寝ている間に見る<夢>は、とても不思議な存在です。体は寝ていて脳は覚醒している<レム睡眠>中に多く見られる現象で、時として五感を伴い、無自覚の願望や記憶が表れることもある・・・と言われているものの、正確なメカニズムは今なお不明。その神秘性から、古今東西、「夢で未来を予知した」「夢の中でお告げを受けた」等のエピソードも数えきれないほど存在します。
それだけ謎の多い現象なだけあって、多くのクリエイター達が自作のテーマとして夢を取り上げてきました。洋画『エルム街の悪夢シリーズ』には夢で殺戮を繰り広げる殺人鬼・フレディが登場しますし、ルイス・キャロル『不思議の国のアリス』はヒロイン・アリスが見る夢の中の物語です。夢という存在のミステリアスさは、特にファンタジーやホラーのジャンルに映えますね。今回ご紹介するのは、夢が重要な役割を果たすホラー小説、明野照葉さんの『感染夢』です。
こんな人におすすめ
夢をテーマにしたサスペンスホラーが読みたい人
続きを読む
何年、下手をすると何十年も前に読んだ作品のことが、急に気になり出す。再読したくてたまらなくなる。私にはこういうことが結構あります。何かきっかけがあったわけではなく、それこそ雷に打たれたかのように、「あ、あれがまた読みたい!」となるのですけど、あれってどういう思考回路なのでしょう?
こういう場合、一番困るのは、あまりに昔に読んだ作品だと作者名やタイトルが分からないケースがままあることです。あらすじをひたすらインターネットで検索しまくり、それらしい作品を見つけては、あれでもないこれでもないと悩むこともしばしば・・・今回取り上げる作品も、該当作を見つけるまでしばらくかかりました。赤川次郎さんの『遅刻して来た幽霊』です。
こんな人におすすめ
現実味あるサスペンス短編集が読みたい人
続きを読む
昔読んだ小説に、こんな台詞がありました。「この世の争いのほとんどは、イロかカネが原因で起こる」。イロ(色)とは性欲や恋愛絡み、カネ(金)とは金銭問題のことで、確かにトラブルのほとんどはそのどちらかが原因だよなと、しみじみ納得したものです。
どちらも当事者にとっては深刻なのでしょうが、<巻き込まれる関係者の多さ>という観点で見れば、金銭問題の方に軍配が上がると思います。特に遺産相続問題となると、相続人のみならず、その配偶者や子供の生活に関わる可能性があるわけですから、関係者が目の色を変えるのも一概には責められません。それでも、今日ご紹介する作品のような遺産問題は、なかなか珍しいのではないでしょうか。明野照葉さんの『骨肉』です。
こんな人におすすめ
皮肉が効いた家族小説に興味がある人
続きを読む
<その作家さんの著作の中で最初に読んだ本>というのは、強い印象を残しがちです。それが気に入らなければ「この人の本は、もういいかな」となる可能性が高いですし、逆に気に入れば、著作すべてを網羅したくなることだってあり得ます。読書に限った話ではありませんが、最初の一歩って重要なものなんですよね。
私は特に、気に入った作家さんの著作は一気読みしたくなるタイプなので、最初にどの本を読むかはかなり大事です。学生時代、西澤保彦さん『七回死んだ男』を読んでハマった時は、図書委員の権限を利用して西澤保彦さんの著作を購入リクエストしまくったっけ。それからこの本は、私が恩田陸さんにハマるきっかけを作った、記念すべき第一作目です。今回は『光の帝国 常野物語』を取り上げようと思います。
こんな人におすすめ
超能力が出てくる連作短編集に興味がある人
続きを読む
<何かを始めようとした時に限って、別のことに目がいってしまう>という経験をお持ちの方、一定数いらっしゃると思います。よく聞くのは、<勉強を始めた途端、部屋の掃除をしたくなった>とかですね。普段は特に気にならないのに、一体どうしてなんでしょう?
私の場合、一番よくあるのは<掃除を始めたら本棚の本が目についてしまい、つい読みふけってしまった>というパターンです。こういう時に目がいくのは、大抵、ずいぶん昔に読んだので細部を忘れてしまっている本。時間が経って読み返すと、また新たな面白味や驚きがあるんですよ。つい先日も、片付け中にこれを見つけてやらかしてしまいました。今邑彩さんの『よもつひらさか』です。
こんな人におすすめ
後味の悪いホラーサスペンス短編集が読みたい人
続きを読む
子どもの頃、<契約>というのはものすごく複雑かつ高度なもので、身近には存在しないと思っていました。漫画やドラマの中で、社運を賭けたプロジェクトに挑む会社員が契約書を取り交わしたり、悪徳商人に売り飛ばされた主人公が奴隷契約を結ばされたり、悪魔に願いを叶えてもらうのと引き換えに魂を渡す契約を結んだり・・・・・ただの<約束>とは違う仰々しさを感じていたものです。
ですが、成長した今になって考えてみると、契約とはそれほど物々しく現実離れしたものではありません。それどころか、日常生活の至る所に契約は溢れています。店で物を買うのだって一種の契約ですし、新しくサイトに登録したりアプリをダウンロードしたりする時に契約書が表示されることもしょっちゅうです。これほど機会が多いと、契約というものに対するハードルが低くなってしまいがちですが・・・・・その契約、本当に結んで大丈夫ですか?契約書の内容、ちゃんと読んでいますか?この作品を読んだ後は、気軽に契約を結ぶことができなくなってしまうかもしれません。明野照葉さんの『契約』です。
こんな人におすすめ
女性の執念を描いたサスペンスが読みたい人
続きを読む
かつて、漫画家の藤子・F・不二雄さんは、SFのことを<S(すこし)F(不思議)>と解釈しました。その言葉通り、この方の作品は『ドラえもん』に代表されるように、日常の中に不思議要素が混ざっていることが多いです。『スターウォーズ』のような壮大なSF叙事詩もいいけれど、身近なところから非日常を感じさせてくれる作品もまた面白いですよね。
日常の中に非日常が混じった作品は<エブリデイ・マジック>と呼ばれ、海外でも広く認知されています。一般家庭に魔女がやって来る『メアリー・ポピンズ』、森の中に不思議な生き物が棲むジブリ映画『となりのトトロ』、特殊な力を持ちながら一般社会に交じって生きる人々を描いた恩田陸さんの『常野物語』等々、名作がたくさんあります。今回取り上げる作品も、ジャンル分けするとこれに入るのかな。芦沢央さんの『魂婚心中』です。
こんな人におすすめ
現実と少し違う世界のSF短編集に興味がある人
続きを読む
「お気に入りの作品に出てくる土地を見てみたい」「あの作者が愛した店に行ってみたい」。そう願うファンは少なくないと思います。かくいう私もその一人。映画『ロード・オブ・ザ・リングシリーズ』の大ファンでもあるため、お金を貯めて、いつかニュージーランドの撮影地すべてを回るのが生涯の夢です。
現実問題、社会人が大好きな作品ゆかりの土地を巡るのは、決して簡単なことではありません。お金、時間、家庭や仕事のスケジュールとの兼ね合い等々、越えなければならないハードルがいくつもあります。では、物語の登場人物達ならどうやってハードルを越えるかというと、この作品の主人公なんてなかなか印象的でした。秋吉理香子さんの『月夜行路』です。
こんな人におすすめ
・ミステリー仕立てのロードノベルが読みたい人
・文学ネタが好きな人
続きを読む
シリーズ物の作品には、しばしば<大きな変化がなく、決まった流れを繰り返す>というパターンが存在します。よく<サザエさん時空>と呼ばれる、日常系の作品に多いパターンですね。現実には往々にして悲劇的な変化が多い分、物語には不変・不動が求められるのかもしれません。
とはいえ、いくら変わらぬ世界を描いた物語でも、シリーズが進むにつれ多少は変化が出るものです。このケースで一番多いのは<新キャラが登場した>ではないでしょうか。それこそ『サザエさん』『ちびまる子ちゃん』といった有名作品も、一昔前と比べればずいぶんキャラクターが増えました。さすがにこれほどの長寿作品ではありませんが、このシリーズにも新キャラクターが登場し、今後の期待が増すばかりです。石持浅海さんの『殺し屋、続けてます。』です。
こんな人におすすめ
・殺し屋が登場する小説に興味がある人
・日常の謎をテーマにしたミステリーが好きな人
続きを読む
フィクションの世界には、<創作だからこそ楽しめる>という要素がいくつもあります。一番分かりやすいのは、犯罪に関するものでしょう。殺人、放火、誘拐、強盗等、現実に起これば許し難いものでも、小説や映画なら物語を盛り上げる重要なポイントとなり得ます。
そんな犯罪に関わる職業の筆頭格、それは<殺し屋>です。非合法な手段で犯罪と関わりまくれるという使い勝手の良さ(?)から、フィクション界で殺し屋はいつも大活躍!もはや古典の貫禄さえある『仕掛け人・藤枝梅安』や『ゴルゴ13』、もっと近年のものだと伊坂幸太郎さんの『グラスホッパー』、逢坂剛さんの『百舌シリーズ』等々、殺し屋が登場する作品は数えきれないほどあります。最近読んだ作品でも、腕のいい殺し屋が意外な形で有能ぶりを発揮していました。今回は、石持浅海さんの『殺し屋、やってます。』を取り上げようと思います。
こんな人におすすめ
・殺し屋が登場する小説に興味がある人
・日常の謎をテーマにしたミステリーが好きな人
続きを読む