はいくる

「ふたたび嗤う淑女」 中山七里

面白い作品を読んだ時、こう思うことはないでしょうか。「これ、シリーズ化されないかな」特に、内容だけでなくキャラクターが気に入った場合、彼ないし彼女の活躍をもっと見たくなるのが人情というもの。私自身、このブログ内で「続編希望します」と書いた作品がいくつもあります。

とはいえ、実際にシリーズ化された場合、前作と同じかそれ以上のクオリティかどうかは分かりません。悲しいかな、一作目はすごく面白かったのに二作目はメタメタ・・・という例も存在します。でも、この方に関してはそんな心配無用でした。中山七里さん『嗤う淑女』の待望の続編『ふたたび嗤う淑女』です。

 

こんな人におすすめ

・悪女が出てくるミステリー小説が好きな人

・蒲生美智留の活躍(?)が読みたい人

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三年の時を経て、彼女が再び戻ってきた---――ターゲットの人生を徹底的に破壊する悪女・蒲生美智留。類まれな美貌と奸智の持ち主である彼女は、今日もまた人々を陥れて行く。向上心溢れるNPO法人の女性事務局長、信者獲得に悩む宗教団体の幹部、野心を抱える政治家後援会会長、不倫相手との将来を夢見る美人秘書、暗い過去を持つ二世国会議員。美智留の標的とされた者たちに救いはあるのか。最恐の悪女の陰謀劇を描くシリーズ第二弾

 

前作からまったく衰えない、どころかますます切れ味を増した美智留の悪女ぶりに、恐怖を通り越して潔さすら感じました。小説にこの手の悪人主人公が出てくる場合、ターゲットもまた極悪人だったりして、主人公がヒーロー化することがままあります。ですが本作の場合、一部を除いて、美智留のターゲットとなるのはただ傲慢だったり幼稚だったりするだけの一般人。美智留と関わらなければ、不平不満を抱えつつそこそこ無難に生きていったんだろうなと思える分、余計に恐ろしいというか・・・美智留が悪事を重ねる動機が金でも復讐でも権力でもなく、<嗜虐心をそそられたから>というところもインパクトありました。

 

「一.藤沢優美」・・・NPO法人で事務局長を務める優美は、働く女としてもっと上を目指したいという野心がある。とはいえ今の仕事で数字を出せず、悶々と鬱屈を溜める日々。そんなある日、ひょんなことから敏腕投資アドバイザーと知り合う機会があって・・・

第一話から冴えに冴え渡る美智留の手腕。私はその本性を知っているので、どんどん丸め込まれていく優美に「だめだよ!気付いてよ!」と訴えたくなりましたが、現実にこういう手を使われたら騙されるかもなぁ。人の人生を破滅させているのに警察は動いてくれない(違法ではないので動けない)という辺りも怖かったです。

 

「二.伊能典膳」・・・伊能は宗教法人・奨道館の副館長。思うように信者数を増やすことができず、悩んでいる。そんな彼に紹介された一人の女性。彼女が示した打開策は、実に画期的なものだった。

インチキ宗教の幹部が主人公ですが、ものすごい悪人という印象がないのは、やっぱり美智留の悪辣さが遥か上をいっているから、そして末路が悲惨すぎるからかな。短編ながら宗教と政治の関わりが分かりやすく描写してあって面白かったです。こういう癒着って、現実にもきっとたぶん絶対ある気がする・・・

 

「三.倉橋兵衛」・・・六十五才になる倉橋は、不動産業を営む傍ら、二世議員・柳井耕一郎の後援会会長を務めている。如才ないが父親ほどの器がない柳井に物足りなさを感じる倉橋に、ある人物が囁いた。「倉橋さんが議員になればいいじゃないですか」と・・・

齢を重ね、結果も出せないのに自己評価ばかり高くなった倉橋の姿は、はっきり言って<老害>そのもの。おまけに他の被害者と違って、ギッタギタの目に遭わされてもいまいち反省していないように見えます。そのせいか、哀れな末路を見てもあまり同情できないんですよね。むしろ、巻き添え食らったあの人が気の毒です。

 

「四.咲田彩夏」・・・柳井の公設秘書であり愛人でもある彩夏。三十半ばに近付き、柳井との結婚を望むようになる。そんな中で湧きあがった、柳井の妻の不倫疑惑。これで離婚に持ち込めれば、自分が後妻に収まることも可能かも。彩夏は早速行動を開始して・・・

優美や倉橋の章では隙のない美人秘書だった彩夏ですが、ここで切実な悩みを秘めていたことが分かります。その悩みが金銭欲や名誉欲ではなく、「この人と結婚したい。子どもを産みたい」というものだったのがなんだか哀しいです。あと、本筋とは無関係ですが、『総理にされた男』の間垣にちらっと触れてあるのも嬉しいですね。元気そうで何より!

 

「五.柳井耕一郎」・・・若き日の罪を権力でもみ消し、議員として堂々と活躍する柳井。だが、自らの手足としていた者たちが次々と死に、徐々に危機感にとらわれていく。もしや、誰かが自分を狙っているのでは。そんな柳井のもとを一人の女性が訪れて・・・

今までのすべてのエピソードが繋がる第五章。現実に起きた<スーパーフリー事件>をモチーフにした事件、連鎖する関係者の苦しみ、復讐劇の予想外の顛末に驚愕のラスト一行と、一瞬たりとも気の抜けない構成になっています。柳井に関しては、恐らく本作の被害者中ダントツで悪人なので、末路はけっこういい気味なんですが・・・

 

この後、わずか四ページのエピローグがありますが、そこでのどんでん返しには相変わらずびっくり!いっそ美智留には、中途半端な情など抱かせず、このまま悪女道を突き進んでほしいです。そして、きっと今後もシリーズが続きますよね。できれば次回辺り、中山ワールドの名キャラクターと美智留の直接対決が見たいです。警察関係者としてはすでに麻生が登場しているので、美智留とは違うベクトルで海千山千の御子柴弁護士なんてどうでしょう。

 

後味最悪なのに続きが読みたい度★★★★★

いつか改心してほしい度★☆☆☆☆

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コメント

  1. しんくん より:

    1作目同様に見事な悪女振りでした。
    「スーパーフリー」の事件を思い出してまさしくいい気味だと思う結末でした。
     毒を持って毒を制す~の言葉を思い出します。
     中山作品の癖の強いキャラクター、御子柴弁護士、布施検事、岬検事、渡瀬警部、光崎教授との共演が楽しみです。
     おそらく他の作品にゲストでも登場すると感じました。

    1. ライオンまる より:

      欲に駆られて破滅する登場人物が多い中、柳井の悪質さは際立っていたので、その末路には爽快感さえ感じました。
      逆に、優美や彩夏は哀れでしたが・・・
      麻生では真っ当すぎて美智留と対抗できない気がするので、御子柴や布施などの強烈なキャラクターとの対決が楽しみです。

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