人はどんな時に役所を利用するのでしょうか。引っ越しや結婚、出産などによる諸々の手続き、各所へ提出する戸籍等の重要書類の請求、自治体が運営するイベントへの参加etcetc・・・ぱっと思いつくだけでも色々あります。最近は役所内の飲食施設も結構充実しているそうですから、そういうところを利用する人もいるかもしれません。
地域住民の味方となり、生活の手助けをすべき役所。悲しいかな、その役割放棄しているとしか思えないような事件もありますが、大多数の職員さんたちは使命を全うするため日々努力しているはずです。この作品に出てくる彼も同じこと。迷える人々に手を差し伸べ、的確なアドバイスを授けてくれます。西澤保彦さんの『腕貫探偵 市民サーヴィス課出張所事件簿』です。
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現在地方在住の私ですが、一時期、首都圏に住んでいたことがあります。上京した時は、生まれて初めてのお江戸暮らしにわくわくどきどき。芸能人と会えるかな、ドラマの撮影現場に出くわすかなと、胸を高鳴らせていました。まあ、実際はそうドキドキすることがあるわけもなく、ごく普通に生活していただけですけどね。
新しい環境での生活を始めるとなると、誰でも多かれ少なかれ緊張したり期待したりすると思います。楽しい出来事があるといいけれど、もしかしたら危ない目や怖い目に遭うかもしれない。命の危険さえ感じる出来事があるかもしれない。たとえば、新居の隣人がとんでもない人物だったりとか・・・・・今回取り上げる藤崎翔さんの『お隣さんが殺し屋さん』には、そんな驚愕の「お隣さん」が登場します。
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「濡れ落ち葉」という言葉が流行語大賞を受賞したのは一九八九年のことだそうです。意味は「濡れた落ち葉が払ってもなかなか落ちないように、主に定年退職後の夫が妻にべったりはりついて離れないこと」。男声差別だという意見もあったようですが、流行語大賞を取った以上、多くの国民の間に浸透していたことは事実でしょう。
特にある程度以上の世代の男性の場合、仕事以外に趣味や交友関係を持たず、定年後にやることがなくて妻にまとわりつくというケースが多いようですね。まとわりつくならつくで、何か手伝いをしてくれるならまだしも、手は出さずに口だけ出すから嫌がられる、という話をよく聞きます。人間百年というこのご時世、リタイア後の人生を豊かに過ごせるか否かは自分自身の努力次第です。どう努力すればいいか分からないという人は、これを読んでみてはいかがでしょうか。垣谷美雨さんの『定年オヤジ改造計画』です。
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飛行機、新幹線、電車、自家用車・・・どれも旅行で利用したことのある私ですが、船旅は未だ経験したことがありません。乗ったことがあるものといえば、乗船時間十分程度のフェリーくらい。船酔いしやすい体質ということもあり、数時間の移動はもちろん、数週間、数カ月をかける長期クルーズなど夢のまた夢です。
一度出向したら最後、四方を大海原に囲まれ、ちょっとやそっとのことでは逃げ出すことのできない船の旅。そんな特殊な状況下なわけですから、船の上ではきっと様々なドラマが繰り広げられることでしょう。ジュール・ヴェルヌの『海底二万里』などは世界各国で読まれていますし、北杜生さんの『どくとるマンボウ航海記』、福井春敏さんの『亡国のイージス』なども有名ですね。この船の上でも、驚くべき人間模様が展開されます。若竹七海さんの『名探偵は密航中』です。
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昔、友達と「もし大金持ちだったら言ってみたい台詞」を考える遊びをしたことがあります。私が考えたのは、(1)「端から端まで全部頂くわ」(2)「映画監督のAさん?いい方よ。レマン湖畔の乗馬倶楽部でよくご一緒するの」(3)「〇〇って最近流行っているみたいね。うちの外商さんに取り寄せてもらおうかしら」でした。三つのうち、(1)は店を選べば(駄菓子屋とか)実現可能、(2)は今生では恐らく無理なので来世に期待、(3)はかなり難しいけど(2)に比べればまだ可能性あるかも・・・というところでしょうか。友達の間では、この外商ネタが一番共感してもらえました。
先日読んだ小説によると、そもそも外商とは呉服屋の御用聞き制度が元になっており、顧客の生活すべてをサポート、必要とあらば悩み相談にも応じるコンパニオン的存在だったんだとか。確かに百貨店ならば衣食住すべてに関わる商品を扱っていますし、その商品を顧客のため用意する外商は、「暮らしのトータルコーディネーター」と呼べるのかもしれません。もしも、対価と引き換えにあらゆる相談事に応じてくれる外商がいれば、生活がどれほど楽になるでしょうか。真梨幸子さんの『ご用命とあらば、ゆりかごからお墓まで』には、そんな凄腕外商が登場するんです。
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携帯電話やスマートフォンを持つようになって以来、写真を撮る機会がぐっと増えました。わざわざカメラを引っ張り出す必要がないわけですし、撮影後の編集も簡単にできるんですから、当然と言えば当然ですね。自他ともに認める甘党ということもあり、スイーツを買った時は食べる前に写真撮影しておくのが習慣です。
こんな風に誰でも手軽に写真撮影できるようになると、それによる危険も発生します。何の気なしに撮り、インターネット上にアップした写真に、個人を特定できる情報が写っているかもしれない。あるいは、自分でなくとも他人にとって撮られたくない瞬間かもしれない。もしそうだった場合、そんな写真をネットに公開した時のダメージは計り知れません。今回は、一枚の写真がもたらす苦しみをテーマにした作品を紹介します。柚木麻子さんの『さらさら流る』です。
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四月も残りわずかです。この春に引っ越しを経験した人は、そろそろ片づけが一段落した頃合いでしょうか。今年は引っ越そうにも業者が予約できない<引っ越し難民>が続出したんだとか。不自由した方々が一日も早く落ち着き、快適な新生活を送れるよう願ってやみません。
新居での生活には期待と不安が付きまとうもの。素晴らしい家を得たならば、新生活はより良いものとなるでしょう。でも、もしその家がおぞましく恐ろしいものだったなら・・・?この作品に登場する一家は、そんな恐ろしい家に住んでしまいます。小池真理子さんの『墓地を見おろす家』です。
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「元警察官」というのは、創作物の世界では重要なファクターとなることが多いです。警察官時代のスキルやコネ、確執を持ち、捜査権はない一方、公僕としての制約もない。善玉なら頼もしいけれど、悪玉ならこれほど厄介な存在もそういませんね。
元警察官が登場する作品と言われて、ぱっと頭に浮かぶのは横山秀夫さんの『半落ち』、当ブログでも紹介した柚月裕子さんの『慈雨』といったところでしょうか。あの二作に出てくる元警察官は、いずれも彼らなりの信念を持ち、周囲からの人望も厚い人物でした。では、こちらの作品に出てくる元警察官はどうでしょうか。若竹七海さんの『死んでも治らない~大道寺圭の事件簿~』です。
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昔、偶然ですが、某有名劇団の通算1000回公演に行ったことがあります。本編終了後、再び幕が上がってキャストが観客席に飛び降りてきたり、主演俳優が謝辞を述べたり・・・まったく予想していなかった分、すごく嬉しかったです。これほどの記念公演でなくとも、劇本編とは別に出演者や演出家が出てきてくれたりすると、何となく楽しくなっちゃいますね。
幕が下りただけで終わるのではなく、その後にさらなる喜びや感動をもたらしてくれるもの、それがカーテンコールです。人生にもカーテンコールがあると思えば、何かとままならない世の中も少しは生きやすくなるのではないでしょうか。そんな人生のカーテンコールを扱った作品がこれ、加納朋子さんの『カーテンコール!』です。
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貧富の差。日常生活の中でも頻繁に耳にする言葉です。この言葉を見聞きする時、どんな映像が思い浮かぶでしょうか。アフリカや中東などの開発途上国?江戸や明治といった昔の時代?それも間違いではありませんが、今この瞬間、平和なはずの日本国内にも貧富の差は存在します。
格差を解消するための制度は色々ありますが、その筆頭は生活保護でしょう。とはいえ、それは決して完璧とは言えない制度であり、様々なトラブルが起きています。先日、そんな生活保護にまつわる哀しい問題を扱った小説を読みました。中山七里さんの『護られなかった者たちへ』です。
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