はいくる

「主夫のトモロー」 朱川湊人

父「主夫」という言葉を聞いたことがある人は多いと思います。文字通り、家事・育児を担当する夫のことで、日本ではまだ一般的とは言い難いですね。日本の場合、今なお「家のことは女性の仕事」という考え方が根強いのかもしれません。

主夫の奮闘を描いた作品は色々ありますが、今日ご紹介するのは、自らも主夫の経験を持つ直木賞作家、朱川湊人さん「主夫のトモロー」です。

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勤務先の倒産をきっかけに恋人・美智子と結婚し、主夫となった主人公。出産・復職した妻に代わり、家事と育児に邁進する主人公だが、その行く手には様々な問題が待ち受けていた。主夫に理解のない世間の目、一癖も二癖もあるママ友・パパ友たち、家族間でのすれ違い・・・・・悪戦苦闘しながら壁を乗り越えていく主人公一家の運命や如何に!?

序盤の主人公の境遇は、ほぼ著者である朱川湊人さんの実体験。それだけに、主人公の心理描写にリアリティがあり、すんなり物語に入り込むことができました。主人公を作家志望としてしまう辺りからも、朱川さんのこの作品に対するに思い入れの深さが見て取れます。

実際、「半自伝的な小説」と本人が言っているだけあって、巻き起こる問題はいずれも現実感たっぷりなものばかり。男が育児をしていると知り、最初は好意的だった公園ママたちが徐々に白眼視してくる様子など、いかにもありそうです。やっとできたママ友と不倫の噂を立てられる場面では、主人公に感情移入するあまり、悔しさで拳を握ってしまいました。

とはいえ、主人公の主夫生活は、苦しいことばかりではありません。大らかで明るい妻の美智子に愛娘・チーコ、かつては伝説のヤンキーだった兄に、ひょんなことから知り合った訳有りそうな若夫婦など、個性豊かな登場人物たちが、常に主人公の周りを取り巻いているからです。時に彼らに困らされ、時に助けられながら、一歩一歩成長していく主人公の姿はとても爽やかでした。

私が一番面白いと思ったのは、最初はぽかんとしていた主人公や義両親が、娘・チーコへの愛情に目覚める描写。創作物の場合、家族は誕生直後から子どもを愛して愛して愛しまくることが多いですが、現実にそういうケースってどれだけあるのでしょうか。出産する母親と違い、父親や祖父母はすぐに実感が湧かなくても不思議はないと思います。その点、本作の描き方はとても説得力があり、「なるほどなぁ」と頷くことができました。

朱川湊人さんといえば、どことなく郷愁を誘うホラー作品で有名ですが、今回はそういう要素は一切なし。ハートウォーミングでユーモアたっぷりの家族小説に仕上がっています。作品のボリュームはなかなか多いものの、文体が優しくて読みやすいので、ぜひカップルや夫婦で楽しく読んでほしいです。

 

お父さんは頑張ります度★★★★☆

人間って捨てたもんじゃないね度★★★★☆

 

こんな人におすすめ

・子育てに関する小説が読みたい人

・男性の奮闘記が好きな人

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