はいくる

「トンネルに消えた女の怖い話」 クリス・プリーストリー

以前、インターネット上で<特に理由はないけど、なぜか不安になる写真>という特集を見たことがあります。夜霧に包まれた児童公園や建設中の無人の駅、倉庫の中にずらりと並ぶマネキン人形、夕焼けで赤く染まるシャッター通りと化した商店街など、なんとなく胸がざわつく写真の数々が印象的でした。

その中で、私が一番はっきり記憶しているのは、夜中のトンネルを写した写真です。真っ暗で、出口が見えず、圧迫感と閉塞感を感じさせるせいでしょうか。実際、福岡県の旧犬鳴トンネルや北海道の常紋トンネルのように、心霊スポットとして有名なトンネルも数多く存在します。今回は、トンネルが登場するホラー小説をご紹介します。クリス・プリーストリー氏『トンネルに消えた女の怖い話』です。

 

こんな人におすすめ

後味の悪いホラー短編集に興味がある人

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実家を離れ、新しい学校に進学するため、列車での一人旅に臨むロバート。いつしか眠ってしまい、目覚めると、トラブルが起きたのか列車が停まっていた。仕切り客室の中、他の乗客たちはぐっすり眠り込んでいて、起きているのはロバートと、白いドレス姿の美しい女だけ。戸惑うロバートに対し、女は語り掛ける。「退屈しのぎに物語はどうかしら?」・・・・・家庭教師が雇い主の家で出会った子ども達の秘密、義妹にだけ見える友達の正体、美しい人形劇に隠された戦慄の秘密、高圧的な修道女が辿る血塗られた末路、不可解な連続殺人を犯す怪人の謎---――奇妙で不気味な英国怪奇小説短編集

 

クリス・プリーストリー氏の『怖い話シリーズ』、第三弾はトンネル内で謎の美女が怖い話を語るという設定です。第一弾『モンタギューおじさんの怖い話』では主人公が自らおじさんの家に行き、第二弾『船乗りサッカレーの怖い話』では主人公兄妹が自宅兼店舗である宿屋に船乗りを迎え入れ、怖い話を聞かせてもらいました。この二つの場合、主人公たちは自分の意思でその場を離れることが可能でしたが、本作は停車中の列車内。その場から動くわけにもいかず、不安が募る中で怖い話が語られるため、不気味さもいや増すというもの。よくまあこれだけ異なる舞台設定を考え出せるなと、つくづく感心してしまいます。

 

「新しい家庭教師」・・・家庭教師として働くアメリアは、新たな雇い主の家を訪れた。受け持つのは、男の子二人と、女の子一人の兄妹。いかにも生意気そうな子供たちで、しつけのし甲斐があると、アメリアはやる気をみなぎらせる。よく観察したところ、なぜか長男のダニエルだけが特に我儘な振る舞いを許されているようで・・・・・

現在、家庭教師といえば生徒宅を数時間訪れ、勉強を教える存在です。対して、一昔前は雇い主宅に住み込み、学齢期の子どもに教養や礼儀作法を学ばせるのが役目でした。住み込みという性質上、時に雇い主の家庭に深く関わることも有り得るわけですが、さすがにこんな秘密に関わるのは嫌・・・ただ、このアメリアもかなり難ありの人物のようなので、長く家庭教師として務めなくて正解だったのかもしれません。前半の何気ない一言が終盤に繋がる構成、実に心ニクイ!!

 

「小さな人たち」・・・父親の再婚により、継母と義妹ができたペネロペ。義妹のローラは空想好きで夢見がちな少女で、親の目の届かないところではよく独り言を言っている。本人曰く、あれは独り言ではなく、<小さな人たち>と喋っているのだという。そんなの嘘に決まっている。ローラが気に入らないペネロペは、親の前で恥をかかせてやろうとローラの秘密を探るのだが・・・・・

児童文学にありがちな義理の姉妹の確執モノ。ただこの話の場合、キーキーとヒステリックに尖っているのが主人公、のほほんと無邪気に過ごしているのが義妹と、よくある話とはポジションが逆なのが特徴です。主人公は意地悪ではあったけれど、さすがに払った代償が大きすぎる気がしてなりません。義妹が一体何者なのか、<小さな人たち>の正体が何なのか、色々と考察し甲斐がありますね。

 

「ジェラルド」・・・エマは、外出先で見た美しい人形芝居にすっかり心奪われる。その直後、憎からず思っていたジェラルドとばったり出くわしたことで、楽しい気分は吹っ飛んだ。ジェラルドは、顔つきも挙動もまるで正気を失ったかのようで、以前とは別人だったのだ。そんなジェラルドだが、なぜかエマに執拗に付きまといだして・・・

夢のように美しい人形芝居と、原因不明ながら正気を失ってしまった少年。二つの描写の落差が凄まじく、これがどう繋がるのかと思っていましたが・・・・・あ、なるほど(汗)今後も悲劇は続くのだろうなと予感させるラストがすごく良かったです。いつも思うのですが、人形とホラーは相性抜群ですね。

 

「シスター・ヴェロニカ」・・・女子修道院で働くシスター・ヴェロニカの喜びは、手に負えない女生徒たちをしつけ、罰すること。強く罰すれば罰するほど、あの子たちはいずれ神の恵みを受けられるようになるはずだ。そう信じて日々勤めるシスター・ヴェロニカに対し、バーバラという女生徒が「シスターをモデルとして絵を描きたい」と申し出て・・・

このシリーズとしては珍しく、怪異が一切出ないヒトコワホラーでした。狂信的でサディスティックなシスター・ヴェロニカは怖いけど、少女たちの狂気と集団心理も相当なものだよなぁ。これからどんな生き地獄が繰り広げられるのかと思うと、鳥肌が立ちそうです。修道院らしい厳粛で排他的な雰囲気も、物語の舞台として◎です。

 

「ささやく男」・・・ローランドの周囲は今、<ささやく男>の噂で持ち切りだ。そいつははっきりした顔かたちを持たない、影のような男で、すでに五名もの人間を殺害している。犠牲者の内、一人の遺体を発見したのは、ローランドと悪ガキ仲間たちだ。だが、この一件でローランドの振る舞いを案じた父親により、地元を離れることを命じられてしまう。未練が残るローランドの前に、なんと<ささやく男>が現れて・・・・・

予想以上に気色悪い<ささやき男>の正体が衝撃的でした。それも、心霊的というより生理的嫌悪感に訴えかけるタイプの気色悪さ。一体何がどうしてこうなったのか、一切不明なところが余計に怖いです。さらにこの話の幕間で、物語の聞き手を務めるロバートの祖父は、シリーズ第一弾『モンタギューおじさんの怖い話』に出てきたモンタギューおじさんの生徒だったことが明かされます。こういう繋がり、なんだか嬉しくなっちゃいますね。

 

「トンネルの入口」・・・女がいくつもの物語を語り、長い時間が流れたように思えるが、列車はいつまで経っても動き出さない。客室の乗客たちもいっこうに目を覚まさない。さすがにおかしい。まさか、この女が何かやったのではないか。慌てるロバートに向かって女は手を伸ばしてきて・・・・・

動かない列車と、眠り続ける乗客たち。絶対何かあるのだろうなと思っていたけど、なるほど、こういうことだったのね。ロバートの過去との繋がりを感じさせるオチが秀逸でした。語り手の美女が、今後もロバートをつけ狙う可能性もある気がして、背筋が寒くなってしまいました。

 

『モンタギューおじさんの怖い話』の聞き手は少年、『船乗りサッカレーの怖い話』の聞き手は幼い兄妹と来て、本作の聞き手は列車で遠方への一人旅ができる年齢の少年。シリーズが続くなら、そろそろ年頃の少女が聞き手を務めるパターンも読んでみたいですね。今後が楽しみです。

 

安心安定の後味の悪さ度★★★★★

生々しい恋愛描写がちらほらあります度★★★★☆

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