さ行

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「怖い女の話」 柴田哲孝

今までこのブログでは、<怖い女>が登場する小説をたくさん取り上げてきました。別に狙ったわけではありませんが、それらの小説の大半は、作者が女性だった気がします。女性作家の手で綴られる女の狂気や愛憎の恐ろしさはやはり格別。読んでいて鳥肌が立ちそうになることすらあるほどです。

その一方、男性作家が描く<怖い女>の中にも、強烈な猛者がうようよいます。男性作家の場合、悪女に翻弄される男性被害者の描写にも力が入るんですよね。この辺りは、中山七里さんの『嗤う淑女』や、五十嵐貴久さんの『リカ』などを読めば実感できると思います。例に挙げた二作品は、どちらも一人の<怖い女>が活躍(?)する話なので、今回は多種多様な<怖い女>が登場する作品をご紹介します。作家だけでなく冒険家としての顔も持つ、柴田哲孝さん『怖い女の話』です。

 

こんな人におすすめ

女性の狂気をテーマにしたサイコサスペンスが読みたい人

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「予言の島」 澤村伊智

<予言>という単語を聞いて多くの人が思い浮かべるのは、かの有名な<ノストラダムスの大予言>でしょう。<一九九九年七か月、空から恐怖の大王が来るだろう>という一文が<一九九九年に人類は滅びる>と解釈され、一時期、テレビや雑誌もその話題で持ちきりでした。かくいう私も、ハラハラドキドキしながら特集雑誌を買い求めた一人です。

こんな風に何かと世間の注目を集める<予言>ですが、これをテーマにした小説となると、あまりお目にかかったことがありません。関係者の中に預言者を名乗る人間がいるケースはありますが、大抵は詐欺まがいの手を使う小悪党というのがお約束。<未来を見通す>という能力の性質上、あまり大々的に取り上げると何でもありのハチャメチャ小説になってしまうからでしょうか。ですが、この小説に出てくる<予言>は一味違いました。澤村伊智さん『予言の島』です。

 

こんな人におすすめ

クローズド・サークルを扱ったホラーサスペンスが読みたい人

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「傑作はまだ」 瀬尾まいこ

「こんなことがもし自分の身の上に起こったら・・・」小説やドラマ、映画を見ていて、そんな風に空想することは誰でもあると思います。暗い作品の時もあるでしょうが、どちらかというと、楽しく明るい作品の方が空想も盛り上がりますよね。かくいう私も、そういう脳内シミュレーションは大好物。その時々でお気に入りのシチュエーションがあるのですが、一時期は<ある日突然、これまで離れ離れだった身内と出会う>という設定にハマっていました。

この設定だと、古くはエーリッヒ・ケストナーの『ふたりのロッテ』がありますし、朝ドラ『だんだん』もそうでした。最近では、坂木司さんの『ホリデーシリーズ』も有名です。今回取り上げるのは、瀬尾まいこさん『傑作はまだ』。家族の、そして人の繋がりについて考えさせられました。

 

こんな人におすすめ

心温まる家族小説が読みたい人

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「和菓子のアン」 坂木司

これまで何度か書きましたが、私は甘い物が大好きです。健康のことを考えなくて良ければ一日三食全部スイーツでいいと思うほどで、スーパーマーケットやコンビニに行くたび、デザートコーナーの新作をチェックするのが習慣です。味だけでなく見た目も素敵なスイーツの数々に癒される人って、意外と多いのではないでしょうか。

そんな私が思い浮かべる<甘い物>と言えば、かつては洋菓子オンリーでした。ですが、ここ最近、あんこの風味が懐かしくなったり、買い物中にみたらし団子や葛切に目が行ったりすることがしばしばあります。ガツンとしたインパクトや見た目の派手さという点で洋菓子に押されがちな和菓子ですが、改めて見てみると繊細で美しい品が多いですし、洋菓子とは違う優しい甘さも魅力的です。「でも、和菓子ってあんまり馴染みないなぁ」と思う人は、この作品を読んでみてはどうでしょう。坂木司さん『和菓子のアン』です。

 

こんな人におすすめ

・和菓子がたくさん登場する小説が読みたい人

・若い女性の成長物語が読みたい人

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「などらきの首」 澤村伊智

他のテーマにも言えることですが、<ホラー>の中には色々なジャンルがあります。幽霊や悪魔と戦う正統派のオカルトホラー、現代社会を舞台にしたモダンホラー、古城や洋館などが登場するゴシックホラー、人間の狂気を扱ったサイコホラー、内臓飛び散るスプラッタ、ホラーながら論理的な謎解き要素もあるホラーミステリーetcetc。ホラー大好きな私は何でもOKですが、この辺りは個人で好みが分かれるところでしょう。

たいていのホラー小説は、一冊ごとに上記のジャンルが分かれています。ですが、最近読んだ澤村伊智さん『などらきの首』には、様々のジャンルのホラー短編小説が収録されていました。一粒で二度どころか三度も四度も美味しい思いをした気分です。

 

こんな人におすすめ

・バラエティ豊かなホラー短編集が読みたい人

・『比嘉姉妹シリーズ』が好きな人

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「少女達がいた街」 柴田よしき

「青春」という言葉の成り立ちは案外古く、古代中国の五行思想に登場しているそうです。本来は「春」という季節を意味する単語であり、転じて日本では「人生において、未熟ながら若々しく元気に溢れた時代」という使われ方をするようになったんだとか。何歳が青春なのかというと、これは人それぞれ考え方があるでしょうが、一般的には大体中学生くらいから二十歳前後といったところでしょうか。

「未熟な登場人物が成長する」というストーリーを成立させやすい分、青春時代を扱った小説は数限りなくあります。あまりにありすぎて挙げるのが大変なくらいですが、ぱっと思いつくだけでも恩田陸さんの『夜のピクニック』、金城一紀さんの『GO』、山田詠美さんの『放課後の音符(キイノート)』などなど名作揃い。これらはすべて切なくも瑞々しい青春時代を描いた爽やかな物語ですが、中には青春の苦さ、痛々しさをテーマにした作品もあります。それがこれ、柴田よしきさん『少女達がいた街』です。

 

こんな人におすすめ

ノスタルジックな雰囲気のあるミステリーが読みたい人

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「満月ケチャップライス」 朱川湊人

<超能力>という言葉を聞くと、なんだかわくわくしてきます。手を触れずに物を動かしたり、未来の出来事を見通したり、一瞬で遠く離れた場所に移動したり・・・文字通り、普通の人間の力を超えた能力だからこそ、余計に憧れが募ります。

超能力を扱った創作物の場合、その能力を使って敵と戦うアクション作品と、異能を持つがゆえに悩み苦しむ超能力者を描いたヒューマンドラマの二パターンに分かれることが多いです。前者は派手で迫力ある展開になるからか、漫画や映画でよくありますね。『X-MEN』などのようなアメコミ作品がその代表格でしょう。今回は、後者の作品を取り上げたいと思います。朱川湊人さん『満月ケチャップライス』です。

 

こんな人におすすめ

超能力が出てくる、悲しくも心温まる物語が読みたい人

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「そして、バトンは渡された」 瀬尾まいこ

「世界平和のためには、家に帰って家族を大切にしてあげてください」と言ったのはマザー・テレサ、「人生最大の幸福は家族の和楽」と言ったのは細菌学者の野口英世、「楽しい笑いは家の中の太陽である」と言ったのはイギリスの作家サッカレーです。どれもまったくその通りで、どんな家族の中で育ったかは、その後の人生を大きく左右すると言っても過言ではありません。愛に満ちた家族ならばこれほど幸せなことはないですし、殺伐として冷え切った家族なら人生はさぞ辛く寂しいものでしょう。

家族をテーマにした小説はたくさんありすぎて挙げるのに迷うほどですが、ユーモア小説なら奥田英朗さんの『家日和』や伊坂幸太郎さんの『オー!ファーザー』、虐待が絡むものは下田治美さんの『愛を乞うひと』や青木和雄さんの『ハッピーバースデー~命かがやく瞬間~』、ミステリー要素を求めるなら辻村深月さんの『朝が来る』などが有名です。どの作品にも読み手の胸に残る家族が登場しますが、最近読んだ小説に出てくる家族はとても魅力的でした。瀬尾まいこさん『そして、バトンは渡された』です。

 

こんな人におすすめ

家族にまつわる温かな小説が読みたい人

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「ねこ町駅前商店街日々便り」 柴田よしき

子どもの頃、商店街に行くのが好きでした。本屋に文房具屋、パン屋に映画館。小さい分、従業員さんたちと会話することができ、ワクワクドキドキしたものです。今はもっと大きなデパートやショッピングセンターがあちこちにあって楽しい反面、慣れ親しんだ商店街が廃れていくのは寂しいです。

今、全国にはシャッター通りと化した商店街がたくさんあります。そこをどう再生し、人々の生活を潤すかは、テレビや新聞でしばしば取り上げられるテーマですね。そんな商店街の奮闘を描いた作品、柴田よしきさん『ねこ町駅前商店街日々便り』。この町、行ってみたいです。

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「女たちのジハード」 篠田節子

「OL」という言葉が生まれたのは、一九六四年のこと。週刊誌『女性自身』が公募を行って生まれた造語だそうです。五十年以上の歴史があり、今では台湾や香港でも使用されているようですね。それはすなわち、会社で働く女性がどんどん増え、社会に貢献してきたことの証でしょう。

私自身OL経験者であり、OLが登場する小説も大好きです。才色兼備のOLがイケメン相手に恋の駆け引きを繰り広げる話も、正義感溢れるOLが企業の不正と戦う話も面白い。でも、一番好きなのは、どこにでもいる平凡なOLが、幸せになるため一生懸命前進していく話です。今日は、そんなOLたちの奮闘記をご紹介しましょう。恋愛、ホラー、SFと、幅広いジャンルで活躍する篠田節子さん『女たちのジハード』です。

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