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「女が死んでいる」 貫井徳郎

以前、別の記事で、図書館の予約システムについて書きました。読みたい本を確実に読めるよう貸出予約を入れるというもので、当然、人気の本には何百件もの予約が殺到します。となると、なかなか本を借りにこない予約者をいつまでも待ち続けるわけにもいかないので、大多数の図書館では予約本の取り置き期間というものを設けています。自治体によって違うようですが、基本、十日~二週間というケースが多いようですね。

取り置き期間内に本を引き取りに行ければ万事オーケー。しかし、体調や仕事、身内の用事など様々な事情で期間内に図書館に行くことができず、涙を飲んで予約をキャンセルせざるをえないことだってあるでしょう。私自身、そういう憂き目にあった経験がありますが、この本は期間終了間際にどうにか時間を作り、図書館に引き取りに行くことができました。それがこれ、貫井徳郎さん『女が死んでいる』です。

 

こんな人におすすめ

どんでん返しが仕掛けられたミステリー短編集が読みたい人

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「TAS 特別師弟捜査員」 中山七里

子どもの頃から推理小説好きだった私には、憧れのシチュエーションがあります。それは<警察の信頼を得て捜査協力を求められる少年少女>というもの。現実にはおよそあり得ないんでしょうが、「もし自分がこんな風に事件に関わることができたなら・・・」とワクワクドキドキしたものです。

この手の設定で一番有名なのは赤川次郎さんの作品でしょう。『三姉妹探偵団シリーズ』『悪魔シリーズ』『杉原爽香シリーズ』などには、刑事顔負けの推理力・行動力を発揮するティーンエイジャーがたくさん登場します。人気を集めやすい状況だからか、長期シリーズ化することも多いようですね。だったら、この作品も今後シリーズ化されるのかな。中山七里さん『TAS 特別師弟捜査員』です。

 

こんな人におすすめ

高校生探偵が登場する学園ミステリーが読みたい人

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「能面検事」 中山七里

別の記事でも書きましたが、フィクションの世界において、被告人のために戦う弁護士はやや特殊なポジションであり、強烈な個性付けがなされることが多いです。一方、これと対照的なのは、弁護士と法廷で争う検事。良くも悪くも生真面目な法の番人として描かれがちな気がします。

とはいえ、小説の中の検事全員が杓子定規な堅物ばかりというわけではありません。高木彬光さんの『検事霧島三郎シリーズ』や和久峻三さんの『赤かぶ検事シリーズ』には個性豊かな検事が登場しますし、柚月裕子さんの『佐方貞人シリーズ』でも主人公・佐方の検事時代を描いた作品があります。私が最近読んだ検事小説は中山七里さん『能面検事』。この検事もなかなかインパクトありました。

 

こんな人におすすめ

検事が主人公の小説が読みたい人

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「いつか、ふたりは二匹」 西澤保彦

「人間が動物に変身する(逆もあり)」というのは、SFやホラーでお馴染みの設定です。お馴染みすぎて初めて見た変身ものが何だったか思い出せないくらいですが、記憶に残っているのは映画『ウルフ』。段々と狼に変わっていくジャック・ニコルソンの変貌ぶりが印象的でした。

人間が違う生き物に変身するというシチュエーションは、古今東西、たくさんの創作物で扱われてきました。青年が獣に変身する『美女と野獣』はその代表例ですし、フランツ・カフカの『変身』で主人公は巨大な毒虫に変身します。中島敦さんの『山月記』には、挫折の末に人喰い虎に変身する男が出てきますね。これらの作品の中で、登場人物達は人間の体を捨て、動物に姿を変える羽目になってしまいます。ですが、この作品の主人公の変身はちょっと違いますよ。西澤保彦さん『いつか、ふたりは二匹』です。

 

こんな人におすすめ

人の残酷さをテーマにしたミステリーが読みたい人

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「神のロジック、人間(ひと)のマジック」 西澤保彦

甘ったれで気弱な子どもだった私が怖かったもの、それは「親から離れてのお泊まり」です。幼稚園のお泊まり教室などはもちろんのこと、祖母の家へのお泊まりさえ途中で寂しくなり、夜に自宅に帰ったこともありました。小学校の修学旅行にも戦々恐々としながら参加し、いざ始まってみて「あれ、意外と楽しいじゃん」と思ったことを覚えています。

子ども達が親元を離れて寝起きする。考えてみれば、これってちょっと特殊なシチュエーションですよね。ただの合宿や寮生活なら問題ありませんが、もし何らかの事情で家族と一緒にいられない子ども達を隔離しているのだとしたら・・・?そんな不可思議な世界を描いた作品がこれです。西澤保彦さん『神のロジック、人間(ひと)のマジック』です。

こんな人におすすめ

叙述トリックの驚きを味わいたい人

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「腕貫探偵 市民サーヴィス課出張所事件簿」 西澤保彦

人はどんな時に役所を利用するのでしょうか。引っ越しや結婚、出産などによる諸々の手続き、各所へ提出する戸籍等の重要書類の請求、自治体が運営するイベントへの参加etcetc・・・ぱっと思いつくだけでも色々あります。最近は役所内の飲食施設も結構充実しているそうですから、そういうところを利用する人もいるかもしれません。

地域住民の味方となり、生活の手助けをすべき役所。悲しいかな、その役割放棄しているとしか思えないような事件もありますが、大多数の職員さんたちは使命を全うするため日々努力しているはずです。この作品に出てくる彼も同じこと。迷える人々に手を差し伸べ、的確なアドバイスを授けてくれます。西澤保彦さん『腕貫探偵 市民サーヴィス課出張所事件簿』です。

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「護られなかった者たちへ」 中山七里

貧富の差。日常生活の中でも頻繁に耳にする言葉です。この言葉を見聞きする時、どんな映像が思い浮かぶでしょうか。アフリカや中東などの開発途上国?江戸や明治といった昔の時代?それも間違いではありませんが、今この瞬間、平和なはずの日本国内にも貧富の差は存在します。

格差を解消するための制度は色々ありますが、その筆頭は生活保護でしょう。とはいえ、それは決して完璧とは言えない制度であり、様々なトラブルが起きています。先日、そんな生活保護にまつわる哀しい問題を扱った小説を読みました。中山七里さん『護られなかった者たちへ』です。

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「ウツボカズラの夢」 乃南アサ

ウツボカズラという植物をご存知でしょうか。東南アジアに多い食虫植物で、甘い蜜を餌に虫をおびき寄せ、壺のようになった体内に誘い込んで捕食するという習性を持っています。昔、テレビでウツボカズラの内部を調べるという企画を見たことがありますが、凄まじい数の虫を体内にため込んでいて驚いたものです。

甘い蜜をちらつかせてターゲットを誘い、食らいついて自分のものにしてしまうウツボカズラ。この生態から、ウツボカズラはしばしばフィクションの世界で「悪女」の象徴として登場します。最近の作品では、これを覚えている方が多いのではないでしょうか。二〇一七年に志田未来さん主演でドラマ化もされた、乃南アサさん『ウツボカズラの夢』です。

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「インターフォン」 永嶋恵美

「団地」という言葉ができたのは昭和十年代だそうです。住宅や工場を計画的に一カ所に集めて建設した地区、またはそこに立地している建造物のことで、住宅団地、工業団地、商業団地などがあります。「団地」と聞くと、住宅団地を真っ先に思い浮かべる人が多いのではないでしょうか。

多くの人や物が行き交う性質上、団地を舞台にした小説は数多く存在します。本間洋平さんの『家族ゲーム』、久保寺健彦さんの『みなさん、さようなら』など、映像化された作品も少なくありません。一つの建物内にたくさんの人が住み、様々な喜怒哀楽が渦巻く団地は、創作のテーマとして魅力的だからでしょうね。今日は、団地に巣食う闇を取り上げた短編集は紹介します。「映島巡」名義で漫画原作やゲームノベライズなども手がける、永嶋恵美さん『インターフォン』です。

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「静おばあちゃんにおまかせ」 中山七里

最近は元気なお年寄りが多いです。ただ体力的に元気なだけでなく、積み重ねてきた経験と知恵をもとに若者顔負けの活躍をするお年寄りには憧れちゃいますね。当ブログでもお年寄りが奮闘する本をいくつか紹介しましたが、それらはすべておじいちゃんが主役でした。

もちろん、おばあちゃんが活躍する小説もたくさんあります。世界的に有名なアガサ・クリスティの『ミス・マープル』シリーズを筆頭に、梨木香歩さんの『西の魔女が死んだ』、天藤真さんの『大誘拐』、松尾由美さんの『ハートブレイク・レストラン』エトセトラエトセトラ。どの作品にも個性豊かで魅力的なおばあちゃんが登場しますが、これに出てくるおばあちゃんも負けていません。中山七里さん『静おばあちゃんにおまかせ』です。

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