はいくる

「紫のアリス」 柴田よしき

皆さんはどんな童話が好きですか?「白雪姫」「赤ずきん」「ヘンゼルとグレーテル」etcetc。私も子どもの頃、図書館から何冊も童話を借りてきては、夢中になって読みました。

でも、童話って、けっこう残酷な要素が多いですよね。最近は、童話の持つグロテスクな部分をクローズアップした作品も多く、ハマる大人も多いようです。今日は、童話の不気味さをテーマにした作品として、柴田よしきさんの初期の名作、「紫のアリス」を紹介します。

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不倫関係に疲れ果て、男と職場を手放したヒロイン。ところが、会社を辞めたまさにその夜、男の変死体と「不思議の国のアリス」のウサギを目撃してしまう。さらに元不倫相手が謎の転落死を遂げ、手元には「不思議の国のアリス」にちなんだ不可解なメッセージが届き始める。一体誰が何のために?周囲で相次ぐ不審死と「不思議の国のアリス」は何の関係があるのか?相次ぐ謎に翻弄されるヒロインを待ち受ける真相とは・・・・・

 

冒頭に登場するウサギをはじめ、帽子屋にお茶会といった「不思議の国のアリス」のキーワードが満ち溢れた本作。童話の持つ不条理さやグロテスクさが徐々に現実を侵食していく過程はとてもスリリングで、読みながらハラハラしてしまいました。

思えば「不思議の国のアリス」自体、ヒロイン・アリスの夢オチという結末で、童話の中でもちょっと異色ですよね。本作では、「情緒不安定で記憶が曖昧なヒロイン」という設定を付け足すことにより、「不思議の国のアリス」に通じるミステリアスな雰囲気を出しています。

モチーフとなっているのが「不思議の国のアリス」というだけあって、本作の登場人物も個性派揃い。一癖も二癖もありそうなヒロインや女友達はもちろんのこと、ヒロインが引っ越し先で知り合う老婦人とその仲間たちがとても印象的でした。ちょっとした会話の端々から、老人独特の明るさ、無邪気さ、諦念、妄執などが透けて見えるようで、改めて作者の筆力の高さを実感できます。

また、主軸となる殺人事件だけでなく、高齢者の抱える人間関係や病気治療、詐欺といった問題もきっちり描写されています。これが決して蛇足にならず、ちゃんとメインテーマの謎に絡んでいる辺り、さすがと言わざるをえませんね。こうした現実的な部分と、「不思議の国のアリス」の幻想的な部分が上手くマッチし、作品の魅力を高めていました。

夢と現実が交錯するストーリーの性質上、トリック重視のロジカルなミステリが好きな読者には物足りないかもしれません。ですが、童話独特の不穏な空気が好きな方なら、きっと気に入ると思います。読了後、「不思議の国のアリス」を読みたくなるでしょう。

 

記憶って当てにならない度★★★☆☆

童話はけっこう残酷だよね度★★★★☆

 

こんな人におすすめ

・童話をモチーフにしたミステリーがすきな人

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コメント

  1. オーウェン より:

    この柴田よしきさんの「紫のアリス」は、題名の通り、「不思議の国のアリス」をモチーフとした作品ですね。
    そして、柴田よしきさんが後書きで書かれている通り、「遊園地の迷路から出られなくなった子供のような気持ち」になってしまう作品でもありますね。
    紗季の見ている現実が、本当に現実の出来事なのか、それとも精神安定剤の副作用なのか、それがはっきりと分からないままに物語は進んでいきます。
    あくまでも現実的な物語なのに、ふとした拍子に現れる幻想的な光景に、自分まで不思議の世界に迷い込んだような錯覚を覚えてしまいます。
    しかも、その光景に妙なバランスで居座られてしまい、読んでいると、徐々に不安が増幅していくような印象なんですね。
    犯人に関しては、あまりに怪しすぎたので、逆に戸惑ってしまいましたが——。
    周囲の人間が、ここまでするのかというのは確かにあるのですが、しかし同時に、深い哀しさを感じてしまいますね。
    このラストは、残酷なようでいて、しかし、紗季にとっては、実は幸せな終わり方なのかも知れません。
    本当はあの時点で、紗季もまた破滅してしまいたかったのでしょうが——-。
    そこでもまた、突き放されることになってしまったようです。
    本当は誰かに受け入れてもらえること、どこにでもいいから連れて行ってもらえることを望んでいたと思うのですが——-。
    そして、事件が解決しても、それでもまだ、居心地の悪さは続きますね。
    この微妙なズレが、ホラーとも言える、この作品の雰囲気を作り出しているような気がします。

    1. ライオンまる より:

      柴田よしきさんの作品の中では、知名度が高い方ではないのかもしれませんが、お気に入りの一冊です。
      「行動力の若者&知性の年寄り」というコンビ物が大好きなため、途中まで紗季と菊子の探偵ぶりにワクワクしていたのですが・・・まさかあんなことになるとは。
      モチーフになっている「不思議の国のアリス」同様、楽しげなようでいてどこか不安を感じさせる描写が見事だと思いました。
      紗季は刑事とくっつくのかな?それとも新田と?と想像しながら読んでいたので、紗季が迎えた結末にはびっくり・・・
      でも、仰る通り、あれはあれで彼女にとっては幸福なのかもしれませんね。

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