ヒューマン

はいくる

「今日からは、愛のひと」 朱川湊人

ものすごく有名な割に、日本の創作物で主要キャラになることが意外と少ない存在、それが<天使>と<悪魔>だと思います。どちらも外国の宗教に由来する存在だからでしょうか。海外作品の場合、主人公のピンチを天使が救ってくれたり悪魔がラスボスだったりすることがしばしばありますが、日本ではこれらの役割を<神仏><守護霊><怨霊><妖怪>等が担うことが多い気がします。

簡単に説明しておくと、<天使>とはキリスト教やユダヤ教、イスラム教における神の使いで、<悪魔>とは神を冒涜し、敵対する超自然的存在だそうです。両者とも、比喩で使われることは多々あれど、そのものずばりがドドーンと出てくる国内作品となると、赤川次郎さんの『天使と悪魔シリーズ』か、森絵都さんの『カラフル』くらいしか知りませんでした。他には何かないかな・・・と思っていたところ、出会ったのがこの作品、朱川湊人さん『今日からは、愛のひと』です。

 

こんな人におすすめ

笑って泣けるファンタジー小説が読みたい人

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「愛に似たもの」 唯川恵

愛とは決して後悔しないこと、最後に愛は勝つ、愛は地球を救う・・・愛に関する有名な台詞や歌詞、格言は数えきれないほど存在します。愛はキリスト教で最大のテーマとされていますし、日本においても、年齢や性別の枠を超えた深く広い慈しみの感情として捉えられることが多いです。お金や権力を求めるのは何となく卑しい気もしますが、<愛のため>というお題目があると、気高く誠実なもののような気がしますよね。

ですが、これはちょっと危険な考え方なのかもしれません。何しろ愛には決まった形があるわけでもなく、人によって無限に捉え方が変わるもの。本人にとっては<愛>でも、他人からすればまったく違うものだということもあり得ます。この作品では、愛のように見えてどこか違う、様々な感情が描かれていました。唯川恵さん『愛に似たもの』です。

 

こんな人におすすめ

女性のどろどろした感情をテーマにした小説が読みたい人

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「ママにグッバイ」 ハイラ・コールマン

小学校高学年から中学生にかけて、海外の児童小説にハマった時期があります。友達とのパジャマパーティー、珍しいアイスやケーキ、信じられないくらい長い夏休み、ボーイフレンドと出かけるダンスパーティー・・・外国ではこんなお洒落な生活が送れるのかと、うっとりしながら読みふけったものです。

もっとも、きらきらしているだけに見えたのは私の読み方が浅かったからで、しっかり内容を考えれば、そうそう甘いことばかり書いていたわけじゃなかったと分かります。イリーナ・コルシュノフの『ゼバスチアンからの電話』では世代を超えたジェンダー問題を、ウィロ・デイビス・ロバーツの『ねじれた夏』では田舎の入り組んだ人間関係を、キット・ピアソンの『丘の家、夢の家族』ではネグレクトに苦しむ子どもの戦いを、とても丁寧に描いていました。今回取り上げる小説も、改めて内容について考えてみた時、その深さと重さに驚いた記憶があります。ハイラ・コールマン『ママにグッバイ』です。

 

こんな人におすすめ

毒親問題に関心がある人

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「私たちが星座を盗んだ理由」 北山猛邦

図書館大好き人間の私が、しばしば意識してしまうこと。それは<蔵書整理>です。本がきちんと整えられ、利用しやすくなるのは有難いのですが、時々、好きだった蔵書がなくなることがあるのです。汚れが激しいので処分されたのか、収納スペースに余裕がある別の図書館に移したのか・・・詳細は分かりませんが、再読しようと思った本が見つからず、データベースで検索して「ここの図書館に置いてない!この前まであったのに!」となった時の落胆は、何度も経験したいものではありません。

反対に、「あれ、この本が入ってる。新刊でもないし、前はなかったのに」という嬉しい驚きもあります。あれって、違う図書館から回ってきたか、寄贈されたかなのでしょうか?以前は遠方の図書館から時間をかけて取り寄せてもらわなくてはならなかった本が、好きな時に手に取れるようになると、一気にテンションが上がります。この本も、図書館の本棚で見つけた時は「おおっ」と前のめりになってしまいました。北山猛邦さん『私たちが星座を盗んだ理由』です。

 

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苦い後味のミステリー短編集が読みたい人

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「特殊清掃人」 中山七里

人が誰にも看取られることなく病気・事故等で死亡することを<孤独死>といいます。死に方の性質上、場所は主に当人の自宅なのだとか。概念自体は明治時代から存在していましたが、注目されるようになったのは一九九五年の阪神淡路大震災後からだそうです。被災者が自宅等で誰にも気づかれないまま死亡する事態が問題視され、それに伴い、これまで<自然死>の一言で片づけられてきた孤独死に関心が集まるようになりました。

孤独死の多くは病気や怪我が原因であり、事件性が考慮されることはあまりありません。ですが、人一人が一生を終える。誰かに寄り添われることなく、すべてを胸に秘めたままひっそりと死ぬ。そんな場所に、思いが残らないなどということがあるでしょうか。今回取り上げるのは、孤独死から浮かび上がる思いをテーマにした小説です。中山七里さん『特殊清掃人』です。

 

こんな人におすすめ

特殊清掃業がテーマの小説に興味がある人

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「なんとかしなくちゃ。青雲編」 恩田陸

とある人物の生涯について書いた本を<一代記>といいます。主人公は実在の人物のこともあれば架空の人物のこともありますが、どちらにせよ社会を大きく動かす出来事に関わったり、歴史上の人物に出会ったりと、波乱万丈な人生を送ることが多いです。最近の作品では、森絵都さんの『みかづき』や柚木麻子さんの『らんたん』などが挙がるでしょう。

しかし、人間、歴史上のビッグイベントに関わる機会がそうそうあるわけではありません。全体的な比率でいえば、波乱万丈とは程遠い、平々凡々な人生を送る人の方がきっと多いはずです。そんな人間の人生を描いた小説はつまらないでしょうか。それがそうとも言い切れないと、この作品が証明してくれました。恩田陸さん『なんとかしなくちゃ。青雲編』です。

 

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問題解決に邁進する女性の一代記が読みたい人

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「事件は終わった」 降田天

物事の、中でも悲惨な物事の終わりとはいつでしょうか。たとえば戦争だとしたら、当事者間で終戦の合意がなされた時?自然災害だとしたら、避難生活が終わり、被災した人達が自宅で普通に暮らせるようになった時?幸せな出来事ならば永遠に続いてくれていいけれど、不幸な出来事ならはっきり終わってほしいと思うのが人情というものです。

しかし、悲しいかな、不幸な出来事であればあるほど、長く続いてしまうのが世の常。戦争や災害、凶悪犯罪などの場合、出来事そのものは終わっても、巻き込まれてしまった人達の心身の傷はそう簡単には癒えません。「もう終わったことなんだから忘れなさい」と言えるのは、きっと部外者だからこそでしょう。今回は、とある犯罪と、そこに関わってしまった人達の苦しみをテーマにした作品をご紹介します。降田天さん『事件は終わった』です。

 

こんな人におすすめ

心の傷と再生を描いたヒューマンストーリーが読みたい人

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「息子のボーイフレンド」 秋吉理香子

LGBT問題は、もはや単語を見聞きしない日はないと言っても過言ではないくらい、社会全体で一般的なテーマとなりました。簡単に説明しておくと、LGBTとはレズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダーの四つの単語の頭文字を組み合わせた表現です。日本におけるパートナーシップ制度のように、彼らの権利を保護する制度・法律もできている一方、悲しいかな、理不尽な差別の対象となることも少なくありません。

ただ、人種差別や性差別といった差別問題と、LGBTに対する差別とでは、一つ、大きな違いがあると思います。それは<本人が隠そうと思えば隠すことも不可能ではない>ということ。実際、LGBTの方々が、様々な事情から自身の性的指向・性自認を隠して生活するケースも多いと聞いたことがあります。自分を偽らず、正直に伸び伸びと生きるのが一番。そう分かってはいても、それを実行するのが難しいのが現実というものなのでしょう。この作品を読んで、本当の自分を受け入れることの意味について考えさせられました。秋吉理香子さん『息子のボーイフレンド』です。

 

こんな人におすすめ

LGBT問題をユーモラスに描いた家族小説が読みたい人

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「5分で読める!ひと駅ストーリー 猫の物語」 このミステリーがすごい!編集部

コロナが流行り、自粛生活を強いられるようになってから、巷では猫ブームが起こったそうです。犬と違って散歩不要、過度に構ってやる必要もなく、マーキングの習性がないからトイレも楽、家にこもりきりの生活に癒しが生まれる・・・確かに一見、いいことだらけのように思えます。

しかし、生き物を飼うということは、そんなに気楽なものではありません。何しろ相手はぬいぐるみではなく、平均で十年以上生きる生き物です。思い通りにいかないこと、困らせられることなど山ほどあるでしょうし、身も蓋もない話、安くないお金もかかります。「それでも猫でしょ。飼うなんて楽ちん楽ちん」などと思う方、この作品を読めば猫を甘く見る気持ちなど吹っ飛ぶかもしれませんよ。「このミステリーがすごい!」編集部による『5分で読める!ひと駅ストーリー 猫の物語』です。

 

こんな人におすすめ

猫をテーマにしたアンソロジーが読みたい人

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はいくる

「見つけたいのは、光。」 飛鳥井千砂

私は自分でこうしてブログを運営しているだけあって、他人様のブログを閲覧することもよくあります。本や映画、ドラマのレビュー、家庭内でのあれこれについて、オリジナルレシピの紹介、転職体験記etc・・・もはや取り上げられていないジャンルはないのでは?と思うほどたくさんのブログが存在し、読者を飽きさせません。

ツイッターのようなSNSと違い、長文でしっかりと自分の考えを伝えられるところが、ブログの長所だと思います。反面、思いをこめ、長文で考えを述べているからこそ起こる行き違いがあることもまた事実。そう思ったのは、最近、この作品を読んだからです。飛鳥井千砂さん『見つけたいのは、光。』です。

 

こんな人におすすめ

現代女性の悩みと再生をテーマにした小説に興味がある人

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