はいくる

「冥土レンタルサービス」 藤崎翔

死後、死者が一時的に現世に舞い戻り、心残りを晴らす。古今東西、ファンタジーやホラーのジャンルでよくあるシチュエーションです。死の先にも意識や世界がある、あってほしいというのは、人類共通の発想なのでしょうね。

よくあるシチュエーションだからこそ、どう個性的な色付けをするか、作者の技量が問われるテーマです。冷酷な金貸しのもとに仲間の亡霊が現れるチャールズ・ディケンズ『クリスマス・キャロル』、赤ん坊の体に死んだ夫が乗り移る加納朋子さん『ささらさや』、死者と生者を面会させられる能力者が主役の辻村深月さん『ツナグ』等、どれも魅力たっぷりの名作でした。最近読んだこの本も、とても面白かったですよ。藤崎翔さん『冥土レンタルサービス』です。

 

こんな人におすすめ

転生をテーマにしたヒューマンコメディに興味がある人

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あなたには、やり残したことはありますか?---――死後、死者に動物の姿を貸し出し、一時的に現世に戻してくれる<冥土レンタルサービス>。今日も受付には、様々な魂が訪れる。どうしても女湯が覗きたい元刑事、自身の敵討ちを成し遂げたいヤクザ、東京タワー登頂を目指す登山家、自宅に一人取り残された我が子を助けたい母親、飼い主と後輩猫をどうにか仲良くさせようと目論む猫、不調になった仲間を奮起させたい野球少年・・・彼らの最後の願いは叶うのか。たっぷり笑ってちょっぴり感動、<転生>コメディ小説短編集

 

藤崎翔さんは、死後の世界や霊魂、生まれ変わりをテーマにした作品をたくさん執筆されています。それでも決してマンネリ化せず、作品ごとに個性を出しているのが、この方のすごいところ。本作は、誰もが一度は見聞きしたことがあるであろう「わあ、葬儀場にチョウチョが・・・あれってもしかして〇〇さんの生まれ変わりじゃ・・・」というエピソードをうまく活かしたコメディです。毎度毎度思うけど、こういう発想、どこから湧いてくるんだろう?

 

メインの舞台となるのは、死後、肉体を離れた魂が行きつく場所<冥土レンタルサービス>。そこは、魂を一時的に生き物の体に乗り移らせ、希望の時間と場所に飛ばしてくれるというサービスを行う場所でした。どんな生き物に乗り移れるかは、利用者のポイント(生前の行いで決定)次第。死者たちはポイントを使って生き物の体をレンタルし、それぞれの思惑を胸に現世に舞い戻ります。本懐を遂げられる死者がいる一方、当然、志半ばで挫折する死者もいるわけで・・・果たして彼らは未練を晴らし、あの世に行くことができるのでしょうか。

 

 

何といっても、<冥土レンタルサービス>の作り込まれた設定が面白い!死者は肉体がないので、QRコード状態(!)で到着。人気があって人に近づきやすい犬猫はレンタルポイントが高く、ゴキブリ・ダニ・蚊は低いポイントで利用できる代わりに目的達成する前に退治・捕食される危険性があり、猛禽類は捕食されるリスクは減るものの屋内等に入り込むのは難しいetcetc・・・利用者たちは、様々な生物のメリットデメリットを吟味して体を選び、自身の未練を晴らそうとします。うーん、確かに葬儀場で蚊がぶんぶん飛んでいても、「この蚊はあの人の生まれ変わり!」とはならないよなぁ。こういうサービスがあるのなら、生前の内から親しい人と打ち合わせしておいた方がいいのかも!?あと、さらりと描写されていますが、本職ヤクザすら恐れおののくほど過酷な地獄の様子(タブレットでちょっとだけ覗ける)も超気になります。

 

そして、このサービスを利用する死者たちも、設定に負けることなく個性豊かです。家族との再会ではなく東京タワー登頂を目指す登山家(ヤモリをレンタル)とか、昔の恋人との逢瀬を目論むがとんでもないオチが待っていた老人(カモメをレンタル)とかもいいけれど、個人的には自分の死後、後輩猫と飼い主の少女が打ち解けられるよう奮闘する猫のエピソードが好きでした。なんとこのレンタルサービス、人間以外の動物も利用できる上、

動物には善悪の尺度がないため、ポイントに縛られることなく無条件で現世に戻れるとのこと。一見、泰然自若とした猫が、実は自分亡き後の家族が円満であるよう願う姿に胸がジーン・・・動物飼ったことがある人なら、きっと感情移入してしまうことでしょう。

 

さらに、藤崎ワールドのお約束として、本作は短編集ながら少しずつ繋がっています。よく読んでみると、同じ名前が繰り返し出てきたり、見たことあるような描写があったり・・・それらが最後で結びつき、ミステリアスなレンタルサービス係員の正体も明かされる展開は感動的でした。藤崎翔さんの作品って、たまにとんでもなくブラックなものもありますが、本作に関しては心配ご無用。自分のどれだけポイントを貯めているんだろう。どんな生き物を選ぶことができるかな。読了後、そんな風にあれこれ考えてしまう一冊です。

 

このサービスが実在することを切に希望!度★★★★★

最後一行で感涙・・・度★★★★★

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