さ行

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「そして、バトンは渡された」 瀬尾まいこ

「世界平和のためには、家に帰って家族を大切にしてあげてください」と言ったのはマザー・テレサ、「人生最大の幸福は家族の和楽」と言ったのは細菌学者の野口英世、「楽しい笑いは家の中の太陽である」と言ったのはイギリスの作家サッカレーです。どれもまったくその通りで、どんな家族の中で育ったかは、その後の人生を大きく左右すると言っても過言ではありません。愛に満ちた家族ならばこれほど幸せなことはないですし、殺伐として冷え切った家族なら人生はさぞ辛く寂しいものでしょう。

家族をテーマにした小説はたくさんありすぎて挙げるのに迷うほどですが、ユーモア小説なら奥田英朗さんの『家日和』や伊坂幸太郎さんの『オー!ファーザー』、虐待が絡むものは下田治美さんの『愛を乞うひと』や青木和雄さんの『ハッピーバースデー~命かがやく瞬間~』、ミステリー要素を求めるなら辻村深月さんの『朝が来る』などが有名です。どの作品にも読み手の胸に残る家族が登場しますが、最近読んだ小説に出てくる家族はとても魅力的でした。瀬尾まいこさん『そして、バトンは渡された』です。

 

こんな人におすすめ

家族にまつわる温かな小説が読みたい人

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「ねこ町駅前商店街日々便り」 柴田よしき

子どもの頃、商店街に行くのが好きでした。本屋に文房具屋、パン屋に映画館。小さい分、従業員さんたちと会話することができ、ワクワクドキドキしたものです。今はもっと大きなデパートやショッピングセンターがあちこちにあって楽しい反面、慣れ親しんだ商店街が廃れていくのは寂しいです。

今、全国にはシャッター通りと化した商店街がたくさんあります。そこをどう再生し、人々の生活を潤すかは、テレビや新聞でしばしば取り上げられるテーマですね。そんな商店街の奮闘を描いた作品、柴田よしきさん『ねこ町駅前商店街日々便り』。この町、行ってみたいです。

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「女たちのジハード」 篠田節子

「OL」という言葉が生まれたのは、一九六四年のこと。週刊誌『女性自身』が公募を行って生まれた造語だそうです。五十年以上の歴史があり、今では台湾や香港でも使用されているようですね。それはすなわち、会社で働く女性がどんどん増え、社会に貢献してきたことの証でしょう。

私自身OL経験者であり、OLが登場する小説も大好きです。才色兼備のOLがイケメン相手に恋の駆け引きを繰り広げる話も、正義感溢れるOLが企業の不正と戦う話も面白い。でも、一番好きなのは、どこにでもいる平凡なOLが、幸せになるため一生懸命前進していく話です。今日は、そんなOLたちの奮闘記をご紹介しましょう。恋愛、ホラー、SFと、幅広いジャンルで活躍する篠田節子さん『女たちのジハード』です。

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「鶏小説集」 坂木司

子どもの頃は結構な偏食だった私が積極的に食べた数少ない食材、それが鶏肉です。誕生日のご馳走は鶏のから揚げ、コンビニで買うのはチキンサンド、鍋ならすき焼きよりしゃぶしゃぶより水炊きが好き。偏食が治った今も鶏肉好きは変わらず、神戸牛が売りの焼肉屋に行った時さえ、まず鶏肉を注文したほどです(笑)

ものすごく個人的な意見ですが、鶏肉は肉の中で一番、変化がつけやすいような気がします。部位や調理法によってあっさり味にもなればこってり味にもなる。これって、なんだか人間関係にも似ているような・・・そんな風に思うのは、この作品を読んだせいでしょうか。坂木司さん『鶏小説集』です。

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「風味さんのカメラ日和」 柴田よしき

写真撮影は好きですか。私自身は撮る方は決して上手ではありませんが、見るのは大好き。インターネットで美味しそうなスイーツの写真を見つけては、一人ニンマリしていることもしばしばです。

今はスマートフォンなどの普及により、一昔前よりずっと手軽に写真が撮れるようになりました。それはもちろん楽しいことだけれど、時にはしっかりとカメラを構えて写真撮影するのも面白いかもしれません。今日取り上げるのは、柴田よしきさん『風味さんのカメラ日和』。最近忘れていた、「レンズを通して物を見ることの楽しさ」を思い出せた気がします。

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「ししりばの家」 澤村伊智

「家」という言葉には、様々なイメージが付きまといます。ほのぼのと温かく、住人を守ってくれるイメージを持つ人もいるでしょう。と同時に、牢屋のように閉鎖的で、人を捕えるイメージだってあると思います。

前者の場合はラブストーリーやヒューマンドラマ、後者の場合はサスペンスやホラーの舞台となる「家」。「家」がキーワードとなるホラー小説といえば、貴志祐介さんの『黒い家』や小野不由美さんの『残穢』が有名です。ですが、この作品に登場する家も、それらに負けず劣らず恐ろしいですよ。澤村伊智さん『ししりばの家』です。

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「ずうのめ人形」 澤村伊智

子どもの頃、人形遊びが好きでした。私の子ども時代に主流だったのはタカラトミーから発売された「ジェニーちゃん」。細かなキャラクター設定やお洒落な洋服の数々に夢中になったことを覚えています。

その名前の通り人の形をしているだけあって、人間と人形の間には強い繋がりがあります。そのせいか、ホラー界では時として恐ろしいキーアイテムになることもありますね。最近読んだホラー小説にも、不気味な人形が登場しました。澤村伊智さん『ずうのめ人形』です。

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「青光の街(ブルーライト・タウン)」 柴田よしき

イギリスの女流作家、P・D・ジェイムズの著作に『女には向かない職業』という推理小説があります。この職業というのは「探偵」のこと。知力だけではなく、体力や筋力が求められることも多いであろう探偵稼業は、「女性には向かない」と思われがちだったのかもしれません。

とはいえ、そんな考え方があったのはもう昔の話。今や現実世界でもフィクションの中でも優秀な女探偵は数えきれないほど存在しますし、『女には向かない職業』の主人公も女性です。最近、魅力的な女探偵が登場する小説を読んだので紹介します。柴田よしきさん『青光の街(ブルーライト・タウン)』です。

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「銀河に口笛」 朱川湊人

「宇宙人」と聞くと、どんな存在を思い浮かべるでしょうか。いわゆる「グレイタイプ」と呼ばれる大きな頭と黒い目を持つタイプから、映画『エイリアン』に登場するような化け物じみた姿、地球人そっくりの容姿を持つものなど、色々でしょうね。ちなみに私はというと、子どもの頃に見たアニメの影響で、足がたくさんあるタコ型宇宙人を想像してしまいます。

いるのかいないのか、その存在が今なお議論の的になっている宇宙人。フィクションの世界ではしばしば恐怖の対象となることもありますが、実際のところはどうなんでしょう。科学的なことはともかく、こんな宇宙人が本当にいたら、友達になりたくなるかもしれません。朱川湊人さん『銀河に口笛』です。

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「淑女の休日」 柴田よしき

両親が旅行好きだということもあって、子どもの頃から旅をする機会は比較的多い方だったと思います。名所を巡ったり、お土産を買ったりすることももちろん楽しいのですが、同じくらい楽しみなのは、どんなホテルに泊まるかということ。家とは違うベッドやバスルーム、広々としたレストランの朝食ビュッフェなど、ワクワクして仕方ありませんでした。

大勢の人間が出入りし、様々なドラマが展開する場所ということもあって、ホテルを舞台にした創作作品も多いですね。一言でホテルと言っても、観光地にあるリゾートホテルからサラリーマンが素泊まりするビジネスホテル、カップルが利用するラブホテルなど色々な種類がありますが、今日取り上げるのは都会に建つシティホテルが舞台の作品。柴田よしきさん『淑女の休日』です。

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