はいくる

「小学61年生」 朱川湊人

フィクション作品には<どんなクライマックスを迎えるか、早く知りたいもの>と<いつまでもストーリーを追い続けたいもの>の二つがあると思います。何をもってそう判断するかは人それぞれなのでしょうが、私の場合、前者は圧倒的にミステリーやホラー作品。早くオチでびっくりさせてほしい一心で、寝る間も惜しんで終盤まで一気読みすることもしばしばです。

一方、後者はコメディやヒューマン作品が多いです。感覚としては、変わらぬ日常を描く『サザエさん』『ドラえもん』が長年に渡って愛されるのと似たようなものでしょうか。藤崎翔さんの『お梅シリーズ』なんて、この先、五十巻を超える勢いで続いてほしいと切に願っています。先日読んだ作品も、いつまでも続いてほしいと思える青春小説でした。朱川湊人さん『小学61年生』です。

 

こんな人におすすめ

・特撮が好きな人

・若者たちの青春成長物語に興味がある人

スポンサーリンク

俺はもう楽しいことしかやりたくない-----神田杉千代、十八歳、花の明治大学工学部生。新生活に踏み出したばかりの彼は、キャンパスで偶然にも幼馴染の辛崎渡と再会する。この再会により、杉千代はかつての<怪獣愛>を再燃させ、辛崎が主導する特撮映画製作チームに参加することに。早速、ありあわせの材料を使って怪獣とセットを作り、8ミリ映画を撮り始めるのだが・・・・・バカ映画界の重鎮・河崎実をモデルにした、笑えて熱い青春物語、ここに誕生!!

 

主要登場人物・辛崎渡のモデルは、『いかレスラー』『日本以外全部沈没』等で有名な実在の監督・河崎実さん。私個人としては、世にも奇妙な物語「廃校七番目の不思議」の監督としての方が印象深いです。名前を知らなかったという方は、ウィキペディア等で監督作品一覧をチェックしておくと、なんとなく作品の傾向が掴めると思います。タイトルだけでも吹き出してしまいそうな作品がずらりと並んでいるので、外出先では見ない方がいいですよ。

 

晴れて明治大学の工学部に入学した杉千代は、そこで旧友・辛崎渡とばったり再会します。二人は小学生時代、大の怪獣好き同士として楽しく遊んだ仲でした。辛崎は今も怪獣愛を忘れておらず、現在は映画製作を計画中とのこと。その情熱に押されるかのように、手先が器用な杉千代も製作チームに加わることになります。街並みは段ボール、怪獣は豆腐というアマチュア感溢れるものでしたが、予想以上に上手く撮影でき、杉千代もほくほく顔。しかし、辛崎はここで満足せず、次作の構想を練っていました。抜群の行動力とコミュニケーション能力を駆使し、ぶち当たる壁を次々突破して、映画製作に邁進する辛崎。道を分かちながらも、辛崎の情熱を応援し続ける杉千代。彼らの熱い日々は、やがて多くの人々を動かすようになるのです。

 

何よりまず、主人公が辛崎ではなく、辛崎を側で応援する杉千代だという発想が面白いです。実際、ぱっと聞いただけでは、辛崎の人生の方がずっと波乱万丈だと思うんですよ。ふぐ料理屋の息子として生まれた彼は、ろくなコネもないにもかかわらず、その情熱と行動力をもって人を集め、時に多くの著名人(石坂浩二とか)すら動かし、映画監督への道を歩んでいきます。一方、杉千代は大学卒業と同時に民間企業に就職し、会社員として生きていきます。結婚した女性が特撮に無関心だったこともあり、趣味を隠す時期すらありました。もちろん、それはそれで充分有意義な人生ですが、小説の題材としてどちらがドラマチックかと聞かれれば、やはり辛崎の方でしょう。

 

しかし、いざ読み始めてみると、趣味を仕事にせず、一般人として生きる杉千代目線だからこそ共感できるポイントが多々あるんですよ。辛崎の人並外れたバイタリティや前向きさ、意に沿わない会社勤めができず凹む繊細さ、チビ雪舟(自分の涙で絵を描いたとされる水墨画家・雪舟にちなんだあだ名)と呼ばれるほど情熱的な部分。それらすべては、多くの読者と同じく平凡な市民の杉千代視点だからこそ、より一層キラキラと輝きます。これ、辛崎視点だったら、案外「これくらい当然だろ」とサラッと流されていたかもしれません。加えて、杉千代をただの小市民にするのではなく、特撮からは離れても、かつて特撮から学んだ勇気は決して忘れていない好漢として描いているところも良かったです。終盤のタイガー部長のエピソード、ジーンと来ました。

 

さらに忘れちゃいけないのが、あちこちにふんだんにちりばめられた特撮・オタク趣味に関する描写です。ウルトラマンシリーズ、円谷プロ、ゴジラ、ジャミラ、タイガーマスクetc・・・そこに辛崎が(というか、河崎実監督が)撮った映像作品のエピソードが絡まり、ファンならワクワクすること必至。この手のジャンルに興味がなくても、若者が試行錯誤しながら夢を実現させていく流れはお仕事小説としても読めるので、充分面白いと思います。普段は楽しいこと大好きな辛崎が、いざ撮影現場に入ると辛辣さや冷徹さを見せるというところもリアリティありますね。それで杉千代が辛崎に失望するのではなく、「あれが辛崎の、本当の仲間にならなきゃ見ることのできない顔」と評する場面、すごく印象的でした。

 

河崎実監督自身、実績は十分なものの作風がかなり奇抜ということもあり、まるで知らなかったという読者も一定数いそうな気がします。実際に見てみると、ものすごく真剣かつ生き生きと撮ったと分かる、力の入ったバカ映画(ご本人がこう呼んでいる)が色々あるんですよ。Amazon Prime Video等で無料配信されている作品もあるので、興味のある方はぜひ視聴してみてください。

 

映画作りの様子が目に浮かぶよう度★★★★★

二人の友情がめちゃくちゃ素敵!度★★★★★

スポンサーリンク

コメントを残す

*

CAPTCHA


このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください