先日、生まれて初めて七面鳥を食べました。味は結構淡泊だったけれど、脂身が少ないのでガッツリ食べても胃もたれしませんし、グレービーソースとの相性も良くてなかなか美味!「七面鳥はあまり日本人の口に合わないかも・・・」という噂を聞いていましたが、予想していたよりずっと気に入りました。
七面鳥は日本での生産量が少なく、鶏と比べると手に入りにくいこともあり、日本国内を舞台とした小説に登場する機会は少ないです。ではどこに出てくるかというと、私的登場率NO.1はイギリスが舞台、それもクリスマスシーズンを扱った作品だと思います。この作品もそうでした。イギリスのホラーアンソロジー『ミステリアス・クリスマス 7つの怖い夜ばなし』です。
こんな人におすすめ
海外のホラー短編集に興味がある人
禁断のゲームに手を出した子どもたちの運命、家路を辿る少年とトラック運転手の危険なやり取り、意図せずして神を呼び出してしまった少年の末路、病床の母を案ずる少女が見つけた絵の秘密、狩人がたどり着いた館の真実、陰湿な悪戯を仕掛けた少年の罪業、不思議なロウソクがもたらす小さな奇跡・・・・・聖なる夜に繰り広げられる、恐怖と幻想に満ちた怪奇譚
季節外れなのは百も承知ですが、七面鳥を食べて以来、この作品のイメージが頭にずっと付いて回り、取り上げずにはいられませんでした。イギリスの冬といえば、日本の夏と同様、ホラーとの相性がいい季節です。本作はクリスマスシーズンをテーマにしているということもあり、七面鳥をはじめ日本ではあまり目にしないクリスマス文化がふんだんに登場していて、異国情緒溢れる恐怖をたっぷり味わうことができました。
「スナップドラゴン ジリアン・クロス」・・・トラブルメーカーのトッドに振り回される形で、幽霊屋敷として評判の空き家に忍び込む羽目になった主人公・ベン。運悪く屋内で怪我をしてしまったところに、一人の老婆が現れる。老婆は少年たちに対し、とあるゲームをしようと提案してきて・・・・・
タイトルでもある<スナップドラゴン>とは、ヨーロッパでクリスマスやハロウィンによく行われるゲームのこと。幽霊屋敷と評判の空き家で、正体不明の老婆からゲームに誘われるなんて、どう考えても怪しい怪しい怪しい!・・・なのですが、そこで乗ってしまうのが子どもという生き物です。果敢にゲームに挑む問題児のトッドが、実は孤独を抱えていることがちらほら分かることもあり、愚かさと同時に哀れさを感じずにはいられませんでした。ベンのように大人を頼る気持ちがあれば、こんな結末にならなかったのかもしれないのに・・・・・
「クリスマスを我が家で デイヴィド・ベルビン」・・・ビリーは父親からの暴力に耐えかね、ホームレス生活を決行中。だが、暮らしは困窮し、渋々ヒッチハイクで実家に帰ることにする。ビリーを乗せてくれた運転手は刑務所帰りらしく、ビリーに対し、自身の恐ろしい胸中を語り・・・・・
ふむふむ、凶悪犯罪者の車に乗っちゃった少年が生還を目指すスリラーね・・・と思わせてからのドンデン返しが凄い!この運転手、無軌道に暴れる性格破綻者ではなく、彼なりに気遣いや理性を持ち合わせた上で凶行に及んでいるところが超怖いです。ただ、終盤で登場する第三の人物の外道っぷりが凄まじいため、このラストにはある種の救いのようなものを感じてしまいました。
「果たされた約束 スーザン・プライス」・・・手のかかる弟の世話にうんざりした兄は、「悪い子のところにはウォータンが来て、魂を奪われるぞ」と脅し、冗談半分でウォータンを呼び出す呪文を唱える。すると、なんと本当にウォータンが現れた。弟に何もしないでくれと頼む兄に対し、ウォータンは一つの条件を口にして・・・・・
ここで言う<ウォータン>とは、<オーディン>の名でも知られる北欧神話の最高神です。悪ふざけの結果、こんな大物を召喚してしまうなんて、運が悪いにも程がある(汗)日本のこっくりさんもそうだけれど、冗談で人外のものに手を出しちゃいけないということでしょう。恐らく生涯に渡る後悔とトラウマを背負ったであろう兄の今後が心配です。
「暗い雲におおわれて ロバート・スウィンデルズ」・・・病気で塞ぎがちな母親をどうにか励まそうとする主人公・ローラ。ある日、ローラは偶然通りがかった画廊に、曇天の空を描いた絵が飾ってあるのを見つける。その絵は、なぜか通りがかるたびに、雲間から陽光が差し込む景色に変化していくようだ。光が大きくなるにつれ、母親の容態は回復していき、ローラは大喜びするのだが・・・・・
ラストの絶望度合でいえば、この話が収録作品中トップクラスでしょう。他作品の主人公と違って悪さもせず、ただ健気に母親を案じるローラが、まさかこんな悲劇を味わう羽目になるなんて。途中まで心温まるファンタジーに思えること、一体どうすればこのような事態を避けられたのかがまったく分からないこともあり、読了後、打ちのめされること必至です。
「狩人の館 ギャリー・キルワース」・・・狩猟中の事故で失神した主人公は、ふと気づくと、見覚えのない洋館の前にいた。中で寛いでいた男達曰く、ここは優れた狩人が死後集まる<狩人の館>だという。自身の死を知り驚くも、やがて素晴らしい場所に来たと喜ぶ主人公。そんな主人公に対し、先客達は、生前の狩猟歴を尋ねるのだが・・・・・
こうした短編ホラーの場合、「主人公は実は死んでいた!」というのがラストで明かされるパターンが多い気がしますが、この話では主人公が死んでいることはあっさり判明。その後続くオチは非常にブラックなものの、主人公も相当に難アリの人物のため、妙な痛快ささえ覚えてしまいます。でも、死後に各々が生涯賭けた趣味を堪能できる場所に行けるなんて、なんだか素敵ですね。私は読書と映画と甘味を満喫できる所がいいなぁ。
「ベッキーの人形 ジョーン・エイキン」・・・両親から構われず、伯父の家に預けられたジョンは、今の境遇に不満たらたら。従姉のベッキーは体が弱く、周囲がやたら気を遣うところも尚のこと癪に障る。そんなベッキーが高価な人形をプレゼントされたと知り、意趣返しに盗み出してやろうと目論むのだが・・・・・
この話のみ、すでに成人した主人公が過去を回想するという構成です。つまり、主人公が何をどう悔もうとすべて過去のこと。起こったことは今更変わらないという事実が、この話の救いのなさを盛り上げていました。ベッキーが非の打ちどころのない良い子な分、人形の正体不明の不気味さが際立ちます。
「思い出は炎のなかに アデル・ジェラス」・・・主人公は、シングルファーザーの父親と二人暮らし。ある日、「思い出は炎のなかに」という名前の店を見つける。店主曰く、店に置いてあるロウソクは、過去を見せてくれる力があるそうで・・・・・
収録作品中、唯一ハッピーエンドの話でした。この短編集は、子どもも容赦なく不幸になる話ばかりなのでハラハラしていましたが、主人公が希望を持つ展開に一安心。<子どもが不思議な店を見つける>という導入部は第四話と同様なものの、ラストが違うとこうも印象が違うのですね。
前述した通り、七面鳥にクリスマスプディング、ミンスパイといったイギリスのクリスマス文化がふんだんに登場します。そうした文化が彩り豊かな分、逆に主人公達の貧困や孤独が強調されるところが、なんとも皮肉でした。というか、この本、図書館では児童書コーナーに置いてあることが多いんですよね。最終話を除き、こんなにバッドエンド揃いだと知らずに読んだ子どもがズーンと落ち込むんじゃないかと、余計なお世話ながら気になってしまいます。
弱者にも一切容赦なしの怖さ満載!度★★★★★
あとがきのクリスマス解説も一読の価値アリ度★★★★☆
西洋のアニメ・ドラマに出てくる七面鳥はいつも美味しそうですが、一度食べたら思ったほど美味しくなかった記憶があります。
大人になって食べたら美味しいと思ったのはやはり味付けの問題かな~と今思ってます。
西洋のホラーは、西洋の城が舞台、またゴーストタウンでのゾンビや魔女の類のイメージで日本の怪談のように身近で庶民的なイメージがないという印象です。
お嬢さんがお元気ですか。
子供たちは4月で高校2年生、中学2年生になります。
親戚が高校生になった自分を見て、こちらは歳取るはずだわ~と言っていたのが分かる気がします。
西洋と東洋って、同じホラーというジャンルでも恐怖の種類が違いますよね。
クリスマスというきらびやかなシーズンに繰り広げられる、ミステリアスな怪奇現象の数々が印象的でした。
有難いことに、娘は元気にしています。
日ごとに口が達者になって小生意気なことを言うようになり、親としては今後の反抗期を思ってハラハラ・・・
お子さん、もう高2と中2ですか!
あっという間に受験期が来るでしょうし、今しかない学生ライフを楽しんでほしいですね。