イギリスには、世界に誇る文化がたくさん存在します。<怖い話好き>というのも、その中の一つ。大勢のホラー作家が誕生し、ミステリーツアーがいくつも実施され、ロンドン塔をはじめ心霊スポットとして名高い観光地も数知れず。プラックリー村など、あまりの怪奇現象の多さに、<世界一幽霊が出る場所>としてギネス認定されてしまったほどです。個人的には、幽霊の目撃談が相次ぐホテル<ザ・ランガム・ロンドン>333号室に泊まったみたいんですが・・・・・高級ホテルなだけあって高いんだよなぁ。
そんなイギリスにおいて、怖い話は冬の風物詩。寒い夜、暖炉の周りにココア片手に集まって怖い話を語り合うというのが、冬の定番だそうです。この辺り、夏を怪談シーズンと考える日本とは文化が違って面白いですね。時期が時期ですので、今回はクリスマスにちなんだイギリスのホラー小説をご紹介したいと思います。ホラーアンソロジー『メグ・アウル:ミステリアス・クリスマス2』です。
こんな人におすすめ
海外のホラー短編集に興味がある人
傲慢な子ども達が味わう身を凍る恐怖、不気味な卵によってもたらされる凶事の数々、一本のビデオテープが招いた残酷な運命、一人過ごす少年のもとを訪れた怪異の正体、死者たちとの勝負に挑む兄妹の運命とは・・・・・幸せなはずの記念日で繰り広げられる、身の毛もよだつ五つの恐怖譚
以前取り上げた『ミステリアス・クリスマス 7つの怖い夜ばなし』に続く、イギリス発ホラーアンソロジー第二弾です。登場人物のほとんどが取り返しのつかないことになった第一弾と比べると、本作の作風はややマイルド。死ぬほど怖い思いをしつつも生還するケースが多いため、後味はそれほど悪くありません。あくまで<それほど>ですけどね。
「クリスマス・プレゼント ジリアン・クロス」・・・せっかくのクリスマスだというのに、イモジェンとポールの姉弟は不満でいっぱいだ。裕福だった実父と違い、母の再婚でやって来た継父はケチくさい。継父の連れ子・ベッキーが、貧乏ったらしいクリスマスを喜んでいるのも癪に障る。と、ここでイモジェン達は、幼いベッキーが信じる<ファーザー・クリスマス>を利用した悪巧みを思いつき・・・・・
主人公格である姉弟のワガママぶりがあまりにひどく、前半はずっと「早く怖い目に遭えばいいのに・・・」と思っていました。といっても、この子達がこんな風になったのは、際限なく贅沢させた親の責任でもあるんですよね。それを考えると、二人とも背筋が凍るような思いはしつつも、やり直すチャンスはあって良かったです。なお、ここで出てくる<ファーザー・クリスマス>とは、冬至のお祭りの日に現れてプレゼントを配る妖精のこと。近年ではサンタクロースと同一化して扱われることも多いようですが、緑の服を着ている等、元々は別の存在だそうです。知らなかった!!
「メグ・アウル ギャリー・キルワース」・・・道で見かけた謎の卵になぜか引き寄せられ、持ち帰ったティム。生まれたのは、フクロウの体に老女の顔が付いた不気味な化け物だ。この化け物になぜか逆らうことができず、命じられるまま奇行に走るティム。このままでは命すら危ぶまれる。追い詰められたティムは、必死に打開策を練り・・・・・
このシリーズ、基本的に残酷ではありつつも猟奇的ではないのですが、この話は例外。フクロウ女の支配下に置かれたティムの行動は、グロ描写が苦手な読者にはキツいと思います。この状況下でティムが編み出した解決策がものすごく現実的という辺り、いかにもイギリスっぽいですね。卵の由来を調べてフクロウ女を倒す、とかじゃないんだ。ちなみに、この話だけクリスマスではなくハロウィン。イベント特有の、華やかさの裏に影がある感じがよく出ていました。
「また会おう ジル・ベネット」・・・ピーターの目下の悩み事は、親の再婚によってできた妹、メアリ・アンへのクリスマスプレゼント選び。自分の遊ぶ費用を確保しつつメアリ・アンを喜ばせ、親のご機嫌を取れるようなプレゼントが見つからないのだ。散々悩んだ末、たまたま見つけたビデオテープを贈ることにした。幸い、メアリ・アンは大喜び。なんとこのビデオ、再生するたびに内容が変わるそうで・・・
前作より比較的マイルドになった収録作品中、一番末路が悲惨なのはこの話でしょう。<親の再婚により、連れ子同士が兄弟姉妹となる>という部分は第一話と同じ。ですが、この話のピーターは、子どもらしく身勝手な面はあれど、そこまで悪ガキというわけではありません。その分、彼ら家族が今後どんなことになるのかと思うと、ひたすらやり切れなかったです。
「クリスマスの訪問者 テッサ・クレイリング」・・・楽しいクリスマス、訳あって親戚の家に預けられることになったポール。片思い中の従姉妹に会えると喜ぶも、なんと従姉妹には恋人がいるという。相手は一体どんな奴なのか。気になって仕方がないポールは、一人で留守番中、こっそり従姉妹の日記を読もうとする。その最中、何者かが家に入ろうとする気配を感じ・・・・・
自分の恋人でもなんでもない、一方的に慕っていた相手に恋人がいると知らされ、「何だそれは!!」と大騒ぎするところ、いかにも未熟なティーンエイジャーという感じです。ポールはさんざん怖い思いをしたけれど、無関係な人は巻き込まなかったし、最後は一回り成長できたようで良かった!終盤の展開は、ちょっとしたファンタジー冒険小説のようでした。
「荒れ野を越えて スーザン・プライス」・・・ディナー用に買ったガチョウを抱え、家路を急ぐジョンとエミリーの兄妹。途中、近道するため荒れ野を通ろうとするが、そこで出会ったのはなんと死者たちだった。ジョンは彼らと力比べをする羽目になるが、何度再戦しても勝てない。このままでは生きて帰れない。エミリーは必死で知恵を巡らせ、死者たちになぞなぞ勝負を挑み・・・・・
<ひょんなことから人外の存在と勝負する羽目になった一般人>というシチュエーションは、国内外問わずホラーでしばしば目にします。この話の場合、魔除け等のお助けアイテムが一切登場せず、子どもが自分の知恵のみで勝負するところが印象的でした。主人公兄妹はすごくいい子達なので、不幸になってくれるなと後半ハラハラしていましたが・・・無事に切り抜けられて一安心!これからも仲良くね。
他の方の感想にもありましたが、本作には、親の離婚・再婚により居心地の悪さや理不尽さを味わう子どもが多く出てきます。こういう点、海外は日本よりさばけている印象がありましたが、やっぱり何の葛藤もないわけありませんよね。家庭内のぎくしゃくした雰囲気と、クリスマス(第二話はハロウィンだけど)のきらびやかさのギャップが、ホラーというジャンルにぴったりでした。シリーズ第三弾、出てくれないかしら。
どの話も、光景を思い浮かべると背筋がゾッ・・・度★★★★★
第一弾よりは救いがある度★★★★★






