はいくる

「厄落とし」 瀬川ことび

<ホラーコメディ>というジャンルがあります。文字通り、ホラー(恐怖)とコメディ(喜劇)両方の要素がある作品のことで、不気味なのに妙に笑える展開を迎えるというパターンが多いです。正反対のジャンルのようで、意外と相性がいいんですよ。

このホラーコメディ、絵的に映えるシチュエーションが多いからか、映像作品でよく見るジャンルなような気がします。私が見たものだと、二〇一〇年の洋画『タッカーとデイル 史上最悪にツイてないヤツら』は日本でも高評価を獲得しました。一〇〇%善人にもかかわらず、風体や振る舞いのせいで殺人鬼と勘違いされてしまう二人組のドタバタが最高に面白かったです。小説だと、ブログでも取り上げた藤崎翔さんの『お梅は呪いたいシリーズ』も、楽しく笑える傑作でした。それからこれも、質の高いホラーコメディです。瀬川ことびさん『厄落とし』です。

 

こんな人におすすめ

ユーモラスなホラー短編集を読みたい人

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友人との電話をきっかけに始まった怪奇現象の数々、妻の趣味が招いた予想外の恐怖の行方、能の世界に触れた男が味わう不思議な体験、故人の形見である三面鏡の中に見たもの、生者と死者が入り混じる奇妙な旅行・・・・・これは夢か、現実か。クスッと笑えて時々ゾクリ。ホラーコメディ短編集

 

以前取り上げた『お葬式』に続く、書き下ろしホラーコメディ短編集第二弾です。第一弾同様、シュールな笑いに溢れながら、所々でゾッとさせるポイントも押さえていて満足度高し!ホラーでここまで読後感が悪くならない作品って、そうそうない気がします。

 

「厄落とし」・・・昔馴染みの女友達から、帰省中に墓掘りに立ち会わされたという話を聞く恭子。単なるおしゃべりの一環かと思いきや、その日以降、恭子の身辺で不可解な出来事が頻発する。どうやら、話を聞いたことがきっかけで、女友達の先祖の霊が恭子に憑りついたようなのだが・・・・・

<予想外のきっかけで霊に憑りつかれる>というのは、ホラーでは割とよくあるパターン。ところがこの話の場合、どうやら浴槽に逗留中の霊の影響で、恭子はお肌ぷるぷる、髪ツヤツヤになり、会社でも注目の的という意外な展開に。それならいいじゃん!と思いそうですが、気づくと湯舟に正体不明の髪がごっそり浮いているわ、髪の隙間から目がぎょろりと覗くわで、やっぱり超不気味です。これだけ怪現象が続いているにもかかわらず、のほほんと女子トーク繰り広げられる恭子と女友達、豪胆すぎではないでしょうか。

 

「テディMYラブ」・・・<俺>の目下の懸念事項は、妻がテディベア作りに夢中になっていること。凝り性の妻らしいとは思うものの、家中に溢れかえるテディベアのことが、<俺>はどうにも好きになれない。そんなある日、妻の留守中、なんとテディベア達が<俺>に向かって動き出して・・・・・

大量のテディベアが「パパ」と呼びかけながら殺到してくるって、想像するとかなり怖い状況です。そんな状況下で、主人公がひねり出した対処法が<とにかく物理的にぶっ壊す>というところに笑ってしまいました。それでも、帰宅後に家の状態を見た妻からすれば、夫がせっかく作ったテディベア達を破壊しまくったようにしか見えないわけで・・・妻が選んだ復讐方法と、主人公の覚悟を見るに、今後もまだ戦いは続くのかもしれません。

 

「初心者のための能楽鑑賞」・・・慣れない営業業務に奮闘中の主人公は、ある時、憎からず思う同僚・由希子から能楽鑑賞に誘われる。能には興味はないものの、鑑賞中にぐっすり眠るのも楽しみの一つだと言われ、それならばと応じる主人公。上演中、主人公がうたた寝しかかったところで、隣の席に何者かの気配を感じ・・・・・

夢と現の狭間をさまようかのような、神秘的な話です。その合間に描写される、営業部でハードな重労働や、同僚との恋模様の現実感が、いい対比になっていました。これはミステリーではないので明かしてしまいますが、能鑑賞中に主人公を側に来たものの正体は能面。主人公は人外のモノに気に入られてしまったわけですが、その割に後味の良いラストが印象的でした。職場環境が良くなってめでたしめでたし!

 

「形見分け」・・・母親が、友人の姑の形見分けとしてもらってきた品物の数々に、やや呆れ気味の千賀子。しかし、その中の一つである三面鏡は、とても美しい作りだった。ある日、三面鏡に映る母の姿を見かけるも、母はその場に不在であり・・・・・

そこにあるはずのないものが映る三面鏡。正統派Jホラーになりそうなアイテムですが、そこは瀬川ことびワールドと言うべきか、おどろおどろしさは皆無です。むしろ、収録作品の中では珍しく、しっとりと情緒溢れる幻想小説に仕上がっていました。読了後、物や家を継ぐことの意味について、ふと考えてしまうかもしれません。

 

「戦慄の湯けむり旅情」・・・とある秘湯に温泉旅行に訪れた女友達四人組。相次ぐ不気味な出来事の数々により、メンバーは一人、また一人と命を落としていく。ところが、死んだはずの彼女達はなぜかすぐ甦り、予定通り旅行を続行して・・・・・

ジャンル分けするなら不条理ホラーというべきでしょうか。怪現象で死んだ女子大生達が、なぜかさらりと復活し、平然と旅し続けるという状況のシュールさと来たら!彼女達の丁々発止のやり取りがこれまたやたらと面白く、普通にトラベル小説としても読めそうです。最後、なぜこんなことが起こるのか明かされつつ、だからといって何一つ解決しないという展開も、妙に馬鹿馬鹿しくて好きでした。というか、コミカルに描写されているけど、これってゴリゴリにホラーな状況なんじゃ・・・

 

瀬川ことびさんの角川ホラー文庫シリーズ、大好きなんですが、二〇〇四年の『妖怪新紀行』以降、刊行されていないんですよね。もう執筆の予定はないのかな・・・図書館派の私が、これは買ってもいいと思うくらいお気に入りのシリーズなので、ちょっと残念です。

 

怖くないのにクセになる度★★★★★

キャラクター達がタフすぎる度★★★★★

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コメント

  1. しんくん より:

     ホラーコメディーは意味は分かりますがジャンル的にはホーンテッド・キャンパスをイメージします。
     初めて聞く作家さんですが、最近の作家さんでしょうか。
     これは1作目から読みたいと思います。
     藤崎翔さんに近いのでしょうか。
     早速図書館で探してみます。
     櫛木理宇さんの「七月の鋭利な刃物」面白かったです。
     櫛木理宇さんの作風が凝縮されているようでソフトなイメージもあり読みやすいと感じました。
     胸糞悪い内容は顕在ですが、一気読みでした。
     

    1. ライオンまる より:

      瀬川ことびさんは、作家歴自体は長いのですが、最近は「瀬川貴次」名義で主にファンタジー小説を執筆されています。
      でも、私としては、ノリが独特で好き嫌いが分かれそうなものの、「瀬川ことび」時代のホラーが好きなんですよ。
      どちらかというと第一作目「お葬式」の方が好きなので、機会があればぜひ!
      櫛木理宇さんの新作、面白かったとのことで、期待が高まります。
      私は瀬尾まいこさんの新作「ありか」を読了しました。
      瀬尾作品にしては比較的珍しく、うんざりするほど身勝手なキャラが出てきますが、後味爽やかで良かったです。

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