ヒューマン

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「私にふさわしいホテル」 柚木麻子

こんなブログをやっているだけあって、私は文章を読むのも書くのも好きです。昔は「小説家になりたいな」と思い、自作の小説をちまちま書いてみたりもしました。その内、書くより読む専門でいる方がいいと思うようになりましたが、ふと思いついた物語をあれこれ捏ね繰り回すのは結構面白かったです。

ですが、プロの作家にしてみれば、創作という行為は単純に「面白い」で済むものではないでしょう。物語に破綻がないよう細心の注意を払い、時代のニーズを考え、時には自ら営業活動を行って作品が多くの人に読んでもらえるよう努める。そして、それだけの努力を積み重ねても、作品が見向きもされないこともある。それがクリエイターの背負う宿業です。そんな小説家の悪戦苦闘を描いた作品といえばこれ、柚木麻子さん『私にふさわしいホテル』です。

 

こんな人におすすめ

文壇の悲喜こもごもを描いたコメディ小説が読みたい人

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「物語のおわり」 湊かなえ

子どもの頃から読書好きだった私は、見よう見真似で自分でも小説を書いてみたことがあります。自分で書くだけでは飽き足らず、同じような趣味を持つ友達数名と交換日記形式でノートを回し合い、「前の人が書いた物語の続きを次の人が書く」という遊びをやってみたこともありました。スパイだのクローン人間だの式神だのが脈絡もなく登場する、かなり無軌道な作品になってしまいましたが、やっている最中はすごく楽しかったです。

文章で語られない登場人物たちのその後を考える。これってなかなか面白い試みですよね。実際、シャーロック・ホームズを始めとする小説界の有名人たちの「その後」を、原作者以外の人間が書いた作品だって存在します。もし今ここにとても素敵な物語があり、その続きを自由に創っていいとしたら。そんな「もし」を扱った小説を紹介します。湊かなえさん『物語のおわり』です。

 

こんな人におすすめ

後味の良い湊かなえ作品が読みたい人

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「そして、バトンは渡された」 瀬尾まいこ

「世界平和のためには、家に帰って家族を大切にしてあげてください」と言ったのはマザー・テレサ、「人生最大の幸福は家族の和楽」と言ったのは細菌学者の野口英世、「楽しい笑いは家の中の太陽である」と言ったのはイギリスの作家サッカレーです。どれもまったくその通りで、どんな家族の中で育ったかは、その後の人生を大きく左右すると言っても過言ではありません。愛に満ちた家族ならばこれほど幸せなことはないですし、殺伐として冷え切った家族なら人生はさぞ辛く寂しいものでしょう。

家族をテーマにした小説はたくさんありすぎて挙げるのに迷うほどですが、ユーモア小説なら奥田英朗さんの『家日和』や伊坂幸太郎さんの『オー!ファーザー』、虐待が絡むものは下田治美さんの『愛を乞うひと』や青木和雄さんの『ハッピーバースデー~命かがやく瞬間~』、ミステリー要素を求めるなら辻村深月さんの『朝が来る』などが有名です。どの作品にも読み手の胸に残る家族が登場しますが、最近読んだ小説に出てくる家族はとても魅力的でした。瀬尾まいこさん『そして、バトンは渡された』です。

 

こんな人におすすめ

家族にまつわる温かな小説が読みたい人

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「そのバケツでは水がくめない」 飛鳥井千砂

人間関係を築く上で一番大切なものは何でしょうか。相手への愛情?気遣い?関係を作るための努力?全部大切ですが、私は「距離感」を挙げます。親子であれ友達であれ恋人であれ夫婦であれ、違う人間である以上、一心同体にはなれません。そのことを忘れず、適度な距離と節度を持ってこそ、いい人間関係が作られるのだと思います。

人間関係を巡るトラブルの内、この距離感の見誤りが原因となるものは多いです。それは小説の世界においても同じ。壮大なものとなると、シェイクスピアの『リア王』なんてまさにその典型ではないでしょうか。今回取り上げるのは、飛鳥井千砂さん『そのバケツでは水がくめない』。人との関わり方、人間関係の築き方について考えさせられました。

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「定年オヤジ改造計画」 垣谷美雨

「濡れ落ち葉」という言葉が流行語大賞を受賞したのは一九八九年のことだそうです。意味は「濡れた落ち葉が払ってもなかなか落ちないように、主に定年退職後の夫が妻にべったりはりついて離れないこと」。男声差別だという意見もあったようですが、流行語大賞を取った以上、多くの国民の間に浸透していたことは事実でしょう。

特にある程度以上の世代の男性の場合、仕事以外に趣味や交友関係を持たず、定年後にやることがなくて妻にまとわりつくというケースが多いようですね。まとわりつくならつくで、何か手伝いをしてくれるならまだしも、手は出さずに口だけ出すから嫌がられる、という話をよく聞きます。人間百年というこのご時世、リタイア後の人生を豊かに過ごせるか否かは自分自身の努力次第です。どう努力すればいいか分からないという人は、これを読んでみてはいかがでしょうか。垣谷美雨さん『定年オヤジ改造計画』です。

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「さらさら流る」 柚木麻子

携帯電話やスマートフォンを持つようになって以来、写真を撮る機会がぐっと増えました。わざわざカメラを引っ張り出す必要がないわけですし、撮影後の編集も簡単にできるんですから、当然と言えば当然ですね。自他ともに認める甘党ということもあり、スイーツを買った時は食べる前に写真撮影しておくのが習慣です。

こんな風に誰でも手軽に写真撮影できるようになると、それによる危険も発生します。何の気なしに撮り、インターネット上にアップした写真に、個人を特定できる情報が写っているかもしれない。あるいは、自分でなくとも他人にとって撮られたくない瞬間かもしれない。もしそうだった場合、そんな写真をネットに公開した時のダメージは計り知れません。今回は、一枚の写真がもたらす苦しみをテーマにした作品を紹介します。柚木麻子さん『さらさら流る』です。

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「カーテンコール!」 加納朋子

昔、偶然ですが、某有名劇団の通算1000回公演に行ったことがあります。本編終了後、再び幕が上がってキャストが観客席に飛び降りてきたり、主演俳優が謝辞を述べたり・・・まったく予想していなかった分、すごく嬉しかったです。これほどの記念公演でなくとも、劇本編とは別に出演者や演出家が出てきてくれたりすると、何となく楽しくなっちゃいますね。

幕が下りただけで終わるのではなく、その後にさらなる喜びや感動をもたらしてくれるもの、それがカーテンコールです。人生にもカーテンコールがあると思えば、何かとままならない世の中も少しは生きやすくなるのではないでしょうか。そんな人生のカーテンコールを扱った作品がこれ、加納朋子さん『カーテンコール!』です。

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「護られなかった者たちへ」 中山七里

貧富の差。日常生活の中でも頻繁に耳にする言葉です。この言葉を見聞きする時、どんな映像が思い浮かぶでしょうか。アフリカや中東などの開発途上国?江戸や明治といった昔の時代?それも間違いではありませんが、今この瞬間、平和なはずの日本国内にも貧富の差は存在します。

格差を解消するための制度は色々ありますが、その筆頭は生活保護でしょう。とはいえ、それは決して完璧とは言えない制度であり、様々なトラブルが起きています。先日、そんな生活保護にまつわる哀しい問題を扱った小説を読みました。中山七里さん『護られなかった者たちへ』です。

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「ねこ町駅前商店街日々便り」 柴田よしき

子どもの頃、商店街に行くのが好きでした。本屋に文房具屋、パン屋に映画館。小さい分、従業員さんたちと会話することができ、ワクワクドキドキしたものです。今はもっと大きなデパートやショッピングセンターがあちこちにあって楽しい反面、慣れ親しんだ商店街が廃れていくのは寂しいです。

今、全国にはシャッター通りと化した商店街がたくさんあります。そこをどう再生し、人々の生活を潤すかは、テレビや新聞でしばしば取り上げられるテーマですね。そんな商店街の奮闘を描いた作品、柴田よしきさん『ねこ町駅前商店街日々便り』。この町、行ってみたいです。

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「インターフォン」 永嶋恵美

「団地」という言葉ができたのは昭和十年代だそうです。住宅や工場を計画的に一カ所に集めて建設した地区、またはそこに立地している建造物のことで、住宅団地、工業団地、商業団地などがあります。「団地」と聞くと、住宅団地を真っ先に思い浮かべる人が多いのではないでしょうか。

多くの人や物が行き交う性質上、団地を舞台にした小説は数多く存在します。本間洋平さんの『家族ゲーム』、久保寺健彦さんの『みなさん、さようなら』など、映像化された作品も少なくありません。一つの建物内にたくさんの人が住み、様々な喜怒哀楽が渦巻く団地は、創作のテーマとして魅力的だからでしょうね。今日は、団地に巣食う闇を取り上げた短編集は紹介します。「映島巡」名義で漫画原作やゲームノベライズなども手がける、永嶋恵美さん『インターフォン』です。

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