はいくる

「神様ゲーム」 麻耶雄嵩

小説を読むことの一体何がそんなに楽しいのか。人によって答えは様々でしょうが、ラストの面白さを堪能したいから、と答える人は多い気がします。感動的なフィナーレだったり、衝撃的などんでん返しがあったり、終わったはずの恐怖が再び甦ってきたり・・・現実世界にはそんなにはっきりしたオチがない分、小説で味わいたいと思うのも当然です。

ですが、あえてはっきりした結末を描かず、解釈を読者に委ねるタイプの小説も、また違った面白さがあるんですよ。こういう物語は<リドルストーリー>と呼ばれ、古今東西、多くの読者を魅了し、いい意味で悩ませてきました。例を挙げると、岡嶋二人さんの『クラインの壺』、貫井徳郎さんの『プリズム』『微笑む人』、東野圭吾さんの『どちらかが彼女を殺した』などがあります。そんな中、インパクトという点ではこの作品に勝るものはなかなかないのではないでしょうか。麻耶雄嵩さん『神様ゲーム』です。

 

こんな人におすすめ

後味の悪いリドルストーリーに興味がある人

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だって、僕は神様だからね---――十歳の誕生日を迎えたばかりの少年・芳雄の悩み事。それは、最近町内で頻発している連続猫殺しのことだ。手口があまりに残虐な上、片思い中の少女・ミチルの飼い猫も犠牲となったことを知り、芳雄は歯がゆい思いを持て余す。そんな中、クラスメイトの鈴木太郎が漏らした衝撃的な言葉。なんと彼は神様であり、この世の森羅万象をすべて把握しているというのだ。何を馬鹿なと思う芳雄の前で、鈴木は誰も知るはずのない過去や未来の事柄を次々語り、猫殺しの犯人の名前も口にする。口からデマカセと思いきや、そうとは言い切れない事態が起こり始め・・・・・あまりに残酷な謎と真実を描く、驚愕の<神様>ミステリー

 

『神様シリーズ』の一作目に当たる話です。二作目は、かつてブログで取り上げた『さよなら神様』。一応、シリーズと銘打たれているものの、物語は完全に独立しています。共通する登場人物である鈴木も、『神様ゲーム』では平凡なルックス、『さよなら神様』ではイケメン(神様なので自由自在)と、見た目からしてまるで別。強いて言うなら、本作は長編、次作は短編集なので、その辺りで読む順番を決めてもいいかもしれません。

 

主人公は、少年探偵団に属する男子小学生・芳雄。彼が住む町では残虐な猫殺しが続いており、芳雄が密かに思いを寄せる少女・ミチルの愛猫も殺されてしまいました。どうにかならないかと悩む芳雄の前で、同じトイレ掃除当番だった鈴木がとんでもない一言を漏らします。曰く、彼はこの世界のすべてを作った神様で、過去も未来も分からないことは一つもない、とのこと。笑い飛ばそうとする芳雄に対し、鈴木は教師達の人間関係、芳雄の寿命、芳雄が両親の本当の子どもではないことを次々指摘。さらに、猫連続殺害事件の犯人は<秋屋甲斐>という大学生だと告げました。一体それはどこの誰なのか。疑問符だらけの芳雄ですが、探偵団の会合で、秋屋甲斐が実在しており、彼の犯行というのもあり得ない話ではないと知ります。鈴木が神様だという件はさておき、非道な猫殺しを放っておくわけにはいかない。知恵を絞り、真犯人逮捕のため計画を練る探偵団のメンバー達。彼らは犯人を見つけ、事件を解決することができるのでしょうか。

 

フィクション史上、神様がここまで感じ悪く描写されたことってなかなかない気がします。<邪悪な神>ならたくさん出てきますが、本作に登場する鈴木はひたすら冷淡で無慈悲なだけ。ありとあらゆる物事を知っており、気まぐれで答えを教えてくれることもあるけれど、基本的に放置プレイを貫きます。途中、鈴木が神様だと信じざるを得なくなった芳雄から、その傍観者っぷりを非難された時の「自作のプラモデルがあれこれ要求言い出しても鬱陶しいだけだろ」という答えが、彼の本質を表していますね。まあ、全宇宙の生命体をいちいち救って回るわけにはいかないだろうし、これはこれで仕方ないのかもな。

 

ただ、神様が出てくるトンデモ設定に反し、メインで起こる事件は嫌になるくらい生臭く現実的です。あまりに酷い手口の猫殺しに、子どもの無惨な死。麻耶雄嵩さんなだけあって死体の描写が生々しく、人によっては読むのが辛いと感じるかもしれません。ミステリーとしての構成がしっかりしている分、余計に憂鬱な気分にさせられました。

 

そして、『神様ゲーム』を語る上での大事なポイントですが、本作は前書きにもある通りリドルストーリーです。一応、事件には終止符が打たれ、犯人も判明するものの、ラスト数ぺージで芳雄は想像を絶する残酷な光景を目にします。なぜこんなことになるのか。結局、一番悪いのは誰だったのか。鈴木が言った「天誅を下す」の意味とは。考察は色々できるのですが、作者側から明確な答えは提示されません。モヤモヤすると感じる方も多そうですが、私はこういう後味の悪さが結構好きです。ネット上では考察サイトもあるので、あれこれ見て、読者同士で意見を戦わせるのも面白いのではないでしょうか。

 

ところで、よくよく考えてみると、本作は<講談社ミステリーランド>という子ども向けレーベルから刊行されているんですよね。グロや性的な描写が多く、登場人物達の発言はやたらロジカルで、ラストには何の救いもないのに子ども向け・・・好きな作品だけど、小学生くらいが読んでトラウマにならないか、ちょっと気がかりです。

 

読む・考える・語り合うで、三度面白い!度★★★★★

こんな天誅あるわけない度☆☆☆☆☆

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コメント

  1. しんくん より:

    王様ゲーム以上に凄惨な内容かと思いましたが、子供向けなら少しはマシでしょうか。王様ゲームは2冊しか読めませんでした。
    貫井徳郎さんの「微笑む人」はともかく東野圭吾さんの「どちらかが彼女を殺した」はいまだにモヤモヤします。
    王様ゲームや櫛木理宇さん、黒新堂と比べてどうなのか?読んでみたいです。
    先週、秋吉里香子さんの「終活中毒」借りて来ました。「婚活中毒」ほどイヤミス要素はないですが面白かったです。

    1. ライオンまる より:

      さすがに拷問orゲームめいた殺人シーンはないので、王様ゲームや一部の櫛木作品と比べるとかなりマイルドです。
      リドルストーリーを楽しめるか否かで評価が変わる作品でしょうね。
      「終活中毒」、新刊情報で見て気になってました!
      こちらは柚木麻子さん「ついでにジェントルマン」、芦沢央さん「チョウセンアサガオの咲く夏」がやっと届きました。
      読むのが楽しみです。

  2. オーウェン より:

    ライオンまるさん、こんばんは。

    この麻耶雄嵩さんの「神様ゲーム」は、講談社のミステリーランドの7回目の配本ですね。
    かなりブラックではあるのですが、ミステリーランドというレーベルに相応しく、途中までは分かりやすい展開になっています。
    しかし、最後の最後で思い切りひっくり返されて驚きました。
    この不可解さは、とても麻耶雄嵩さんらしいですね。
    「夏と冬の奏鳴曲」以来の不可解さで、嬉しくなってしまいます。
    この作品で一番面白かったのは、鈴木くんの存在ですね。
    自分のことを神様だと言い、「きみといろいろ話せて楽しかったからね。そのお礼だよ」と、簡単に犯人の名前を明かす鈴木くん。
    論理的な推理はなく、そこにあるのは、ただ真実のみ。
    しかし、鈴木くんは本当に「神様」なのでしょうか?
    彼が神様だという言葉を信じていいのか分からない読者にとって、それは逆に持て余してしまうような真実なんですね。
    神様を前にしてしまうと、ミステリ的な推理も存在し得ないのです。
    芳雄の周囲に、そして大好きな「ラビレンジャー」の中にさえ存在する、残酷なまでの真実。
    神様の論理が繰り広げられる、鈴木くんとの会話も面白かったですね。
    この作品は、子供には読ませたくないという言葉を何度も聞きますし、その気持ちは良く分かりますが、私には、こういった作品を自分から勧めることはしなくても、子供の目から隠してしまう必要はないように思えます。
    むしろ、この作品に興味を持った子供は、実際に読んでみればいいとさえ思っています。
    たとえその時は、衝撃を受けても、そういう経験というのは、何一つとして無駄にはならないと信じてるのですが——-。
    しかし将来、「ジェノサイド」「タルムード」「バハムード」といった名前の意味を知った時、その子は何を思うのでしょうね。

    1. ライオンまる より:

      オーウェンさん、こんにちは。

      この容赦のなさ、この摩訶不思議さが、麻耶雄嵩さんの持ち味だと思います。
      ミステリーというジャンルの根幹をひっくり返すような鈴木君の存在が、作品の残酷さを引き立てていました。
      教育上良くないとされるものはどんどんやり玉に上げられるのが昨今の風潮ですが、不道徳なものから得られる学びがあることもまた事実。
      残酷描写があると知らずに本作を読んだらショッキングかもしれないけど、関心がある子が読む分には問題ない気がします。
      遥か昔、津山三十人殺しを扱ったノンフィクション「丑三つの村」を家族の本棚で発見し、何も考えず読んで衝撃を受けたこともあったっけ・・・
      ただ、あの経験から、当時の田舎の生活様式や価値観を知ることができたので、やっぱり無駄ではなかったと思っています。

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