SF

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「鋏の記憶」 今邑彩

サイコメトリーという言葉をご存知でしょうか。これは超能力の一種で、物体に残る人の残留思念を読み取ること。特に考古学との関係が深く、発掘された考古学品の過去を読み取って研究に役立てる事例は、世界中に存在するそうです。

日本において、瞬間移動やテレパシーなどと比べるとあまり知られていなかったサイコメトリーの知名度を上げたのは、樹林伸さん原作の漫画『サイコメトラーEIJI』でしょう。松岡昌宏さん主演によるドラマがヒットしたこともあり、「超能力はよく分からないけど、サイコメトリーという言葉は知っている」という方も多いのではないでしょうか。小説では、宮部みゆきさんの『龍は眠る』『楽園』でもサイコメトリーが出てきました。それからこれも面白かったですよ。今邑彩さん『鋏の記憶』です。

 

こんな人におすすめ

サイコメトリーを扱ったミステリーが読みたい人

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「瞬間移動死体」 西澤保彦

SFやファンタジーの世界では、しばしば超自然的な能力が登場します。創作物の中ではとても魅力的な要素となり得ますが、現実世界に置き換えた場合、「こんな能力があっても困るよな・・・」と思うものも多いです。<辺り一帯に大地震や地割れを起こす能力>なんて、現代日本で必要となる機会がそうそうあるとも思えません。

一方、使い勝手が良く、日常生活で役立ちそうな超能力も色々あります。<瞬間移動>なんて、その筆頭格ではないでしょうか。これは物体を離れた場所に送ったり、自分自身が離れた場所に瞬時に移動する能力のこと。こんな能力があれば、通勤や通学、レジャーなどで移動する時も楽ですし、非常時の避難だって簡単にできます。とはいえ、メリットがあればデメリットもあるというのがお約束。では、瞬間移動ならどうかというと・・・?そんな諸々の悲喜劇を描いた作品がこれ。西澤保彦さん『瞬間移動死体』です。

 

こんな人におすすめ

超能力が絡んだ本格ミステリが読みたい人

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「人格転移の殺人」 西澤保彦

<あの人は人が変わってしまった>という言い回しがあります。ある人の性格や行動パターンが唐突にガラッと変わった時によく用いられますね。現実では、本当に人が変わったわけではなく、何らかのきっかけにより人となりが激変したというケースがほとんどでしょう。

一方、フィクションの世界の場合、例えでも何でもなく本当に<人が変わった>ということがあり得ます。こういう設定で有名なのは、東野圭吾さんの『秘密』。事故で死んだ娘の体に、同じく事故死した母親の魂が宿ってしまうというヒューマンファンタジーでした。何度も映像化されているので、ご存知の方も多いと思います。ただ、私が<人が変わった>系の小説で連想するのは、実はこちらの方なんですよ。西澤保彦さん『人格転移の殺人』です。

 

こんな人におすすめ

SF設定が絡んだミステリーが読みたい人

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「さよならの儀式」 宮部みゆき

私は基本的にどんなジャンルの小説も抵抗なく読む人間ですが、改めて自分の読書歴を振り返ってみると、SF小説の読破率が低いことに気付きました。実際、このブログでも、SF小説の登場頻度は低いです。どうしてだろうと自分で考えた結果、「なんとなく感情移入しにくいから」ではないかなと推測・・・私の理解を遥かに超えたテクノロジーとかの話を持ち出されると、つい一歩引いてしまうみたいです。

逆に、私の頭でも設定や世界観が理解しやすいSF作品なら、楽しく読むことができます。筒井康隆さんの『時をかける少女』や重松清さんの『流星ワゴン』、東野圭吾さんの『パラレルワールド・ラブストーリー』などは、SFながら設定は現代に通じていて、共感できる部分が多かったですね。先日読んだSF作品もそうでした。宮部みゆきさん『さよならの儀式』です。

 

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ビターなSF短編小説集が読みたい人

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「あなたの本」 誉田哲也

昔、私は2ちゃんねる(現5ちゃんねる)が好きで、手持無沙汰な時間にちょこちょこ覗いていました。以前と比べると頻度が落ちましたが、唯一、<後味の悪い話>というスレッドのみ、今も定期的に進行をチェックしています。タイトルが示す通り、自分の知っている後味の悪い話を投稿するスレッドで、実体験・小説・映画・アニメなどジャンルは不問。イヤミス好きな私の心をくすぐる投稿も多く、ここでこれから読む本を見つけることもありました。

このスレッドを見ていてつくづく思うのは、「後味の悪い話を簡潔かつ面白くまとめるのって難しいな」ということです。もちろん、どんな話だって難しいんでしょうが、後味の悪い話の場合、内容が重苦しい分、だらだら文章を書き連ねると<読みにくい><中身が暗い>のダブルパンチでウンザリ度合も上がるというか・・・真梨幸子さんや櫛木理宇さんのようなどんより暗い長編イヤミス作品も大好きですが、コンパクトで切れ味鋭い短編イヤミスを見つけた時は嬉しさもひとしおです。今回は、そんな短くも後味悪い小説を集めた短編集を取り上げたいと思います。誉田哲也さん『あなたの本』です。

 

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『世にも奇妙な物語』のような短編小説が読みたい人

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「10分間ミステリー」 『このミステリーがすごい!』大賞編集部 編

芥川龍之介賞、直木三十五賞、吉川英治文学賞、山本周五郎賞・・・・・文壇には様々な文学賞があります。インターネットなどを経て人気を集める作家さんや作品も増えてきましたが、それでもやはりこうした文学賞には価値があるもの。権威ある賞の受賞をきっかけにデビューした作家さんは大勢います。

そんな文学賞の中で、私が一番注目しているのは『このミステリーがすごい!』大賞です。二〇〇二年に創設された新しい賞ですが、海堂尊さんの『チーム・バチスタの栄光』や柚月裕子さんの『臨床心理』、中山七里さんの『さよならドビュッシー』など、受賞を機にスターダムの仲間入りをした人気作家さんも多いです。今回は、そんな『このミステリーがすごい!』大賞受賞作家さんがずらりと並んだアンソロジーをご紹介します。『10分間ミステリー』です。

 

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ショートショートが詰まった短編集が読みたい人

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「いつかの岸辺に跳ねていく」 加納朋子

<超能力の例を一つ挙げてみなさい>と言われたら、どんな能力が出て来るでしょうか。口から言葉を発せずに意思を伝えるテレパシー、視界に入らないはずの出来事を見る透視能力、手を使わずに物を動かす念動力・・・どれもこれも有名な能力ですが、それらと並んで知名度が高いのが<予知能力>です。文字通り、その時点で起こっていない出来事を予め知る力のことで、かの有名なノストラダムスもこの能力の持ち主として知られています。

下手するとチート状態になりかねない能力のせいか、漫画や映像作品と比べると、小説の予知能力者の登場率はさほど高くありません。それでも、宮部みゆきさんの『鳩笛草』収録作品である「朽ちてゆくまで」や筒井康隆さんの『七瀬ふたたび』では、予知能力者の悲哀や葛藤が丁寧に描かれていました。今回ご紹介する作品は、加納朋子さん『いつかの岸辺に跳ねていく』。切なく、やるせなく、それでいて優しい予知能力者の物語です。

 

こんな人におすすめ

予知能力が登場するヒューマンストーリーが読みたい人

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「月蝕島の魔物」 田中芳樹

小説の中にはしばしば実在した歴史上の人物が登場します。その人物が主役の話ももちろん面白いですが、個人的には、創作キャラクター主役の話に脇役として実在の人物が登場する方が好きですね。歴史に名を残す人物が、周囲の目にどんな風に映っていたか。そんな描写を読むのが好きなんです。

この手の作品で私の一押しは、浅田次郎さんの『蒼穹の昴』。西太后や袁世凱、孫文といった歴史上の人物がわんさか登場しますし、主要登場人物の一人と少年時代の毛沢東が絡むシーンは感動でした。こちらは日中合作でドラマ化されたほどの有名作品なので、今回は別の作品を取り上げたいと思います。田中芳樹さん『月蝕島の魔物』です。

 

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ヨーロッパが舞台の冒険譚が読みたい人

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「満月ケチャップライス」 朱川湊人

<超能力>という言葉を聞くと、なんだかわくわくしてきます。手を触れずに物を動かしたり、未来の出来事を見通したり、一瞬で遠く離れた場所に移動したり・・・文字通り、普通の人間の力を超えた能力だからこそ、余計に憧れが募ります。

超能力を扱った創作物の場合、その能力を使って敵と戦うアクション作品と、異能を持つがゆえに悩み苦しむ超能力者を描いたヒューマンドラマの二パターンに分かれることが多いです。前者は派手で迫力ある展開になるからか、漫画や映画でよくありますね。『X-MEN』などのようなアメコミ作品がその代表格でしょう。今回は、後者の作品を取り上げたいと思います。朱川湊人さん『満月ケチャップライス』です。

 

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超能力が出てくる、悲しくも心温まる物語が読みたい人

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「かがみの孤城」 辻村深月

何でも願い事を一つ叶えてあげる・・・物語によくあるシチュエーションです。もしそんな局面に直面した時、人は何を願うのでしょうか。私は想像力貧困ですので、いざそういう状況になったら、「家内安全、無病息災」くらいしか思いつかないかもしれません(笑)

しかし、世の中には、切実に叶えたい願いを持つ人もいます。どうにもならない現実に苦しみ、人ならざるものの力を借りてでもそれを打開したいと願う子どももいます。今日取り上げる小説には、そんな子どもたちが登場します。辻村深月さん『かがみの孤城』です。

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