すべての生命は水の中から生まれたそうです。また、私達人間の体は半分以上が水でできています。だからでしょうか。水という存在は、私たちに懐かしさや安らぎ、切なさをもたらします。
そのせいか、水辺が舞台となった小説は多いです。ロバート・ルイス・スティーヴンソンの『宝島』、ハーマン・メルヴィルの『白鯨』などは世界的に有名ですし、ここ最近の作品だと近藤史恵さんの『昨日の海は』、坂木司さんの『大きな音が聞こえるか』などが面白かったです。比較的<海>を扱った作品の方が多い気がするので、今回はあえて場所を変え、<川>が出てくる小説を取り上げたいと思います。恩田陸さんの『蛇行する川のほとり』です。
こんな人におすすめ
少年少女が出てくる青春ミステリーが読みたい人
あの夏の日、彼らに何があったのか---――演劇祭の舞台背景を描くため、川のほとりに建つ<船着場のある家>で合宿を始めた少年少女。楽しく過ぎていくはずの時間が、些細な出来事の積み重ねにより歪み始める。かつてこの家で起きた不幸な事件、秘密を共有する少女たち、美しい少年が口にしたあまりに残酷な言葉。やがて封じられた記憶が甦った時、止まっていた川の流れが再び動き出す。子ども時代の終わりを迎えた少年少女のひと夏の物語。
恩田陸さんは、未来を舞台にしたSFや、特殊な事情を抱える大人たちのサスペンスなどもたくさん執筆されていますが、本作に出てくるのは十代の高校生たち。『夜のピクニック』や『六番目の小夜子』に近い雰囲気です。私は恩田作品の少年少女の描写が大好きなので、あらすじを読んだ段階で「これは好み!」とワクワクしてしまいました。
ある夏休み、演劇祭で使う舞台装置を作るため、美術部に属する毬子、香澄、芳野の三人は川のほとりに建つ香澄の家、通称<船着場のある家>で合宿を行うことにします。合宿には香澄の従兄弟である月彦、月彦の幼馴染の暁臣が加わり、賑やかに時が過ぎていく・・・はずでした。実は十年前、香澄の母親は何者かに絞殺されており、犯人は今なお不明のまま。そして、家に毬子たちが集ったことで、未解決だったこの事件が再び動き出してしまうのです。
物語は四部構成であり、一部ごとに語り手が変わるスタイルです。第一部は、校内で目立つ存在である香澄と芳野に合宿に誘われ、有頂天になる毬子。第二部は日本人離れした雰囲気を持つ芳野。第三部は毬子の同級生であり、大人びた美貌の持ち主である真魚子(まおこ)。そして終章は、物語のキーパーソンである香澄の視点で語られます。この<次々と視点が変わる>という点がミソ。とある語り手にとっては謎だった事件が、別の語り手にとっては解決済みの出来事だったり、ある章で目立っていた登場人物が別の章では寝込んでいてほとんど行動しなかったり・・・くるくる変わる状況はまさに<藪の中>。一体誰が真実を話していて誰が嘘つきなのか、十年前の事件の真相は何なのか、最初から最後まで翻弄されっぱなしでした。
要となる謎は<十年前の絞殺事件>という、かなり残酷なもの。ですが、少年少女の世界に相応しい繊細な描写が続くせいか、あまり恐ろしさは感じません。本当に、作品を読むたびに思いますが、恩田さんの風景や匂い、香りの描き方の美しさは天才的ですね。登場人物が揃いも揃って美少年・美少女ばかりということもあり、まさしく夏の終わりのような、美しくもどこか切ない世界観が出来上がっています・・・まあ、現実的にはこんなに美形ばかりが集まることはそうそうないし、思春期の男女が集まって生臭いことがほとんど起きないということもあり得ないんでしょうが、それはそれ。萩尾望都さんの漫画を思い起こさせる、儚くきらきらした雰囲気を楽しめました。
また、恩田さんのミステリーの場合、あえてはっきりした真相を書かず読者の想像に任せるタイプの作品がありますが、本作はちゃんと謎解きがなされます。真相な哀しく、おまけに作中で人死にまで出てしまいますが、後味は悪くありません。きっと彼らはこれから何度もこの夏を思い出すことでしょう。登場人物たちと一緒に、過ぎ去った夏を振り返るつもりで読んでみてはいかがでしょうか。
真実はあの人が持っていってしまった度★★★★☆
戻れないあの頃へもう一度・・・度★★★★★
水辺を舞台にした郷愁のあるミステリーですね。
「夜のピクニック」のような雰囲気もあるなら尚更楽しみです。
少年・少女の一夏の物語~大人になって振り返る子供の頃の思い出。
スタンドバイミーのような設定の作品は好みです。早速図書館で探してきます。
「ノスタルジーの魔術師」と呼ばれる恩田陸さんの本領発揮とも言える作品でした。
「夜のピクニック」をはじめとする青春小説がお好きなら、きっと気に入ると思います。
登場人物が美少年美少女揃いなのも魅力です(笑)