真梨幸子

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「四月一日のマイホーム」 真梨幸子

新興住宅地。読んで字の如く、今まで宅地でなかった土地を新たに興した住宅地のことです。インフラ関係が新しく丈夫なこと、周囲に子育て世界が多く育児に向いていること、古参の住民がいないためゼロから人間関係をスタートさせられることなど、住む上でたくさんのメリットがあります。

その一方、当然ながらデメリットも存在します。郊外にあることが多いので交通の便が悪いこと、近隣住民がどんな人か事前に分からないこと、建築条件が付いている場合があるため完全に自分好みの家を建てられるわけではないこと・・・・・何事もそうですが、長所短所をよく見極めた上で物事を進めていかないと、人生は地獄になりかねません。今回ご紹介する作品には、新興住宅地で思わぬ地獄を見る羽目になった人達が登場します。真梨幸子さん『四月一日のマイホーム』です。

 

こんな人におすすめ

新興住宅地で起こるドロドロのイヤミスに興味がある人

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「イヤミス短編集」 真梨幸子

今まで知らなかった作家さんの存在を認知し、その面白さを知る。本好きにとっては無上の喜びの一つです。この<はいくる>のような読書ブログやレビューサイトの存在意義は、そうした喜びのために在るといっても過言ではありません。

その一方、すでによく知っていた作家さんに改めて<ハマり直す>のもそれはそれで楽しいです。本当に面白い作品の良さは、後日読み直しても薄れるものではないですし、年齢を重ねたことでより理解が深まるということもあると思います。最近、私は真梨幸子さんにハマり直し、著作の再読を続けています。先日読んだこれは、展開をほぼ忘れていたこともあり、初読みの時と同じように楽しめました。『イヤミス短編集』です。

 

こんな人におすすめ

不幸が詰まったイヤミス短編集が読みたい人

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「シェア」 真梨幸子

コロナが流行る前、<シェア>という言葉を頻繁に見聞きする時期がありました。大皿料理やスイーツを頼んで同席者同士でシェア、ステーションに停めてある車をみんなで利用するカーシェアリング、各自の能力を必要に応じて共有・マッチングさせるスキルシェア・・・中でも、一つの家に複数人で住むシェアハウスは、人気リアリティショーの設定となったこともあり、爆発的に知名度を伸ばしました。気の合う仲間同士と楽しく、しかし家族ほどべったり干渉することなく暮らせたら、さぞ快適なことでしょう。

とはいえ、複数人で何らかのものを共有するという<シェア>の性質上、予想外のトラブルの可能性は否定できません。お金の問題、生活パターンの問題、常識の問題etcetc。不快な思いをするだけならまだしも、犯罪に関わってしまうことだってあり得ます。でも、いくらなんでもここまで拗れることは少ないかな?真梨幸子さん『シェア』です。

 

こんな人におすすめ

シェアハウスを舞台にしたイヤミスに興味がある人

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「一九六一 東京ハウス」 真梨幸子

バラエティ番組、大好きです。時に悲惨な出来事を映さざるを得ないニュースや、一度見逃すとストーリーが分からなくなる可能性があるドラマと違い、適度に陽気で、適度に気軽。その日の気分次第でチャンネルを合わせれば、難しいことを考えずさらっと楽しめるところが魅力です。

一言でバラエティ番組と言っても色々ありますが、改めて見てみると、リアリティショーの多さに驚かされます。これは、一般人が様々な出来事に直面する様子を撮影した番組のこと。アイドルを目指したり、お金を稼ごうとしたり、特殊な状況下でのサバイバル生活を送ったりとシチュエーションは様々であり、特に友情や恋愛といった出演者達の人間模様にフォーカスした番組が人気な気がします。もちろん、プロの芸能人ではない素人がカメラの前に立つわけですから、万事順調なはずはありません。一歩間違えれば、取返しのつかない事態に陥る危険も・・・・・今回ご紹介するのは、真梨幸子さん『一九六一 東京ハウス』。リアリティショーを巡る生臭い愛憎劇を堪能できました。

 

こんな人におすすめ

リアリティショー内で繰り広げられる泥沼人間模様に興味がある人

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「まりも日記」 真梨幸子

ペットを飼うことは、ここで書ききれないほどの幸せをもたらしてくれます。毎日同じ屋根の下で寝起きし、食事をし、一緒に遊んだり、気まぐれに振り回されたり、甘えておねだりされたり・・・・・こんな風に家族として過ごしていれば、ペットの死により心を病む人がいるというのも頷けます。

ですが、ペットがもたらすのは喜びばかりではありません。どんな物事もそうであるように、辛いこと、大変なことも山ほどあります。体力的な辛さとか、精神的なプレッシャーとか、色々ありますが、突き詰めていけば最終的にお金の問題になるのではないでしょうか。動物を飼うためにはふさわしい住環境や餌を準備しなくてはなりませんし、病気や怪我をするたび、高額の医療費がかかります。こうやって列挙しただけでは苦労が分かりにくいかもしれませんが、この本を読めば少しはイメージが湧くかも・・・・・真梨幸子さん『まりも日記』です。

 

こんな人におすすめ

猫を絡めたイヤミスが読みたい人

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「フシギ」 真梨幸子

<不思議>という言葉を辞書で引いてみると、「そうであることの原因がよく分からず、なぜだろうと考えさせられること。その事柄」とあります。この「原因がよく分からない」というところが最大のポイント。<怖い小説>や<ハラハラさせられる小説>の場合、大抵はその原因が作中で判明しますが、<不思議な小説>はその限りではありません。登場人物にも読者にも、事態の真相や全容が分からないまま終わることだってあり得ます。

不思議な小説の代表格として真っ先に挙がるのは、やはりルイス・キャロルの『不思議の国のアリス』でしょう。主人公アリスの夢オチなだけあって、作中の出来事は因果関係も物理法則も完全無視。ここまでではないにせよ、恩田陸さんの『いのちのパレード』や梨木香歩さんの『家守綺譚』なども不思議な魅力いっぱいの小説でした。この作品にも、読者を混乱させる不思議がたくさん詰まっていましたよ。真梨幸子さん『フシギ』です。

 

こんな人におすすめ

謎めいたホラーミステリーが読みたい人

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「縄紋」 真梨幸子

歴史上、どの時代が好きかという質問があったら、どんな答えが集まるでしょうか。有名な英傑が大勢登場する戦国時代や幕末、陰陽師を扱った作品によく取り上げられる平安時代、文化面で大きな発展があった江戸時代などが挙がりやすい気がします。

その一方、名前が挙がりにくい時代もあると思います。縄文時代なんて、その筆頭格。あまりに昔すぎて、<坂本龍馬>とか<関ヶ原の戦い>とかいった超ド級のインパクトある偉人や出来事が確認できないことが一因でしょう。そのせいか、縄文時代がテーマの小説も少なめで、私はこれまで荻原浩さんの『二千七百の夏と冬』くらいしか知りませんでした。他にはないのかな・・・と思っていたら、先日、予想外の形で縄文時代が出てくる作品を見つけました。真梨幸子さん『縄紋』です。

 

こんな人におすすめ

縄文時代が絡んだイヤミスが読みたい人

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「坂の上の赤い屋根」 真梨幸子

今、人類は一丸となってコロナウィルスと戦っています。世界各国ではロックダウンの措置が講じられ、オリンピックは延期となり、日本でも非常事態宣言の発令や衛生用品の買い占めなど、平時では考えられなかった事態が次々起こっています。毎日ニュースを見るたび、ウィルスの恐ろしさを実感するとともに、不眠不休で働いてくれている医療従事者や物流業界の方々に頭が下がる思いです。

ですが、嬉しい知らせを聞くこともあります。国内の感染者数は今のところ減少傾向にありますし、非常事態宣言は解除され、以前の日常が戻りつつあると感じる機会も増えました。もちろん、まだまだ油断は禁物ですが、一時の酷い状況を思えば、いい傾向と見ていいでしょう。本好きの私としては、ずっと休館中だった図書館でまた本が借りられるようになったことが嬉しいです。特にこの本は発売前からチェックしていたこともあり、受け取った時は思わずガッツポーズしてしまいました。真梨幸子さん『坂の上の赤い屋根』です。

 

こんな人におすすめ

猟奇殺人事件をめぐるイヤミスが読みたい人

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「三匹の子豚」 真梨幸子

桃太郎、かぐや姫、シンデレラ、眠れる森の美女・・・・・世界各国には様々な童話が存在します。一見、非現実的なフィクションと思われがちですが、童話には現実世界でも通用する教訓が込められているもの。だからこそ、何百年、何千年にも渡って各地で伝わり続けてきたのでしょう。

そんな童話の初版を調べてみると、子どものトラウマになりかねないほど残酷なものが多いです。『白雪姫』の初版で、悪いお妃が焼けた鉄靴を履かされ死ぬまで踊らされるという展開など、そのいい例と言えるでしょう。上記の特性から、童話を現代風にアレンジした小説はたくさんあります。『ヘンゼルとグレーテル』『赤ずきん』『ラプンツェル』などはモチーフになりやすいので、今回は目新しい作品を取り上げたいと思います。真梨幸子さん『三匹の子豚』です。

 

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母と娘にまつわる愛憎劇が読みたい人

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「初恋さがし」 真梨幸子

ミステリーには、<主役にしやすい職業>というものがあります。高い調査能力や行動力を持ち、事件と関わる確率の高い職業の方が、物語を始めやすいですからね。たとえば刑事や弁護士、検事、ジャーナリストなどなど。探偵もその一つです。

日本の名探偵といえば金田一耕助や明智小五郎などが有名ですが、現代日本において探偵が堂々と大事件に関わる機会はそうそうありません。現代では<探偵事務所>や<興信所>の職員が、人探しや素行調査を行う過程で事件と関わるというパターンが多いです。加納朋子さんの『アリスシリーズ』、柴田よしきさんの『花咲慎一郎シリーズ』などがそうですね。今回ご紹介する小説もその一つ。真梨幸子さん『初恋さがし』です。

 

こんな人におすすめ

テンポの良いイヤミスが読みたい人

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