はいくる

「さえづちの眼」 澤村伊智

<血は水よりも濃し>ということわざがあるように、古来より、血縁関係のある家族は固い絆で結ばれていると考えられてきました。実際にはそうでもないケースも多々あるのですが、「あいつとは血が繋がっているから」という理由で過ちが許されたり、恩恵を受けたりする事例が数多く存在することもまた事実。同様の考え方が欧米やアラブ地域にも存在することからも、人類がいかに血縁を重視する生き物かが分かります。

一言で<血縁>といっても親子や兄弟姉妹等、色々な関係がありますが、中でもひときわ特別扱いされるのは<母子>ではないでしょうか。何しろ、この世で唯一、物理的に肉体を共有したことがある間柄です。当然のように多くの創作物のテーマとなり、深く濃い愛憎が描かれてきました。今回取り上げる作品も、母と子の関係が下敷きになっています。澤村伊智さん『さえづちの眼』です。

 

こんな人におすすめ

『比嘉姉妹シリーズ』が好きな人

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支え合って暮らす子ども達に忍び寄る不気味なナニカ、時を経て明かされる少年時代の記憶の真実、一人娘の失踪から始まる名家の業と罪・・・・・闇の奥から垣間見える、人ならざるもの達の影。この恐怖に、人は立ち向かえるのか。怪異との果てしない戦いを描く、人気ホラーシリーズ第七弾

 

『比嘉姉妹シリーズ』七作目に当たる本作には、三つの中編が収録されています。三話の共通点は、いずれも<母と子>がテーマになっていること。テーマは同じながらアプローチの仕方が全然違うため、マンネリ感はありません。澤村伊智さん、相変わらず引き出しが多い!

 

「母と」・・・荒んだ家庭を離れ、<鎌田ハウス>という更生施設で暮らし始めた琢海。そこでは、琢海と似たような境遇の子ども達が共同生活を送っていた。最初は反発していた琢海だが、家主の鎌田や、子ども達との暮らしに張り合いを見出していく。そんなある日、琢海は、鎌田には人ではないナニカが見えること、そのナニカが子ども達に手出ししないよう睨みをきかせていることを知り・・・・・

鎌田ハウスで穏やかに暮らすようになる琢海ら子ども達の様子が清々しい分、彼らが不幸になってほしくないと思っていましたが・・・終盤のどんでん返しでは「そう来たか!」と唸らされました。おまけに今回登場する怪異って、何気にシリーズ最恐では?不明瞭な部分も多く、今後、再登場しそうな気がします。意外な形で出てきた真琴の亡母も、業不深い感じでインパクト抜群。こりゃ、真琴も母より琴子を慕うわな。

 

「あの日の光は今も」・・・昌輝は幼い頃、男友達と共にUFOを目撃した。噂が広まるにつれ騒動は大きくなり、その最中に人死にが出たこともあり、成人した今なお好奇と中傷の目に晒される毎日だ。ある時、昌輝のもとを、一人のライターが訪ねてくる。昌輝は、なりゆきで過去のUFO騒動について語ることにするが・・・・・

シリーズ二作目『ずうのめ人形』から、料理研究家のゆかりと、ライターの湯水が登場します。比嘉姉妹の登場はなし。怪異と対峙できる人間不在のせいか、収録作品中で一番、不可解で不気味な幕引きでした。結局、少年達が見たUFOは何だったのか、池に棲むという<はぎねのぬし>は実在したのか・・・たぶん、ゆかりの推理で合っているのでしょうが、このシリーズを全部読んできた読者として言わせてください。これ、人災じゃない?

 

「さえづちの眼」・・・地方の名家・架守家で起きた、一人娘の神隠し事件。その後、一時は隆盛を極めた架守家も、今では災厄続きで没落の一途を辿っている。もしやこれは何かの呪いではないか。わずかに生き残った架守家関係者は、藁をもすがる思いで霊能者・比嘉琴子に連絡を取り・・・・・

前半、架守家で働く家政婦の手紙で語られる一人娘失踪事件編と、後半、琴子が登場してからの真相究明編の対比が秀逸でした。人間の悪意と怪異の呪い、二つが絡み合って悲劇が起こる構成が◎。ただ、しでかしたことに対し、受けた報いが大きすぎるよなぁ。神であれ何であれ、人外の存在に人間の理屈は通用しないということなのでしょうか。

 

一つ注意点を挙げるとすれば、第二話「あの日の光は今も」。この話、『ずうのめ人形』と『などらきの首』収録の「悲鳴」の内容を知らないと、恐らくラストの意味が分かりません。どちらも質の高いホラー小説なので、できれば事前に読んでおくことをお勧めします。

 

母の愛には安らぎしかない度★☆☆☆☆

琴子の圧倒的安心感が凄い!度★★★★★

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コメント

  1. しんくん より:

    このシリーズは1冊しか読んでいないです。
    姉妹の存在感があまり表に出ないようで肝心な時に出てくる影のようなイメージです。
    血縁関係の因果は櫛木理宇さんのイメージですが、こちらもなかなかインパクトがありそうです。

    1. ライオンまる より:

      「比嘉姉妹シリーズ」の場合、比嘉姉妹、特に琴子は後から登場することが多いですからね。
      能力もコネもある最強キャラなので、あまり最初から出てくると盛り上がりに欠けるのかもしれません。
      映画版の松たか子さんはイメージにぴったりでした。

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