はいくる

「殺人依存症」 櫛木理宇

本の内容と、その本を読むタイミングというのは、密接な関係があります。例えば、大きな物事に臨む時はスカッとする勧善懲悪ストーリーがいいとか、落ち込んでいる時は悪人が出てこないハートフルコメディがぴったりとか。たかが本、されど本。読書には人の気分を左右する不思議な力があるものです。

実は私、この読書タイミングの見計らい方がものすごく下手。ずいぶん昔の話ですが、所用で飛行機に乗らなくてはならないというのに、直前になってアメリカ同時多発テロに関する本を読んでしまい、貧血起こしそうになりながら搭乗したのは懐かしい思い出です。最近も、読むタイミングを誤ってしまったせいでキツい思いをしました。櫛木理宇さん『殺人依存症』です。

 

こんな人におすすめ

人間の怖さをとことん描いたサスペンスが読みたい人

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助けてくれる大人なんて本当にいるの?---――か弱い少女を狙った残虐な暴行殺人事件。担当刑事の浦杉は、かつて自分の息子が犠牲となった殺人事件のことを思い返しながら、事件解決のため奔走する。やがて事件が連続殺人の様相を呈し始めた時、浦杉の脳裏に一つの可能性が浮かぶ。これらの事件の背後には、真の黒幕がいるのでは?だがその時、黒幕の魔の手は、すでに浦杉の周囲にも伸びてきていた・・・・・人はここまで残酷になれるのか。とめどない悪意の連鎖を描いたサイコサスペンスの傑作

 

なんで私はこの本を就寝前に読んでしまったんだ!!と頭を抱えたくなった作品です。肉体的にも精神的にも破壊し尽くされていく被害者達、遺族や捜査関係者達の無念な思い、犯人の身勝手かつ下劣な言い分、実行犯を操る黒幕の狡猾さ、その黒幕を育んだ劣悪な家庭環境・・・それらが過ぎるほど丁寧に描写されています。これで文章が下手なら「ただのグロ小説か」と受け流せるのですが、櫛木理宇さんの半端なく高いリーダビリティによって、ぐいぐい読ませること読ませること。読了後、久しぶりに、落ち込みすぎて眠れなくなるという経験をしました。

 

主人公は、幼い息子を何者かに凌辱・殺害されたという過去を持つ刑事の浦杉。息子の事件により家庭は崩壊寸前で、隣室に暮らすシングルマザーの子・亜結との交流が心の慰めです。ある時、浦杉は女子高生が犠牲となった殺人事件を担当することになります。遺体の様子から、少女が長期間に渡る拷問の末に殺されたことは明らか。さらに、同時期に発生した小学生男児の失踪事件との関連性も浮かび上がります。執念の捜査により犯人は特定され、胸を撫で下ろす関係者達。ですが、浦杉は何か引っかかるものを感じていました。この事件、背後に隠れた人物がいるのでは・・・?浦杉の予感は当たっていました。そして、この時すでに、黒幕は浦杉の大事な人達に狙いを定めていたのです。

 

あらすじだけでなんとなく残酷そうな予感はするでしょうが、実際に読んだ時の胸糞悪さは予想の遥か上をいきます。暴行描写もさることながら、出てくる事件が妙に現実味あるところがもう嫌で嫌で。闇サイト経由で集まったメンバーで被害者を襲う、あるいは、家庭内で凄惨な虐待が行われていることに周囲は気づきながら助けない(助けられない)という事件は、現実にも起こっています。幽霊でもエイリアンでもない、生身の人間が犯す犯罪の悪質さに、吐き気すら催しそうなほどでした。

 

本作は犯人を推理して楽しむタイプの作品ではないので言ってしまうと、作中で起こる事件の実行犯は、割と簡単に捕まります。そこで、すべてを影で操る黒幕の存在が浮上するわけですが、この黒幕のどす黒さがこれまた尋常ではありません。家族ぐるみの虐待という過酷な過去を背負い、本人曰く「人じゃなくなり」、長じて他者を洗脳して犯罪を犯させることに生きる意味を見出した真犯人。経てきた過去の壮絶さは凄まじいの一言ですが、だからといって、無関係な人間を地獄に突き落とす言い訳にはならないでしょう。この真犯人が、一見したところ、容姿言動ともに善良そうなところが余計怖かったです。

 

執拗なほどの繰り返される残虐な描写といい、いったん一息つかせておいて暗転するラストといい、正直、かなり人を選ぶ作品だと思います。グロに耐性がある方でもかなりキツいと思うので、読む時は心しておいてくださいね。ところで、このラストから察するに、本作は続編の構想があるのでしょうか?あるとしたら、今回苦しみ抜いた人達に、ほんの少しでいいから救いを与えてほしいです。

 

イヤミスではなくもはやオゾミス度★★★★★

人間が行える悪には限りがある度☆☆☆☆☆

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コメント

  1. しんくん より:

    櫛木理宇さんの作品でここまで胸糞悪く救いのない作品はFEED(少女葬)以来でした。
    救いのある続編が出て欲しいと読み終わった時に思いました。
    弱肉強食の世界~動物でも昆虫でも弱い子供が犠牲になるように人間の世界でも幼い子供たちが犠牲になると思うといたたまれなくなります。

    1. ライオンまる より:

      ほんとーーーに胸糞悪かったですね(汗)
      『少女葬』が、少女のうち片方は再出発を果たせたのに対し、本作は主要登場人物全員がぼろぼろですから・・・(強いて言うなら主人公の娘は救われた?)
      人命は平等とはいえ、やはり子どもが犠牲になる描写は辛いです。

  2. しんくん より:

    残酷依存症を読む前に再読して改めて胸くそ悪い作品でした。
    残酷依存症で拘束された3人プラス女子大生に同情の余地はなかったですね。
    ここまで容赦なく残酷な描写で世間に訴えるのが櫛木理宇さんの手法でもあると感じました。

    1. ライオンまる より:

      被害者の自業自得とも思える残酷依存症に対し、こちらの被害者は哀れなばかり・・・
      フィクションならグロ描写も基本大丈夫な私ですが、本作はキツかったです。
      残酷依存症を知った上で再読したい気もしますが、まだ勇気が出ません。

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