な行

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「紙の梟 ハーシュソサエティ」 貫井徳郎

「悪法もまた法なり」。かつて、学者ソクラテスが言ったとされている言葉です(本当に言ったかどうかは諸説あり)。実際にはかなり哲学的な意味があるようですが、今はストレートに「たとえ間違った法律でも、法治国家である以上は従わないといけませんよ」という意味で使われることが多いようですね。確かに、各自が勝手に「あの法律は変だから守らない!」「こんな間違った法律に従う必要はない!」などと言い出したら、社会は成り立ちません。法律が間違っているなら、定められた法改正の手続きを取れというのは、決しておかしな話ではないでしょう。

しかし、法律を作るのが人間である以上、完璧にはなり得ないというのもまた事実です。法律が誰かを救う一方、また別の誰かを苦しめていたとしたら・・・・・少年法をはじめ、多くの法律が長年論争の種になるのは、この辺りが原因ではないでしょうか。今回取り上げるのは、貫井徳郎さん『紙の梟 ハーシュソサエティ』。法と社会の在り方について考えさせられました。

 

こんな人におすすめ

死刑をテーマにしたサスペンス短編集が読みたい人

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「作家刑事毒島の嘲笑」 中山七里

小説の人気キャラクターをイラストで描くのは、なかなか難しい仕事です。実写化でも言えることですが、キャラクター人気が高ければ高いほど、どれだけ上手くイラスト化しても「なんか思っていたのと違う」「〇〇(キャラクター名)はこんな顔じゃない」という不満が出ることは不可避。特に挿絵がない小説の場合、読者がキャラのイメージを膨らませる余地が大きいため、いざイラスト化されるとネガティブな感想を抱かれやすい気がします。

反面、好きなキャラクターが自分の想像通りの形でイラスト化された時の喜びは大きいです。以前、片山愁さんによる『銀河鉄道の夜』の漫画化を見た時は、イメージとぴったりのカンパネラやジョバンニの姿に大興奮しました。それから先日読んだこの作品のイラストも、「これこれ!」と言いたくなるほどハマっていたと思います。中山七里さん『作家刑事毒島の嘲笑』です。

 

こんな人におすすめ

・皮肉の効いたミステリー短編集が読みたい人

・毒舌キャラが活躍する作品が好きな人

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「人面島」 中山七里

クローズド・サークルものの定番シチュエーションといえば、洋館、辺鄙な場所にある村、孤島の三つだと思います(すべて交通網・連絡ツールが遮断されていることが前提)。この三つの内、一番行き来するのに労力が要るのは、孤島ではないでしょうか。洋館や僻地の村の場合、死ぬ気で頑張れば自分の足で移動可能ですが、孤島の場合、どうにかして船等の移動手段を確保しなければなりません。となると、操縦は誰がするのか、エンジンは無事なのか等の問題が生じ、物語がよりスリリングなものになります。

孤島を舞台にしたミステリーと言えば、忘れちゃいけないのがアガサ・クリスティーの『そして誰もいなくなった』。国内作品なら、綾辻行人さんの『十角館の殺人』、近藤史恵さんの『凍える島』、はやみねかおるさんの『消える総生島』etc、どれも夢中で読んだ記憶があります。それから、最近読んだこれも面白かったですよ。中山七里さん『人面島』です。

 

こんな人におすすめ

クローズド・サークルもののミステリーが読みたい人

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「死者は黄泉が得る」 西澤保彦

人は時に<恐らく絶対実現不可能だろうけど、願わずにはいられない夢>を見てしまうことがあります。世界中の富をすべて手中に収めてしまいたい、かもしれない。片思いの相手が一夜にして自分に夢中になればいいのに、かもしれない。人によって願う夢も様々でしょうが、<亡くなった人が甦ればいいのに><死んでもまた生き返りたい>と思う人は相当数いそうな気がします。

古来より、死者の復活は多くの人類にとっての願いでした。あまりに願いが強すぎて、怪しげな薬に走ったり、残酷な人体実験に手を染める者までいたほどです。大往生を遂げた老人ならまだしも、この世には不幸な死を遂げる人が大勢いるわけですから、彼ら彼女らが甦れば、そりゃ嬉しいこと楽しいこともたくさんあるでしょう。しかし、どんな物事であれ、表があれば裏もあるもの。自然の摂理に反した存在がどんな事態を招くか、誰にも予想はできません。今回ご紹介するのは、西澤保彦さん『死者は黄泉が得る』。死者復活に絡んだ悲劇と笑劇(喜劇ではない)を堪能することができました。

 

こんな人におすすめ

生ける屍が登場するSFミステリーに興味がある人

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「妖奇切断譜」 貫井徳郎

<猟奇的>というのは、本来、<奇怪・異常なものを強く求める様子>を指す言葉です。現代では、もともとの意味から少し離れ、<残酷な><グロテスクな>という意味で使われることが多いですね。特に、遺体が激しく損壊されていたり連続殺人だったりする事件を<猟奇殺人>と表現するケースが多いと思います。

現実では絶対に起きてほしくない猟奇殺人ですが、フィクションなら話は別。とにかくインパクトが強いこともあり、作中で猟奇殺人が登場する創作物は枚挙に暇がありません。ここで重要となるのは、<犯人はなぜ猟奇殺人を犯したのか>という動機付け。遺体に手を加えたり、犠牲者を多く出したりすれば、それだけ証拠を残すリスクが高まるわけですから、「なるほど!こんな理由があったから、犯人は逮捕の可能性を承知で猟奇殺人犯になったのね」という理由が必要なわけです。単に犯人が異常者だったから、という作品も一定数ありますが、やはり猟奇殺人の理由が明確にある作品の方が、謎解きの楽しさが味わえます。この作品の猟奇殺人の動機は、かなり強烈でした。貫井徳郎さん『妖奇切断譜』です。

 

こんな人におすすめ

猟奇殺人事件を扱った小説が読みたい人

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「秘密は日記に隠すもの」 永井するみ

私はこの十年ほど日記をつけ続けています。日付、天気、その日の出来事と食事のメニューを書いた数行程度のものですが、後日、過去の記憶が曖昧な時に振り返ることができて便利ですよ。たまに昔の日記を読み直してみると、「あ、そういえばこんなことがあったっけ」「私、五年前と同じことしてるじゃん」等々、色々と思うところがって面白いです。

人のプライベートの宝庫であるという性質上、日記はしばしば小説のキーアイテムとして使われます。ジャンル問わず、謎解き要素が仕掛けられていることも多い気がしますね。映画化もされた『ハリー・ポッターシリーズ』第二弾『ハリー・ポッターと秘密の部屋』では日記が重要な小道具になっていますし、雫井脩介さんの『クローズド・ノート』でもヒロインが前住人の日記を見つけたことが物語の発端でした。今回ご紹介するのは、日記の特性が上手く使われたミステリー、永井するみさん『秘密は日記に隠すもの』です。

 

こんな人におすすめ

日記形式の連作ミステリーが読みたい人

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「鬼流殺生祭」 貫井徳郎

現実に起きた出来事とフィクションとをいかに上手く絡めるか。それは、面白い物語を作る上で重要な要素です。イエス・キリストがキリスト教の始祖であること、徳川家康が江戸幕府を開いたこと、ドイツにアドルフ・ヒトラーという独裁者が存在したこと。すべて歴史的事実であり、なかったことにすることはできません。

ただし、あくまで創作上でのことなら、この事実を改変することができます。やり方は色々ありますが、その一つは、物語をパラレルワールドでの出来事にしてしまうこと。現実から分岐したパラレルワールドでなら、三国時代に劉備ではなく曹操が勝利していたり、織田信長が本能寺で死ななかったりした世界を見ることができるわけです。物語を作る上での制約も減るため、登場人物達はより自由に動き回ることが可能です。先日読んだのは、そんなパラレルワールドで繰り広げられる本格ミステリーでした。貫井徳郎さん『鬼流殺生祭』です。

 

こんな人におすすめ

旧家の因縁が絡んだ本格ミステリーが読みたい人

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「歪んだ匣」 永井するみ

人あるところにドラマあり。一人の人間が存在すれば、そこには必ず悲喜こもごもが生まれます。それは創作物の世界においても同じこと。だからこそ、多くの人間達が集う場所は、様々なフィクション作品の舞台となってきました。

人が集う場所として、物語の舞台に選ばれやすいのは、学校や病院、住宅街。最近はタワーマンションが出てくる作品も多いですね。先日読んだのは、永井するみさん『歪んだ匣』。こういう舞台設定は意外と珍しく、新鮮でした。

 

こんな人におすすめ

オフィスビルを舞台にしたミステリー短編集が読みたい人

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「ランチタイム・ブルー」 永井するみ

一説によると、日本人のような農耕民族は、家に対する愛着が強いそうです。一カ所に定住し、畑を作って暮らしてきた記憶が遺伝子に刻み込まれていて、<立派な家を持つ>ということに大きな価値を見出すのだとか。もちろん、「雨風がしのげればOK」という価値観の人もたくさんいるでしょうが、そういう人にしたって、住み心地が良いのと悪いのとでは、前者を選ぶに決まっています。

しかし、家というものは、不満が出たからといってタオルを買い替えるように簡単に変えることはできません。賃貸ならまだしも、一度買った家を手放して新たな家に引っ越すとなると、金銭的にも精神的にも体力的にも大きな負担となります。その場合の最も効果的な手段。それは、家のメンテナンスを行い、不満がある箇所には手を加えて、できるだけ快適に住めるようにすることです。そこで出番となるのが、住まい作りのプロであるインテリアコーディネーターです。今回は、そんなインテリアコーディネーターが登場するミステリーを取り上げたいと思います。永井するみさん『ランチタイム・ブルー』です。

 

こんな人におすすめ

・日常の謎がテーマのミステリーが読みたい人

・インテリアコーディネーターの仕事に興味がある人

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「複製症候群」 西澤保彦

クローンという言葉が最初に考案されたのは、一九〇〇年代初頭のことだそうです。意味は、分子・DNA・細胞・生体などのコピー。園芸技法の一つである<挿し木>はクローンの一種ですし、動物でもマウス、犬、羊、猿などでクローンが作成されています。人間のクローンは今のところ作られていないとされていますが・・・実際はどうなんでしょうか?

現実に動物のクローンを作る場合、誕生するのは<オリジナルとまったく同じ遺伝情報を持つ赤ん坊>ですが、SF作品ではしばしば、オリジナルと年齢も容姿もそっくりそのまま同じなクローンが登場します。ただ、見た目は瓜二つでも記憶まではコピーできないとか、ものすごく残虐な性質を持つとか、何らかの形でオリジナルとの差異が生じるケースが多い気がしますね。では、この作品に登場するクローンはどうでしょう。西澤保彦さん『複製症候群』です。

 

こんな人におすすめ

クローンが登場するクローズドサークル・ミステリーが読みたい人

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