからでしょうか。ですが、この小説に出てくる<予言>は一味違いました。澤村伊智さん『予言の島』です。

 

こんな人におすすめ

クローズド・サークルを扱ったホラーサスペンスが読みたい人

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「傑作はまだ」 瀬尾まいこ

「こんなことがもし自分の身の上に起こったら・・・」小説やドラマ、映画を見ていて、そんな風に空想することは誰でもあると思います。暗い作品の時もあるでしょうが、どちらかというと、楽しく明るい作品の方が空想も盛り上がりますよね。かくいう私も、そういう脳内シミュレーションは大好物。その時々でお気に入りのシチュエーションがあるのですが、一時期は<ある日突然、これまで離れ離れだった身内と出会う>という設定にハマっていました。

この設定だと、古くはエーリッヒ・ケストナーの『ふたりのロッテ』がありますし、朝ドラ『だんだん』もそうでした。最近では、坂木司さんの『ホリデーシリーズ』も有名です。今回取り上げるのは、瀬尾まいこさん『傑作はまだ』。家族の、そして人の繋がりについて考えさせられました。

 

こんな人におすすめ

心温まる家族小説が読みたい人

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はいくる

「和菓子のアン」 坂木司

これまで何度か書きましたが、私は甘い物が大好きです。健康のことを考えなくて良ければ一日三食全部スイーツでいいと思うほどで、スーパーマーケットやコンビニに行くたび、デザートコーナーの新作をチェックするのが習慣です。味だけでなく見た目も素敵なスイーツの数々に癒される人って、意外と多いのではないでしょうか。

そんな私が思い浮かべる<甘い物>と言えば、かつては洋菓子オンリーでした。ですが、ここ最近、あんこの風味が懐かしくなったり、買い物中にみたらし団子や葛切に目が行ったりすることがしばしばあります。ガツンとしたインパクトや見た目の派手さという点で洋菓子に押されがちな和菓子ですが、改めて見てみると繊細で美しい品が多いですし、洋菓子とは違う優しい甘さも魅力的です。「でも、和菓子ってあんまり馴染みないなぁ」と思う人は、この作品を読んでみてはどうでしょう。坂木司さん『和菓子のアン』です。

 

こんな人におすすめ

・和菓子がたくさん登場する小説が読みたい人

・若い女性の成長物語が読みたい人

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