はいくる

「被取締役新入社員」 安藤祐介

小説を読んでいると、しばしば「この話は映像化向きだな」と思うことがあります。動きが派手で、キャラクターの個性が強く、叙述トリック等、文章ならではの技法が使われていない小説がこう言われることが多いですね(一部例外あり)。「これは画面で見てみたい!」と思った小説が実写化された時の喜びは大きいです。

そして、小説の中には、最初から実写化ありきで執筆・刊行されたものもあります。その中の一つが、講談社とTBSが主催する<ドラマ原作大賞>。読んで字の如く、受賞作はTBSによりドラマ化されることが決まっています。今回取り上げるのは、ドラマ原作大賞第一回受賞作品、安藤祐介さん『被取締役新入社員』です。

 

こんな人におすすめ

前向きなお仕事成長小説が読みたい人

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鈴木信男、勉強・運動・容姿すべてが難ありのダメ人間、転職歴十四回、現在大企業にて年収三千万の被取締役新入社員---――幼い頃から何をやっても失敗ばかり、いじめられ続けだった信男の十四回目の転職先は、大手広告代理店の<大曲エージェンシー>。半ば冗談で応募したにもかかわらず、なぜ自分がこんな一流企業に採用されたのか。困惑する信男に、社長は極秘ミッションの存在を告げる。それは、役員待遇と引き換えに、同僚の反感を一気に集めることで社内の雰囲気を良くする<被取締役>となることだった。言われるがままドジを繰り返し、社内一の嫌われ者となり、結果的に社員のチームワーク向上に貢献する信男。だが、とある仕事に臨んだことをきっかけに風向きが変わり始め・・・・・仕事を頑張るすべての人に贈る、爽やかなサクセスストーリー

 

二〇〇八年に森山未來さん主演でドラマ化されています。ドラマ放送当時は本作のことを知らなかったのですが、読んでみて納得!いかにも画面映えしそうな、時におかしく時に切ない成長物語でした。本放送の時に気付かなかったのが残念です。

 

子どもの頃からドジを踏み続け、いじめられっぱなしの人生を送ってきた主人公・鈴木信男。ある時、ほんのジョークのつもりで業界最大手の広告代理店の求人に応募した信男は、どういうわけか、採用されてしまいます。面接でも失敗ばかりだったのに、なぜ?首を傾げる信男の前に社長が現れ、極秘ミッション<ひとりいじめられっこ政策>の存在を告げます。「最近、社員同士で足の引っ張り合いが相次ぎ、社内の雰囲気は最悪で業績も伸びない。そこで、君は<羽ヶ口(はけぐち)信男>と名前を変え、仕事でミスを繰り返し、社員のストレスのはけ口になってほしい。君が社内の反感を一身に集めてくれれば、結果的に他の社員達はまとまり、業績向上に繋がるだろう」。訳が分からないながら、年収三千万という役員待遇に惹かれ、ミッションを引き受ける信男。ドジを繰り返す(半分は社長と人事局長の指示)信男を同僚達は毛嫌いし、悪口で盛り上がり、結果的に他の社員のチームワークは飛躍的に向上します。ひとりいじめられっこ政策は大成功!と思いきや、失敗前提で臨んだ接待での信男の行動が大ウケし、大きな仕事の成功に繋がる羽目に。ここから信男の失敗人生に変化が訪れ始め・・・・・果たして、ひとりいじめられっこ政策はどうなってしまうのでしょうか。

 

いじめやハラスメントといった単語が飛び交う割に、本作の雰囲気は終始コミカル。高額報酬に目が眩んだ信男が、今までの人生経験を生かし、積極的にいじめられっこポジションを全うしようとしているからでしょうか。何しろ社長の指示により、遅刻や長時間離席は当たり前、営業活動はもちろんのこと、コピー取りも電話応対も資料作成も何一つできない(しようとしない)わけですから、こりゃ嫌われるのは当たり前。社員達は寄ると触ると信男をこき下ろし、結果的に密なコミュニケーションを取れるようになっていきます。今まで険悪だった同僚同士が、信男の悪口で和気藹々と盛り上がるのを見て、信男が内心「お前達、俺に感謝しろよ」とドヤ顔を決める場面など、思わず苦笑してしまう描写が目白押しです。

 

ただ、コミカルながら、いじめのメカニズムをしっかり描いているのが、本作のすごいところ。いじめられ役が一人いることで、他のみんなが団結する。悲しいかな、学校だろうと会社だろうとサークル活動だろうと、どこでも起こり得る事態です。ただ、こういう団結は所詮脆いもの。ちょっとしたきっかけでいじめられ役が変わってしまうのも、決して珍しいことではありません。実際、信男が仕事で成功するようになった途端、社員達は再びいがみ合いを繰り返すようになります。皆が円満でいるためには、一人に永遠にいじめられっこでいてもらわなくてはならない。後半、仕事にやり甲斐を覚え始めた信男に対し、社長や人事局長が言う「それじゃ困るんだよ」という言葉が、なんとも皮肉でした。

 

もう一つ面白いのは、本来ならば(ミッションですが)社内いじめの被害者である信男を、一方的な被害者として描いていないところです。前半生の悲惨さを考えると無理ないのでしょうが、物語開始時の信男には、向上心というものがまるでありません。仕事でミスを連発し、若くして十四回も転職を繰り返しても、「俺ってこういう奴だから」とひたすら受け入れるばかり。いくらミッションとはいえ、どれだけ罵倒されようが嘲笑されようがむかっ腹一つ立てない信男は、自尊心というものを完全に失ってしまったかのように思えます。そんな彼が、思わぬ成功体験を経て努力すること、失敗から学ぶことの喜びを感じられるようになる過程が、本作の見どころの一つ。後半、上司に仕事の穴を指摘・叱責された信男が、悔しさに震える場面では、こちらまで熱くなってしまいました。今までは、こき下ろされまくっても何とも思わなかったのにねぇ。

 

前半のいじめ・ハラスメント描写はけっこうキツいのですが、信男自身がビジネスとして完璧に受け入れてしまっているので、陰惨な印象はゼロ。信男の成長が始まる中盤以降はなかなか爽やかな展開で、後味すっきりと読み終えることができました。こうなると俄然、ドラマ版を見たくなっちゃいますね。キャストを確認したところ、信男を学生時代に苦しめたいじめっ子で、作中にほんの数ページだけ登場する今泉を、今や立派な有名俳優となった桐谷健太さんが演じているとのこと。こ、これはこれで気になる・・・!

 

物事に本気で向き合うって大事だよ度★★★★★

皮肉だけど、このミッションは本当に効果あるかも・・・度★★★★☆

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コメント

  1. しんくん より:

    この作品は随分前に読みましたが大変印象に残ってます。
     安藤祐介さんの作品はあり得ないような設定の会社を舞台にしたストーリーですが、このような逆転の発想こそが大切だと感じます。
     信男のミスが廻り廻って大成功に繋がっていく場面を読んでそう思いました。
     映像化されているのですね。是非とも観たいです。
     東野圭吾さんの新作が読み終わり中山七里さんの新作が届きました。
     東野圭吾さんの作品は最高の一言でした。

    1. ライオンまる より:

      爽快なサクセスストーリーで、読んでいて気持ちが良かったです。
      不倫しているし鬼のように怒りっぽいけど、見るべき所は見ている上司がツボでした。
      東野圭吾さんの新刊、図書館に入るのを今か今かと待ちわびています。
      私は「食堂のおばちゃん」シリーズの最新刊を読了しました。
      近藤史恵さん「ホテル・カイザリン」の順番がやっと回ってきたので、早く読みたいです。

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