はいくる

「ジャンル特化型 ホラーの扉:八つの恐怖の物語」 株式会社闇(編集) 

本を知るきっかけには、どんなものがあるでしょうか。本屋や図書館に並んでいるのを見たり、人からお勧めされたり、テレビで紹介されていたり・・・まさに千差万別、百人いれば百通りのきっかけがありそうです。

私の場合、ここ最近は<動画で取り上げられていた>というパターンが増えてきました。特に見る機会が多いのがYouTube。世界中の人が利用しているだけあって、本について触れた動画も結構多く、意外な良作に出会えたりします。今回取り上げる作品も、YouTubeの動画をきっかけに知りました。株式会社闇編集による『ジャンル特化型 ホラーの扉:八つの恐怖の物語』です。

 

こんな人におすすめ

バラエティ豊かなホラー短編集が読みたい人

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小学校内で噂される少年の幽霊、幼馴染の死から始まる異変の真相、いじめられっ子を救った猫の正体、一本の動画から甦る過去の罪、ドラム缶に閉じ込められた少年が味わう焦りと恐怖、教師に支配されていく教室の行方、人々の口から語られる怪談の数々、少女の手紙に仕掛けられた戦慄の罠・・・・・八つの恐怖が読者を襲う。鳥肌必至のアンソロジー

 

オカルトライターである雨穴さんが、本作の収録作である「告発」を動画化、YouTubeで公開されています。私はその動画を見たことをきっかけに、本作の存在を知りました。ホラー関係の新作は出版前にあらかたチェックしているはずなのに、見逃していたとは不覚・・・レベルの高い短編集だったので、気付くことができてラッキーでした。

 

「みてるよ 澤村伊智」・・・小学校内のあちこちに出没し、室内を覗き込む少年の幽霊。ただの噂かと多いきや、<覗き込まれた>とされる室内にいた生徒や動物達が次々異変に見舞われる。不安に慄く<ぼく>だが、なんと友達のテツくんも犠牲となってしまい・・・

ジャンルは心霊ホラー。こういう<人間の力が及ばない霊が無双する>という怪異譚は、澤村伊智さんの十八番です。この話の場合、元凶たる少年の幽霊の正体が一切不明というところが、いかにもジャパニーズホラーっぽいですね。毎回毎回思うことですが、澤村ワールドって善人だろうと子どもだろうと容赦なく犠牲になるから、油断できません。

 

「終わった町 芦花公園」・・・幼馴染の皐が死んだ。それ以降、女子中学生・茜の身辺で異変が相次ぐ。意味不明な言葉を呟く教師、謎の校内放送、奇行に走る家族達。怯える茜の耳元で、死んだはずの皐の声が聞こえ・・・・・

ジャンルはオカルトホラー。前の「みてるよ」は、とりあえず少年の幽霊が元凶らしいと分かるのに対し、この話の怪異はさっぱり訳が分かりません。この町に棲む神様(?)らしき存在が関わっているようだと予測はできるものの、あとはすべて謎のまま。そんな状況下で、あまりに残酷な末路を辿る茜が哀れでした。いくらなんでも、しでかしたことに対する報いが大きすぎる・・・

 

「さよならブンブン 平山夢明」・・・小学生の<僕>は、同級生からの凄惨ないじめに苦しんでいる。そんな<僕>の心の支えは、廃墟で見つけた猫のブンブン。いじめっ子達からの仕打ちをブンブンに話すことが日課だ。そんなある日、いじめグループのうち二人が相次いで不審死を遂げ・・・・・

ジャンルはモンスターホラー。平山夢明さんのホラーは、吐き気を催すほど胸糞悪い展開を迎えることがしばしばですが、この話は別。主人公を苛むいじめは酷いものの、ブンブンとの交流が楽し気なこと、最後にしっかり逆転劇があることもあり、恐らく収録作品中一番後味が良いです。猫の姿をしているブンブンの口調(五十音表で伝える)が、妙に強そうというギャップがユーモラスでした。

 

「告発 雨穴」・・・自身が中学時代に制作した動画が、なぜか今頃SNS上にアップされていることに驚く主人公。正体不明の投稿者は、動画内で主人公のことを<人を死に追いやったクズ>と糾弾している。誰がこんなことをやったのか。この動画はちゃんと削除したはずなのに、なぜ残っているのか。まさか、俺が犯したあの罪がバレたのか。主人公は混乱しながらも、どうにか動画を削除しようとするが・・・・・

ジャンルはサスペンスホラー。人外の要素が一切絡まない、人間の愚かさと悪意がほとばしる展開が強烈でした。何かが少し違えば、<平凡な子ども時代の思い出>で済んだかもしれないのにね。なお、前書きにも書いた通り、この話の動画バージョンがYouTube上で公開されています。文字で読むのとは趣が異なる怖さを味わえるので、お勧めですよ。

 

「とざし念仏 五味弘文」・・・田舎の高校に転校してきた主人公は、文化祭の準備で同級生・臼井と組む。臼井は陰気で付き合いが悪く、クラス内で浮いた存在だ。作業が進む中、アクシデントで大道具のドラム缶内に閉じ込められた主人公。通りがかった臼井に助けを求めるも、焦るあまり、余計な一言を口にしてしまい・・・・・

ジャンルはシチュエーションホラー。前の「告発者」同様、心霊ではなく人間の怖さが描かれています。特徴的なのは、中盤以降、主人公がずっとドラム缶の中にいるという点でしょう。窮屈な姿勢、痛み始める体、酸欠になるのではないかという恐怖、どれだけ叫んでもなぜか助けてくれない生徒達・・・閉鎖恐怖症気味の私なら、たぶん失神すると思います。ちなみに、作者の五味弘文さんは、お化け屋敷のプロデューサーとしても有名な方。ただビックリさせるだけでなく、物語としても怖いお化け屋敷をたくさんプロデュースされています。HPの設定を見るだけで十分面白いので、良かったら調べてみてください。

 

「一一分間 瀬名秀明」・・・ある朝、教室に現れたのは担任ではなく、代理教師のレナだった。生徒達に対し、<自由><思いやり>について語るレナ。泰然自若とした様子に、生徒達は次第に飲まれていくが、クラスの一人・健一が発言を始め・・・・・

ジャンルはSFホラー。冒頭に書いてありますが、ジェームズ・クラベル『23分間の奇跡』へのオマージュ作品です。感染症によるパンデミックが重要な要素になっていることもあり、フィクションと言い切れないリアリティがありました。ただ、ジャンルがSFなせいか、他の話と比べると、いわゆるホラー的な恐怖感はやや薄めです。このスリリングな緊迫感は、SFサスペンスと言った方が近いかも?

 

「学校の怖い話 田中俊行」・・・鏡の向こう側から助けを求める人影の秘密、アゲハチョウをうっかり殺してしまった少年達が見たもの、なぜか誰も覚えていない初恋の少女の謎、普段と違う行動を取った途端に死んだ友人達。次々語られる怪談話の行方とは・・・

ジャンルは怪談。今回は実話怪談で、作者に向けて語られる怪談を紹介するという体裁です。作者の田中俊行さんは怪談師としても名高いそうで、その実績に違わぬ臨場感たっぷりのエピソードばかり。はっきりしたオチが分からないところも、純和風怪談らしい不気味さを引き立てていました。

 

「民法第961条 梨」・・・一人の少女が体験した不可解な出来事。学級文庫の中に<読んだら怖くなる本>があるという。本の題名は『十四歳の世渡り術』。半信半疑ながら、少女は興味本位でこの本について調べてみるのだが・・・・・

ジャンルはモキュメンタリーホラー。ドキュメンタリーという体裁を取っているだけあって、文集や手紙形式で話が進みます。本作のシリーズ名である『十四歳の世渡り術』が、作中で重要なアイテムとして登場することもあり、本当にドキュメンタリー作品を読んでいるような気分にさせられました。なお、作者の梨さんは、ネット上に数々の創作怪談を投稿されています。特にコミュニサイト<SCP財団>に投稿された『けりよ』『しんに』は、土着ホラー好きならきっと気に入ると思います。ぜひ、ご一読あれ。

 

前述しましたが、本作は『十四歳の世渡り術』というシリーズの一冊です。このシリーズには『いつか君に出会ってほしい本』『スマホアプリはなぜ無料?』等々、ヤングアダルト向けの本が揃っています。そんな中に本作みたいなゴリゴリのホラー作品が混ざって大丈夫?えげつない描写や救いのないラストが多く、何の気なしに手に取ったティーンエイジャーがショックを受けないか、ちょっと心配だったりします。

 

好みのホラーがきっと見つかる度★★★★☆

巻末のお勧め小説紹介も見逃さないで度★★★★★

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コメント

  1. しんくん より:

    雨穴さんの作品があるとは驚きました。
    澤村伊智さん以外は知らない作家さんです。
    ホラーと言ってもバラエティ豊かで楽しめそうです。
    十四歳の世渡り術とは読んでみたいです。
    掲載禁止借りてきましたが、撮影現場とあり掲載禁止とは別物でしたが面白かったです。

    1. ライオンまる より:

      ホラー好きには堪らない一冊でした。
      「掲載禁止」はシリーズ物で、「携帯禁止 撮影現場」は第二弾なんです。
      どちらも面白いですよね!
      凄まじい状況なのに登場人物全員幸せな「ルレの風に吹かれて」がお気に入りです。

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