はいくる

「四月一日のマイホーム」 真梨幸子

新興住宅地。読んで字の如く、今まで宅地でなかった土地を新たに興した住宅地のことです。インフラ関係が新しく丈夫なこと、周囲に子育て世界が多く育児に向いていること、古参の住民がいないためゼロから人間関係をスタートさせられることなど、住む上でたくさんのメリットがあります。

その一方、当然ながらデメリットも存在します。郊外にあることが多いので交通の便が悪いこと、近隣住民がどんな人か事前に分からないこと、建築条件が付いている場合があるため完全に自分好みの家を建てられるわけではないこと・・・・・何事もそうですが、長所短所をよく見極めた上で物事を進めていかないと、人生は地獄になりかねません。今回ご紹介する作品には、新興住宅地で思わぬ地獄を見る羽目になった人達が登場します。真梨幸子さん『四月一日のマイホーム』です。

 

こんな人におすすめ

新興住宅地で起こるドロドロのイヤミスに興味がある人

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大丈夫。全部嘘になる。だって今日は四月一日なんだから---――東京都内に存在する<畝目四丁目>。その五区画が新築分譲住宅として販売され、四月一日の前後に五つの家族が引っ越してくる。腹の内を探り合いつつ、交流を持つ主婦達。一見穏やかな日々は、五軒の家のうちの一軒から死体が発見されたことで終わりを告げる。この死体は一体どこの誰なのか。なぜこの家の中にあるのか。この家の住民はなぜいっこうに姿を現さないのか。分譲住宅が建つ前、この土地で起きたという噂の大量殺人事件と何か関係があるのか。パニック状態に陥りつつ状況を整理しようとする住民達だが、真実は彼らの予想を遥かに超えたところにあった・・・・・イヤミスの名手が贈る、ノンストップ・サスペンスミステリー

 

『六月三十一日の同窓会』に続く、『日付シリーズ』第二弾です。今回、テーマとなっているのは<四月一日>。この日は嘘が許されるという一風変わった風習は、ミステリーのキーワードにぴったり。おまけに書き手が真梨幸子さんということで、ファンの期待通り、ドロドロな嘘と血が飛び交います。

 

舞台となるのは、東京都S区の畝目四丁目。ここに新築分譲住宅が五軒建ち、五つの家族が引っ越してきたことから、物語は始まります。ヒモ寸前の夫に代わり、漫画家の妻が家計を支える三浦家。医者の夫と薬剤師の妻、名門私立小学校進学を目指す娘という、一見何の問題もない毎日を送りながら、原因不明の体調不良に悩まされる田上家。美人で洗練された母親とは裏腹に、息子はなぜかみすぼらしい格好でゴミ漁りをしている米本家。我儘で身勝手ながら、話術に長けた母親がすべてを牛耳る戸井田家。引っ越しから何日経っても住民が姿を見せない藤倉家。この藤倉家で、身元不明の死体が発見されたことから、住民達の不安と恐怖の日々が始まります。この死体はどこの誰で、なぜ藤倉家にあるのか。そもそも藤倉家の住民はどこへ行ったのか。まさかこの事件は、かつて住宅地ができる前にこの地に建っていたアパートで起きたという大量殺人事件と関わりがあるのか。混乱する住民達の間で、さらなる人死にが出てしまい、事態は一気に昏迷状態に。果たして彼らは、平穏な日々を取り戻すことができるのでしょうか。

 

ストーリー上は五世帯ですが、物語の中心となるのは三浦家、田上家、戸井田家の三世帯の妻達。この三人のキャラがいい感じ(?)に歪んでいて個性的です。稼ぎの悪い夫やご近所とのマウント合戦を漫画にして弄る三浦奈緒子。コミュ力も人望もある一方、その人当たりの良さがトラブルを招く田上美雪。図々しいトラブルメーカーながら、人を巻き込み動かす話術に長けた戸井田敦子。全員、近くにいてほしくはないものの、非現実的なほどぶっ飛びすぎてはおらず、「こんな人、いるよな~」という絶妙な匙加減です。個人的には、「そうよねそうよね」と調子良く相槌打つ内にトラブルに巻き込まれていく美雪に感情移入してしまいました。

 

そんな彼女達が序盤で繰り広げるマウント合戦は、深刻ながら妙にユーモラス。ご近所からもらった引っ越し挨拶の品が、予想していたよりずっと高級だったから、自分も慌てて高い引っ越し挨拶品を用意するとか、もらった品物がいくらなのかインターネットで調べるとか、隣人を追い返せずなりゆきで家に招いちゃうとか、誰しもついやってしまいそうですよね。こういうご近所付き合いで、男性陣がほぼ空気と化しているのも、いかにもありそうだなという感じです。

 

この後、五軒の内の一軒から死体が発見されたり、住民達の間で謎の体調不良や不審死が相次いだり、かつてこの地で起きたとされる大量殺人事件の噂が浮上したりと、キナ臭い要素が出るわ出るわのオンパレード。正直、最後の畳みかけ方はちょっと強引だと思わないでもないのですが、真梨ワールドだと納得できてしまうから不思議です。本作の場合、イヤミスでありながら結構コミカルな描写も多く、意外とするする読めてしまいました。他作品の例に漏れず、本作も視点となる人物や時間軸がころころ変わるので、この辺りが苦手な方はご注意ください。

 

ところで、シリーズと銘打たれているからには、今後も日付に関わるイヤミスの執筆予定があるのでしょうか。次はクリスマス?バレンタイン?それとも、第一弾と同じく、何のイベントもない普通の日がテーマになるのかな。楽しみに待とうと思います。

 

新興住宅地でのご近所ドロドロトラブル話・・・かと思ったら!!度★★★★☆

家を買う前に土地のことを調べよう度★★★★★

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コメント

  1. しんくん より:

    マイミクさんが読んでました。
    一九六一東京ハウスの続編かと思っていましたが、六月三十一日の同窓会の続編だったのですね。こちらは1作目から未読です。図書館で何度も見ましたが、強烈そうな内容で読む気にはなれませんでした。
    蒸し暑くなってきたので、1作目から読んでみようと思います。
    ユーモラスな場面もありそうで楽しめそうです。

    1. ライオンまる より:

      真梨幸子さんらしい、健やかな人間がほとんどいないドロドロイヤミスでした。
      ただ、「六月三十一日の同窓会」に比べると、妙にコミカルな描写がちらほらあるせいか、毒気は少ないかも?
      ここまで強烈なご近所付き合いは、現実にはきっと存在しないはず!・・・と信じたいです。

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