昔読んだ小説の中で、こんなエピソードが紹介されていました。『チャレンジャー号爆発事故の発生後、阿鼻叫喚に陥る観客達を写した写真が話題となった。ところが後日、その写真は事故発生後ではなく、打ち上げ直後に撮られたものだと判明した。当初、恐怖と混乱の真っ只中と思われていた観客達の表情は、実は期待と興奮に沸いていたのだ』。その後同様のエピソードを見聞きしたことはないため、もしかしたら単なる噂なのかもしれませんが、十分あり得る話だと思います。物の見え方というものは、受け取る側の価値観や状況によって簡単に変化するものです。
絵よりもずっと正確に、被写体を写すことができる写真。そんな写真でさえ、解釈の違いというものは存在します。たった一枚の写真からだって、百人の人間がいれば百通りの物語を作り出すことも不可能ではないでしょう。今回取り上げるのは、写真にまつわるバラエティ豊かなショートショート集、道尾秀介さんの『フォトミステリー』です。
こんな人におすすめ
ブラックな作風のショートショートが好きな人
あどけない少女が持つ凄まじい異能、頭に封筒をかぶった少年の秘密、別々のタイミングで墓参りを行う夫婦の謎、窓ガラスの中にいる子どもの正体、瀕死の被害者が最期に遺したメッセージの真意、とある村に伝わる恐ろしい風習、人を狂気に誘う禁じられた遊び・・・・・一枚の写真から紡がれる、五十の摩訶不思議な物語
道尾秀介さんが五十枚の写真に文章を付けたショートショート集です。その長さは、最短一行、長いものでも約二ページ。ショートショートといえば星新一さんを連想する読者も多いでしょうが、本作は露骨に怪奇現象だったり血生臭かったりする展開が多いのが特徴です。レビューサイト等でもよく言われていますが、ブラックな大喜利と言った方が近いかもしれません。各話のタイトルも含めて話が成立するパターンも結構あるので、読み飛ばさないようご注意ください。以下、お気に入りの話をご紹介します。
「さがしもの」・・・幼い頃、少女が窓の外に見た二本の足。その足は少女に向けて、不可思議な言葉を囁いて・・・・・
ボウリングのピンかウィスキーの瓶って・・・めちゃくちゃホラーじゃないですか!この話に限らず、子ども目線で語られる怪奇現象って、表現が拙い分を深読みで補う必要があるため、怖さ倍増な気がします。
「行方」・・・二人のサラリーマンが飲みに行く最中、失踪した同僚について噂する。姿を消す前、同僚は不審な行動を取っていたらしく・・・
にこやかなサラリーマンの写真と、添付の文章を見た時、最初は「??」となりました。もう一度写真を見直し、ようやく意味が分かってゾクリ・・・失踪した同僚は、果たしてどこに消えたのでしょうか。
「何日か経つと静かになった」・・・とある富豪の家にいる、口のきけない少年と、愛らしい子猫。富豪夫妻は少年より子猫を可愛がり、子猫の悪戯さえ少年のせいだと叱責する。傷ついた少年は、とある行動に出て・・・・・
これはホラーではなく、悲哀と狂気が滲み出るサスペンスです。タイトルまで見て少年がしでかしたことと子猫の運命が分かり、気分がズシーンと落ち込むこと必至。でも、これは親が悪いよなぁ。
「どちらか」・・・診察室にて、医師と患者が会話を交わす。指示に従わない患者に対し、医師は自分を信じてくれれば必ず回復すると励ますが・・・・・
似たような傾向の話はそこそこあるので、意味自体は分かりやすいかもしれません。この話の怖いところは、こういうことって現実にもありそうという点ではないでしょうか。写真の医師の穏やかな笑みが、なんともほろ苦いです。
「よくいるクレーマー」・・・某研究所に、一本の電話がかかってくる。電話の相手は、研究所で製造された薬品について苦情があるようなのだが・・・・・
当人にとっては一大事なんだろうけど、これは笑った!後味の悪い話が多い中、こういうシニカルなユーモアの効いた話があると、作品全体が締まりますね。というか、この薬、性能自体は成功と見ていいのかな?
「盲点」・・・一人の僧が語る、忌まわしき過去の物語。その昔、僧は耳なし芳一のように、怨霊に狙われたことがあるという。住職は僧が耳なし芳一の二の舞にならないよう、両耳を含め全身に経文を書いてくれるのだが・・・
読んで字の如く<盲点>の恐ろしさを描いた話です。以前、同様のアプローチをしたホラー漫画を読んだことがありますが、こちらは僧の身に起きた惨劇を脳内で補完する必要がある分、得体の知れない怖さがありました。この場合、完全に怨霊から身を守る方法なんてあるの・・・?
「ウミガメのスープ」・・・とある男が、ウミガメのスープにまつわる話を語り出す。男はウミガメのスープを飲み、自殺を決めたらしい。その決意には、彼の悲惨な過去が関係していて・・・・・
<ウミガメのスープを飲んだ男が自殺した。それはなぜ?>という、ネット上で有名なクイズをアレンジした話です。ひねりの効いた収録作が多い本作ですが、まさかあの有名な話が絡むとはね。でも実際、こういう状況になったら、死にたくなっても無理ないかもしれません。
「生き餌」・・・化物を倒してヒーローになろうと意気込む少年と、少年を励ます父。化物退治のため、少年は重要な役目を果たす必要があるのだが・・・・・
釣りの手ほどきをしているらしい父子の和やかな写真と、添付された小説の残酷さのギャップが凄いです。読む前と後で、写真に写る父親の顔が全然違って見えてくるから不思議・・・おまけにこれ、もう何代も同じことを繰り返してきたんじゃないかと深読みできるところが、尚更不気味でした。
「幼体」「成体」・・・ある夏、少年達はあぜ道で奇妙な生き物を見つける。彼らは生き物をその場に捨てて帰るのだが、十数年後、不幸な出来事が起こり・・・
繋がっている話のため、二話同時にご紹介します。元になっているのは、有名な現代怪談『くねくね』でしょう。あの話の意味不明な感じと、夏らしいノスタルジックな写真が、うまくマッチしていました。『くねくね』を知らないと、面白さが半減するかもしれないです。
一話一話の分量はものすごく少ないのですが、複数の話が繋がっていることもあるので、時間を置かず一気に読んだ方がいいかもしれません。中には、オチがやや難解で、本当に私の解釈で合っているのか分からない話もあったので、読んだ方達とぜひ語り合ってみたいですね。
繰り返しますが、タイトルまでしっかり読んで!度★★★★★
できれば全話の解説があるとありがたい度★★★★☆
道尾秀介さんの短編集ですね。
独特の雰囲気に意外な繋がりが面白そうです。
「ウミガメのスープ」が特に興味深いです。
昔、ウルトラマンで海獣のカメの卵のスープを飲んだハンターの悲惨な末路を思い出します。
深木章子さんの「灰色の家」読み終えました。
高級老人ホームの実態をリアルタイムで語っていましたが、少しインパクトに欠ける気がしました。
どちらかといえばホラー寄りで、オチの考察がやや難解な話も多いのですが、私はそういう作品が好きなのでビビッときました。
「灰色の家」、来週ブログに投稿予定です。
「敗者の告白」「鬼畜の家」などに比べると、衝撃度という点では少し劣るかもしれませんね。
ただ、私は君原継雄シリーズが好きなので、彼の探偵ぶりを見ることができて嬉しかったです。