はいくる

「逆転ミワ子」 藤崎翔

物語の中に登場する作品のことを<作中作>といいます。例えば、登場人物達が創る小説や映画、読んでいる本、演じる劇などがこれに当たります。基本的にはオリジナル作品を指し、現実に存在する作品は<作中作>とは呼ばないようですね。

作中作が登場する物語で有名なものとしては、『千夜一夜物語』が挙げられます。残酷な王をなだめるため、シェヘラザード姫が毎夜面白い物語を語って聞かせるというのが大まかなあらすじで、『アラジンと魔法のランプ』『アリババと四十人の盗賊』『シンドバッドの冒険』等はすべてこの中に登場する作中作です。この作中作が面白いかどうかによって、本編の評価は大きく変わります。その点、今回ご紹介する作品は文句なしでした。藤崎翔さん『逆転ミワ子』です。

 

こんな人におすすめ

・本自体にトリックが仕掛けられた小説に興味がある人

・作中作が出てくる小説が好きな人

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ミワ子に一体何が起こったのか---――苦難の時代を経て、ようやく人気芸能人として芽吹いたお笑い芸人・ミワ子。人気俳優と結婚し、自身初のエッセイ&ショートショート本も出版し、公私ともに順風満帆・・・と思われたのも束の間、本の出版直後、なんとミワ子が行方不明になっていたことが発覚する。幸せの絶頂にいたはずの彼女は、なぜ消えてしまったのか。謎を解く手がかりは、ミワ子が執筆した本に仕込まれていて・・・・・『逆転美人』『逆転泥棒』に続く、大人気ミステリーシリーズ第三弾

 

シリーズ第二段に当たる『あなたに会えて困った』は、文庫化の際、『逆転泥棒』と改題されていたんですね。ノーチェックだったので、読み逃していたのかと思いました。藤崎翔さんは、有難いことに執筆・刊行ペースが速いので、「知らない間に新作が出ていた!」ということがたまにあるんですよ。本作は、後から慌てることなく読むことができて良かったです。

 

主人公・ミワ子は、長い下積み時代の末に成功を掴んだピン芸人。お笑い界では上り調子、私生活では有名俳優と結婚と吉事続きの彼女は、勢いに乗ってエッセイ&ショートショート本を出版することになります。ところが、出版後間もなく、ミワ子が失踪中だという衝撃の事実が判明。この失踪劇には不審な点が多く、事件性が疑われていました。この世の春を謳歌中だったミワ子が、一体なぜ?その謎を解く鍵は、ミワ子が書いた『ミワ子の独り言』に隠されていたのです。

 

帯にでかでかと「『逆転美人』を凌駕!!」「紙の本の限界突破トリックを見破れますか?」と書いていることもあり、本自体に何らかのトリックが仕掛けられているとを予想する読者も多いと思います。それは大正解で、私もかなりの心構えをして読み始めたのですが・・・・・これ、見破れる人っているんかーい!!相当に手が込んでいた『逆転美人』を上回るトリッキーな仕掛けに、大多数の読者が翻弄されてしまうのではないでしょうか。

 

ただ、私としてはクライマックスの真相よりも、作中作として出てくるミワ子の書いたエッセイ&ショートショートの方が面白かったです。特にショートショートの完成度が高く、「ふうん、ここに真相を見破る手がかりが隠されているんだろうな」程度に考えていた私の期待をいい意味で裏切ってくれました。男女の壮絶な愛憎劇・・・と見せかけて急展開を迎える「貴方と最後の一問一答」とか、悪魔を呼び出そうと奮闘する男の悲喜劇「さるせれてまくろだらもんべ」とか、未経験者歓迎のアルバイトの意外な真実を描く「二十二歳人当たりよし」とか、風刺が効いた佳作ばかり。というか、ミワコ、このレベルのショートショートを複数書けるなら、あんなに長く不遇の時代を送らず、普通に作家として成功できた気がしないでもないですが・・・・・

 

惜しむらくは、あんまり盛大に<紙の本の~>と謳われているため、「ページに仕掛けがあるわけね」と事前に分かってしまうことでしょうか。分かるがゆえのワクワク感もあるものの、どんな仕掛けなのか、読み始めるまで予測できないスリルを味わってみたかった気もします。今後、『逆転シリーズ』がどんな進化を遂げていくのか、今から気になって仕方ありません。

 

作者と編集さん、お疲れ様でした!!度★★★★★

紙の本の良さが詰まってます度★★★★★

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コメント

  1. しんくん より:

    逆転美人は面白かったです。
    「あなたに会えて困った」が逆転美人のシリーズの2作目とは初めて知りました。
    違う設定ですが、今思うと明らかにパターンは似ていると感じます。
     どんでん返しとは違う藤崎翔さん独特の裏の裏を掻いた仕掛けが楽しめそうです。
     早速予約します。
     ホーンテッド・キャンパスの新刊予約してます。
     中山七里さんの鑑定人・氏家の2作目も予約してます。
     
     

    1. ライオンまる より:

      「逆転美人」「逆転泥棒」「逆転ミワ子」で逆転シリーズらしいです。
      私も最近になって知りました。
      相変わらず、編集さんを困らせたであろう仕掛けたっぷりで面白かったですよ。
      「ホーンテッド~」最新刊出ましたね!
      こちらは近藤史恵さんの新作が届きました。

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