かつて、漫画家の藤子・F・不二雄さんは、SFのことを<S(すこし)F(不思議)>と解釈しました。その言葉通り、この方の作品は『ドラえもん』に代表されるように、日常の中に不思議要素が混ざっていることが多いです。『スターウォーズ』のような壮大なSF叙事詩もいいけれど、身近なところから非日常を感じさせてくれる作品もまた面白いですよね。
日常の中に非日常が混じった作品は<エブリデイ・マジック>と呼ばれ、海外でも広く認知されています。一般家庭に魔女がやって来る『メアリー・ポピンズ』、森の中に不思議な生き物が棲むジブリ映画『となりのトトロ』、特殊な力を持ちながら一般社会に交じって生きる人々を描いた恩田陸さんの『常野物語』等々、名作がたくさんあります。今回取り上げる作品も、ジャンル分けするとこれに入るのかな。芦沢央さんの『魂婚心中』です。
こんな人におすすめ
現実と少し違う世界のSF短編集に興味がある人
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「お気に入りの作品に出てくる土地を見てみたい」「あの作者が愛した店に行ってみたい」。そう願うファンは少なくないと思います。かくいう私もその一人。映画『ロード・オブ・ザ・リングシリーズ』の大ファンでもあるため、お金を貯めて、いつかニュージーランドの撮影地すべてを回るのが生涯の夢です。
現実問題、社会人が大好きな作品ゆかりの土地を巡るのは、決して簡単なことではありません。お金、時間、家庭や仕事のスケジュールとの兼ね合い等々、越えなければならないハードルがいくつもあります。では、物語の登場人物達ならどうやってハードルを越えるかというと、この作品の主人公なんてなかなか印象的でした。秋吉理香子さんの『月夜行路』です。
こんな人におすすめ
・ミステリー仕立てのロードノベルが読みたい人
・文学ネタが好きな人
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シリーズ物の作品には、しばしば<大きな変化がなく、決まった流れを繰り返す>というパターンが存在します。よく<サザエさん時空>と呼ばれる、日常系の作品に多いパターンですね。現実には往々にして悲劇的な変化が多い分、物語には不変・不動が求められるのかもしれません。
とはいえ、いくら変わらぬ世界を描いた物語でも、シリーズが進むにつれ多少は変化が出るものです。このケースで一番多いのは<新キャラが登場した>ではないでしょうか。それこそ『サザエさん』『ちびまる子ちゃん』といった有名作品も、一昔前と比べればずいぶんキャラクターが増えました。さすがにこれほどの長寿作品ではありませんが、このシリーズにも新キャラクターが登場し、今後の期待が増すばかりです。石持浅海さんの『殺し屋、続けてます。』です。
こんな人におすすめ
・殺し屋が登場する小説に興味がある人
・日常の謎をテーマにしたミステリーが好きな人
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フィクションの世界には、<創作だからこそ楽しめる>という要素がいくつもあります。一番分かりやすいのは、犯罪に関するものでしょう。殺人、放火、誘拐、強盗等、現実に起これば許し難いものでも、小説や映画なら物語を盛り上げる重要なポイントとなり得ます。
そんな犯罪に関わる職業の筆頭格、それは<殺し屋>です。非合法な手段で犯罪と関わりまくれるという使い勝手の良さ(?)から、フィクション界で殺し屋はいつも大活躍!もはや古典の貫禄さえある『仕掛け人・藤枝梅安』や『ゴルゴ13』、もっと近年のものだと伊坂幸太郎さんの『グラスホッパー』、逢坂剛さんの『百舌シリーズ』等々、殺し屋が登場する作品は数えきれないほどあります。最近読んだ作品でも、腕のいい殺し屋が意外な形で有能ぶりを発揮していました。今回は、石持浅海さんの『殺し屋、やってます。』を取り上げようと思います。
こんな人におすすめ
・殺し屋が登場する小説に興味がある人
・日常の謎をテーマにしたミステリーが好きな人
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この世の中に、絶対不変のものは存在しません。どんな物事であれ、状況次第で二転三転するのが世の常。そんな中、変わりやすいものの筆頭格は<価値観>ではないでしょうか。
では、なぜ価値観が変わっていくのかというと、理由は色々あれど一番は「時代が移り変わったから」だと思います。時が経てば経つほど新たな文化や技術が生まれ、それにつれて価値観も変化していくのは、ある意味当然のことなのかもしれません。ただ、それが一〇〇パーセント幸福に繋がるかと聞かれれば、そうとも言い切れないわけで・・・・・今回取り上げるのは、歌野晶午さんの『それは令和のことでした、』。令和ならではのブラックさがたっぷり効いていましたよ。
こんな人におすすめ
世相を反映したイヤミス短編集が読みたい人
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「昔はよく見聞きしたけど、今はめっきり減ったよなぁ」と思う物事って、色々あります。その中の一つが、ミス・コンテスト。独身女性が優勝を目指して競い合うイベントで、ミス・ユニバースやミス・日本が有名ですね。一時期は様々な自治体や学校がコンテストを開催していましたが、ルッキズムやジェンダーレスといった問題から、昨今はその数も激減したようです。
現実のミスコンに対する賛否はひとまず置いておくとして、多くの女性が一堂に会して競うというシチュエーションは、小説の舞台にぴったり。林真理子さんの『ビューティーキャンプ』では、美の世界に生きる女性達の悲喜こもごもがリアリティたっぷりに描かれていました。私はイヤミス好きなので、ミステリーやサスペンスの分野で何か読みたいなと思っていたら・・・先日、見つけました。秋吉理香子さんの『殺める女神の島』です。
こんな人におすすめ
・ミスコンを扱った作品に興味がある人
・クローズドサークルもののミステリーが好きな人
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<群衆事故>という事故があります。文字通り、統制・誘導されていない群衆によって引き起こされる事故のことで、集団の密度が高ければ高いほど発生リスクが高まるのだとか。二〇二二年に韓国で起きた梨泰院群衆事故は記憶に新しいですし、日本でも二〇〇一年に兵庫県明石市で花火大会帰りの群衆が歩道橋に殺到し、十一名の死者を出す大惨事になっています。
これは群衆事故に限った話ではありませんが、悲惨な事故が起こった場合、<なぜそんなことが起こったか>を調べるのはとても大事なことです。そして、フィクション作品の場合、大抵この<なぜ>の部分にとんでもない謎や秘密が仕掛けられていることが多いです。では、この作品はどうでしょうか。今回は、恩田陸さんの『Q&A』を取り上げたいと思います。
こんな人におすすめ
インタビュー形式で進むホラーミステリーが好きな人
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創作の世界には<因習村もの>というジャンルが成立します。古いしきたりや伝説に支配される土地を舞台にした作品のことで、どちらかといえば<閉鎖的><因縁深い>といったマイナスイメージの描写が多い気がしますね。一部例外はあるものの、基本的に都市部から遠く離れ、外部への連絡・避難手段に乏しい田舎が舞台となる傾向にあるようです。
この手のジャンルで一番有名なのは、国内では満場一致で横溝正史御大による『金田一耕助シリーズ』ではないでしょうか。それから、小野不由美さんの『屍鬼』や三津田信三さんの『刀城言耶シリーズ』も該当するでしょうね。長年に渡ってその土地に染み込んできた罪業や因縁がテーマとなる分、すっきり解決して大団円!ではなく、後味の悪いラストを迎えるケースが多いように思います。では、今回取り上げる作品はどうでしょうか。今邑彩さん『蛇神シリーズ』の完結編『暗黒祭』です。
こんな人におすすめ
・因習が絡む土着ホラーが好きな人
・『蛇神シリーズ』のファン
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二〇二四年三月、映画『変な家』が公開されました。YouTubeの動画時代から雨穴さんの作品の大ファンだった私は、すっかりメジャーになって・・・と感無量。動画版があまりに完成されていたこともあり、ホラー寄りのアレンジがなされた映画版は賛否両論あるようですね。『変な家』の場合、<短編動画→後日談を付けて長編小説化→ホラー風の映画化>という順に進んできたので、余計に意見が分かれるのかもしれません。私としては、「動画や小説とは違うけど、独立した作品としては面白い!」という感じでした。
とはいえ、「雨穴さんの作品の持つじわじわこみ上げるような怖さは、大画面じゃ再現しきれない」と感じるファンも一定数いることでしょう。私自身、そういう気持ちが一切ないと言えば嘘になってしまいます。映画版に物足りなさを感じた時は、この作品がお勧めですよ。今回ご紹介するのは雨穴さんの『変な家2』です。
こんな人におすすめ
家にまつわるサイコサスペンスが読みたい人
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「大嫌いなあいつをぶん殴ってやりたい」「あそこにある金を奪えたら、どんなに楽になるだろう」。そんな不埒な考えが一瞬頭をよぎることは、決して珍しいことではありません。私は昔、ハードなダイエットのせいで精神的にめげていた時、ケーキ売り場を見るたび「この場で商品を片っ端から鷲掴みにして食べられたら、楽しいだろうなぁ」と思ったものです。
多くの人間は、罪を犯す考えが脳裏に浮かんでも、実行せず空想に留めておきます。その理由は様々だと思いますが、突き詰めると、「バレたら大変なことになるから」ではないでしょうか。逮捕されれば犯罪者となり、刑を科され、場合によっては仕事や家庭を失うこともあり得る。自分ばかりか、身内までもが<加害者家族>として世間から後ろ指を指される。大抵の場合、犯罪に走ったってデメリットの方が大きいのです。この本を読んで、改めてそう思いました。石持浅海さんの『あなたには、殺せません』です。
こんな人におすすめ
皮肉の効いた倒術ミステリー短編集が読みたい人
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