「欲しい物はありますか?」と聞かれて、皆さんは何と答えるでしょうか。お洒落な服?新しい車?素敵な恋人?私は美味しい特大スイーツと答えるかもしれません(笑)
欲しい物を求める気持ちは、人間なら誰でも持つもの。今日は、人間の尽きぬ欲望を描いた名作、永井するみさんの「欲しい」を紹介します。
やり甲斐のある仕事と妻子のいる恋人を持つヒロインは、寂しさを出張ホストで紛らわせる日々を送っている。そんなある日、恋人が「若い女性をつけ回した挙げ句、争いの末に歩道橋から転落する」という不名誉な死を遂げてしまう。しかも彼がつけ回していた女性とは、ヒロインが営む派遣会社の登録スタッフだった。彼は本当にストーカーだったのか。どうしても納得できず、恋人の死の真相を調べ始めるヒロイン。彼女が見た、人間の欲望の奥底にあるものとは・・・・・
永井するみさんといえば、丁寧かつ繊細な描写力に定評のある作家さんですが、本作でもその手腕は遺憾なく発揮されています。人材派遣会社を営むヒロイン、家庭持ちの愛人、生活保護を受けながら子育てするシングルマザー、ヒロインを支える出張ホストなど、登場人物一人一人の描き方が秀逸で、彼らの声や立ち居振る舞いが目に浮かぶようでした。
また、永井するみさんの作品には、農業問題やコンピューターのシステム問題といった社会派の題材が織り込まれることが多いのですが、今回取り上げられているのは生活保護の不正受給問題。表面化しにくい社会保障制度の穴についてしっかりと描かれていて、とても興味深かったです。
タイトルから分かる通り、登場人物たちは客観的にはそこそこ恵まれた境遇にあるにも関わらず、誰一人満たされていません。女社長であるヒロインは傍にいてくれる男を求め、若さと可愛い娘を持つシングルマザーは気楽な生活を欲し、雇い主の覚えもめでたい美貌のホストは独立したいと願っています。一見、無関係だったはずの彼らの欲望が絡み合う時、一体何が起こるのか・・・・・それは、ぜひ自分の目で確かめてください。
著者の永井するみさんは、二〇一〇年に急逝されています。あまりにも突然であり、未完のまま終わった作品もありました。硬軟両面を描き切れる筆力を持った作家さんだっただけに、もう新作が読めないことが残念です。
欲しい物は自力で手に入れなきゃダメ度★★★★☆
生活保護ってこんな制度なのね度★★★☆☆
こんな人におすすめ
・人間の欲望を扱った作品が読みたい人
永井するみさん~「義弟」「ダブル」「悪いことはしていない」、また2000年問題のコンピュータートラブルを扱った作品もありました。
自分も仕事がら、この2000年の大晦日にこのトラブルに備えて会社に待機していたことを覚えています。イヤミスやホラーもあり満たされない女性の心理や現代女性の状況など詳しく描いてありました。多少重さを感じましたが、また読みたくなりました。
今邑さんもそうですがお亡くなりになられたのは残念です。
2000問題のコンピュータートラブルを扱った作品というと「ミレニアム」ですね。
コンピューター、農業、音楽、美容などなど、様々な業界を舞台に作品を書く、引き出しの多い作家さんでした。
あまりにも早くお亡くなりになったことが残念でなりません。