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「逢魔」 唯川恵

本は好きだから国語も好き。でも古典は苦手・・・という人って多いのではないでしょうか。かくいう私もそうでした。何と言っても文体が違いますし、<音きこゆ>だの<さう思へ>だのといった文章を訳するだけで一苦労。学生時代の古典の先生が結構怖かったこともあり、作品を楽しむより授業を無事終えられるかどうかばかり気にしていました。

それが変わったのは、大和和紀さんの『あさきゆめみし』を読んだことがきっかけです。概ね原作の『源氏物語』に忠実ながら、現代でも分かりやすいオリジナルの描写やエピソードが挟まれていたことで、物語の世界観をすんなり受け入れることができました。この頃から段々と「古典も面白いじゃん!」と思い始めましたし、古典を下敷きにした創作物への興味も生まれました。今回ご紹介するのも、古典をモチーフにした小説です。唯川恵さん『逢魔』です。

 

こんな人におすすめ

・男女の愛憎をテーマにしたホラーが好きな人

・古典をアレンジした小説に興味がある人

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「Iの悲劇」 米澤穂信

私の居住地は地方都市なので、公共施設に行くと<Uターン・Iターン相談会><Uターン・Iターンフェア>などといったポスターをよく目にします。Uターンとは、何らかの理由で出身地を離れた人が、再び故郷に戻って働くこと。Iターンとは、出身地以外の土地で仕事を得て暮らすことを意味します。

どちらもそれぞれ楽しいこともあれば辛いこともあるのでしょうが、まるで馴染みのない土地で一から生活基盤を作らなければならないという意味では、Iターンの方が大変な気がします(その分、しがらみがないというメリットもありますが)。先日読んだ小説では、Iターンにまつわる悲喜こもごもが描かれていました。今日ご紹介するのは、米澤穂信さん『Iの悲劇』です。

 

こんな人におすすめ

限界集落を舞台にしたミステリーが読みたい人

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「放課後の音符(キイノート)」 山田詠美

「学生時代の内、一番楽しかったのはいつ?」と聞かれたら、私は「高校時代」と答えます。中学時代はぎすぎすしていて大変なことの方が多かったし、大学時代は格段に自由が増えた分、密度は薄まったかな、というのが正直な感想。その点、高校時代はそれなりに濃密ではあったけど、中学校ほど息苦しくなく、振り返ってみると楽しい思い出の方が多いです。

中学生ほど子どもではないけれど、まだ大人には程遠い。高校時代を扱った小説は、そんな不安定さをテーマにしたものが多いです。ジャンルも幅広く、部活動を題材にしたものなら平田オリザさんの『幕が上がる』や誉田哲也さんの『武士道シックスティーン』、ミステリーなら今邑彩さんの『そして誰もいなくなる』や辻村深月さんの『名前探しの放課後』、ホラー寄りなら秋吉理香子さんの『暗黒女子』や恩田陸さんの『六番目の小夜子』などなど、映像化された作品も少なくありません。当ブログではミステリーやサスペンス系の作品を取り上げることが多いので、今回は少し趣向を変え、恋愛小説をご紹介したいと思います。山田詠美さん『放課後の音符(キイノート)』です。

 

こんな人におすすめ

女子高生の恋愛模様を読みたい人

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「看守眼」 横山秀夫

学生時代、進路指導の先生から「どんな職業でもいい。プライドと責任を持てる仕事をしてください」と言われたことがあります。この言葉の意味が少しずつ分かってきたのは、恥ずかしながら社会人になってから。会社員だろうと自営業だろうと専業主婦(夫)だろうと、自分のやることに誇りを持っている人は素敵です。

そんな人々を主人公にした<お仕事小説>というジャンルがあります。天祢涼さんの『謎解き広報課』では田舎の町役場職員の、荻原浩さんの『神様からひと言』では民間企業のお客様相談室の、坂木司さんの『シンデレラ・ティース』では歯科医受付の、様々な葛藤や挫折、やり甲斐や楽しさが描かれました。今日ご紹介するのは、普段は日が当たりにくい仕事の悲喜こもごもをテーマにした作品です。元新聞記者という経歴を持つ、横山秀夫さん『看守眼』です。

 

こんな人におすすめ

様々な職業の主人公が出てくるミステリーが読みたい人

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「マジカルグランマ」 柚木麻子

創作作品を見ていると、「このキャラってステレオタイプだよね」と思うことがあります。たとえば<日本人>なら<努力家で慎み深く、自己主張が苦手>とか、<田舎者>なら<流行に疎く方言丸出しで喋り、お節介だが人情味がある>とか。現実には怠け者ではっきり物を言う日本人も、お洒落でクールな田舎者も大勢いるに決まっていますが、なんとなくこういうイメージが付いてしまっています。こういう固定観念やレッテルのことを<ステレオタイプ>と言います。

映画や小説などを創る上で、このレッテルは役立つこともあります。分かりやすいキャラクターがいた方が物語が盛り上がるという側面も確かにあるでしょう。ただし、一つのイメージがあまりに浸透することで、そのイメージ通りに動かない人達が嫌な思いをさせられるというマイナス面もあります。はっきり自己主張しただけで「日本人なのに我が強い」などと言われたら、誰だって不愉快な気持ちになりますよね。この作品を読んで、物事にレッテルを貼ることの意味を考えさせられました。柚木麻子さん『マジカルグランマ』です。

 

こんな人におすすめ

シニア世代の奮闘記が読みたい人

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「本と鍵の季節」 米澤穂信

子どもの頃から本好きだった私は、当然ながら図書室や図書館も大好きでした。本屋も好きですが、やはり<その場で好きなだけ本が読める>というシチュエーションは魅力です。学生時代の委員会は当然のように図書委員。紙の劣化防止のためエアコンが設置されていた快適さもあり、半ば<ぬし>扱いされるほど図書室に入り浸っていたものです。

ここでふと思うのは、<図書館>をテーマにした小説は数多くあれど、<図書室>がテーマのものが意外に少ないということです。私が今まで読んだことのある小説に限って言えば、瀬尾まいこさんの『図書館の神様』と竹内真さんの『図書室のキリギリス』くらいしか思いつきません。ですから、この作品では図書室がメインの舞台と知り、読むのを楽しみにしていました。米澤穂信さんの『本と鍵の季節』です。

 

こんな人におすすめ

ほろ苦い青春ミステリーが読みたい人

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「儚い羊たちの祝宴」 米澤穂信

英語圏には「羊とヤギを分ける」ということわざがあります。聖書に由来することわざで、「善(羊)と悪(ヤギ)を分ける」という意味。このことわざの中で、羊は善の象徴です。日本でも、羊にはなんとなく「大人しく温厚」というイメージがありますね。

ですが、油断は大敵。「羊の皮をかぶった狼」などという言葉もあるように、羊の内面が本当に大人しく穏やかとは限りません。もしかしたら、優しげな顔の下には思わぬ本性が隠れているのかも・・・・・今回取り上げる本には、そんな恐ろしい羊たちが登場します。米澤穂信さん『儚い羊たちの祝宴』です。

 

こんな人におすすめ

皮肉の効いたイヤミス短編小説が読みたい人

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「テティスの逆鱗」 唯川恵

美しくなりたい。そう思ったことが一度もない女性は、恐らくいないでしょう。男性にもそういう願望はあるでしょうが、やはり美に対する欲求は女性の方が大きい気がします。かつて、自分の容姿に満足できない人間は、服装や化粧で美しさを磨くしかありませんでした。しかし、現代ではそれ以外の方法があります。美容整形です。

患者への負担が少ない<プチ整形>の発展もあり、美容整形は美を手に入れるための一般的な方法になりつつあります。ですが、人間の欲とは限りないもの。美への欲求に憑りつかれ、理性を失う患者がいたとしたら。そして、その限りない欲求を叶える手段として美容整形を選んだら。果たしてどんな悲劇が待ち受けているのでしょうか。唯川恵さん『テティスの逆鱗』では、美しさへの執念に憑りつかれた女性たちの狂気が描かれています。

 

こんな人におすすめ

美容整形にまつわるサイコホラーが読みたい人

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「けむたい後輩」 柚木麻子

記憶にある限り、今まで生きてきて「先輩」と言われたことはほとんどありません。中学校の部活では新入部員が入って来ず、高校は私が帰宅部。社会人になってからは後輩ができたものの、会社では「名字+さん」呼びが一般的でした。別に不自由はありませんでしたが、可愛い後輩に「先輩、先輩」と慕われるというシチュエーションには憧れちゃいますね。

小説の世界にはたくさんの先輩後輩が登場します。有栖川有栖さんの『学生アリスシリーズ』は頼もしい先輩が登場する青春ミステリ、秋吉理香子さんの『暗黒女子』は美しい女子高生を巡る愛憎劇を描いたイヤミス、森見登美彦さんの『夜は短し歩けよ乙女』は後輩に恋した大学生が主人公の恋愛小説です。どの先輩後輩の関係性も様々、愛や尊敬や信頼もあれば、憎しみや嫉妬や軽蔑もありました。では、この作品に出てくる先輩後輩はどうでしょうか。柚木麻子さん『けむたい後輩』です。

 

こんな人におすすめ

ほろ苦い成長物語が読みたい人

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「ねじまき片想い~おもちゃプランナー・宝子の冒険~」 柚木麻子

おもちゃが大嫌いという人ってあまりいない気がします。「テレビゲームは苦手」「パズルは好きじゃない」などという好みはあるにせよ、誰しもお気に入りだったおもちゃの一つや二つあるでしょう。かくいう私も子どもの頃はおもちゃ屋さんに行くのが大好き。今でさえ、時間がある時は、ショッピングセンターのおもちゃ売り場をぶらぶら歩くくらいです。

子どもを、時には大人をもワクワクさせるおもちゃの数々。一体どんな人が、そんなおもちゃを考え出しているのでしょうか。今回は、魅力的なおもちゃの作り手が登場する作品を取り上げたいと思います。柚木麻子さん『ねじまき片想い~おもちゃプランナー・宝子の冒険~』です。

 

こんな人におすすめ

元気をもらえるお仕事・恋愛小説が読みたい人

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