はいくる

「棲家」 明野照葉

ホラー作品の定番恐怖スポット、それはズバリ<家>です。家で死んだ人間がそのまま幽霊となって化けて出る、というのが最多でしょうが、違う場所で死んだ人間が何らかの理由で家にとり憑くというパターンも結構あります。<家>は人間の生活の基盤であり、良くも悪くも強い思いを抱きやすいからでしょうか。

幽霊屋敷小説と言われて思いつくものを挙げると、海外ならスティーブン・キングの『シャイニング』にヘンリー・ジェイムズの『ねじの回転』、日本なら三津田信三さんの『忌館 ホラー作家の棲む家』やブログで過去に紹介した小池真理子さんの『墓地を見下ろす家』、恩田陸さんの『私の家では何も起こらない』etcetc。じめ~っとした陰気な怪奇小説から、怪異が物理的な攻撃を仕掛けて来るパニックホラーまで、その範囲は多岐に渡ります。では、今回ご紹介する幽霊屋敷小説はどうでしょうか。明野照葉さん『棲家』です。

 

こんな人におすすめ

家にまつわるホラー小説が読みたい人

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私はこの家で幸せになる---――理想的な新居を見つけ、有頂天のOL・希和。そこは一風変わった洋館で、広さは十分の上、家賃も破格。ここならば恋人と思う存分甘いひと時を過ごせる、はずだった。訪れる者に嫌悪感を抱かせる家、徐々に獣じみた振る舞いを見せるようになる希和、親切そうな大家の裏の顔・・・・・それは、この家に棲みつくものの仕業なのか。希和を救おうと奔走する友人達が探り当てた真実とは---――

 

私が表紙と題名を見て「これは絶対好みのはず!」と確信した本です。題名に<住>ではなく<棲>という文字が使われていることも意味深ですね。人の生活を意味する<住む>に対し、<棲む>には人間以外の動物などが暮らしていることを意味するんだとか。すなわち、この家の本当の主は人ではない・・・・・そんな意味が込められていると推測しています。

 

主人公は、とある理由から引っ越しを決意したOL・希和。理想の家探しは大変そうかと思いきや、物件巡りを始めて一件目にして素敵な家と出会います。それはあちこちに風変わりな仕掛けが施された一戸建ての洋館で、家賃五万という破格の条件、大家の女性は親切そうな老婦人。即座に契約を決めた希和は、家に恋人や友人達を招き、楽しい新生活を始めようとします。ですが、それは恐怖の日々の始まりでもありました。その家は、希和が思っているような素敵な家ではなかったのです。

 

これは最初の方で分かることなので言いますが、希和とそれ以外の人物とでは、家の見え方が違います。普通の人にとって、そこは不気味で、あちこちのバランスが悪く、住むどころか数時間滞在するだけで居心地が悪くなってくるような酷い家。ところが、希和を含む一部の人間にとって、そこは童話に出てきそうな夢の家に見え、徐々に家から離れられなくなってしまうのです。

 

家がまともでないことは、読者の目には割と早い段階で分かるのですが、それに気づかない希和が段々と家に取り込まれていく様子が怖いんですよ!ほんの少しでも家のことを批判した人間を毛嫌いし、陰気で猜疑心に溢れ、異常な食欲を示す。職場でもプライベートでも人付き合いができなくなり、やがて家に引きこもってひたすら物を貪り食うようになる・・・この食べ物を貪る描写がやけに生々しく、読んでいて胸やけがしそうでした。

 

と、この辺りから物語は希和ではなく、希和の友人の洋香が中心となって進んでいきます。洋香は特殊な家系の生まれであり、いわゆる霊媒・退魔の術を知っているというキャラクター。彼女が希和を救うため、女友達や不動産会社の人間と協力して家のことを調べ始める流れは、ホラーアドベンチャーの雰囲気があってすごく好みです。終盤、家に巣食う悪霊との対峙シーンもなかなかに臨場感溢れていました。その分、戦いが意外とすぐ終わってしまって残念ですが、何しろ相手はこの世のものではないのだから、この程度に留めておいた方がいいのかもしれませんね。

 

最後の「無事解決?いや、もしかしてまだ・・・」という不穏さを含め、王道を行くジャパニーズホラーだと思います。明野作品は結末を読者の想像に委ねるパターンが多いのですが、ホラーでそれをやられると怖さ倍増ですね。あと、洋香は明野ワールドにしては珍しく(褒め言葉)能力と誠実さの両方を持ち合わせたキャラクターなので、いつかまた活躍するところを見せてほしいです。

 

壊れゆく人間の描き方が恐ろしい度★★★★☆

呪われた連鎖はこれで止まった・・・?☆☆☆☆☆

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コメント

  1. しんくん より:

    確かにホラーの舞台は屋敷・洋館とありますが普通の日本家屋のホラーと言えば幽霊屋敷ですね。
    現代的な幽霊屋敷での小説とは興味深いです。
    福岡県が特定警戒地域から外されそうですが、どうかお気を付けて。
    借りて来た図書館の本も少なくなってきました。
    図書館だけでも開館して欲しいですね。

    1. ライオンまる より:

      人里離れた場所に建つおどろおどろしい化け物屋敷ではなく、都内に建つ一軒家、住むのは普通のOLという所が逆に怖かったです。
      久々に正統派ホラーを堪能しました。

      福岡県を含め、全国的に感染者は減少傾向にありますが、気の緩みが第二波、第三波を招きそうで不安でもあります。
      お互い、用心は怠らないようにしましょうね。
      早く以前のようにのびのびと図書館ライフを楽しみたいです。

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