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はいくる

「家守」 歌野晶午

以前、別作品のレビューで、「<家>という場所には、人をとらえるイメージもある」と書きました。一説によると、<家>は<宀(家)>と<豕(豚)>が組み合わさってできた漢字であり、<豚などの家畜を生贄に捧げた呪法的な護りのある場所>という意味があるんだとか。どの程度信憑性がある話かは分かりませんが、もしこれが本当なら、<家>がホラーやミステリーの舞台になりやすいのも納得です。

前回ご紹介した<家>にまつわる作品はホラーだったので、今回はミステリーを取り上げたいと思います。歌野晶午さん『家守』。この方の短編集を読むのは久々ですが、安定の面白さで大満足でした。

 

こんな人におすすめ

<家>をテーマにしたミステリー短編集が読みたい人

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はいくる

「つきまとわれて」 今邑彩

短編集の中には、<連作短編集>という形態があります。話同士が何らかの繋がりを持った短編集のことで、登場人物や場所が共通しているパターンが多いですね。いくつかの話をまとめると一つの大きな物語が出来上がることもあり、長編・短編とはまた違った面白さがあります。

これまで読んだことのある連作短編集では、有川浩さんの『阪急電車』、東野圭吾さんの『ナミヤ雑貨店の奇跡』、若竹七海さんの『ぼくのミステリな日常』などが面白かったです。今回ご紹介するのは、今邑彩さん『つきまとわれて』。まさに連作短編集ならではの面白さを堪能できました。

 

こんな人におすすめ

・連作短編集が好きな人

・毒のあるミステリーが読みたい人

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はいくる

「ブードゥー・チャイルド」 歌野晶午

生まれ変わり、輪廻転生、リインカーネーション。生き物が死後に再び肉体を得てこの世に戻ってくるという考え方は、世界中に存在します。この思想を信じるか否かでは意見が分かれるのでしょうが、私自身はかなり信じている方。実際、偶然や勘違いでは片づけられない事例もたくさんあるようです。

想像の余地が多いにあるテーマだからか、生まれ変わりをテーマにした創作物はたくさんあります。私のお気に入りは恩田陸さんの『ライオンハート』と北村薫さんの『リセット』。生まれ変わって大切な人と巡り合う奇跡に胸が熱くなりました。この二作品は、生まれ変わりの切なさや喜びを描いているので、今回は少し趣の異なる作品を取り上げたいと思います。歌野晶午さん『ブードゥー・チャイルド』です。

 

こんな人におすすめ

・生まれ変わりに興味がある人

・どんでん返しのある本格ミステリが好きな人

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はいくる

「緋色の囁き」 綾辻行人

ミステリーにおけるトリックの一つに、<叙述トリック>というものがあります。一部の情報をわざと曖昧に記述し、読者に思い込みや先入観を抱かせてミスリードを誘うトリックのことです。男性かと思われた人物が実は女性だったり、同じ時代を生きる登場人物たちの物語と見せかけて、実は片方は数十年前の人物だったりと、色々な仕掛け方がありますね。

このテーマを得意とする作家さんといえば、折原一さん、歌野晶午さん、乾くるみさんなどが有名です。そしてもう一人、忘れちゃいけないのが大御所中の大御所が綾辻行人さん。社会派ミステリーが人気を集めていた時代に<新本格>という新たなジャンルを生み出した偉大な方です。綾辻さんといえば『館シリーズ』が有名ですので、今回はちょっと趣向を変えて『緋色の囁き』を取り上げたいと思います。

 

こんな人におすすめ

・叙述トリックが仕掛けられたミステリーが読みたい人

・少女の残酷さを描いた作品が好きな人

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はいくる

「魔女たちのたそがれ」 赤川次郎

<魔女>と聞くと、どういう存在を連想するでしょうか。恐らく、黒い服を着てホウキにまたがった女性を思い浮かべる人が多いと思います。実はこれは日本的な発想であり、発生の地であるヨーロッパではもっと多種多様な意味を持つ存在であるとのこと。男性だっているし、年齢も年寄りから少年少女まで様々です。数多くの学説があるようですが、まとめると<人知を超えた力で災いを為す存在>ということでしょう。

ここ最近はJ・K・ローリングの『ハリー・ポッターシリーズ』をはじめ、勇敢な若者が魔法を使って悪を倒す物語が主流な気がします。もちろん、それはそれで面白いのですが、語源を考えると、妖しく不気味な存在の方が正統派<魔女>のはず。というわけで、今回はこの小説を取り上げたいと思います。赤川次郎さん『魔女たちのたそがれ』です。

 

こんな人におすすめ

閉鎖的な村を舞台にしたホラーサスペンスが読みたい人

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「こうして誰もいなくなった」 有栖川有栖

一口でミステリーと言ってもそこには様々なジャンルがあり、人それぞれ好みが分かれます。刑事が地道な捜査で真相を暴くモダンなものが好きな人がいれば、時刻表トリックが駆使されたトラベルミステリーが好みだという人、殺人鬼が暴れ回るホラー寄りの作品に目がないという人もいるでしょう。私はといえば基本的にどんなジャンルも好きなのですが、一番心惹かれるのは吹雪の山荘や絶海の孤島を舞台にしたクローズド・サークル作品です。

この手のジャンルで最も有名なのは、アガサ・クリスティの『そして誰もいなくなった』ではないでしょうか。陸地から遠く離れた孤島、どことなく不気味な童謡、その歌詞通りに殺されていく招待客たち・・・この設定を見ただけでワクワクしてきます。超有名小説なので影響を受けた作品もたくさんあるのですが、今回はその中の一つを取り上げたいと思います。有栖川有栖さん『こうして誰もいなくなった』です。

 

こんな人におすすめ

ホラー、ミステリー、ファンタジーなど、バラエティ豊かな短編集が読みたい人

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はいくる

「ファンレター」 折原一

ファン。それは、特定の人物や事象の支援者・愛好家を指す言葉です。人気商売である芸能人やクリエイターにとって、ファンの存在は有難いもの。ファンなくして彼らの生業は成り立たないと言っても過言ではないでしょう。

しかし、すべてのファンが善良とは限りません。<ファナスティック(熱狂的な)>を略してできた言葉なだけあり、情熱を募らせるあまり狂気の域に達するファンも存在します。この手のファンが登場する作品と言えば、スティーヴン・キングの『ミザリー』が一番有名ではないでしょうか。あちらは長編ですし、海外小説は敷居が高いと感じる方もいるかもしれませんので、今回はもう少し手を出しやすい作品をご紹介します。折原一さん『ファンレター』です。

こんな人におすすめ

曲者ファンが登場するブラックユーモア小説が読みたい人

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はいくる

「汝の名」 明野照葉

<演技>という言葉には、二つの意味があります。一つは、見物人の前で芝居や曲芸などを行ってみせること。もう一つは、本心を隠して見せかけの態度を取ること。前者の場合、行うシチュエーションは限られてきますが、後者はいたって日常的な行為です。

<見せかけの態度を取ってばかりの人間>と言うと、なんだか信用できないような気がしますが、本音と建て前があるのが世の常。物事を円滑に勧めるため演技することは、必ずしも悪とは言えません。しかし、あまりに演技が過ぎると、予想外の落とし穴が待ち受けているかも・・・・・この作品を読んで、そんな恐怖感を感じました。明野照葉さん『汝の名』です。

 

こんな人におすすめ

女同士の愛憎を描いたドロドロサスペンスが読みたい人

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「営業零課接待班」 安藤祐介

私は子どもの頃、「働き始めたら、みんな<接待>をするようになるんだ」と思い込んでいました。それくらい、一昔前のドラマや漫画では、勤め人が接待をするシーンが多かったように思います。しかし自分が社会人になる年齢になってみると、接待文化はすっかり廃れ、勤務時間外の付き合いは控えようという風潮が広がっていました。もちろん、今でも接待を行う業界・職種もあるのでしょうが、一時期ほど派手なものではなくなった気がします。

接待が減ったことによるメリットはたくさんあります。その一方、接待によって得られたものもあったのではないでしょうか。<酒を飲まなきゃいけない>とか<豪華にもてなさなきゃいけない>とかではなく、職場以外の場で飲食を共にすることで腹を割って話せたり、連帯感が生まれたりすることもあったはずです。今回は、そんな<接待>の在り方をテーマにした作品を取り上げたいと思います。公務員として働きながら作家業を続ける安藤祐介さん『営業零課接待班』です。

 

こんな人におすすめ

落ちこぼれ社員たちの成長物語が読みたい人

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はいくる

「あわせ鏡に飛び込んで」 井上夢人

<世にも奇妙な物語>というテレビ番組をご存知でしょうか。タモリが進行役を務めるオムニバステレビドラマで、現在は番組改編の時期に二時間ドラマとして放送されています。一話の長さが二十分程度と短いこと、ホラー・サスペンス・コメディ・ヒューマンドラマなど、様々なジャンルの話が楽しめることなどから、多くの視聴者の支持を集めています。

この番組が有名だからか、面白い短編小説を評する際、「<世にも奇妙な物語>に出てきそう話」「<世にも奇妙な物語>で実写化してほしい」などという言い回しが使われることがしばしばありますし、私もこのブログ内でそういうフレーズを何度も使いました。今回は、<世にも奇妙な物語>向けの小説がたくさん詰まった短編集を取り上げたいと思います。井上夢人さん『あわせ鏡に飛び込んで』です

 

こんな人におすすめ

ひねりの効いた短編小説が読みたい人

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