今まで知らなかった作家さんの存在を認知し、その面白さを知る。本好きにとっては無上の喜びの一つです。この<はいくる>のような読書ブログやレビューサイトの存在意義は、そうした喜びのために在るといっても過言ではありません。
その一方、すでによく知っていた作家さんに改めて<ハマり直す>のもそれはそれで楽しいです。本当に面白い作品の良さは、後日読み直しても薄れるものではないですし、年齢を重ねたことでより理解が深まるということもあると思います。最近、私は真梨幸子さんにハマり直し、著作の再読を続けています。先日読んだこれは、展開をほぼ忘れていたこともあり、初読みの時と同じように楽しめました。『イヤミス短編集』です。
こんな人におすすめ
不幸が詰まったイヤミス短編集が読みたい人
二転三転する少年時代の記憶と真相、成功した女を待ち受ける思わぬ落とし穴、ストーカーを恐れる女が見た驚愕の光景、拗れた恋心から浮かび上がる意外な真実、女の恐ろしさを見くびった男の運命、ネットの闇に触れたライターを襲う恐るべき災厄・・・・・人の不幸は蜜の味。私の不幸は絶望の味。人気作家が描く、恐怖と欺瞞に満ちたイヤミス短編集
真梨幸子さんはコンスタントに新作を発表してくれることもあり、当ブログでも登場率が高いです。そんな作家さんに<ハマり直す>というのも語弊がありそうですが、先日、ドラマ『五人のジュンコ』を見て以来、改めて真梨幸子さんの作品の面白さに目覚めてしまったんです。本作は、真梨幸子さんとしては珍しいイヤミス短編小説集。連作短編集はたくさんありますが、一話一話が完全に独立した短編集は少ないので、なかなか新鮮でもありますよ。
「一九九九年の同窓会」・・・冴えない少年時代を乗り越え、小説家デビューを果たした主人公。そんな彼のもとに、小学校時代のクラスメイトだったという女性から連絡が入る。まさか、憧れのマドンナだったレイナちゃん?舞い上がる主人公に対し、彼女はかつて二人で交わした<約束>について語り・・・・・
この電話の相手って、本当にかつてのマドンナ本人?詐欺じゃないの?と多くの読者が疑うと思います。もちろん私も疑いましたが、真相は予想の斜め上にありました。この主人公、割としっかりしたお母さんに育てられたっぽいのに、なんでこんなになっちゃったの?何一つ学習しない様子は、哀れというより滑稽ですらあります。
「いつまでも、仲良く。」・・・ヨシエの人生はまさに順風満帆。壮絶なダイエットの果てに輝くような美貌を手に入れ、就職活動にも成功したのだ。我が世の春を謳歌するヨシエは、少女時代の幼馴染達と集まることにする。すでに三十路を過ぎ、それぞれままならないものを抱えた女達。彼女達は見事に変身したヨシエを賞賛するが・・・・・
収録作品中、真梨幸子さんらしさが一番出ている話ではないでしょうか。仲良し女友達の中から成功者が出れば、足の引っ張り合いが始まるのはイヤミスのお約束。ここまでは予想の範囲内ですが、まさかヨシエを陥れようとする黒幕がそこにいたとはね。ラスト、現状を受け入れてしまったヨシエの姿にゾッとさせられました。
「シークレットロマンス」・・・不審なストーカーの影を感じ、怯えるOLの加奈子。社用パソコンや自宅のカーテンに貼りついた謎の髪の毛、パソコンに残る何者かの検索履歴、ずたずたに引き裂かれたクローゼットの中身。咄嗟に、元カレである幹也を疑う加奈子だが・・・・・
ストーカーに怯える加奈子の章の合間に、密かに愛を交わす上司と部下(どちらも男性)の恋愛模様が描かれます。これは誰のこと?どういう状況?と思いながら読んでいたら・・・・・そう来たかーーー!!視線や態度の描写一つ一つにはちゃんと意味があったんですね。この会社、いずれ乗っ取られるんじゃないでしょうか。
「初恋」・・・主人公・琢磨は、ふとしたきっかけで幼馴染である淳のことを思い出し、戦慄する。中学時代、三角関係のいざこざから毒殺未遂事件を起こし、医療少年院に送られた淳。もしかしたら、退院した淳が身近な場所に潜んでいるのかもしれない。実は琢磨には、淳に恨まれる心当たりがあって・・・・・
ミステリーとしてのビックリ度はこの話が一番強かった気がします。短いながらやけに丁寧な園芸店での描写は、実はラストの伏線だったんですね。ところで、作中に登場する<全国の中学校ごとのノートが並び、卒業生達がそれぞれ自分の母校のノートに学生時代の恨みつらみを書き込む居酒屋>なるものは実在するのでしょうか。あるとしたら、自分の母校のノートを見たいような、見るのが怖いような・・・
「小田原市ランタン町の惨劇」・・・出会い系サイトで出会ったミキとの付き合いに辟易し、距離を置き始める豊。そんな豊のもとを、弁護士が訪ねて来る。曰く、嬰児殺しで逮捕された女性の情状酌量の証人として、証言台に立ってほしいという。まさか、ミキが?だが、弁護士から聞いた嬰児の出生時期と、自分がミキと関係を持った時期とにズレがあることに気付き・・・・・
前話同様、叙述トリックの技が光る話です。主人公は大概ろくでもない奴っぽいので、こんな末路でも自業自得・・・と思いきや、主人公を上回るろくでなしがラストに出てきて目が点になりました。でも、被害者もなかなか大したタマのようだし、結局主人公が哀れなピエロだったということなんでしょうか。
「ネイルアート」・・・フリーライターの主人公は、ある時、待遇に釣られて某企業が運営するサイトの管理人を引き受ける。そのサイトの掲示板は荒れ放題であり、前任の管理人がノイローゼに追い込まれたという曰く付きの代物だ。四苦八苦しつつ運営に努める主人公だが、ふと、炎上の原因となっている人物の秘密に気づいてしまい・・・・・
レビューサイトなどで同じ感想がありましたが、この話、てっきり語り手は真梨幸子さん本人だと中盤まで思っていました。なので、途中からのグロテスクかつ陰惨な描写が超ショッキングです。このグロさが真梨ワールドの持ち味とはいえ、子どもが巻き込まれるとなると、残酷さがより際立ちますね。ネットが炎上する様子もものすごくリアルなので、同様のトラブルに巻き込まれたことのある読者は、読むのに心の準備が要るかもしれません。
なお、本作は真梨幸子さんの短編集『プライベート・フィクション』と、収録作品中、三話がかぶっています(「一九九九年の同窓会」「いつまでも、仲良く。」「小田原市ランタン町の惨劇」)。知らずに購入してしまうとガッカリするかもしれないので、ご注意ください。
イヤミスを通り越してもはやホラー度★★★★★
どんでん返しの仕掛け方が巧妙!度★★★★☆
好きな作家さんの短編ではたまに読んだことある作品が出てきます。
予約中の辻村深月さんの新作は短編集ですが被らないかな~と思います。
どれも未読ですが何故か聞いたことのあるような設定とストーリーは真梨幸子さんらしさが出ているからでしょうか。
短編の中にも天国と地獄が交錯する、昭和から平成初めの雰囲気が漂う真梨ワールドがたっぷり味わえそうです。
一九九九年の同窓会、いつまでも仲良く、シルエット・ロマンスが面白そうです。
真梨幸子さんらしい、被害者にも加害者にもイマイチ同情しきれない生臭いイヤミスでした。
短編集ということもあり、長編と比べると時系列や人間関係が分かりやすいところも魅力です。
辻村深月さんの短編といえば、先日「うそつきジェンガ」を読み終えました。
すべて未読でしたし、仄暗い中にちゃんと救いが感じられて良かったです。
「うそつきジェンガ」読まれたのですね。今年中に読むのは難しいのでブログで上げて欲しいと思います。
近々アップします。
真梨幸子さんのドロドロを読んだ後だと、ものすごく後味爽やかでした(^^)