や行

はいくる

「愛に似たもの」 唯川恵

愛とは決して後悔しないこと、最後に愛は勝つ、愛は地球を救う・・・愛に関する有名な台詞や歌詞、格言は数えきれないほど存在します。愛はキリスト教で最大のテーマとされていますし、日本においても、年齢や性別の枠を超えた深く広い慈しみの感情として捉えられることが多いです。お金や権力を求めるのは何となく卑しい気もしますが、<愛のため>というお題目があると、気高く誠実なもののような気がしますよね。

ですが、これはちょっと危険な考え方なのかもしれません。何しろ愛には決まった形があるわけでもなく、人によって無限に捉え方が変わるもの。本人にとっては<愛>でも、他人からすればまったく違うものだということもあり得ます。この作品では、愛のように見えてどこか違う、様々な感情が描かれていました。唯川恵さん『愛に似たもの』です。

 

こんな人におすすめ

女性のどろどろした感情をテーマにした小説が読みたい人

続きを読む

はいくる

「方舟」 夕木春央

ミステリーやホラーのジャンルが好きで、<クローズド・サークル>を知らない方は、恐らくいないでしょう。単語を聞いたことがなくても、「外界と往来不可能な状況で事件が起こる様子を描いた作品のことだよ」と説明されれば、きっとピンとくると思います。嵐の孤島や吹雪の山荘、難破中の船・・・脱出困難な状況で怪事件が起き、「誰が犯人なのか」「次は自分が殺されるのか」と疑心暗鬼に駆られる登場人物達の姿は、多くのミステリーファンをハラハラドキドキさせてくれます。

ただ、現実的な目線で見てみると、クローズド・サークル作品には「なんでわざわざこんな状況で事件を起こすの?」という疑問がついて回ります。なるほど、確かに脱出困難な状況ならば、標的を逃さず仕留めることができます。その標的のことが憎い場合、より恐怖と不安を与えられるというメリットもあるでしょう。反面、外部と行き来できない分、犯人自身も逃亡できなかったり、犯行を見破られるリスクも高まったりします。よって、クローズド・サークル作品を面白くするためには、この辺りをどう上手く料理するかが重要な鍵となるわけです。でも、こんな形でクローズド・サークルを作った作家さんは、この方が最初ではないでしょうか。今回ご紹介するのは、夕木春央さん『方舟』です。

 

こんな人におすすめ

・クローズド・サークル系のミステリー小説が好きな人

・絶望感溢れるどんでん返しが読みたい人

続きを読む

はいくる

「とける、とろける」 唯川恵

人間の三代欲求は、<食欲><睡眠欲><性欲>と言われています。これを緊急度合という基準で考えると、強いのは睡眠欲、食欲、性欲の順なのだとか。人は睡眠欲や食欲が満たされないと、いずれ体力が尽きて死んでしまいますが、性欲は満たされなくてもすぐ死ぬことはありません。子孫繁栄にしたって、人工的な手段を使えば、欲求云々を抜きにしても可能と言えば可能です。そう考えると、これは確かに正しい順位なのでしょう。

ですが、これはあくまで<緊急性>を基準とした話。<緊急ではない=なくていい>というわけではないのが、この世の不可思議なところです。人類最古の職業は売春業と言われているだけあって、生物と性欲との間には切っても切り離せない関係があります。今回は、そんな性愛の奥の深さをテーマにした作品をご紹介します。唯川恵さん『とける、とろける』です。

 

こんな人におすすめ

女性目線の官能小説に興味がある人

続きを読む

はいくる

「終点のあの子」 柚木麻子

どんな物事であれ、最初の一歩は大事です。最初の外食、最初の登校、最初のデート、最初の出勤・・・結果が成功するにせよ失敗するにせよ、その人にとって印象に残る出来事であることは間違いありません。

小説家にとって最初の一歩、それはデビュー作です。プロとしての人生を歩み出した記念作なわけですから、小説家本人だけでなく、読者からしても印象的な作品であることが多いですよね。この方のデビュー作も、初読みから何年経っても強く印象に残っています。柚木麻子さん『終点のあの子』です。

 

こんな人におすすめ

女子高生のもどかしい人間模様を描いた青春小説が読みたい人

続きを読む

はいくる

「ブレイクニュース」 薬丸岳

近年、インターネット文化の発展ぶりは目を見張るものがあります。世に現れた当初は<調べ物をするのに役立つシステム>程度の扱いだった気がしますが、今やテレビや新聞、電話などに取って代わる勢いです。特に<技術があれば一般人でもテレビのような作品を作れる>という点から、ネット動画の数は日に日に増える一方。私自身、いくつか贔屓にしているチャンネルがありますが、中にはテレビ以上の企画力や構成力を感じるものもあって驚かされます。

とはいえ、ネット動画ばかりを一方的に賛美するわけにはいきません。この手の動画が魅力的なのにはいくつか理由がありますが、その一つは、プロが作るテレビ番組と違って自由度が高いからです。自由とは、捉え方を間違えれば暴走してしまうもの。場合によっては人の人生を大きく左右し、最悪、破壊してしまうことだってあり得ます。この作品を読んで、そんなことを考えさせられました。薬丸岳さん『ブレイクニュース』です。

 

こんな人におすすめ

SNS社会の闇をテーマにしたサスペンス小説が読みたい人

続きを読む

はいくる

「刑事のまなざし」 薬丸岳

ミステリーないしサスペンス作品に最も多く登場する職業は何でしょうか。仮にランキングを作ったとしたら、上位三位の中には<警察関係者>が入っていると思います。というか、上記のジャンルの作品で、主要登場人物の中に警察関係者が一人もいないケースの方がレアでしょう。

ただ、よく登場する職業なだけあって、マンネリ化を避けるためには、魅力的かつ個性的な味付けが必要となります。例えば、赤川次郎さんの『四字熟語シリーズ』に登場する大貫警部は、恐ろしく食い意地が張っている上に傲岸不遜。中山七里さんの『犬養隼人シリーズ』に登場するする犬養隼人は、元役者志望という経歴に加え、男の嘘には敏感だが女のそれは大の苦手という個性の持ち主。この作品に登場する刑事も、上記の二人と比べ強烈さでは負けるかもしれませんが、目を離せなくなる存在感を持っていました。薬丸岳さん『刑事のまなざし』です。

 

こんな人におすすめ

人間の悲哀を描いたミステリーが読みたい人

続きを読む

はいくる

「ため息の時間」 唯川恵

小説にせよ漫画にせよ映画にせよドラマにせよ、フィクションの世界での恋愛は、女性メインのストーリーになりがちです。男性より女性の方が恋愛のあれこれに対する関心度合が高く、読者・視聴者として取り込みやすいからでしょうか。そして、メインターゲットが女性である以上、女性中心の物語にした方がより共感を呼ぶのかもしれません。

ですが、当たり前の話ながら、男性だって恋をします。それは小説内でも同じで、金城一紀さんの『GO』、村山由佳さんの『天使の卵』、盛田隆二さんの『ありふれた魔法』などでは、恋に落ちた男性の悲喜こもごもが丁寧に描かれていました。そう言えば、この方にも男性の恋愛をテーマにした作品があるんですよ。唯川恵さん『ため息の時間』です。

 

こんな人におすすめ

愛に翻弄される男達の短編集が読みたい人

続きを読む

はいくる

「王妃の帰還」 柚木麻子

女子校という言葉を聞いて、どんなイメージが思い浮かぶでしょうか。お嬢様達が優雅に微笑み合う女の園か。あるいは、大奥ばりの権謀術数が渦巻く伏魔殿か。実際に女子高出身の私に言わせれば、どちらも否。共学校と同じく、楽しいこともあれば嫌なこともある、普通の学校です。ただ、同世代の異性の目がない分、女の良い所悪い所がより強調されるという面はあると思います。

私は女同士の人間模様をテーマにした作品が大好きなので、女子校を舞台にした小説もたくさん読みました。秋吉理香子さんの『暗黒女子』、今邑彩さんの『そして誰もいなくなる』、若竹七海さんの『スクランブル』等々、どれも面白かったです。例に挙げたのは、どちらかというとブラックな味わいの作品ばかりなので、今回は後味の良い青春小説を取り上げたいと思います。柚木麻子さん『王妃の帰還』です。

 

こんな人におすすめ

波乱万丈な女子中学生の青春小説を読みたい人

続きを読む

はいくる

「天に堕ちる」 唯川恵

好意を抱く、心惹かれる、ときめく、思いを寄せる・・・誰かに恋愛感情を抱く表現は色々ありますが、一番一般的なのは<恋に落ちる>という言い方だと思います。この表現の由来は不明ですが、理性ではどうにもならない心理状態にすっぽりはまる様子が<落ちる>と言い表されるのかもしれません。実際、恋が原因でのっぴきならない状態に陥ってしまった人は現実にも大勢存在します。

当然、容易く抜け出せない恋愛をテーマにした小説も数えきれないほどあります。辻仁成さんの『サヨナライツカ』、東野圭吾さんの『夜明けの街で』、山本文緒さんの『恋愛中毒』など、三十代以上の男女を主人公にした、どちらかというと大人向けの作品が多いですね。今回ご紹介する小説にも、どうにもならない恋の沼にはまりこんでしまった男女が出てきます。唯川恵さん『天に堕ちる』です。

 

こんな人におすすめ

泥沼のような恋愛模様を描いた短編集が読みたい人

続きを読む

はいくる

「逢魔」 唯川恵

本は好きだから国語も好き。でも古典は苦手・・・という人って多いのではないでしょうか。かくいう私もそうでした。何と言っても文体が違いますし、<音きこゆ>だの<さう思へ>だのといった文章を訳するだけで一苦労。学生時代の古典の先生が結構怖かったこともあり、作品を楽しむより授業を無事終えられるかどうかばかり気にしていました。

それが変わったのは、大和和紀さんの『あさきゆめみし』を読んだことがきっかけです。概ね原作の『源氏物語』に忠実ながら、現代でも分かりやすいオリジナルの描写やエピソードが挟まれていたことで、物語の世界観をすんなり受け入れることができました。この頃から段々と「古典も面白いじゃん!」と思い始めましたし、古典を下敷きにした創作物への興味も生まれました。今回ご紹介するのも、古典をモチーフにした小説です。唯川恵さん『逢魔』です。

 

こんな人におすすめ

・男女の愛憎をテーマにしたホラーが好きな人

・古典をアレンジした小説に興味がある人

続きを読む