な行

はいくる

「ストレート・チェイサー」 西澤保彦

フィクションの世界においては「え、このジャンルをまとめちゃうの?それで作品は成り立つの?」という組み合わせがしばしば存在します。私が過去一番驚いた組み合わせは、実写映画化もされた海外小説『高慢と偏見とゾンビ』。古典恋愛とゾンビホラーを組み合わせるという荒業ぶりでしたが、予想以上に面白かったです。つまるところ、<絶対にそぐわない組み合わせ>などというものは、この世に存在しないのでしょう。

「一見合わなさそうだけど、実は・・・」という組み合わせとしては、他にSF×本格推理を挙げる人も多そうな気がします。未来世界や異星のテクノロジーがガンガン絡むSFと、現実的・論理的な思考が重要な本格推理とでは絶対にミスマッチ・・・と思いきや、構成がしっかりしているとすごく面白いんですよ。そして、SF本格推理といえば、私の中ではこの方なんです。今回は西澤保彦さん『ストレート・チェイサー』をご紹介したいと思います。

 

こんな人におすすめ

SF要素のある本格推理小説が読みたい人

続きを読む

はいくる

「被害者は誰?」 貫井徳郎

時節柄というべきか、最近はミステリーやホラーの謎解き役が、(本性はともかく表面上は)真っ当な一般人というケースが増えてきた気がします。有栖川有栖さん『作家アリスシリーズ』の火村英生然り、中山七里さん『刑事犬養隼人シリーズ』の犬養隼人然り、内面や背景は色々ありつつ、社会人として真っ当に振る舞っています。どんな名探偵であろうと霞を食べて生きていくわけにはいかないのだから、それも当然ですよね。

その一方、あくまでフィクション限定の話ですが、名探偵たちの個性豊かな奇人っぷりを眺めるのもそれはそれで面白いものです。金田一耕助は推理に夢中になるとフケが周囲に飛び散るほど髪をかき回すし、シャーロック・ホームズはスリッパの中に煙草を突っ込んでおくレベルで片付けができない人間です。一昔前は、常識人に名探偵が務まるかい!という雰囲気さえありました。今回は、超個性的な探偵役が登場する作品を取り上げたいと思います。貫井徳郎さん『被害者は誰?』です。

 

こんな人におすすめ

性格難ありの探偵が活躍するミステリーに興味がある人

続きを読む

はいくる

「夢の迷い路」 西澤保彦

小説界において、人気のあるシリーズ作品の中には、長編と短編集が入り混じっているケースが結構多いです。例を挙げると、赤川次郎さん『三毛猫ホームズシリーズ』、有栖川有栖さん『学生アリスシリーズ』『作家アリスシリーズ』、若竹七海さん『葉村晶シリーズ』などそうですね。短編集は、長編と比べると読了までの時間が短く、一話一話の区切りがつけやすいので、忙しい時でも躊躇わずに読み始めることができます。

そして、短編集の場合、収録作品の時系列がバラバラというパターンが一定数存在します。第一話では大学生だった主要登場人物が、第二話では社会人となって結婚していたり、第三話では幼少期の出来事が語られたりと、様々な時間軸が描かれるパターンですね。澤村伊智さんの『比嘉姉妹シリーズ』短編集がこの形式です。混乱することもないではありませんが、登場人物たちの意外な背景が分かったり、さらりと流された描写が伏線だったと気づいたりして、なかなか面白いんですよ。今回取り上げるのも、時系列バラバラのシリーズ短編集、西澤保彦さん『夢の迷い路』です。

 

こんな人におすすめ

日常の謎を扱ったミステリー短編集が読みたい人

続きを読む

はいくる

「さよならは明日の約束」 西澤保彦

推理小説の世界には、探偵役がコンビで事件に臨む、いわゆる<バディもの>が数多く存在します。天才的な探偵が一人で活躍する作品も面白いですが、コンビが各々の足りない部分を補いつつ事件解決を目指す姿も魅力的ですよね。個人的には、探偵役が二人組の方が、互いの人間的な部分の掘り下げが深まる気がします。

そして、コンビの組み合わせも、作品ごとに様々です。超有名な『シャーロック・ホームズシリーズ』のような男性二人組、宮部みゆきさん『寂しい狩人』のような老人&若者コンビ、櫛木理宇さん『逃亡犯とゆびきり』のような女性二人組、赤川次郎さん『三毛猫ホームズシリーズ』のような人間&人外の組み合わせ・・・その中には、男女でコンビを組む作品も、もちろんあります。ここ最近の傾向としては、行動力ある女性&サポート能力に秀でた男性という組み合わせが多い気がしますが、いかがでしょうか。今回は、そんなコンビが活躍する作品を取り上げたいと思います。西澤保彦さん『さよならは明日の約束』です。

 

こんな人におすすめ

日常の謎を扱ったミステリー短編集が読みたい人

続きを読む

はいくる

「パズラー 謎と論理のエンタテイメント」 西澤保彦

二〇二五年最後の一日となりました。今年も色々あったものの、無事にブログを続けることができて感無量です。来年もどうぞよろしくお願いいたします。

何かと慌ただしいご時世ですが、小説界隈に関していえば、個人的に一番衝撃的だったのは作家・西澤保彦さんが亡くなられたことです。まだ六十代。多作な作家さんだし、てっきり今後も新作がたくさん楽しめると思っていたのに、本当にショックです。心よりご冥福をお祈りするとともに、哀悼の意を表するため、今年の「はいくる」は西澤保彦さんの短編集『パズラー 謎と論理のエンタテイメント』で締めようと思います。

 

こんな人におすすめ

アクロバティックなミステリー短編集が読みたい人

続きを読む

はいくる

「念力密室!」 西澤保彦

SFやホラーのジャンルにおいては、超能力・霊能力・魔力といった異能が頻繁に登場します。と同時に、異能を取り締まったり、サポートしたりする組織や職員が出てくる機会も多いです。日本に限らず海外でも同様なので、万国共通の発想なのかもしれません。

この手の存在としては、マーベル・シネマスティック・ユニバースに登場する武装組織<S.H.I.E.L.D>、SCP作品世界で暗躍する<SCP財団>などが有名です。タイムリープやタイムトラベルといった能力が登場する作品だと、能力者によって勝手に歴史改変が行われないよう管理する<時空管理局>(名称は違うことも有)なる存在が出てくることも多いですね。「自分もこうした組織の一員だったら・・・」と空想した経験がある方、私を含めて、結構多いのではないでしょうか。今回は、私が大好きな秘密組織・捜査員が登場する作品をご紹介したいと思います。西澤保彦さん『念力密室!』です。

 

こんな人におすすめ

SF設定が絡んだミステリーが読みたい人

続きを読む

はいくる

「不等辺五角形」 貫井徳郎

子どもから大人まで、長く社会生活を送っていると、グループを組む機会がしばしばあります。純粋に気が合ってできた仲良しグループもあれば、教師や上司の指示でチームを作ることもあるでしょう。ここでの人間関係が円滑か否かで、物事の成否は大きく変わります。

そんなグループ行動ですが、集まるきっかけとして、意外と<この人たちとつるむしかなかったから>というパターンが多いです。一人よりも集団でいた方が助かる局面は多いので、この動機自体は決して悪いものではありません。とはいえ、私自身を振り返ってみると、こういう<別に気が合ったからではない、不可抗力的に集まったグループ>が、一番揉め事が多かった気がします。ただ揉めるだけならまだしも、取り返しがつかないことが起きる可能性だってあるかも・・・この作品を読んで、そんなことを考えました。貫井徳郎さん『不等辺五角形』です。

 

こんな人におすすめ

・<藪の中>状態の推理小説が読みたい人

・インタビュー形式の小説が好きな人

続きを読む

はいくる

「帰ってきた腕貫探偵」 西澤保彦

フィクション作品においては、現実では珍しい部類に入る名前の登場人物がしばしば出てきます。大場つぐみさん原作による漫画『DEATH NOTE』の主人公は<夜神 月(やがみ らいと>ですし、西尾維新さん『物語シリーズ』ヒロインは<戦場ヶ原 ひたぎ(せんじょうがはら ひたぎ>です。少し昔のものでは、吉川英治さん『宮本武蔵』に準主人公格で出てくる<本位田 又八(ほんいでん またはち)>も結構珍しい名前と言えるでしょう。

なぜ登場人物に変わった名前を付けるのか、理由は色々あります。主なものとしては、<作中での登場人物の扱いにより、現実で同じ名前の人が中傷されるのを防ぐため><「勝手に自分のことを書くなんて許せない」というクレームを防ぐため>といったところでしょうか。ただ、この作家さんに関しては、何より自分のこだわりで珍名を出している気がするんですよね。今回取り上げるのは、西澤保彦さん『帰ってきた腕貫探偵』です。

 

こんな人におすすめ

安楽椅子探偵もののミステリー短編集が読みたい人

続きを読む

はいくる

「入居条件:隣に住んでる友人と必ず仲良くしてください」 寝舟はやせ

現代は個人主義の時代だと言われています。個人の意思や多様性というものが重視され、公より私を充実させることの方が大事。求人案内でも、<アットホームな社風><休日に社員同士でレジャーに出かけます>などといった文言は喜ばれない傾向にあるようです。

しかし、どれだけ個人主義が広がろうと、人間は社会生活を営む生き物であり、他者との関わりをゼロにすることは相当難しいです。そして、どうせ人と関わらなくてはならないのなら、できれば円満に付き合っていきたいのが人情というもの。特に身近にいる相手とは、いい関係を築くに越したことはないでしょう。でも、隣りにいるのがこんな存在だったら・・・?今回ご紹介するのは、寝舟はやせさん『入居条件:隣に住んでる友人と必ず仲良くしてください』です。

 

こんな人におすすめ

日常侵食系ホラーが浮きな人

続きを読む

はいくる

「七色の毒」 中山七里

<色>には、人の気持ちに働きかける力があるそうです。赤やオレンジは活力を呼び覚まし、緑は心をリラックスさせ、ピンクは幸福感を感じさせるのだとか。そういえば一昔前、戦隊ヒーローは、行動派の<赤>やクールな<青>というように、各々の個性と色が対応していることが多かったですね。実際にはそこまで明確に性質が分かれるようなことはないのでしょうが、色が印象を左右することは確かだと思います。

小説の世界においても、色をテーマにした作品はたくさんあります。昔、当ブログでも取り上げた加納朋子さん『レインレイン・ボウ』でも、各話の主人公と、タイトルとなる色が上手く組み合わされていました。これはヒューマンドラマですが、色をテーマにしたイヤミスなら、今回ご紹介する作品がお勧めです。中山七里さん『七色の毒』です。

 

こんな人におすすめ

どんでん返しのあるミステリー短編集が読みたい人

続きを読む