はいくる

「夏合宿」 瀬川ことび

すべてのジャンルにいえることですが、ホラー作品には定番のシチュエーションというものが存在します。<吹雪の山荘から出られなくなる>とか<ゲーム感覚で呪いの儀式を行ってしまう>とか<真夜中の学校に忘れ物を取りに行く>とかいうやつですね。最後の一つは実際に私も友達と一緒にやったことがあるのですが、怖いというより「おおっ!まさか本当に、こんなホラーお約束の状況に直面できるなんて!」と、妙に感動したものです。

お約束は、人気があって面白いからこそお約束たりえるもの。そして、そのお約束のシチュエーションの中でどうオリジナリティを出せるかが、作者の腕の見せ所です。その点、アメリカ映画『キャビン』は、ホラーあるあるネタをふんだんに取り入れつつ、予想の斜め上をいくトンデモ世界を描いていて、とても面白かったです。それからこれも、一ひねりされた展開を楽しむことができました。瀬川ことびさん『夏合宿』です。

 

こんな人におすすめ

ユーモラスなホラー短編集を読みたい人

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夜の山中で出くわした怪異の数々、禁忌を破った女性を襲う災厄の行方、肝試しで見た幽霊たちの意外な姿、異様な赤ん坊との手に汗逃げる攻防戦、干し首を手にしたことから始まる奇妙な出来事・・・・・『暗夜鬼譚シリーズ』の著者が贈る、人気ホラーコメディシリーズ第三弾

 

『お葬式』『厄落とし』から続くホラー短編集シリーズです。最近、ホラーコメディの第一人者といえば藤崎翔さん辺りが挙がりそうですが、個人的NO.1は瀬川ことびさん。ホラーお決まりの導入から、予想のつかないオチまで結びつける発想力、本当にすごいと思います。

 

「夏合宿」・・・都合により、一人遅れて部活の夏合宿に参加することになった俊輔。宿泊所へ向かっていると、部活の先輩が途中まで迎えに来てくれる。山中、二人が夜道を歩いていると、目の前にぼんやり輝く無数の人魂が現れた!仰天して逃げ出した俊輔達は、途中、地元民らしい老婆と出くわして・・・・・

暗い山道を歩くティーンエイジャー、そこで起こる怪奇現象、突如現れた謎の老人・・・ザ・夏の怪談!と言わんばかりのシチュエーションと、ひねったラストの繋がり方が面白かったです。このおばあちゃん、ちょっと怖い(?)けど、ユーモアがあって最高!色々助けてくれそうだし、ぜひとも仲良くなりたいです。

 

「本と旅する彼女」・・・美夏の夢は、子供の頃に本で読んだ海の魔神像をこの目で見ること。夢の実現のためお金を貯め、ついに念願だったギリシャの小島を訪れた。親しくなった地元の青年・ニコスに案内され、とうとう魔神像を目にする美夏。ところがその時、美夏はそうと知らずに禁忌事項を破ってしまい・・・・・

第一話が夏の怪談の定番なら、この話は因習ホラーの定番。伝承が伝わる片田舎へ赴き、地元民達は何やら訳ありげ。呪物らしき物と直面してタブーを破ってしまい、そこから恐ろしい災厄が・・・・・と来て、実は諸悪の根源は呪物でも地元民でもなかったというオチに、いい意味でずっこけてしまいました。でも、よく考えてみると、ホラーやミステリーシリーズの主人公って、みんなこんな感じなのかもしれません。

 

「廃屋」・・・高校生の充は、男友達とその彼女の三人で、とある廃屋に肝試しに訪れた。元旅館だというこの建物には、幽霊が出るという噂がある。アクシデントにより屋内に一人取り残された挙句、腕だけの幽霊を目撃する充。ところがこの幽霊、想像とは少し違っていて・・・・・

明るく楽しくお祭り騒ぎを繰り広げる幽霊達が最高に面白い!と同時に、旅館が賑わっていた頃の日々が想像できて、なんとなくジーンとしてしまいました。幽霊達、生前はこの旅館が本当に好きだったんだろうなぁ。そして、取り残された主人公を助けるべく、勇気を振り絞って引き返してくる男友達が地味にカッコ良いです。これからも仲良くね。

 

「たまみ」・・・利之は父親に頼まれ、没交渉だった親戚の家に、赤ん坊の誕生祝いをしにやって来た。生まれた子・多満美は、誕生直後だというのに歯が生え揃い、猛スピードで動き回るという奇妙な子ども。おまけに利之は、その多満美の婚約者に選ばれたと一方的に告げられる。こんなおかしな赤ん坊と婚約だなんて、正気じゃない。すぐに逃亡を企てる利之だが・・・・・

作中でも少し触れられていますが、楳図かずおさんの有名ホラー漫画『たまみ』を連想させる話です。とはいえ、あちらがゴリゴリのサイコホラーだったのに対し、この話は(状況はめちゃくちゃ深刻ですが)終始コミカル。終盤、主人公が逃げる自分と追ってくる多満美を安珍・清姫に例える場面では噴き出してしまいました。ポイントは、この話が主人公が書いた備忘録であるということ。最後を見るに・・・まあ、ハッピーエンドと言えるのかな。

 

「ドライ・オア・フレッシュ」・・・南米から帰った両親のお土産は、なんと人間の干し首だった!あまりに奇天烈なお土産に、二人の娘からはブーイングの嵐。捨てるのも気味が悪いので、ひとまずガレージに置いておくことにする。そんなある夜、何者かが家の窓ガラスをノックして・・・・・

子どもへのお土産が人間の干し首って、そりゃないでしょう(汗)この干し首が怪奇現象を巻き起こす・・・かと思いきや、さらりと別の怪異が出てくる展開、なかなか新しいですね。そして、主人公と絡む図書館司書さんがナイスキャラで、読みながらくすりとしてしまいました。再登場を希望します。

 

レビューサイト等でも同様の感想がありましたが、瀬川ことびさんのホラーコメディシリーズには、大抵一話くらい、ユーモア抜きで本当に怖い話が混ざっています。ところが本作の場合、収録作品はすべて軽妙で笑えるものばかり。それはそれで面白かったものの、たまには箸休め感覚でゾクリも味わいたいですよね。最近、<瀬川ことび>名義でのホラー執筆はないようだけれど、気長に待つことにします。

 

ホラーなのに読後感良し!度★★★★★

不気味&コミカルが両立しています度★★★★★

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