西澤保彦

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「死者は黄泉が得る」 西澤保彦

人は時に<恐らく絶対実現不可能だろうけど、願わずにはいられない夢>を見てしまうことがあります。世界中の富をすべて手中に収めてしまいたい、かもしれない。片思いの相手が一夜にして自分に夢中になればいいのに、かもしれない。人によって願う夢も様々でしょうが、<亡くなった人が甦ればいいのに><死んでもまた生き返りたい>と思う人は相当数いそうな気がします。

古来より、死者の復活は多くの人類にとっての願いでした。あまりに願いが強すぎて、怪しげな薬に走ったり、残酷な人体実験に手を染める者までいたほどです。大往生を遂げた老人ならまだしも、この世には不幸な死を遂げる人が大勢いるわけですから、彼ら彼女らが甦れば、そりゃ嬉しいこと楽しいこともたくさんあるでしょう。しかし、どんな物事であれ、表があれば裏もあるもの。自然の摂理に反した存在がどんな事態を招くか、誰にも予想はできません。今回ご紹介するのは、西澤保彦さん『死者は黄泉が得る』。死者復活に絡んだ悲劇と笑劇(喜劇ではない)を堪能することができました。

 

こんな人におすすめ

生ける屍が登場するSFミステリーに興味がある人

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「複製症候群」 西澤保彦

クローンという言葉が最初に考案されたのは、一九〇〇年代初頭のことだそうです。意味は、分子・DNA・細胞・生体などのコピー。園芸技法の一つである<挿し木>はクローンの一種ですし、動物でもマウス、犬、羊、猿などでクローンが作成されています。人間のクローンは今のところ作られていないとされていますが・・・実際はどうなんでしょうか?

現実に動物のクローンを作る場合、誕生するのは<オリジナルとまったく同じ遺伝情報を持つ赤ん坊>ですが、SF作品ではしばしば、オリジナルと年齢も容姿もそっくりそのまま同じなクローンが登場します。ただ、見た目は瓜二つでも記憶まではコピーできないとか、ものすごく残虐な性質を持つとか、何らかの形でオリジナルとの差異が生じるケースが多い気がしますね。では、この作品に登場するクローンはどうでしょう。西澤保彦さん『複製症候群』です。

 

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クローンが登場するクローズドサークル・ミステリーが読みたい人

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「瞬間移動死体」 西澤保彦

SFやファンタジーの世界では、しばしば超自然的な能力が登場します。創作物の中ではとても魅力的な要素となり得ますが、現実世界に置き換えた場合、「こんな能力があっても困るよな・・・」と思うものも多いです。<辺り一帯に大地震や地割れを起こす能力>なんて、現代日本で必要となる機会がそうそうあるとも思えません。

一方、使い勝手が良く、日常生活で役立ちそうな超能力も色々あります。<瞬間移動>なんて、その筆頭格ではないでしょうか。これは物体を離れた場所に送ったり、自分自身が離れた場所に瞬時に移動する能力のこと。こんな能力があれば、通勤や通学、レジャーなどで移動する時も楽ですし、非常時の避難だって簡単にできます。とはいえ、メリットがあればデメリットもあるというのがお約束。では、瞬間移動ならどうかというと・・・?そんな諸々の悲喜劇を描いた作品がこれ。西澤保彦さん『瞬間移動死体』です。

 

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超能力が絡んだ本格ミステリが読みたい人

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「人格転移の殺人」 西澤保彦

<あの人は人が変わってしまった>という言い回しがあります。ある人の性格や行動パターンが唐突にガラッと変わった時によく用いられますね。現実では、本当に人が変わったわけではなく、何らかのきっかけにより人となりが激変したというケースがほとんどでしょう。

一方、フィクションの世界の場合、例えでも何でもなく本当に<人が変わった>ということがあり得ます。こういう設定で有名なのは、東野圭吾さんの『秘密』。事故で死んだ娘の体に、同じく事故死した母親の魂が宿ってしまうというヒューマンファンタジーでした。何度も映像化されているので、ご存知の方も多いと思います。ただ、私が<人が変わった>系の小説で連想するのは、実はこちらの方なんですよ。西澤保彦さん『人格転移の殺人』です。

 

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SF設定が絡んだミステリーが読みたい人

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「七回死んだ男」 西澤保彦

SF作品の中には、<タイムリープ>という言葉が登場するものがあります。直訳すると<時間跳躍>で、文字通り時間を飛び越えて移動することを意味します。よく似た言葉に<タイムトラベル>があり、正確な差異は定義されていないようですが、<タイムトラベル=移動先を自分で決められる><タイムリープ=勝手に別の時間に移動してしまう>と使い分けられているパターンが多いような気がします。

実はタイムリープという言葉は日本製の造語であり、初出は筒井康隆さんの『時をかける少女』だそうです。何度も映像化・アニメ化され、海外でも人気の高い名作なので、ご存知の方も多いのではないでしょうか。これは有名すぎるほど有名なので、今回は別のタイムリープ小説を取り上げたいと思います。西澤保彦さん『七回死んだ男』です。

 

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ユーモラスなSFミステリーが読みたい人

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「彼女が死んだ夜」 西澤保彦

フィクション作品における時間の経過方法は、主に二つのパターンに分かれます。一つはいわゆる<サザエさん時空>で、登場人物たちが年を取らない方式です。いつまでも変わらない日常感を味わうことができるという長所から、特に『サザエさん』『ドラえもん』『クレヨンしんちゃん』などの子ども向け作品でよく見られますね。

もう一つは、物語が進むにつれて登場人物たちも年を取り、卒業・結婚・出産・死別といったライフイベントを経験していくパターンです。このパターンで一番有名なのは、赤川次郎さんの『杉原爽香シリーズ』ではないでしょうか。一年に一冊、新作が刊行されていくごとにヒロインも一歳年を取るという形式は、世界的にも珍しいんだとか。ここまで厳密に時間が経過していく作品は少ないかもしれませんが、作品ごとに登場人物たちの成長が見られると、読者としてはまるで親戚の子を見守るような感慨深さを味わうものです。今回ご紹介する作品の登場人物たちも、出会いと別れを繰り返しながら一歩ずつ前進していきます。西澤保彦さんの『匠千暁シリーズ』の長編第一弾『彼女が死んだ夜』です。

 

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大学生が活躍するミステリーが読みたい人

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「いつか、ふたりは二匹」 西澤保彦

「人間が動物に変身する(逆もあり)」というのは、SFやホラーでお馴染みの設定です。お馴染みすぎて初めて見た変身ものが何だったか思い出せないくらいですが、記憶に残っているのは映画『ウルフ』。段々と狼に変わっていくジャック・ニコルソンの変貌ぶりが印象的でした。

人間が違う生き物に変身するというシチュエーションは、古今東西、たくさんの創作物で扱われてきました。青年が獣に変身する『美女と野獣』はその代表例ですし、フランツ・カフカの『変身』で主人公は巨大な毒虫に変身します。中島敦さんの『山月記』には、挫折の末に人喰い虎に変身する男が出てきますね。これらの作品の中で、登場人物達は人間の体を捨て、動物に姿を変える羽目になってしまいます。ですが、この作品の主人公の変身はちょっと違いますよ。西澤保彦さん『いつか、ふたりは二匹』です。

 

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人の残酷さをテーマにしたミステリーが読みたい人

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「神のロジック、人間(ひと)のマジック」 西澤保彦

甘ったれで気弱な子どもだった私が怖かったもの、それは「親から離れてのお泊まり」です。幼稚園のお泊まり教室などはもちろんのこと、祖母の家へのお泊まりさえ途中で寂しくなり、夜に自宅に帰ったこともありました。小学校の修学旅行にも戦々恐々としながら参加し、いざ始まってみて「あれ、意外と楽しいじゃん」と思ったことを覚えています。

子ども達が親元を離れて寝起きする。考えてみれば、これってちょっと特殊なシチュエーションですよね。ただの合宿や寮生活なら問題ありませんが、もし何らかの事情で家族と一緒にいられない子ども達を隔離しているのだとしたら・・・?そんな不可思議な世界を描いた作品がこれです。西澤保彦さん『神のロジック、人間(ひと)のマジック』です。

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叙述トリックの驚きを味わいたい人

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「腕貫探偵 市民サーヴィス課出張所事件簿」 西澤保彦

人はどんな時に役所を利用するのでしょうか。引っ越しや結婚、出産などによる諸々の手続き、各所へ提出する戸籍等の重要書類の請求、自治体が運営するイベントへの参加etcetc・・・ぱっと思いつくだけでも色々あります。最近は役所内の飲食施設も結構充実しているそうですから、そういうところを利用する人もいるかもしれません。

地域住民の味方となり、生活の手助けをすべき役所。悲しいかな、その役割放棄しているとしか思えないような事件もありますが、大多数の職員さんたちは使命を全うするため日々努力しているはずです。この作品に出てくる彼も同じこと。迷える人々に手を差し伸べ、的確なアドバイスを授けてくれます。西澤保彦さん『腕貫探偵 市民サーヴィス課出張所事件簿』です。

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「完全無欠の名探偵」 西澤保彦

ミステリーの世界には様々な探偵が登場します。シャーロック・ホームズに代表される私立探偵や、十津川警部のように警察官が探偵役をつとめるもの、ジャーナリストに学者、弁護士に医者。中にはアルセーヌ・ルパンのように、世間一般で言う犯罪者が謎解きを行う作品まであります。

そんな様々な探偵の中に「安楽椅子探偵」と呼ばれる存在がいます。犯罪現場に出向くことなく推理を行う探偵のことで、アガサ・クリスティの『ミス・マープル』シリーズなどが有名ですね。もちろん、その他にも魅力的な安楽椅子探偵はたくさんいるのですが、今日はその中でも異色の存在が登場する作品をご紹介しましょう。西澤保彦さん『完全無欠の名探偵』です。

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