ペットを飼うことは、ここで書ききれないほどの幸せをもたらしてくれます。毎日同じ屋根の下で寝起きし、食事をし、一緒に遊んだり、気まぐれに振り回されたり、甘えておねだりされたり・・・・・こんな風に家族として過ごしていれば、ペットの死により心を病む人がいるというのも頷けます。
ですが、ペットがもたらすのは喜びばかりではありません。どんな物事もそうであるように、辛いこと、大変なことも山ほどあります。体力的な辛さとか、精神的なプレッシャーとか、色々ありますが、突き詰めていけば最終的にお金の問題になるのではないでしょうか。動物を飼うためにはふさわしい住環境や餌を準備しなくてはなりませんし、病気や怪我をするたび、高額の医療費がかかります。こうやって列挙しただけでは苦労が分かりにくいかもしれませんが、この本を読めば少しはイメージが湧くかも・・・・・真梨幸子さんの『まりも日記』です。
こんな人におすすめ
猫を絡めたイヤミスが読みたい人
衝動買いした猫に振り回される貧乏作家、墓地見学に出かけた作家を襲う罪と罰、離婚後に始めた田舎暮らしの意外な顛末、売れっ子となった作家が出くわす不審な出来事、あまりに非常識な習慣を持つ男の運命・・・猫に運命を左右される人間たちの悲喜劇を描く、傑作<猫>イヤミス短編集
著者である真梨幸子さんは実際に猫を飼っており、猫との日々を綴ったエッセイも執筆されています。そのせいか、最初、本作をエッセイ第二弾と思って読み始めた読者も多いのではないでしょうか。かくいう私もその一人なのですが、蓋を開けてみれば、いつもの真梨節全開のイヤミス短編集でした。とはいえ、著者最愛の猫が絡んでいるせいか、真梨作品の中でも雰囲気は軽め。どん底生活を送る貧乏作家の名前が<由樹マリコ>なことをはじめ、遊び心がふんだんに詰まった作品だと思います。
「まりも日記」・・・犬を飼うことが夢だったにも関わらず、ペットショップで売れ残りの猫<まりも>を衝動買いした主人公。いざ猫との生活を始めてみると、その気まぐれさや可愛さにすっかり魅了されてしまう。だが、まりもが来たことにより、もともと貧しかった生活がさらに困窮していき・・・・・
前書きに書いた、<動物を飼うことによる苦労>がこれでもかと描かれたエピソードです。というか、収録作品中、動物飼いの金銭的負担が語られるのはこの話くらいなものなのですが、第一話であること、その描写があまりに切実なことで、ものすごいインパクトがあります。貯金はほぼ底を尽いているのに、つい喜ぶ顔見たさに高額の餌を買ってしまう気持ち、猫好きなら理解できるのではないでしょうか。
「行旅死亡人~ラストインタビュー~」・・・ベテラン作家・平間唯子はインタビューの中で、自身の唯一のミステリー作品について語り出す。それは共同墓を買った作家が墓地の見学に出かけ、なりゆきで人を殺すという内容だ。インタビュアーは、そこに唯子の実体験が織り込まれていると指摘して・・・・・
作中作『カロート』に出てくる編集者・クラタがめちゃくちゃ不愉快!やることなすこと無自覚に人を苛つかせる様子がすごくリアルで、凶行に走る主人公の気持ちも分かるかも・・・と思っちゃいます。ただ、これはあくまで作中作。その後、実際に起こる惨劇と皮肉な真相にびっくりさせられました。
「モーニング・ルーティン」・・・大震災の発生、その後の流産という経緯を経て離婚した夫婦。痛手から立ち直れない主人公は、親の勧めで田舎への移住を決行した。引っ越し先の家には猫が住み着いていたが、意外に可愛く、主人公はすっかり夢中になる。近隣住民曰く、主人公の家に越してくるのがこれで四人目らしいが・・・・・
一番ミステリー色の濃い作品だと思います。事件らしい事件が起こるわけではないのですが、序盤からさりげなく叙述トリックが仕掛けられているんですよ。オチを知ってから読み返してみると、確かに、〇〇は××だというヒントがちらほら・・・でも、人死にのような取り返しのつかない悲劇は起こっていないし、この主人公達はそこそこ真っ当に生きていける気がします。
「ある作家の備忘録」・・・著作が大当たりし、一躍人気作家の仲間入りを果たした主人公。裕福な生活をするようになって思い出すのは、震災の日、行方不明になってしまったまりものことだ。だが、しんみりする間もなく、身辺で不審な出来事が相次いで・・・・
第一話の主人公が、再び主人公となって登場します。彼女の身の回りで起こるのは、マンション敷地内での排泄物放置事件に鳩による異常な量の糞害、騒音や入居者の腐乱死体発見といった嫌な出来事の数々。特に排泄物云々の下りは本当に不快で、読みながらげんなりしてくるほどです。それはそうと、猫を愛するがゆえに主人公が語る「猫は人生そのものを乗っ取ってしまう」という言葉、やたら重みがありました。
「赤坂に死す」・・・キャバ嬢にねだられるまま、高額の猫を買ってやった会社員。購入時は気づかなかったが、その猫は自身が過去に夢中になった野良猫に酷似している。どうにかして自分のものにしたいが、肝心の猫はすでにキャバ嬢に買い与えてやった後。悩んだ末、交渉力のある同僚に頼み、猫を買い戻そうと試みるが・・・
あー、こう繋がるのね!と納得。視点がボンボン会社員から同僚に移った時には何とも思いませんでしたが、最後まで読むと「ある作家の~」との接点が見えます。でも、君、いくら生理現象とはいえその癖はだめだよ・・・お食事中の方には決して見せられない悪癖のせいで、悲惨な末路を迎えてもあんまり同情できませんでした。
一話一話の間に「閑話」が入っており、各話に出てくる猫同士の会話が描かれます。これがすごく皮肉が効いている上にユーモラス。人間達が散々な目に遭っていても、猫はそこそこ図太くやっているようだから、まあ、いっか!と思わされちゃいます。個人的にツボだったのは、猫用おやつ<ちゅ~る>を麻薬扱いしている点。いや、確かにあの猫への吸引力は麻薬並だけどね(笑)
フィクション?ノンフィクション?区別がつかない・・・度★★★★☆
あんまりグロくないから安心です度★★★★★
猫のストーリーは好きですが真梨幸子さんと聞くと「三匹の子豚」のような強烈で衝撃的な内容を予測します。
自分で飼っている猫のエッセイまであるのは興味深いです。
夏目漱石の「吾輩は猫である」有川ひろの「旅猫リポート」「みとりねこ」とは違った猫目線の内容も楽しみです。
相変わらずのイヤミスでしたが、「三匹の子豚」などと比べると、ずっと軽妙な感じでした。
真梨幸子さんは猫好きだから、猫に関する物語でドロドロ悲惨な展開にはしたくなかったのかな、と勝手に想像しています。
要所要所の猫たちのやり取りにはニヤリとしちゃいましたよ。
真梨幸子さんにしては比較的軽いイヤミスですが自分自身まで殺してしまうとはなかなかえげつなさが出ていると感じました。
最後に登場したボンボンサラリーマンの最期も真梨幸子さんらしい容赦のなさが見られます。
容赦ない場面にコミカルな要素を入れて違和感がないところが良かったですね。
猫たちも意外といろいろ考えて複雑な思考があるかも知れないと思いました。
まさしくネコミスでした。
本日、ワクチン接種の副反応は殆どなく仕事を終えました。
接種後のお仕事、お疲れ様です。
副反応は殆どなかったとのこと、何よりです。
さしもの真梨幸子さんも、大好きな猫をテーマにした作品を陰鬱ドロドロにはしにくかったのかもしれませんね。
人間達が結構悲惨な目に遭う一方、猫はどっこい図太く生きていきそうなところが笑えます。
案外、本当にあんな会話をしていたりして!?