「母親の愛」は、しばしば「無償の愛」「海より深い」といった表現をされます。見返りを求めず、自分の命すら顧みず、ただひたすらに我が子を想う。それは確かに愛情以外の何ものでもないでしょう。
でも、くれぐれもご用心。美しく崇高であるはずの母の愛が、時に暴走し、狂気へと変わっていくこともあるのです。今日ご紹介するのは、アニメや映画の制作活動でも活躍する、秋吉理香子さんの「聖母」です。
都内で発生した猟奇的な幼児殺人事件。事件を知った主婦・保奈美は、不妊治療の末に授かった子どもを守ろうと奔走する。一方、事件の犯人である高校生は、すでに次のターゲットを定めていた。幼い子どもを残虐な手口で殺す、その真の目的とは一体何なのか。果たして保奈美は愛する我が子を守ることができるのか。相次ぐ殺人事件の果てに浮かび上がる、驚愕の真実とは。
本の帯に「ラスト20ページ、世界は一変する」と大きく書かれていることからも分かる通り、叙述ミステリのジャンルに属する本作。それなりに警戒心を持って読み始めた私ですが、まんまと騙されてしまいました。トリック自体は良くも悪くもオーソドックスなものの、伏線のちりばめ方やミスリードの手法が見事なため、ついつい作者の術中にハマってしまいます。
凶悪事件の発生を知り、子どものため行動を起こす主婦。文武両道で容姿端麗ながら幼児を殺し続ける高校生。事件解決に向けて捜査を行う二人の刑事。物語は、三者の視点で進みます。この三つの視点の切り替わり方がなかなか秀逸で、ラストのトリックを盛り上げるのに一役買っています。また、刑事二人組のキャラが魅力的なところも、推理小説好きとしては嬉しいですね。この二人、ぜひ別作品にも登場してほしいです。
さらに本作の場合、少年犯罪の取り扱いや強姦罪に対する認識など、メイントリック部分以外の描写も丁寧です。特に印象的だったのは、主婦が過去の不妊治療を振り返るシーン。不妊治療による心身への負担、悪気はないが鈍感な夫、妊娠が叶っても出産に至らない理不尽さなど、読んでいて胸が痛くなりそうでした。
幼児を狙った殺人事件という話の展開上、グロテスクな場面も多く、苦手と感じる方もいるかもしれません。ですが、どんでん返しのミステリが好きなら、一読の価値があること間違いなし。主婦が呟く「この子を、娘を、絶対に守ってみせる」という言葉の意味を、ぜひ確かめてみてください。
母の愛は深すぎる度★★★★★
最後には本当にびっくりさせられる度★★★★☆
こんな人におすすめ
・どんでん返しのミステリーが好きな人
・母子の絆を扱った小説が好きな人
強烈なイヤミスに2度読まないと理解出来ない見事などんでん返し~衝撃的な作品でした。例え裏をかいても巧みに工作して証拠隠滅しても警察は甘くないことも思い知らさました。
一度読み終えた後、オチを理解するため即再読しました。
改めて読み返すと、あちこちにしっかり伏線は張ってあるんですよね。
あの刑事コンビはいいキャラしていたので、また出てきてほしいです。