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「不安な童話」 恩田陸

私が子どもの頃、前世をテーマにした漫画やアニメが人気でした。その流れで、「自分の前世は何だったのだろう」と考えたことも一度や二度ではありません。外国人だったり、特殊な能力を持っていたり、異世界の住人だったり・・・今では<中二病>と呼ばれてしまうのでしょうが、あれこれ空想を巡らすのは楽しかったです。

しかし、よくよく考えてみれば、仮に前世が存在したとしても、楽しいものとは限らないですよね。ウィルスやアメーバだったかもしれないし、奴隷として悲惨な最期を遂げたかもしれないし、憎悪と軽蔑を一身に受ける極悪人だったかもしれない。そんな前世、思い出さない方が間違いなく心穏やかなはずです。今回ご紹介する作品には、厄介な前世問題と関わってしまった主人公が登場します。恩田陸さん『不安な童話』です。

 

こんな人におすすめ

前世が絡んだサイコミステリーが読みたい人

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「UNTITLED」 飛鳥井千砂

どんな物語にも、必ず主人公及び主人公格の登場人物が出てきます。となると、膨大な数の主要登場人物が存在するわけで、必然的に彼らのキャラクターも多種多様なものになります。読者の共感を集め、感情移入され、エールを受けながら自分の人生を生きる主人公もいるでしょう。私の場合、これまで読んだ小説で一番応援した主人公は、小野不由美さん『十二国記シリーズ』の陽子。人目を気にするいい子ちゃんだった陽子が、異世界で心身ともにズタボロになりつつ、必死で足掻く姿に感情移入しまくりました。

その一方、読者に好かれず、反感を買うタイプの主要登場人物もまた存在します。嫌われる理由は様々ですが、意外に多いのは「正論ばっかりで嫌」というもの。確かに、長所もあれば短所もあるのが人間ですから、あまりに優等生一辺倒で正義を押し付けられても困っちゃいますよね。この作品の主人公は、まさにそういうタイプでした。飛鳥井千砂さん『UNTITLED』です。

 

こんな人におすすめ

ほろ苦い家族小説が読みたい人

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「禁じられたソナタ」 赤川次郎

ホラー作品には、登場人物達を恐怖のどん底に突き落とすモンスターがしばしば出てきます。このモンスターの種類は、大きく分けて二種類です。一つ目は、<誰が><なぜ><どのように>モンスターになってしまったか、はっきり分かるタイプ。映画『13日の金曜日』シリーズに登場するジェイソンや、鈴木光司さんによる『リング』の貞子がこれに当たります。モンスターの正体やそうなった理由が明確に存在するため、登場人物達の謎解きを見るのも楽しみの一つです。

もう一つは、登場人物達を苦しめるモンスターの正体が、はっきりとは分からないタイプ。例を挙げると、綾辻行人さんの『殺人鬼』シリーズなどでしょうか。作中でモンスターの正体は分かるものの、大前提となるすべての発端や、凶行に走る理由はあやふやなまま。登場人物達を襲う理不尽な恐怖の数々が、ものすごく恐ろしかったです。今回取り上げる作品にも、そうした正体不明の怪異が出てきました。赤川次郎さん『禁じられたソナタ』です。多少ネタバレがありますので、未読の方はご注意ください。

 

こんな人におすすめ

化物が出てくるホラー小説が好きな人

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「押入れのちよ」 荻原浩

先日、<ジェントルゴースト・ストーリー>という言葉を知りました。意味は<優しい幽霊の物語>といったところでしょうか。人を祟ったり呪ったりしない、心優しい幽霊が出てくるほのぼのストーリーを指すそうです。こういう幽霊のことを、怪談研究家の東雅夫さんは<優霊>と訳したそうですが、実に名訳だと思います。

幽霊ならぬ優霊物語といえば、赤川次郎さんの『ふたり』、加納朋子さんの『ささらさや』、辻村深月さんの『ツナグ』などが思い浮かびます。どの作品に登場する霊達も、憎悪や恨みにとらわれることなく、遺された大事な人への愛情に溢れていました。最近読んだこの本に出てくる霊も、優霊と言っていいのではないでしょうか。荻原浩さん『押入れのちよ』です。

 

こんな人におすすめ

バラエティ豊かなホラー短編集が読みたい人

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「人類最初の殺人」 上田未来

なぜこの世界には犯罪が存在するのか。その命題をとことん突き詰めていくと、最終的に<そこに二人以上の人間が存在するから>という答えに行き着くと思います。価値観の異なる人間が複数存在すれば、そこには必ず勝敗が、優劣が、上下関係が生まれ、やがて犯罪を生む萌芽となります。仮に、無人島でたった一人生涯を送る人間がいるとしたら、少なくともその人の世界の中で犯罪は起こり得ないでしょう。悲しいかな、人間社会と犯罪とは切っても切り離せないものなのかもしれません。

だからこそ、人と犯罪が関わる小説は古今東西数えきれないほど存在します。膨大な数の犯罪小説がある中、どうオリジナリティを出すかが作家の腕の見せ所。頭脳明晰な名探偵を出したり、あっと驚くようなトリックを考えたり、読者の度肝を抜くような結末を描いたり・・・・・この犯罪小説もかなり個性的でした。上田未来さん『人類最初の殺人』です。

 

こんな人におすすめ

犯罪が絡んだ短編小説集が読みたい人

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「変な家」 雨穴

一昔前、小説家としてデビューするための方法は、主に三つでした。新人賞を受賞すること。自ら作品を出版社に持ち込むこと。自費出版すること。そこに加え、近年は新たなデビューへの道ができました。それは、インターネット上で小説を公開することです。小説投稿サイトなどを使えば公開は容易、閲覧者から感想をもらいやすいといったメリットがある反面、容易ゆえに競争相手が凄まじく多いこと、ネット界特有の誹謗中傷に晒される危険もあることなど、それなりにデメリットもあります。もっとも、どんな物事にも長所短所は必ずあるわけですから、プロ作家になるための手段が増えるのはやはり喜ばしいことなのでしょう。

ネット上で著作を公開し、評判を集めてデビューした作家さんとしては、住野よるさんがいます。新人賞を獲れなかった『君の膵臓を食べたい』を、小説投稿サイト<小説家になろう>に投稿したところ大人気となり、見事デビューを果たしたのだとか。それからこの作品も、ネット上で評判を集めて書籍化されたそうですよ。YouTuber兼ウェブライターでもある雨穴さん『変な家』です。

 

こんな人におすすめ

家にまつわるサイコサスペンスが読みたい人

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「鋏の記憶」 今邑彩

サイコメトリーという言葉をご存知でしょうか。これは超能力の一種で、物体に残る人の残留思念を読み取ること。特に考古学との関係が深く、発掘された考古学品の過去を読み取って研究に役立てる事例は、世界中に存在するそうです。

日本において、瞬間移動やテレパシーなどと比べるとあまり知られていなかったサイコメトリーの知名度を上げたのは、樹林伸さん原作の漫画『サイコメトラーEIJI』でしょう。松岡昌宏さん主演によるドラマがヒットしたこともあり、「超能力はよく分からないけど、サイコメトリーという言葉は知っている」という方も多いのではないでしょうか。小説では、宮部みゆきさんの『龍は眠る』『楽園』でもサイコメトリーが出てきました。それからこれも面白かったですよ。今邑彩さん『鋏の記憶』です。

 

こんな人におすすめ

サイコメトリーを扱ったミステリーが読みたい人

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「千年樹」 荻原浩

私は本をジャケ買い(内容を知らないCDや本などを、パッケージのみで選ぶ購入方法)することがあります。この時、「内容が想像と違う!」と驚かされることもしばしばです。特にハードカバーの場合、文庫本のように裏表紙にあらすじが書いてあるわけではないので、このパターンが多いですね。

過去に読んだ本では、若竹七海さんの『水上音楽堂の冒険』には仰天させられました。高校生三人組が明るく笑う表紙イラストと、<~の冒険>という楽しそうなタイトルから、てっきり少年少女が活躍するどきどきわくわく青春ミステリーかと思いきや・・・あの結末の残酷さと苦さは、今でもはっきり記憶しています。それからこの本にも、タイトルから予想していた内容と実際の内容が全然違い、びっくりした覚えがあります。荻原浩さん『千年樹』です。

 

こんな人におすすめ

時代を超えた人間ドラマが読みたい人

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「上と外」 恩田陸

結構な映画好きを自負している私が一番初めにハマったジャンル、それはアドベンチャーです。例を挙げるなら『インディ・ジョーンズシリーズ』や『ハムナプトラシリーズ』などですね。この手の作品はストーリーやキャラクター設定が分かりやすく、最後には善が悪を倒してスッキリ解決!という流れが多いので、安心して楽しむことができました。

ただ、映像作品ではなく小説、それも現代の日本人を主人公としたものとなると、数が限られてきます。手に汗握るハラハラシーンは画面映えしますし、今を生きる日本人が冒険に出かける機会は多いとは言い難いせいでしょうか。現に、田中芳樹さんの『アップフェルラント物語』は二十世紀初頭のヨーロッパの小国が舞台ですし、宮部みゆきさんの『ブレイブ・ストーリー』は日本人の少年が異世界で大冒険を繰り広げます。なので、今日ご紹介する作品は、なかなか貴重な設定と言えるかもしれません。恩田陸さん『上と外』です。

 

こんな人におすすめ

少年少女の冒険物語が読みたい人

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「滅びの庭」 赤川次郎

どこかの記事でも書いた気がしますが、今の私は気に入った作家さんの作品を一気読みするタイプの人間です。「この人の小説、面白い!」と思ったら、図書館でその作家さんの小説を探し、借りられるだけ借りるというのがいつものパターン。当然、自分が今、誰の著作を読んでいるかをしっかりチェックしておく必要があります。

ですが、実はこういう読み方をし始めたのは成人後の話で、学生時代はむしろ、作者名などろくに見もせず目についた本を読みまくっていました。なので、後になって昔読んだ本を見つけた時、「これってあの人の著作だったんだ!」と驚くこともしばしば。この作品も、初読みから数年経って作者名を知った時はびっくりしたものです。赤川次郎さん『滅びの庭』です。

 

こんな人におすすめ

後味の悪いホラー短編集が読みたい人

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