「四苦八苦」という言葉があります。由来は仏教で、人間が避けることのできない苦しみの分類のこと。「生」「老」「病」「死」の「四苦」に「愛別離苦」「怨憎会苦」「求不得苦」「五蘊盛苦」の四つを加えて「八苦」とするそうです。どの苦労も深刻なものですが、それらすべての終わりに待ち受ける苦しみは「死」でしょう。
そんな「死」と直結しているからか、「葬式」という儀式は様々なドラマを生み出します。当然、葬式をテーマにした創作物もたくさんありますね。映画『おくりびと』はアカデミー賞外国語映画賞を受賞する快挙を成し遂げましたし、幸田文さんの『黒い裾』、湯本香樹実さんの『ポプラの秋』、宮木あや子さんの『セレモニー黒真珠』などは、どれも面白い作品でした。状況が状況だからか人間ドラマ寄りの作風になることが多いので、今日は意外な路線でいこうと思います。天祢涼さんの『葬式組曲』です。
こんな人におすすめ
葬儀にまつわるミステリが読みたい人
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小説に何を求めるか。これは人それぞれです。美男美女のロマンチックな恋愛模様を求める人もいれば、手に汗握るアクションシーンが読みたい人、鳥肌が立つような恐怖感が醍醐味だという人もいるでしょう。そして、どうということのない人生の一場面を描いた小説が好きだという人もいると思います。
私自身、そういう日常小説は大好きで、国内外問わず色々読みました。この手のジャンルが得意な作家さんもたくさんいますが、江國香織さんや群ようこさん、吉本ばななさんなどが有名ですね。最近読んだ小説でも、山あれば谷あり、涙もあれば笑いもある人生が描かれていました。荻原浩さんの『それでも空は青い』です。
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どこにでもあるような日常をテーマにした小説が好きな人
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すべての生命は水の中から生まれたそうです。また、私達人間の体は半分以上が水でできています。だからでしょうか。水という存在は、私たちに懐かしさや安らぎ、切なさをもたらします。
そのせいか、水辺が舞台となった小説は多いです。ロバート・ルイス・スティーヴンソンの『宝島』、ハーマン・メルヴィルの『白鯨』などは世界的に有名ですし、ここ最近の作品だと近藤史恵さんの『昨日の海は』、坂木司さんの『大きな音が聞こえるか』などが面白かったです。比較的<海>を扱った作品の方が多い気がするので、今回はあえて場所を変え、<川>が出てくる小説を取り上げたいと思います。恩田陸さんの『蛇行する川のほとり』です。
こんな人におすすめ
少年少女が出てくる青春ミステリーが読みたい人
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他のジャンルがそうであるように、ホラーという分野にも「ブーム」が存在します。ここ最近ヒットしたホラー作品を見る限り、今は「一番怖いのは人間だよ」ブーム。人間の欲望や狂気が引き起こす恐怖は、現実にも起こりそうな臨場感があって怖いですよね。
ですが、人外の存在が巻き起こす意味不明な恐怖もまた恐ろしいです。この世の常識が通用せず、ただ「関わってしまったから」という理由で怪異に見舞われる登場人物たち。この手の作風は三津田信三さんがお得意ですが、この方の小説もかなりのものでした。今回取り上げるのは恩田陸さんの『私の家では何も起こらない』。王道をいく幽霊譚が楽しめますよ。
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スタンダードな幽霊屋敷小説を読みたい人
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人生を築き上げていく上で、大事なものはたくさんあります。愛情が最も大事だという人もいれば、お金こそ一番と感じる人もいるでしょう。そんな中、つい忘れられがちですが、<記憶>もまた生きていく上で大切な要素です。日々の記憶を積み重ねることで人生は成り立つもの。もしその記憶を保つことができなければ、人生はどれほど辛く寂しいものになるでしょうか。
<記憶喪失>ではなく<記憶を保持できない>登場人物が出てくる物語となると、愛川晶さんの『ヘルたんシリーズ』、小川洋子さんの『博士の愛した数式』、西尾維新さんの『忘却探偵シリーズ』などが思い浮かびます。最近読んだ小説にも、記憶を保てないことに悩み苦しむヒロインが登場しました。秋吉理香子さんの『ガラスの殺意』です。
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記憶障害をテーマにした小説が読みたい人
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私は友人知人から<スイーツ女王>と言われるほどの甘党です。中でも目がないのは、チョコレートパフェやガトーショコラといったチョコレート系のスイーツ。昔、デザートビュッフェでチョコレート系のスイーツばかり三十個近く食べ、カフェインを摂りすぎたせいか全く眠れなくなったこともありました(笑)
美味しそうなスイーツが登場する小説はたくさんあるものの、チョコレートがメインとなると、意外と少ないです。有名どころだと、ロアルド・ダールの『チョコレート工場の秘密』と、大石真さんの『チョコレート戦争』くらいでしょうか。この二作品ほどの知名度はないかもしれませんが、今回ご紹介する小説にも、それはそれは美味しそうなチョコレート・スイーツが出てきますよ。上田早夕里さんの『ショコラティエの勲章』です。
こんな人におすすめ
スイーツが登場するコージー・ミステリーが読みたい人
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インドア派の趣味の代表格と言えば、「読書」「映画鑑賞」「音楽鑑賞」といったところでしょうか。その内、前の二つは私も大好きですが、「音楽鑑賞」は今一つ馴染みがありません。ドラマや映画の主題歌になった人気曲や、音楽の教科書に載るような有名クラシックをいくつか知っているくらいです。
とはいえ、音楽が嫌いなわけではないですし、音楽をテーマにした小説も大好きです。中山七里さんの『岬洋介シリーズ』や森絵都さんの『アーモンド入りチョコレートのワルツ』などは図書館で何度も借りましたし、毛利恒之さんの『月光の夏』に至っては感動のあまり即座に映画版のビデオをレンタルしたほどです。そして、音楽小説の名作といえば、これを外すことはできないでしょう。恩田陸さんの『蜜蜂と遠雷』です。
こんな人におすすめ
ピアノをテーマにした小説が読みたい人
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「この作家さんはこういう作品を書く」というイメージってあると思います。綾辻行人さんなら叙述トリックを駆使した新本格ミステリーだし、瀬尾まいこさんなら心温まる成長物語、唯川恵さんなら女性主人公の恋愛模様etcetc。人それぞれ好きなジャンルがありますから、「これこれこんな物語を読みたい時はこの人の小説がお薦め」という知識があれば、作品選びが楽になります。
その一方で、「この作家さんってこんな小説も書くんだ!!」と驚かされることもあります。私は『和菓子のアン』『女子的生活』などの爽やかな作風のイメージがあった坂木司さんが、『短劇』『何が困るかって』で意外にブラックな小説も書くと知り、びっくりしたものです。こういう驚きもまた、読書の醍醐味の一つではないでしょうか。びっくりと言えば、芦沢央さんの『火のないところに煙は』。芦沢さんの新境地、楽しませてもらいました。
こんな人におすすめ
実話風ホラー小説が読みたい人
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学生時代の友達と定期的に会う機会はありますか。私は中学校から大学まで、同窓会の幹事を決めることなく卒業してしまったので、クラスメイトと大々的に集まったことは一、二度くらいしかありません。仲の良い友達数名でこぢんまりと会う機会はありましたが、各々の仕事や家庭の都合もあり、最近はめっきりご無沙汰です。仕方ないこととはいえ、ちょっと寂しくもありますね。
職場や習い事、親同士の付き合いなどでも友達を作ることはできます。ですが、人生で一番未熟な時期を共有した学生時代の友達というのは、やはり特別なものなのではないでしょうか。そんな風に思ったのは、飛鳥井千砂さんの『女の子は、明日も。』を読んだから。久しぶりに昔の友達に会いたくなりました。
こんな人におすすめ
アラサー女性の友情をテーマにした小説が読みたい人
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古今東西、「鏡」は神秘的なアイテムとして扱われてきました。人や物をそっくりそのまま(正確には逆転した姿ですが)映し出したり、使い方次第で無限に続く空間ができたように見えたりするせいでしょうね。日本でも、邪馬台国の女王・卑弥呼が魏から銅鏡を贈られていますし、鏡を奉っている神社も存在します。
ミステリアスな特性のせいか、鏡がキーワードとなる小説は、どこか謎めいたものが多いです。古くは『白雪姫』『鏡の国のアリス』がありますし、梨木香歩さんの『裏庭』、田中芳樹さんの『窓辺には夜の歌』、坂東眞砂子さんの『蛇鏡』などにも不思議な鏡が登場しました。そして、今回ご紹介する秋吉理香子さんの『鏡じかけの夢』。この鏡の不思議さもなかなかのものですよ。
こんな人におすすめ
愛憎絡み合うホラー短編集が読みたい人
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