推理小説の世界には、探偵役がコンビで事件に臨む、いわゆる<バディもの>が数多く存在します。天才的な探偵が一人で活躍する作品も面白いですが、コンビが各々の足りない部分を補いつつ事件解決を目指す姿も魅力的ですよね。個人的には、探偵役が二人組の方が、互いの人間的な部分の掘り下げが深まる気がします。
そして、コンビの組み合わせも、作品ごとに様々です。超有名な『シャーロック・ホームズシリーズ』のような男性二人組、宮部みゆきさん『寂しい狩人』のような老人&若者コンビ、櫛木理宇さん『逃亡犯とゆびきり』のような女性二人組、赤川次郎さん『三毛猫ホームズシリーズ』のような人間&人外の組み合わせ・・・その中には、男女でコンビを組む作品も、もちろんあります。ここ最近の傾向としては、行動力ある女性&サポート能力に秀でた男性という組み合わせが多い気がしますが、いかがでしょうか。今回は、そんなコンビが活躍する作品を取り上げたいと思います。西澤保彦さんの『さよならは明日の約束』です。
こんな人におすすめ
日常の謎を扱ったミステリー短編集が読みたい人
自身の殺害を告発する手紙の真実、薄れゆく意識の中で繰り返された言葉の謎、解決編のない推理小説が導く意外な内幕、消えた一文から浮かび上がる在りし日の想い・・・大食い女子高生のエミールと、サブカル大好き男子のユッキーが日常の謎に挑む、青春ミステリー短編集
短編集『赤い糸の呻き』収録作「カモはネギと鍋の中」に出てきた柚木崎渓(ゆきさき けい)君が、シリーズ物の主人公として再登場します。彼が挑むのは、いわゆる<日常の謎>。出てくる謎は数十年前に起こったものが多く、関係者の多くは死亡していたり、消息不明になっていたりします。確固たる証拠もなく、推理というより、状況だけで仮説を立てている話がほとんどです。これが真実かどうか分からないし、真実だったとしても、起こってしまったことは今更変わらない・・・ユーモラスな中に、そんな切なさや寂しさが漂う、いい短編集でした。
「恋文」・・・本好きの女子高生・永美は、祖母の本棚から亡きヒッチコック監督宛の手紙を見つける。もしやファンレター?と思いきや、祖母にはそんな手紙を書いた覚えはないという。ひょっとしたら、かつて祖母のシェアメイトだった多津子という女性が書いたものかもしれない。確認のため開封してみると、多津子の名で「私が不審死を遂げたら、犯人はこの二人のどちらかだ」という文章と、二人の男の名が書かれていて・・・
この話には渓が登場せず、永美と祖母の二人で物語が進みます。永美はもちろんですが、聡明で茶目っ気のある祖母のキャラクターがものすごく魅力的!荻原規子さん『西の善き魔女』のように、祖母&孫の交流譚が好きな方はきっと気に入ると思います。肝心の謎も、血生臭いと思わせておきながら、後味すっきりとまとまっていて良かったです。なるほど、タイトルも伏線だったのね。
「男は関係なさすぎる」・・・B級映画好きの男子高校生・渓の楽しみは、行きつけの喫茶店で店主とお喋りに興じることだ。この店主・梶本の亡き姉は女優である上、渓の高校のOBということもあって、話が合うのである。ある日、ひょんなことから、梶本が在校していた当時の女性教師の話題となる。梶本は女性教師が心臓発作を起こした場面に遭遇するのだが、彼女は意識朦朧とする中、「男は関係ないでしょ」という謎の言葉を発し・・・
本シリーズは基本的に読後感爽やかなのですが、数少ない例外がこの話です。立場のある人間が、それを利用して歪んだ欲望を発散させようとする様子が気色悪いのなんの・・・主要登場人物三人(渓・永美・梶本)の軽妙なやり取りと、本好きなら堪らないであろう喫茶店<ブック・ステアリング>の描写が、いい清涼剤代わりでした。こういう店、近くにあったら週三で通うのに!!
「パズル韜晦」・・・渓はクラスメイトの男子生徒から、ある頼み事をされる。生前、警察官だった彼の祖父は、趣味でミステリー小説を書いていたという。ところが、解決編を書かずに死んでしまったため、未だに真相が分からない。気になって仕方ないので、推理してほしいらしい。原稿を読んでみたところ、そこには、被害者達の首を切断し、順々に交換していく連続殺人犯の物語が書かれていて・・・・・
現実に起きた出来事を推理する第一話、第二話と違い、この話で出てくる謎は<故人が遺した推理小説>。実際には何も事件は起きていない上、明確な解答が存在するという意味で、他作品とはちょっと趣が異なります。でも、解決編のないミステリー小説をああでもないこうでもないと推理し合うなんて、なんだかすごく面白そう!そういう機会が私にもあればいいのになぁ。なお、作中に西澤保彦さんのデビュー作『解体諸因』に触れた箇所があります。未読でも問題ありませんが、知っていれば面白さが増すと思うので、ご興味がある方はぜひ図書館等で探してみてください。
「さよならは明日の約束」・・・万理子は同窓会の席で奇妙な体験をする。参加者の一人が余興として持ってきた卒業名簿。その中に、卒業記念の寄せ書きを写したページをあったのだが、なぜかその中に、万理子の書いたメッセージがないのである。確かに寄せ書きを書いた記憶があり、文面まではっきり覚えているのに、なぜ?なんとなく腑に落ちない万理子は、たまたま訪れた喫茶店で、渓や永美、梶本相手に寄せ書きの話を聞かせ・・・・・
<今となってはもうどうにもならない過去を振り返る>というのが本シリーズの持ち味ですが、それが一番顕著に現れていた話だと思います。十代の頃の些細なやり取りや、後になってみれば恥ずかしい失敗談の描写がリアリティたっぷり。あー、こういうこともあったなぁと、何度もしみじみしてしまいました。大人目線で見る、渓と永美の甘酸っぱい関係もいいですね。
西澤保彦さんの料理描写って美味しそうだと前々から思っていましたが、本作もそれは同様です。渓達が入り浸る<ブック・ステアリング>のチョコドーナツ。永美の祖母が作る、ありあわせの具材を適当にぶち込んだ素麺。永美お手製の、ぶつ切りのささみがごろごろ入ったミートソース・スパゲッティ。中には、登場人物をして「イマイチ」判定されている料理もあるのですが、読者目線だと、食べる描写がやたら生き生きしていて食欲をそそるんですよ。大食い主人公の小説って、こういうところが楽しいんだよな。
机上の空論の活かし方が秀逸!度★★★★★
西澤保彦さん、青春恋愛描写も上手いのね度★★★★★







