はいくる

「変な地図」 雨穴

地図。その名の通り、土地の情報を記号や文字などを用いて平面上に表した図面のことです。文明の進歩に伴い、地図も進化してきましたが、原型となるものは旧石器時代から存在したのだとか。地理を視覚的に理解させ、適切な移動や情報分析を可能とする地図は、社会に必要不可欠な道具です。

現代において<地図>といえば、スマホやタブレット、パソコン上で簡単に検索でき、望めば目的地までナビしてくれる優れものですが、一昔前は違いました。必要な情報を得るため、紙の地図をじっくり眺め、ああでもないこうでもないと試行錯誤する必要があったのです。不便といえば不便なのかもしれませんが、そういう時代だからこそできる地図の使い方もあったのではないでしょうか。この小説を読んで、そんな風に思いました。今回は、雨穴さん『変な地図』を取り上げたいと思います。

 

こんな人におすすめ

・閉鎖的な村が登場するミステリーが好きな人

・『変な~シリーズ』のファン

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その地図には、一体何が秘められているのだろうか---――学生時代の栗原が父親から知らされた、驚きの秘密。栗原の祖母は、謎めいた古地図を握りしめ、自殺としか思えない状況で死んでいたという。強く賢かった祖母は、なぜそんな死を遂げたのか。祖母が手にしていた地図には、どんな秘密が隠されているのか。引っかかるものを感じた栗原は、わずかな情報を頼りに、海沿いにある廃れた集落を訪れる。すべての真実は、ここにあるはず。栗原は偶然知り合った近隣住民の手を借りつつ調査に臨むが、そこで不可解な事故死に遭遇し・・・・・若き日の栗原は、この集落の謎を暴くことができるのか。大好評『変な~シリーズ』待望の第四弾

 

『変な~シリーズ』もあっという間に四作目。YouTube時代から雨穴さんを応援し続けてきた身からすれば、なんとも感慨深いものがあります。おまけに本作は、雨穴さんが謎解きに絡まず、大学時代の栗原さんが主人公を務めています。『変な絵』も同じ傾向にありましたが、あちらが連作短編だったのに対し、本作はボリュームたっぷりの長編小説。そのため、これまでの作品とちょっとテイストが違うものの、十分面白い作品でした。

 

就職活動に苦心する大学時代の栗原さんは、ある日、父親の話から、意外な事実を知ります。かつて栗原さんの祖母・知嘉子は、自身の家で、自殺と思しき状況で死んでいたのです。自殺の動機らしきものはなし。死ぬ間際、知嘉子が手にしていたのは、不可解な古い地図。栗原さんは亡き母も生前、知嘉子の死の謎について調べていたと知り、この調査を引き継ごうと決意します。知嘉子が持っていた地図が示す住所は、R県のとある集落。調査のため集落を訪ねる栗原さんですが、そこであまりに奇妙な人身事故と出くわします。これは、事故ではなく殺人なのではないか。この死と、知嘉子が抱えていた秘密とは、何らかの関わりがあるのだろうか。たまたま知り合った地元の女性警察官・あかりの協力を得て、調査を続ける栗原さん。果たして彼は、真相にたどり着くことができるのでしょうか。

 

あらすじを読み、本作には雨穴さん未登場ということを知っていたので、「イマイチだったらどうしよう」と思っていましたが、まったくの杞憂でした。イマイチどころか、小説としての演出・構成はシリーズ中でも一番ではないでしょうか。閉鎖的な村での愛憎劇、謎めいた因習、過去に起こった栗原の祖母の死、現在の不審な事故死etcの真相が終盤で一気に明かされていく様子に、思わず手に汗を握ってしまいました。謎は結構込み入ったものなのですが、作中に地図、路線図、家系図、間取り図などがふんだんに使われている上、推理に応じて重要な過去の会話を再掲してくれる親切仕様なので、とても分かりやすかったです。女性蔑視をはじめとする過酷な描写もあるものの、最後にちゃんと救いがあるところもいいですね。雨穴さんの作品は、時にとんでもなく後味悪く終わることもありますが、本作はしっかり希望を感じることができ、なんだか新鮮でした。

 

加えて、シリーズの探偵役・栗原さんのプライベートが描かれているところも、ファンとしては嬉しかったです。『変な絵』でも若き日の栗原さんが登場しましたが、本作では人間・栗原について、より深く掘り下げられています。これまでのシリーズでは、時に辛辣、時に軽妙、雨穴さんがもたらす謎を淡々と解いていく頭脳明晰かつ変わり者の建築家・・・というイメージがあった栗原さん。そんな彼が、就活や家族関係に悩んだり、過去の傷と向き合ったり、出会った人々と交流を深めたりする姿に、序盤から感情移入しっぱなしでした。栗原さん的なキャラクターって、家族に恵まれないケースが往々にしてありますが、彼のお父さんや妹さんは愛情深い人達でとっても好印象。できればいつか雨穴さんとも絡んでほしいものです。

 

なお、雨穴さんによる本作のあとがきに「栗原さんから自身の伝記を書くよう頼まれ、本作を執筆した」という記述があります。この<頼まれた>経緯を映像化したものが、YouTubeで無料配信されています。雨穴さんと栗原さんのやり取りがものすごく面白く、やっぱりこの二人揃ってこその『変な~シリーズ』だよなと実感しました。未見でも本作を読む上で支障はありませんが、一作品としても完成度の高い動画なので、機会があればぜひご視聴ください。

 

このクオリティでこの読みやすさはまさに至芸!度★★★★★

なんてスケールの大きな伏線の張り方・・・度★★★★★

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