「昔は普通にあったけど、近頃は見なくなったなぁ」と思うものって色々あります。読書界隈で例を挙げると、代本板と、本の背表紙裏に貼ってあった貸出カード。特に前者は、学生時代に散々利用したので、消えてしまった少し寂しい気もします。
この話題で私がもう一つ思い浮かべるもの、それは<ミニ文庫>です。文字通り小さな文庫本で、サイズはせいぜい胸ポケットに入る程度。短編が一~二話収録されている程度のボリュームですが、とにかく持ち運びしやすいので、移動中の読書に重宝しました。神坂一さんの『スレイヤーズシリーズ』や、高橋克彦さんの『幻少女』といった印象に残る作品もたくさんあったなぁ。最近、久しぶりにミニサイズの文庫を読む機会があり、なんだか懐かしかったです。今回取り上げるのは、背筋さんの『口に関するアンケート』です。
こんな人におすすめ
仕掛け満載の短編ホラーが読みたい人
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単に私の読書傾向の問題なのかもしれませんが、ここ最近読んだ作品の中で物語の鍵を握るのは、母娘ないし姉妹でした。女性同士の場合、掴み合い殴り合いの大乱闘になる可能性が低い(かもしれない)分、水面下でのドロドロを描きやすく、イヤミスやホラーにハマるからかな?と考えています。
とはいえ、当たり前の話ですが、男性同士だって確執が生まれることは多々あります。真保裕一さんの『お前の罪を自白しろ』では父と息子が、東野圭吾さんの『手紙』では兄と弟が、切っても切れない縁の上で苦悩する人間ドラマを繰り広げました。どちらも映像化された有名作品なので、ご存知の方も多いと思います。それから、知名度という点ではこの二つより低いかもしれませんが、これもお気に入りの作品です。瀬尾まいこさんの『戸村飯店 青春100連発』です。
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兄弟が織りなす青春小説に興味がある人
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電子書籍の台頭が著しいこのご時世。とはいえ、私個人としては、本は紙で読むのが好きです。ちょっとしたコラムやレビューくらいの分量ならいいのですが、単行本一冊分ともなると、画面越しに読むうちに頭と目が疲れてくるんですよ。DVDやCDのレンタルショップはネット配信の勢いに押されているようですが、本屋と図書館は決してなくならないでほしいと切に願います。
また、紙の本が好きな理由は、疲労のせいだけではありません。これもまた個人的な好みですが、紙の本の方が<仕掛け>の面白さが増す気がするからです。仕掛けについて詳しく説明するとネタバレになってしまいますが、折原一さんの『倒錯の帰結』や道尾秀介さんの『N』のように、文章だけでなく本全体にネタが仕込んである小説といえば分かりやすいでしょうか。もちろん、プロの手にかかれば電子書籍でも仕掛けを施すことは可能なのでしょうが、やっぱり紙のページをめくりながら「あー、そういうことか!」となる楽しさは格別なんです。今回ご紹介する作品も、最後まで読んで初めて仕掛けに気づき、「騙されたー!」となりました。澤村伊智さんの『頭の大きな毛のないコウモリ』です。
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後味の悪いホラー短編集が読みたい人
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私は読む本を選ぶ時、必ずあらすじをチェックします。「好きな作家さんの作品は事前情報ゼロで楽しみたい!」という方も多いのでしょうが、私は大まかなところを把握してから読み始めたいタイプ。ばっちり好みに合いそうな話だった時は、読書前のワクワク感もより高まります。
ですが、世間には、あらすじからは予想もつかないような方向に進んでいく作品も存在します。私がこの手の作品で真っ先に思いつくのは、鈴木光司さんの『リングシリーズ』。おどろおどろしいジャパニーズホラーかと思いきや、続編『らせん』『ループ』と進むにつれてどんどん新事実が発覚し、SF小説の様相を呈してくる展開が衝撃的でした。それからこの本も、あらすじから想像していた話とは全然違う方向に進んでいきます。澤村伊智さんの『斬首の森』です。
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予想もできないようなホラーミステリーが読みたい人
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子どもが家から離れ、旅をする。ジュブナイル作品の王道とも言えるシチュエーションです。旅先での出来事を経て子どもが成長していく様子は、文章で読んでも映像で見てもワクワクするものですよね。このジャンルには、スティーブン・キングの『スタンド・バイ・ミー』をはじめ、名作がたくさんあります。
ただ、現代社会で子どもだけの旅を決行するとなると、それなりの理由付けが必要となります。恩田陸さんの『上と外』では主人公兄妹が外国のクーデターに巻き込まれますし、宮部みゆきさん『ブレイブ・ストーリー』の主人公は異世界に行ってしまいました。こういう特殊な設定の物語もとても面白いのですが、今回はもっと現実寄りの作品を取り上げようと思います。朱川湊人さんの『オルゴォル』です。
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子ども目線の旅物語に興味がある人
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ホラーやイヤミスの世界において、<子ども>というのは特別な存在になりがちです。子どもは可能性の塊であり、未来の象徴。そのせいか、モンスターや殺人鬼が跋扈し、多数の犠牲者が出る中、子どもだけはなんとか生き残るという展開も多いです。
その一方、子どもが容赦なく犠牲になる話も一定数あります。命の価値は平等とはいえ、やはり子どもが惨い末路を辿ると、絶望感が一気に高まるんですよね。櫛木理宇さん、澤村伊智さん、三津田信三さん等の作品で、生還フラグが立っている子どもが呆気なく死に、一体何度打ちのめされたことか・・・・・そう言えば、この方の作品も、子どもが過酷な結末を迎える傾向にある気がします。今回取り上げるのは、朱川湊人さんの『いっぺんさん』です。
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郷愁漂うホラー短編集に興味がある人
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クリエイターは作品を創り出して当然と思われがちですが、人間である以上、創作ペースには個人差があります。心身や周辺環境等の事情により、思うように仕事ができないことだってあるでしょう。シリーズ作品の連載が中断されたり、新作が出ないことがあっても、あまりピリピリせず気長に待った方が、消費者にとっても気楽です。
とはいえ、好きな作家さんの作品がどんどん出たら嬉しいのが人情というもの。おまけにそのレベルが高いなら、これほど幸せなことはありません。多作な作家さんと言えば、最近なら中山七里さん辺りが挙がりそうですが、この方だって負けてはいませんよ。今回ご紹介するのは澤村伊智さんの『すみせごの贄』です。
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『比嘉姉妹シリーズ』が好きな人
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<血は水よりも濃し>ということわざがあるように、古来より、血縁関係のある家族は固い絆で結ばれていると考えられてきました。実際にはそうでもないケースも多々あるのですが、「あいつとは血が繋がっているから」という理由で過ちが許されたり、恩恵を受けたりする事例が数多く存在することもまた事実。同様の考え方が欧米やアラブ地域にも存在することからも、人類がいかに血縁を重視する生き物かが分かります。
一言で<血縁>といっても親子や兄弟姉妹等、色々な関係がありますが、中でもひときわ特別扱いされるのは<母子>ではないでしょうか。何しろ、この世で唯一、物理的に肉体を共有したことがある間柄です。当然のように多くの創作物のテーマとなり、深く濃い愛憎が描かれてきました。今回取り上げる作品も、母と子の関係が下敷きになっています。澤村伊智さんの『さえづちの眼』です。
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『比嘉姉妹シリーズ』が好きな人
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<モキュメンタリー>という手法があります。これは、フィクション作品を、実際に起こったドキュメンタリー作品のように描写するやり方のこと。ドキュメンタリーとして演出している関係上、作中で明確な謎解きや真相解明がなされないことが多く、与えられた情報から読者が考察する必要があることが特徴です。
古くから存在する手法ですが、知名度を上げたのは、アメリカ発のホラー映画『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』でしょう。小説なら、長江俊和さんの『放送禁止シリーズ』は、モキュメンタリーの性質をうまく活かしたサスペンスでした。それからこれも、モキュメンタリーの名作として、長く語り継がれる作品だと思います。背筋さんの『近畿地方のある場所について』です。
こんな人におすすめ
モキュメンタリー形式のホラー小説に興味がある人
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短いながらも読者を本の世界にどっぷり浸らせてくれるショートショート、大好きです。特に社会人になってからは、学生時代ほど長く読書時間が確保できないため、長編小説だと途中で読むことを中断せざるを得ないこともしばしば・・・作品によっては、物語の途中から読書を再開すると「あれ、この人誰だっけ?」「なんでこの二人はいがみ合ってるの?」等々、内容を把握するのに時間がかかることもあります。その点、ショートショートなら一話をすぐ読み終われるので安心ですね。
そんなショートショートには、他の長編や短編作品同様、様々なジャンルがあります。どんなジャンルが好きかは人それぞれでしょうが、個人的にはミステリーやホラーが好みです。短い分量でゾクッとさせられる感覚が堪らないんですよ。思えばショートショートの神様・星新一さんの作品も、皮肉たっぷりでブラックな雰囲気のものが多いです。今日取り上げるのも、残暑を吹き飛ばすほどの寒気を味わえるショートショート集です。澤村伊智さんの『一寸先の闇 澤村伊智怪談掌編集』です。
こんな人におすすめ
ホラー小説のショートショート集が読みたい人
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