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はいくる

「幻坂」 有栖川有栖

私の昔の職場は、大阪の会社と合併したせいもあって大阪出身の社員が多く、大阪への出張も頻繁にありました。職種がサービス業だったことも関係しているでしょうが、大阪という町やその出身者には、明るく賑やかなイメージがあります。実際、大阪を舞台にした小説も、伊集院静さんの『琥珀の夢』や万城目学さんの『プリンセス・トヨトミ』など、スケールが大きい陽性の作品が多い気がします。同じ関西でも、京都を舞台にした作品がしっとりした雰囲気になりがちなのと対照的と言えるでしょう。

とはいえ、当たり前の話ですが、人が生活する場である以上、いつもいつも明るくパワフルでいられるわけがありません。活気溢れる大阪という町にも、しんみりした部分や切ない部分がたくさんあります。今日ご紹介するのは、有栖川有栖さん『幻坂』。しっとりと胸に染み入るホラーファンタジーでした。

 

こんな人におすすめ

大阪を舞台にしたホラー小説が読みたい人

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「びっくり館の殺人」 綾辻行人

ミステリーでおなじみのシチュエーションを挙げよと言われたら、一体どんな答えが出て来るでしょうか。私なら、<恐ろしい伝説が伝わる屋敷><とても日本とは思えないような洋館><迷路のように広い古城>辺りを思い浮かべます。俗に<館もの>と呼ばれるミステリーによく登場するシチュエーションですね。

脱出困難な館に集められ、次第に疑心暗鬼に囚われて行く登場人物たち・・・アガサ・クリスティーの『そして誰もいなくなった』を筆頭に、今邑彩さん『金雀枝荘の殺人』、近藤史恵さん『演じられた白い夜』、東野圭吾さん『仮面山荘殺人事件』など、多くのミステリー小説でこの設定が使われてきました。そして、国内の<館もの>を語る上で忘れちゃいけないのが綾辻行人さんの『館シリーズ』。新本格ブームの火付け役となったシリーズで、一九八七年に第一作『十角館の殺人』が刊行されて以降、今なお根強く支持され続けています。この『十角館の殺人』は超有名作品なので、今回はシリーズの中でも毛色の違う作品を紹介したいと思います。講談社ミステリーランドの一冊、『びっくり館の殺人』です。

 

こんな人におすすめ

子ども目線のホラーミステリーが読みたい人

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「充ち足りた悪漢たち」 赤川次郎

子どもという存在は無邪気なもの、裏表なく素直なもの・・・そんなイメージを抱いている人は多いでしょうし、実際にそういう面もあります。しかし、油断は禁物です。無邪気さや素直さは、残酷さや遠慮のなさに繋がるもの。「なんでそんなことをしてしまったの」と大人を唖然とさせる子どもは、現実にも存在します。

この手の<残酷な子ども>を描いた作品で私が一番衝撃を受けたのは、S.キングの『トウモロコシ畑の子どもたち』とスペインのホラー映画『ザ・チャイルド』。集団で襲って来る子どもたちと、訳も分からぬまま惨殺されていく大人たちの描写が凄惨で、しばらく呆然としてしまいました。この二作品はグロテスクな部分が多く、かなり人を選ぶと思うので、今回はもう少しマイルドな<怖い子どもたち>を紹介したいと思います。赤川次郎さん『充ち足りた悪漢たち』です。

 

こんな人におすすめ

子どもの恐ろしさをテーマにした短編集が読みたい人

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「家守」 歌野晶午

以前、別作品のレビューで、「<家>という場所には、人をとらえるイメージもある」と書きました。一説によると、<家>は<宀(家)>と<豕(豚)>が組み合わさってできた漢字であり、<豚などの家畜を生贄に捧げた呪法的な護りのある場所>という意味があるんだとか。どの程度信憑性がある話かは分かりませんが、もしこれが本当なら、<家>がホラーやミステリーの舞台になりやすいのも納得です。

前回ご紹介した<家>にまつわる作品はホラーだったので、今回はミステリーを取り上げたいと思います。歌野晶午さん『家守』。この方の短編集を読むのは久々ですが、安定の面白さで大満足でした。

 

こんな人におすすめ

<家>をテーマにしたミステリー短編集が読みたい人

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「つきまとわれて」 今邑彩

短編集の中には、<連作短編集>という形態があります。話同士が何らかの繋がりを持った短編集のことで、登場人物や場所が共通しているパターンが多いですね。いくつかの話をまとめると一つの大きな物語が出来上がることもあり、長編・短編とはまた違った面白さがあります。

これまで読んだことのある連作短編集では、有川浩さんの『阪急電車』、東野圭吾さんの『ナミヤ雑貨店の奇跡』、若竹七海さんの『ぼくのミステリな日常』などが面白かったです。今回ご紹介するのは、今邑彩さん『つきまとわれて』。まさに連作短編集ならではの面白さを堪能できました。

 

こんな人におすすめ

・連作短編集が好きな人

・毒のあるミステリーが読みたい人

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「ブードゥー・チャイルド」 歌野晶午

生まれ変わり、輪廻転生、リインカーネーション。生き物が死後に再び肉体を得てこの世に戻ってくるという考え方は、世界中に存在します。この思想を信じるか否かでは意見が分かれるのでしょうが、私自身はかなり信じている方。実際、偶然や勘違いでは片づけられない事例もたくさんあるようです。

想像の余地が多いにあるテーマだからか、生まれ変わりをテーマにした創作物はたくさんあります。私のお気に入りは恩田陸さんの『ライオンハート』と北村薫さんの『リセット』。生まれ変わって大切な人と巡り合う奇跡に胸が熱くなりました。この二作品は、生まれ変わりの切なさや喜びを描いているので、今回は少し趣の異なる作品を取り上げたいと思います。歌野晶午さん『ブードゥー・チャイルド』です。

 

こんな人におすすめ

・生まれ変わりに興味がある人

・どんでん返しのある本格ミステリが好きな人

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「緋色の囁き」 綾辻行人

ミステリーにおけるトリックの一つに、<叙述トリック>というものがあります。一部の情報をわざと曖昧に記述し、読者に思い込みや先入観を抱かせてミスリードを誘うトリックのことです。男性かと思われた人物が実は女性だったり、同じ時代を生きる登場人物たちの物語と見せかけて、実は片方は数十年前の人物だったりと、色々な仕掛け方がありますね。

このテーマを得意とする作家さんといえば、折原一さん、歌野晶午さん、乾くるみさんなどが有名です。そしてもう一人、忘れちゃいけないのが大御所中の大御所が綾辻行人さん。社会派ミステリーが人気を集めていた時代に<新本格>という新たなジャンルを生み出した偉大な方です。綾辻さんといえば『館シリーズ』が有名ですので、今回はちょっと趣向を変えて『緋色の囁き』を取り上げたいと思います。

 

こんな人におすすめ

・叙述トリックが仕掛けられたミステリーが読みたい人

・少女の残酷さを描いた作品が好きな人

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「魔女たちのたそがれ」 赤川次郎

<魔女>と聞くと、どういう存在を連想するでしょうか。恐らく、黒い服を着てホウキにまたがった女性を思い浮かべる人が多いと思います。実はこれは日本的な発想であり、発生の地であるヨーロッパではもっと多種多様な意味を持つ存在であるとのこと。男性だっているし、年齢も年寄りから少年少女まで様々です。数多くの学説があるようですが、まとめると<人知を超えた力で災いを為す存在>ということでしょう。

ここ最近はJ・K・ローリングの『ハリー・ポッターシリーズ』をはじめ、勇敢な若者が魔法を使って悪を倒す物語が主流な気がします。もちろん、それはそれで面白いのですが、語源を考えると、妖しく不気味な存在の方が正統派<魔女>のはず。というわけで、今回はこの小説を取り上げたいと思います。赤川次郎さん『魔女たちのたそがれ』です。

 

こんな人におすすめ

閉鎖的な村を舞台にしたホラーサスペンスが読みたい人

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「こうして誰もいなくなった」 有栖川有栖

一口でミステリーと言ってもそこには様々なジャンルがあり、人それぞれ好みが分かれます。刑事が地道な捜査で真相を暴くモダンなものが好きな人がいれば、時刻表トリックが駆使されたトラベルミステリーが好みだという人、殺人鬼が暴れ回るホラー寄りの作品に目がないという人もいるでしょう。私はといえば基本的にどんなジャンルも好きなのですが、一番心惹かれるのは吹雪の山荘や絶海の孤島を舞台にしたクローズド・サークル作品です。

この手のジャンルで最も有名なのは、アガサ・クリスティの『そして誰もいなくなった』ではないでしょうか。陸地から遠く離れた孤島、どことなく不気味な童謡、その歌詞通りに殺されていく招待客たち・・・この設定を見ただけでワクワクしてきます。超有名小説なので影響を受けた作品もたくさんあるのですが、今回はその中の一つを取り上げたいと思います。有栖川有栖さん『こうして誰もいなくなった』です。

 

こんな人におすすめ

ホラー、ミステリー、ファンタジーなど、バラエティ豊かな短編集が読みたい人

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「ファンレター」 折原一

ファン。それは、特定の人物や事象の支援者・愛好家を指す言葉です。人気商売である芸能人やクリエイターにとって、ファンの存在は有難いもの。ファンなくして彼らの生業は成り立たないと言っても過言ではないでしょう。

しかし、すべてのファンが善良とは限りません。<ファナスティック(熱狂的な)>を略してできた言葉なだけあり、情熱を募らせるあまり狂気の域に達するファンも存在します。この手のファンが登場する作品と言えば、スティーヴン・キングの『ミザリー』が一番有名ではないでしょうか。あちらは長編ですし、海外小説は敷居が高いと感じる方もいるかもしれませんので、今回はもう少し手を出しやすい作品をご紹介します。折原一さん『ファンレター』です。

こんな人におすすめ

曲者ファンが登場するブラックユーモア小説が読みたい人

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