はいくる

「ツキマトウ  警視庁ストーカー対策室ゼロ係」 真梨幸子

映画『羊たちの沈黙』を初めて見た時の衝撃は、今でもよく覚えています。ヒロイン役のジョディ・フォスターの演技やスリリングなストーリー展開、手に汗握るクライマックスなど見所はたくさんありますが、何と言っても一番インパクトがあるのはアンソニー・ホプキンス演じるレクター博士の存在感でしょう。残虐な猟奇殺人を犯しておきながら人並み外れた知能を持ち、収監されているにも関わらず警察から捜査協力を求められるほどの天才犯罪者。その紳士的でありながら凶悪なキャラクターは、現在に至るまで多くの観客を魅了し続けています。

現実でこんなことがあるのかどうかは分かりませんが、「犯罪者が獄中から捜査協力する」というシチュエーションはなかなか面白いです。視覚的に映えるからか映画やドラマではよくあるんですが、小説ではあまりないな・・・と思っていたら、最近読んだ小説がまさにそういう設定でした。真梨幸子さん『ツキマトウ 警視庁ストーカー対策室ゼロ係』です。

 

こんな人におすすめ

ストーカー犯罪を扱ったイヤミスが読みたい人

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控訴中のため拘置所に収容されている通称<和製レクター博士>。未決囚である彼のもとには、今日も様々な事件が持ち込まれる。<ナオコ>を巡って繰り広げられる血塗られた惨劇、すれ違いから暴走する男と女、脅迫魔を待ち受ける恐ろしい罠、残忍な誘拐劇の意外な顛末、偏執的なファンに目を付けられたアイドルの運命、愛憎絡み合う親子が見た地獄・・・愛の名の下に暴走していく人々を描いたイヤミス連作短編集。

 

今や押しも押されぬイヤミス女王として活躍する真梨さんですから、作品中にストーカーを登場させたことも数えきれないほどあります。ですが、ストーカーがメインテーマとなった作品は意外に少ないんですよね。本作は男女だけでなく親と子、アイドルとファンなど、様々な人間関係内でのストーカー問題を扱っていて、相変わらずイヤ~な気分にさせられました(褒め言葉)。

 

「case0 プロローグ」・・・学生時代のオタク仲間と再会し、かつて大好きだった漫画のことを思い出した主婦。その漫画は作者逮捕により打ち切りになったのだが、なんと今になって復活計画があるという。昔の情熱を甦られた主婦は活動に夢中になるが・・・

プロローグということもあり、これだけでは何のことやら分からないでしょう。ですが、ここでの出来事や名称をしっかり覚えておいてください。後半、忘れた頃になって物語に絡んできますよ。ちなみに主人公と同じくオタクだった私は、「好きな漫画がアニメ化された時の声優キャスティングを妄想する」という下りにめちゃくちゃ共感しました(笑)

 

「case1 ミュール」・・・過去の苦い恋愛をブログに書き、今や<ブログの女王>と呼ばれるようになった女性・ナオコ。その正体は哀れでか弱い被害者か、それとも男を堕落させるダメンズメーカーか。二転三転する証言の中、ついに悲劇が起こり・・・

話が進むにつれてナオコを巡る関係者の証言がくるくる変わっていくところが面白かったです。もちろんナオコ自身もかなり厄介な人間なんでしょうが、それを上回る連中が出てくるわ出てくるわ。毎回毎回言っているようですが、真梨さん、よくこうも次々と不愉快なキャラクターを創れるなぁ。ラストの不穏な余韻も好みです。

 

「case2 アンビギュイティ」・・・晴れて就職も決まり、意気揚々と新生活を始めたはずのOL・莉乃。だが、身辺に元恋人の影を感じ、急に不安を覚える。実は莉乃は元恋人との交際中、性行為中の写真を撮らせていて・・・

ストーカー問題にリベンジポルノを巡るトラブルも絡めていて、物語のイヤさ具合が一層高まります。終盤、黒と白が反転する構成も捻りがあって面白いですね。あと、和製レクター博士が語るストーカーの心理も印象的でした。「赤穂浪士はストーカー心理」・・・なるほどね。

 

「case3 キャンディ」・・・原田は高校時代の知り合いから今なお脅迫され、金づるにされ続けている。そのせいでストレスを抱え込み、医師国家試験も失敗続きだ。行き詰る原田に恋人ができるが、やがて彼女との関係も壊れてしまい・・・

前話に登場した原田優人のエピソードです。case2で描かれたものとはまた違った彼の背景にゲンナリしたりゾッとしたり・・・そりゃ脅迫されるわけだ。なお、ここで出てくる原田真二の『キャンディ』は、私もテレビの昭和ヒット曲特集か何かで聞き、その歌詞にビミョ~な気分になった記憶があります。いや、だってこの歌詞ってどう考えても・・・

 

「case4 シイク」・・・年を取って思いがけず得た愛娘・ミチコに夢中になる夫婦。幸せな日々を送っていたが、ある時、ミチコが何者かに誘拐されてしまう。悲嘆に暮れる夫婦だが、手掛かりはいっこうに見つからない。その頃、ミチコは狭い檻に監禁されていて・・・

これはたぶん、この手のミステリーを読み慣れた読者なら真相に気付くでしょう。ミチコ目線で見た監禁生活はめちゃくちゃ悲惨なんですが、オチがオチだからか、妙にコミカルな味わいさえ感じます。粘着質で陰気な作品が多い中、こういう話が一つ混じっていると、いい箸休めになりますね。

 

「case5 ファン」・・・ご当地アイドルのミルクは、偏執的なファンに悩まされていた。ブログへの罵詈雑言に奇妙なプレゼント。さらにミルクは、部屋が盗聴されている可能性に気付き・・・・・

熱狂的なファンがストーカーに変貌していく様子にリアリティがありました。また、ご当地アイドルの過酷な労働環境などにも触れられていて、華やかな芸能人も大変なんだなとしみじみ・・・このエピソードの場合、ドロドロというよりは皮肉の効いたオチが印象的です。そりゃ、冷静に考えたらそうだよね。

 

「case6 フリン」・・・テレビ局の下請け制作会社で働く千奈美は、和製レクター博士の話を聞き、興味を持つ。聞けば彼は、ストーカー犯罪に関するプロファイリングを行っているという。実は千奈美は母親のストーカーまがいの監視に困らされていて・・・

今回は親子間での過干渉を扱ったエピソードです。オーソドックスな毒親ものかと思いきや、やっぱり真梨さん、そう単純にはいきません。さらにこの話では、警察内での和製レクター博士の扱いが明かされます。これが意外なものでして・・・さらりと触れられているので読み飛ばしてしまいそうですが、実はけっこう重要な伏線でした。

 

「case7 イットカン」・・・<ナオコ>事件の捜査中に襲撃され、昏睡状態となった女性刑事。二年後に目を覚ますも、襲撃のショックで記憶はおぼろげだ。一体私は誰に襲われたのか。同僚と話し合う刑事が思い出した真相とは・・・・・

case1の事件がここで再び出てきます。再登場した事件だけあって、登場人物たちのエゴや狂気もパワーアップ。どいつもこいつもネジが飛んでるという状況は『殺人鬼フジコの衝動』を思い起こさせますが、本作は短編ということもあって割とあっさり読めました。それにしても、一斗缶のそういう使い方ってアリなの?

 

「Postscript 追記」・・・拘置所でテレビ取材を受けることになった和製レクター博士。インタビューが進む内、その口から予想外の言葉が飛び出した。なぜ彼は和製レクター博士となったのか。その真相が今明かされる。

あー、そう来たか!和製レクター博士の正体は早い段階で気づく人もいるでしょうが、オチがこうなるとは思いませんでした。作中で繰り返された<加害者と被害者の反転>が、ここでもしっかり活きています。確かに、常識で考えたらこの状況って変だよね。真相を知って「お前もかい!」と突っ込んだ読者も多いのではないでしょうか。

 

最近の真梨作品は登場人物数が多く、相関図がないと関係を把握することが難しい傾向にありますが、本作はさほどでもありません。強いて言うならcase1とcase7に出てくる<ナオコ>事件の人間関係がややこしいくらいで、それ以外はすんなり頭に入ってきました。やっぱり、イヤミスワールドに首まで浸かりたい時は真梨さん。そう実感できる一冊です。

 

誰が加害者で誰が被害者か・・・度★★★★★

彼が自由になるのは果たしていつ?度★★★★☆

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コメント

  1. しんくん より:

    ストーカーが登場する作品が多いですが厄介なのは殆どがIT機器に精通していること「スマホを落としただけなのに」~がその最たるものでした。
    ITもさることながら、今回は和製レクター博士という主人公らしき人物が拘留中という設定が気になります。複雑そうですがその分オチも面白そうです。

    1. ライオンまる より:

      このご時世、ストーカーにネット通信を押さえられたら、生活すべてを握られたも同然ですからね。
      本作で面白いのは、やはり和製レクター博士の存在でしょう。
      真梨ワールドらしいドロドロぶりですが、コミカルな話も入っているので、案外あっさり読めると思います。

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