映画・ドラマ・漫画・小説などの創作物をよく見たり読んだりする人なら、どこかで一度はこの文句を見聞きしたことがあると思います。「この泥棒猫!」文字通り、物を盗んでいく猫のことですが、実際は<人の夫や恋人を奪う女性>に対して使われることが多いですね。
字面からして分かるように決していい意味ではなく、好印象を持つ人はまずいないでしょう。私自身、小説で泥棒猫タイプの女性キャラを見るとイライラムカムカする方なんですが、この作品を読んで考えが少し変わりました。こんな泥棒猫なら友達になりたいな。永嶋恵美さんの『泥棒猫ヒナコの事件簿 あなたの恋人、強奪します』です。
こんな人におすすめ
ライトな雰囲気のサスペンス小説が読みたい人
暴力を振るう彼氏と別れたい、恋人を奪った同僚を同じ目に遭わせてやりたい、浮気した継母に父と離婚してほしい、嘘つき男と付き合う姉に目を覚ましてほしい・・・・・オフィスCATには、今日も迷い悩む女性達からの電話がかかってくる。トラブル解決に臨むのは、敏腕エージェントのヒナコと見習いのカエデ。救いを求める女性たちのため、二人は日夜奔走する!
作者が永嶋恵美さんだということやタイトルから愛憎絡み合うサスペンスを想像してしまいますが、雰囲気は終始ライトでリズミカル。短編集ということもあり、さくさく軽快に読破することができました。『明日の話はしない』などで読者をどん底に突き落としてくれる永嶋さんですが、こういう軽快な作品も書くんですね。
「泥棒猫貸します」・・・別れ話が出て以来、暴力を振るうようになった彼氏に悩む梨沙。ひょんなきっかけからオフィスCATに頼ることにした梨沙は、早速、担当スタッフのヒナコとともに彼氏のもとへ向かい・・・・・
第一話ということもあり、ヒナコの手腕の見事さをこれでもかと見せつけてくれるエピソードです。オフィスCATが<泥棒猫>であって<別れさせ屋>ではないという描き方、なかなか面白いですね。前半でDV男の恐ろしさ・身勝手さがたっぷり出てくる分、ラストの展開に拍手喝采でした。
「九官鳥にご用心」・・・茜は、何でもかんでも自分の真似をする同僚・清美に辟易している。何より腹が立つのは、真似をしつつも茜よりセンス良く仕上げること。警戒心から恋人の存在を隠す茜だが、ある時、清美にバレてしまい・・・
髪型もインテリアも習い事も全部真似されれば、茜がイライラするのも至極当然。清美ってある意味、本当にやりたいことや好きなものがない、寂しい女性なんですよね。でも、冷静に考えるとこの話で一番悪いのって彼氏だよなぁ。それだけよく似た女同士で二股かける男の心理がよく分かりません。
「カッコーの巣の中で」・・・オフィスCATに持ち込まれた小学生からの依頼。それは、継母が浮気したので父親と別れさせたいというものだった。見習いスタッフ・カエデは果たして無事に依頼を完了することができるのか。
今度の依頼主はなんと小学生!小学生にしては大人びすぎだろ・・・と思わないでもないですが、いやいや、女の子ならこれぐらい早熟なのもあり得るかも?と思ったり。有能なヒナコとは対照的に、まだまだ未熟なところの多いカエデの奮闘ぶりも微笑ましかったです。この家族のその後が気になる!!
「カワウソは二度死ぬ」・・・美咲は、姉・知花の交際相手が気に入らない。知花は才色兼備な割に男運が悪く、今は川田という男を付き合っている。その川田は、かつて嘘ばかりつくのでカワウソと呼ばれていた男。美咲は川田の嘘を暴いてやろうとするのだが・・・
容姿にも才能にも恵まれ、妹の母代わりまで務めていた知花は、そのせいで逆にありのまま振る舞うことができなかったのかもしれませんね。一歩間違えれば姉妹の愛憎劇になりそうなところを、すっきり爽やかにまとめていたと思います。女のドロドロイヤミス大好物の私ですが、こういう後味のいい話だって好きなんですよ。
「マイ・フェア・マウス」・・・彼氏の母親から手切れ金を渡され、別れるよう言い渡された元風俗嬢・雪緒。彼の将来のため身を引く決心をするが、できれば傷つけずにお別れしたい。悩んだ末、雪緒は彼を強奪してくれるよう、オフィスCATに依頼をし・・・
医師となって大病院を継ぐ予定の彼氏(七歳年下)のため、愛情を抑えて別れを決める雪緒がいじらしいです。まあ、この状況で彼氏母にあんな言い方をされちゃ、誰だって気持ちが萎えるよな。だからこそ、一途に雪緒を想う彼氏は好感度大!今回担当となる見習い・カエデのお間抜けっぷりも含め、なんだか可愛らしいエピソードでした。
「鳥かごを揺らす手」・・・女子高生・柚奈はとある事情で家出をし、ネットで知り合った<泊め男>こと白石のもとで暮らしている。生活はいたって快適だが、徐々に柚奈は自分が監禁状態にあるのではと疑い始め・・・
収録作品中、一番サスペンス色の濃い話でした。柚奈のやっていることは危険すぎるし、本人にも気づかれないよう、対象が家から出ないようじわじわ仕向ける白石も怖い!おまけに、いつもすっきり依頼を解決していたヒナコの身にも危険が!ヒナコの凄腕エージェントっぷりも含め、膨らませて長編にしてもいいエピソードではないでしょうか。
DVや監禁など、犯罪が登場する話もありますが、オフィスCATが万事上手く解決してくれるので安心して読めます。長期シリーズ化するのかなと思っていましたが、今のところ次作『別れの夜には猫がいる』以降、新作は出ていないようですね。いつか第三弾が出てくれないか、楽しみに待っています。
ヒナコの過去が超気になる度★★★★★
泥棒猫は、盗むだけで終わりです☆☆☆☆☆
オフィスCATとは女性専用の相談所・探偵事務所のような印象で面白そうです。
複雑で重たい愛憎劇よりライトなイヤミスで読みやすそうです。
シリーズ化も期待されそうで読んでみたいですね。
タイトルの<泥棒猫>という単語が強烈ですが、実際は悩める女性の駆け込み寺のような存在でした。
テーマの割にテンポ良く読ませる展開が多く、嫌な気分にならずに済みましたよ。
暗くて重い永嶋作品は好きですが、こういう話もまた面白いです。