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「罪と祈り」 貫井徳郎

作品名も内容も忘れてしまいましたが、ずいぶん昔に見た映画で、登場人物がこんな台詞を口にしていました。「身代金目当ての誘拐は、この世で一番成功率の低い犯罪だ」その理由は色々ありますが、一番は、金の受け渡しをしなくてはならないという性質上、絶対に加害者側と被害者(の関係者)側が接触するからでしょう。実際、戦後日本で起きた誘拐事件で、犯人が身代金奪取に成功した例は一つもありません。

現実に起きたら凶悪極まりない誘拐事件ですが、フィクションの世界限定なら、面白いテーマとなり得ます。荻原浩さんの『誘拐ラプソディー』や天藤真さんの『大誘拐』、東野圭吾さんの『ゲームの名は誘拐』など、誘拐事件を扱った小説は多いです。今回取り上げるのも、悲しい誘拐事件をテーマにした作品です。貫井徳郎さん『罪と祈り』です。

 

こんな人におすすめ

誘拐事件が出てくるミステリー小説が読みたい人

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「死にゆく者の祈り」 中山七里

新年明けましておめでとうございます。令和初のお正月、いかがお過ごしでしょうか。二〇一六年に始まったこのブログは、今年で四年目を迎えます。今後も変わらず独断と偏見に満ちた内容になることが予想されますが、呆れずお付き合いいただければ幸いです。

毎年、新年一作目となる本を何にしようかと悩むのですが、今年は楽しみにしていた図書館の予約本がタイミング良く回ってきたので、悩む必要ありませんでした。二〇二〇年初投稿は、中山七里さん『死にゆく者の祈り』。ミステリーとしてだけでなく、仏教の在り方についても考えることができ、仏教校出身の私には興味深かったです。

 

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冤罪が絡んだミステリーが読みたい人

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「隣人」 永井するみ

昨今は近所付き合いが希薄な世の中だと言われています。私自身、生まれてから今まで何度か引っ越しを経験しましたが、隣近所と親しく付き合った経験は皆無。せいぜい顔を知っている程度だったり、最初から最後まで隣人と一度も顔を合わせないままだったことさえあります。

もっとも、「どんな人なのかよく分からない」というのは、何も近所付き合いに限った話ではありません。親子、兄弟姉妹、友達、恋人、夫婦・・・どれだけ近い関係でも、いえ、近い関係だからこそ、相手の本性や本音が分からなくなることは多々あります。今回ご紹介するのは永井するみさん『隣人』。身近な人の知られざる一面にゾクッとさせられました。

 

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イヤ~なサスペンス短編集が読みたい人

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「彼女が死んだ夜」 西澤保彦

フィクション作品における時間の経過方法は、主に二つのパターンに分かれます。一つはいわゆる<サザエさん時空>で、登場人物たちが年を取らない方式です。いつまでも変わらない日常感を味わうことができるという長所から、特に『サザエさん』『ドラえもん』『クレヨンしんちゃん』などの子ども向け作品でよく見られますね。

もう一つは、物語が進むにつれて登場人物たちも年を取り、卒業・結婚・出産・死別といったライフイベントを経験していくパターンです。このパターンで一番有名なのは、赤川次郎さんの『杉原爽香シリーズ』ではないでしょうか。一年に一冊、新作が刊行されていくごとにヒロインも一歳年を取るという形式は、世界的にも珍しいんだとか。ここまで厳密に時間が経過していく作品は少ないかもしれませんが、作品ごとに登場人物たちの成長が見られると、読者としてはまるで親戚の子を見守るような感慨深さを味わうものです。今回ご紹介する作品の登場人物たちも、出会いと別れを繰り返しながら一歩ずつ前進していきます。西澤保彦さんの『匠千暁シリーズ』の長編第一弾『彼女が死んだ夜』です。

 

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大学生が活躍するミステリーが読みたい人

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「ミハスの落日」 貫井徳郎

私が本を愛する理由は色々ありますが、その一つは<現実にはなかなか味わえない出来事を体験できる>というものです。医者になって病院内の陰謀劇に関わることも、拳銃ぶっ放しながらゾンビ軍団と戦うことも、宇宙飛行士として未知の惑星に降り立つことも、小説の中ならお茶の子さいさい。ここ最近は外国を舞台にした小説を読みまくり、旅行した気分を味わっています。

外国で物語が展開する小説はたくさんありますが、冒険小説寄りの作品が多い気がします。私はどちらかというとミステリーやヒューマンストーリー寄りな小説が好きなので、近藤史恵さんの『エデン』、深木章子さんの『螺旋の底』、村山由佳さんの『翼 cry for the moon』などが印象深かったですね。これらはすべて長編なので、今回はさくさく読める短編集を取り上げたいと思います。貫井徳郎さん『ミハスの落日』です。

 

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異国情緒溢れるミステリーが読みたい人

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「笑え、シャイロック」 中山七里

私は基本的にどんなジャンルの小説も読む人間です。切なくも甘酸っぱい青春ラブコメだろうと、血飛沫が飛び内臓はみ出るスプラッターホラーだろうと、面白ければ何でもOK。そんな私が唯一、「なんとなくとっつきにくいかな」と思うジャンル、それが金融・経済小説です。根っからの文系人間のせいか、用語や世界観がなかなか頭に入ってこないんです。

ですが、面白いと感じた金融小説が一冊もないわけではありません。特に、池井戸潤さんの『半沢直樹シリーズ』と真山仁さんの『ハゲタカシリーズ』は、映像化されたこともあって世間一般の知名度も高いですね。今回ご紹介するのは、中山七里さん『笑え、シャイロック』。もしかしたら上記の作品と並ぶ人気シリーズになるかもしれません。

 

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銀行員が主役のミステリーが読みたい人

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「八月六日上々天気」 長野まゆみ

季節は夏真っ盛り。この時期は全国各地で楽しいイベントが催され、どことなく明るいムードがそこここに漂います。夏という季節は私達に活気をもたらしますが、同時に、胸を打つ悲しい事実をもまた思い起こさせます。それが戦争です。

一九四五年八月、日本には二つの原子爆弾が落とされ、終戦を迎えました。唯一の被爆国である日本が平和の大切さや戦争の悲惨さを訴える機会は多いですが、この時期はそれがより顕著に表れます。今回は、戦争にまつわる悲劇を扱った作品を取り上げたいと思います。小説家だけでなくイラストレーターとしての顔も持つ、長野まゆみさん『八月六日、上々天気』です。

 

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戦時中の人間模様をテーマにした作品が読みたい人

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「泥棒猫ヒナコの事件簿 あなたの恋人、強奪します」 永嶋恵美

映画・ドラマ・漫画・小説などの創作物をよく見たり読んだりする人なら、どこかで一度はこの文句を見聞きしたことがあると思います。「この泥棒猫!」文字通り、物を盗んでいく猫のことですが、実際は<人の夫や恋人を奪う女性>に対して使われることが多いですね。

字面からして分かるように決していい意味ではなく、好印象を持つ人はまずいないでしょう。私自身、小説で泥棒猫タイプの女性キャラを見るとイライラムカムカする方なんですが、この作品を読んで考えが少し変わりました。こんな泥棒猫なら友達になりたいな。永嶋恵美さん『泥棒猫ヒナコの事件簿 あなたの恋人、強奪します』です。

 

こんな人におすすめ

ライトな雰囲気のサスペンス小説が読みたい人

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「ダブル」 永井するみ

悲しいかな、この世には嫌なもの、受け入れられないものが溢れています。かくいう私自身、けっこう好き嫌いが多い方でして、嫌だと感じるものは色々あります。例を挙げると、虫、肉の脂身(霜降りとか本当に無理!)、ぶつぶつした穴の集合体などでしょうか。

しかし、いくら嫌だからといって、この世から排除できるとは思っていません。これが<誘拐殺人><放火>などのように明確な<悪>ならともかく、私個人の感覚で虫や脂身をすべて消し去るなど不可能ということくらい弁えています。そこを弁えず、不愉快なものを次々排除する人間がいたとしたら・・・・・一体どんなことになるか、想像しただけで恐ろしいですね。そんな恐ろしさを描いた小説がこちら、永井するみさん『ダブル』です。

 

こんな人におすすめ

女性目線でのサイコサスペンスが読みたい人

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はいくる

「ふたたび嗤う淑女」 中山七里

面白い作品を読んだ時、こう思うことはないでしょうか。「これ、シリーズ化されないかな」特に、内容だけでなくキャラクターが気に入った場合、彼ないし彼女の活躍をもっと見たくなるのが人情というもの。私自身、このブログ内で「続編希望します」と書いた作品がいくつもあります。

とはいえ、実際にシリーズ化された場合、前作と同じかそれ以上のクオリティかどうかは分かりません。悲しいかな、一作目はすごく面白かったのに二作目はメタメタ・・・という例も存在します。でも、この方に関してはそんな心配無用でした。中山七里さん『嗤う淑女』の待望の続編『ふたたび嗤う淑女』です。

 

こんな人におすすめ

・悪女が出てくるミステリー小説が好きな人

・蒲生美智留の活躍(?)が読みたい人

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