今や<婚活>という用語はすっかり一般的なものになりました。漢字にするとたった二文字ですが、そのやり方は様々です。インターネットの婚活サイトに登録したり、結婚相談所を介したり、大規模なパーティーに参加したり・・・最近は寺での座禅や農作業など、ユニークなイベントを利用した婚活も多いようですね。そんな婚活の中に<親婚活>というものがあります。
読んで字の如く、まず親同士が子どもの代理で見合いをし、結婚相手を探す<親婚活>。「いい大人の結婚に親がしゃしゃり出てくるなんて・・・」と思う人も多いでしょうが、結婚と生育環境が密接に結びついていることは事実です。相手の人となりを見極め、気持ちいい身内付き合いをしていくため、親の目を借りるというのは効果的な手段なのかもしれません。今回取り上げるのは垣谷美雨さんの『うちの子が結婚しないので』。親の目から見た婚活の悲喜こもごもが楽しめました。
こんな人におすすめ
<親婚活>というものに興味のある人
もしうちの娘が生涯独身だったとしたら・・・還暦が近づいた千賀子は、友達の子どもの結婚報告を機に、一人娘の将来について考えるようになる。ハードな職場でこき使われ、浮いた話もろくにない二十八歳の娘。親が死んだら、この子が一人ぼっちになってしまうじゃないか!不安と焦りに突き動かされた千賀子は、夫とともに<親婚活>を始めることにする。だが、そこには予想を超える厳しい世界が待ち受けていた。挫折と失望を味わいながら将来を模索する一家が、やがて見つけた幸せの形とは・・・・・
<婚活>をテーマにした小説はこれまでにもいくつか取り上げましたが、主人公は全員、結婚する本人でした。ですが、本作の主人公は、娘に良縁をもたらそうと奮闘する親。『姑の遺品整理は、迷惑です』のレビューでも書きましたが、こういう目線の変え方は、やはり垣谷さん、巧いですね。タイトルも含め、相変わらずのセンスの良さです。
主人公・千賀子は五十七歳の派遣プログラマー。専門職なのでそれなりに収入があり、夫婦仲も良好で、程々に平穏な日々を送っています。そんな中で届いた、女友達の娘の結婚報告。やっぱりいつまでも一人でいるものじゃない。娘だっていい人に巡り合えるはず!そう思い、仕事で多忙な娘に代わって<親婚活>を始める千賀子。そこには、想像だにしない理不尽と非常識が待ち受けていました。
あらすじから予想はしていましたが、次から次に出てくる<婚活あるあるネタ>が面白くもあり、切なくもあり、腹立たしくもあり・・・<控えめな女性が好みだから>という理由で母子家庭育ちの女性を希望する父親、息子の妻に家事・介護・経済力のすべてを求める母親、「生活費は当然折半。出産や育児で働けない時は独身の頃の貯金を切り崩してね」と当然のように言う息子、厳然と存在する容姿への差別etcetc。それらを母親である千賀子の目を通して描写することで、親と子の世代の差や考え方の差も味わうことができました。千賀子が、条件的に申し分ない相手に対する<生理的にダメ(要するに肉体関係を持てない)>という点を思いつきもしなかったという辺りなんて、いかにも現実にありそうです。
と、こんな風に書くと垣谷ワールドお馴染みの<悪人じゃないけど嫌な奴>が目白押しのように思えそうですが、本作では読みながらイライラさせられることはあまりありません。その理由は、千賀子が何やかんだ言いつつ良識ある円満な家庭を築いているからでしょう。娘の友美は、てっきり<親婚活>に猛反発するかと思いきや、両親が自分を真剣に案じていることを知って「お父さんお母さんの言うことにも一理あるし、私も頑張ってみるよ」と婚活に挑戦します。夫のフクちゃんは、やや鈍感な面はあるものの穏和な好人物で、家庭内の問題を妻任せにせず、きちんと向き合って解決しようとします。この二人のキャラクターがとても誠実なので、数多くの理不尽も明るく読むことができました。個人的には、登場シーンはわずか数行ながら、外で働く千賀子の強い味方だった姑(すでに故人)がすごく好きです。
結婚というテーマに対する女性の労働問題の絡め方も巧いですし、何より「無神経な男VSそれに振り回される女」という単純な対立構造にしないところが好感度大でした。千賀子をはじめとする主人公一家は、ここ最近の垣谷ワールドの中でも抜群に好きなキャラクターたちなので、ぜひとも今後<妊活><保活><終活>などをテーマに再登場してほしいです。
結婚相手は自分で探さなきゃおかしい!度★☆☆☆☆
一度話が決まれば進むのは早い度★★★★☆
婚活する子供を持つ親の立場・目線がかなり新鮮に思いながら読みました。
娘に結婚を進める夫の説得の仕方、データーと現実に基づいた話には大変に感心しました。特に印象的なのは昔の価値観を押し付けずに今の事情を理解して親と子が目的を一つにして理論的に、効率的に同時進行している展開が良かったです。
参加した親婚活で、無神経で古い価値観の男は母親まで無神経で価値観が古い~こんな男と結婚したら苦労すると感じてウンザリしましたが、娘の結婚後の生活を考えることが出来るというメリットだと感じました。
なかなか決まらないようで決まるときがすぐ決まる~就職に近いものがあるとも思いました。相性の良さを見つける意味でも親婚活はアリだと思いました。
婚活を考えている本人とご両親には辻村深月さんの「傲慢と善良」、秋吉理香子さんの「婚活中毒」とこの作品を読んで欲しいと思いました。これこそ婚活の心得だと感じました。
娘に婚活を打診する際、「女は結婚するもの」「子どもを産んでこそ一人前」のような旧弊な考え方に依るのではなく、
独身を貫いた場合のリスクを理性的に話しているのが印象的でした。
不愉快な相手の描写は相変わらず◎!
同じ婚活繋がりで、予約中の「傲慢と善良」が早く読みたいです。