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「慈雨」 柚月裕子

「お遍路」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。弘法大師の足跡を辿って四国八十八カ所を巡ることで、功徳を積むために行われます。一昔前は徒歩で巡るしか移動手段がありませんでしたが、今は車やバスツアーでの移動もあるようですね。

お遍路に関する小説は色々ありますが、私が真っ先に思い浮かべるのは松本清張の『砂の器』。故郷を追われた親子が遍路する姿が印象的でした。この場面の印象があまりに強いからか、私はお遍路という言葉を聞くと、暗く悲しいものを連想してしまいます。ですが、最近読んだ小説の影響で、少し印象が変わってきました。柚月裕子さん『慈雨』です。

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「永遠の途中」 唯川恵

あの時、違う選択肢を選んでいたら・・・・・あの人のような生き方をしていれば・・・・・誰でも、そんな空想をした経験があると思います。私自身、けっこう気にしがちな性格ですので、自分の選択を振り返ってはくよくよしてしまうことも多いです。

「隣の芝生は青い」の言葉通り、自分がいない場所ほど美しく、自分が持たない物ほど素晴らしく思えてしまうものなのでしょう。今日は、そんな人の心の複雑さを描いた作品をご紹介します。恋愛小説の名手として名高い唯川恵さん「永遠の途中」です。

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「あなたには帰る家がある」 山本文緒

結婚してもときめきを忘れたくない。恋する心を持ち続けたい。ふと、そう夢想してしまう瞬間ってあると思います。その相手が配偶者なら問題なし。ですが、相手が他人となると、それはすなわち「不倫」になります。

現実で不倫をする人間は軽蔑の対象となりますが、不倫をテーマにしたフィクションは面白いもの。それこそ『源氏物語』の時代から、人の配偶者と関係する作品はたくさん創られてきました。そんな中、一番私の印象に残っている不倫小説はこれです。直木賞受賞作家である山本文緒さん『あなたには帰る家がある』です。

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「あしたの君へ」 柚月裕子

法曹界を舞台にした作品って面白いですよね。有名なところでは横山秀夫の「半落ち」、海外ならジョン・ディクスン・カーの「火刑法廷」やジョン・グリシャムの「評決のとき」、ゲームですが「逆転裁判」シリーズなどがそれに当たります。複雑な司法問題と、絡み合う人間模様に、手に汗握らずにはいられません。

そして、法廷での攻防戦を描いた作品以外にも、面白いものはたくさんあります。今日取り上げるのは、「家庭裁判所調査官」という職業を扱った作品です。「このミステリーがすごい!」大賞受賞者である、柚月裕子さん「あしたの君へ」です。

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「ラストナイト」 薬丸岳

犯罪を扱った物語を読む時、一番興味を持つ点はどこでしょうか。犯人の意外な正体?複雑怪奇なトリック?私の場合、それは「動機」です。登場人物たちはなぜ罪を犯し、犯罪者になったのか。その理由に惹かれてやみません。

金や復讐、痴情のもつれなど、一目見れば分かるような理由で犯行に走る者がいる一方、どうにも不可解な理由で罪を犯す者もいます。というわけで、今日はこの作品をご紹介しましょう。犯罪をテーマにした小説を数多く手がける薬丸岳さん「ラストナイト」です。

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「奥様はクレイジーフルーツ」 柚木麻子

夫婦関係を続けるに当たって、一番大事なものって何でしょうか。恋愛感情?信頼関係?経済力?聞く人ごとに、違った答えが出てきそうです。

そして、夫婦生活を考える上で切っても切り離せないのが、ズバリ、セックス問題。もし、夫婦間で性生活がなくなってしまったら?答えの出ないセックスレス問題について描いているのが、柚木麻子さん「奥様はクレイジーフルーツ」です。

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