はいくる

「素敵な日本人」 東野圭吾

新年あけましておめでとうございます!このブログも開設して一年半を過ぎました。ここまで続けてこられたのは、お付き合いくださる皆さんのおかげです。拙い文章と内容ばかりですが、2018年もどうぞよろしくお願いします。

新しい年を迎えてすぐは何かと慌ただしく、ゆっくり読書する時間を取ることが難しいかもしれません。そういう時は、重厚な大長編より、さっくり読める短編の方が手を出しやすいのではないでしょうか。それならこの短編集がお薦めですよ。東野圭吾さん『素敵な日本人』です。

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初詣に向かう夫婦が出くわした殺人未遂事件、元恋人と十年ぶりに共に過ごすバレンタインデー、娘の結婚を案じる父親が知った意外な秘密、合コン相手との進展を望む男が見た真実、赤ちゃんロボットで疑似育児体験をする女性の奮闘、邪魔になった恋人を殺そうと目論む男の運命・・・・・ベストセラー作家が仕掛ける、九つの素敵なミステリー。

 

本の紹介文に「毎日寝る前に一編。ゆっくり、読んでください」とあるだけあって、どの話も軽妙で読みやすさ抜群。かといって安っぽくならず、短い中にしっかり人間模様を感じさせるのが東野圭吾さんのすごいところですね。ミステリーだけでなくSFやヒューマンドラマといったジャンルの作品も収録されていて、とても読み応えがありました。

 

「正月の決意」・・・初詣に向かう途中、町長が倒れているのを発見した主人公夫妻。どうやら何者かに襲撃されたようだが、正月ということもあって刑事たちはまるで捜査する気なし。事情聴取のため足止めを食らった主人公は、ふとあることに気付き・・・

事件のトリック云々より、刑事たちのあまりの怠けぶりに苛々しっぱなしでした。でも、彼らが無責任な怠け者だからこそ尊い人命が救われたわけだしなぁ・・・結果良ければすべて良しなんでしょうか。

 

「十年目のバレンタイン」・・・作家である主人公は、バレンタインデーの夜、十年前に別れた恋人とデートすることになる。楽しいひと時を過ごす主人公だが、自殺したサークル仲間の話題が出た辺りから雲行きが怪しくなり・・・

魅力的な元恋人とのバレンタインに浮かれる主人公が、徐々に不安・緊張・疑惑に揺れ始める描写が秀逸でした。ラストのスッキリ度もなかなかのもの。元恋人の女性はキャラクターとして面白いので、いつか再登場してほしいものです。

 

「今夜は一人で雛祭り」・・・一人娘の結婚が決まり、そこはかとない不安を感じる男やもめの主人公。娘婿となるのは名家の息子であり、見るからに厳格そうな姑までいるからだ。心配する主人公に、娘は「私には母さんの血が流れているから大丈夫」と言うが・・・

不器用ながら懸命に娘を案じる父親の心境が切なく温かいです。嫁姑問題が絡み、いかにもドロドロしそうな感じでしたが、ラストですっきり爽やか気分になりました。雛人形に関する知識も丁寧に書かれていて嬉しいですね。

 

「君の瞳に乾杯」・・・アニメ好きの主人公は、合コンで同じ趣味の女性と仲良くなる。なかなか進まない関係にやきもきし、思い切って好意を告白した主人公に対し、女性が言った意味深な言葉。彼女の真意を知った主人公の行動とは。

収録作品中、一番好きな話でした。オチを知った後に読み返してみると、実はあちこちに伏線が張ってあってビックリ。あと、私もアニメ好きなので、会話に出てくるアニメネタにはニンマリしてしまいましたね。『黒執事』、好きですよ。

 

「レンタルベビー」・・・近未来、長期休暇の暇潰しのため精巧な赤ちゃんロボットで育児体験をしてみることにした主人公。仕事一筋で非協力的な同棲相手を後目に「パール」と名付けた赤ちゃんロボットの世話に明け暮れる主人公だが・・・

なんとオチのどんでん返しが二段構え!最初のビックリはもちろん、二度目のビックリは心底「えーっ!!」という感じでした。でも、遠からずこんな時代になりそうな気も・・・主人公が徐々に「パール」に愛情を抱いていく描写には心温まりました。

 

「壊れた時計」・・・ネットで知り合った仲介役の紹介で、怪しい運び屋の仕事を引き受ける主人公。仕事の最中、たまたま出くわした相手を弾みで殺してしまう。動転する主人公の目に、被害者がしている腕時計が飛び込んできて・・・・・

こういう「やればやるほどドツボにはまっていく主人公」には感情移入してしまいます。私もこういう間抜けな行動を取っちゃう性格なんですよね(笑)中盤以降、さながらコロンボか古畑任三郎のように、じわじわ主人公を追い詰めていく刑事さんがなかなかユニークでした。

 

「サファイアの奇跡」・・・小学生の主人公は神社で猫を見つけ、可愛がるようになる。ある日、猫が交通事故で死んでしまったと知り、ショックを受ける主人公。猫が搬送された病院に向かうと、そこで不思議な気配を感じ・・・・・

「レンタルベビー」とは違う意味でSF風の雰囲気が漂う作品でした。刑事事件はまったく起こらないのですが、中盤からラストにかけての盛り上がりはなんともお見事。さほど動物好きとは言えない私でさえ、人と動物の絆にジーンときてしまいました。

 

「クリスマスミステリ」・・・役者である主人公は、交際中の大物女流脚本家をお荷物だと感じ始めている。だが、彼女を敵に回せば業界で干される可能性があり、やむなく毒を使った殺害計画を決行。すべては完璧に進むと思われたが・・・・・

一言で言えば、身勝手なクズ男が自業自得で破滅する話。こういう因果応報譚は読んでいて気分スッキリですね。なお、主人公は役者なのですが、小説内に登場する作中劇ってもしかして東野さんの過去作品『名探偵退場』でしょうか?こういう小ネタも楽しいです。

 

「水晶の数珠」・・・父親が病で余命わずかと知り帰国した主人公。役者になるため渡米して以来、父親とは義絶状態だったのだ。帰国直後、父親から電話で挑発的な言葉を投げつけられた主人公は、怒ってアメリカにとんぼ返りするのだが・・・・・

これは本当に素敵な作品でした。疎遠だった親子の話に、一族に受け継がれる「水晶の数珠」のエピソードがうまく絡み、感涙必至のヒューマンドラマに仕上がっています。SFめいた話が苦手な人でも、これなら面白いと感じるのではないでしょうか。

 

どの話もレベルが高く、不満点などほとんどない作品ですが、一つ疑問が・・・タイトルの『素敵な日本人』は一体どこから来たんでしょう?これだけが気になって気になって仕方ないので、どなたか解説をお願いします!

 

どの話も芸が細かい度★★★★★

寝る前、移動中、空き時間にさらりと読むのにぴったり度★★★★★

 

こんな人におすすめ

気軽に読める短編集が好きな人

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コメント

  1. しんくん より:

    新年度から読む最初の短編「正月の決意」はまさに正月に相応しい作品でしたね。
    見事な展開の「10年振りのバレンタイン」、近未来を予想した「レンタルベビー」、間抜けな犯人の面白いエピソード「壊れた時計」、不器用な父親の愛情「水晶の数珠」も良かったです。良い短編集でしたね。

    1. ライオンまる より:

      仰る通り、「正月の決意」は新年にぴったりの作品でした。
      これだけレベルの高い短編を揃えられるとは、さすが東野圭吾さん。
      今年も今まで以上に応援しようと思います。

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