「宇宙人」と聞くと、どんな存在を思い浮かべるでしょうか。いわゆる「グレイタイプ」と呼ばれる大きな頭と黒い目を持つタイプから、映画『エイリアン』に登場するような化け物じみた姿、地球人そっくりの容姿を持つものなど、色々でしょうね。ちなみに私はというと、子どもの頃に見たアニメの影響で、足がたくさんあるタコ型宇宙人を想像してしまいます。
いるのかいないのか、その存在が今なお議論の的になっている宇宙人。フィクションの世界ではしばしば恐怖の対象となることもありますが、実際のところはどうなんでしょう。科学的なことはともかく、こんな宇宙人が本当にいたら、友達になりたくなるかもしれません。朱川湊人さんの『銀河に口笛』です。
昭和四十年代、「ウルトラマリン隊」を結成してご近所の謎を追い掛けていた小学生たちは、ある日、一人の少年と出会う。不思議な力を持つ彼と共に挑む、たくさんの事件。夜更けに風鈴を鳴らしながら歩く男、校内に出没する正体不明の美少女、死んだ母親が遺した預金通帳の行方、認知症を患う老婆が差し出すボタンの謎・・・・・事件を通じて様々な出会いと別れを経験し、少しずつ成長していく子ども達を描いたノスタルジック・ストーリー。
郷愁漂う作品を書かせたら天下一品の作者らしい、懐かしさと切なさに満ちた作品。四十代となった主人公が過去を振り返り、「ウルトラマリン隊」の隊員だった頃を思い出すという形の連作短編集です。作品全体に夕日を思わせる茜色の雰囲気が漂っていて、それが胸に染みて染みて・・・・・文章だけで、どうしてこれほど少年時代の「色」が表現できるのか、いつもしみじみ感心してしまいます。
話自体はいたってシンプル。小学三年生の子ども達が、流れ星とともにやって来た少年・リンダ(「林田」という姓にちなんだあだ名)と仲良くなり、探偵団を組織して身の回りの謎に挑戦するというものです。このリンダ、ただ大人びた美少年というだけでなく、不思議な力を持つ様子・・・主人公はリンダが宇宙人かもしれないと考えるものの、子どもらしい素直さでそれを受け入れます。このリンダの「不思議さ」の描写、それでも抵抗なく仲良くする探偵団の面々の表現が本当に巧い!たぶん、中学生や高校生が主人公ならこうはいかないのでしょうが、小学生という良い意味での幼さが、彼らの友情をすくすく育んでいくのです。
一方、人間の業の深さを書くことに定評のある朱川湊人さんですから、ただ優しく懐かしいだけでは終わりません。貧しさ、虐待、トランスジェンダーなど、子どもたちがどれだけ力を振り絞ろうと、リンダの不思議な力を借りようと解決できない悩みもあります。回想パートと現代主人公パートの間に関係者が亡くなってしまうこともあります。この時のさり気なく、しかしほろ苦く悲しい描き方・・・こんな空気を書ける作家さんって、滅多にいないのではないでしょうか。
私が読んだのは二〇一〇年に刊行された単行本版ですが、その後出版された文庫版では、書き下ろしの最終章が追加されているそうです。なんでも、主人公らと別れたリンダが再登場しているとか・・・・・これは絶対に探さねば!!
胸がキュンとして仕方ないよ度★★★★☆
結局、彼の正体は・・・?度★★★★☆
こんな人におすすめ
ノスタルジックな短編集が読みたい人
ウルトラマンをモデルにしたSFとは楽しみです。
年代的にウルトラマンに夢中になった世代ですのでこれは読みたい作品です。
ミステリー、ヒューマンドラマ、ノスタルジック~いろいろな要素があり面白そうです。
こういう色々な要素を交えた作品を書くところが、朱川湊人さんの魅力だと思います。
単純に「超能力を持ったキャラクターがすべて解決」ではない所がまた良いんですよね。
読むたびに子どもの頃が懐かしくなるんですよ。